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銀の働き部屋

管理人銀河の、日記兼テキストサイトです。取り扱うジャンルは主にヤングガンガン連載のWORKING!!になると思います。最近は東方の霖之助小説を書くのにも夢中。どうかよろしくお願いします。リンクはフリーです。感想は常に受付中です!もらえたら泣いて喜びます

伊波まひるの憂鬱な・・・?1日 未来パラレル物 小鳥遊×伊波





 小説概要
カップリング:小鳥遊×伊波
ジャンル:未来パラレル(作者妄想全開)
甘さ:・・・やたら細長い缶コーヒーくらい?いや、ぬるいコーラ? まあ、相当に甘いです
個人的補足:なげえ(ぇ

 なんか説明方法変わってますが、次回は戻ってると思います。意味無し。究極なまでに意味無し。
 大体漫画の6~8年後くらいでしょうか。小鳥遊は・・・とりあえずは公務員という設定で。火の車さんの意見を見て教師もいいなあと思いましたが、設定を直すのが大変そうだったのでとりあえずは公務員ということで。伊波はもう火の車さんの意見を完全に勝手に取り入れて女性用ファッション店店員ということにしました。なんか想像すると相当効きますね、伊波が服を勧めてる姿(何故
 この小説の半分は火の車さんで出来上がっています(待

 なんか、3日夜中まで作業したのにも関わらず個人的には微妙な作品になってしまいましたが、とりあえず出来上がったのでもう載せちゃおうと思います。直すところは直していきたいなあ。
 今までの小説で一番時間かけたような気がする・・・。伊波への愛はこれでもかというほど注いだつもりです。

 では、続きからでどうぞ。・・・しかし伊波の胸は本当に無念だな(ぇぇ





 ピピピピピ・・・・
 ピピピピピ・・・・
 
 
 外を見れば、まだ太陽も昇りきらず、ほんのりと薄暗いような朝。
 伊波まひるは、無機質なデジタル時計のアラームを聞いて、ゆっくりと瞼を開いた。
 ベッドの上でぼうっと天井を眺めながら、何だか違和感のある朝だなあ、と、伊波はまだ覚醒しきっていない頭で考えた。

 普段、伊波は仕事に遅れないために時計のアラームを利用して、朝早くに起きている。
 なのに、普段と何も変わらないはずであるこのアラーム音に違和感を覚えている、自分もおかしいなあ・・・と、やはりはっきりとしない曖昧なことを布団の中でじっと考え続けている。
 疲れているから、こんな早朝に目を覚ますことを、無意識の内に嫌っているのだろうか? しかし、そんなことは毎朝思っている。思いながら、ゆっくりと体を起こし一日が始まっていたのだ。
 既に、時計のアラームは鳴り止んでいる。
 ・・・うーん・・・

「・・・あ」

 そうだ。
 分かった。違和感の正体。
 伊波はデジタル時計の画面を見るために顔を動かした。
 時計の画面の右下には、アルファベットで小さく、『SUN』と表示されていた。
 そう。違和感の正体とは実に単純なものであった。
 今日は、日曜日。つまり、仕事が休みの日であった。

「・・・アラーム解除するの忘れてた」

 どうしようかな、と、伊波はかけ布団をやや深めにかぶりながら考えた。
 日曜日だということに気付いたおかげで、大分意識は覚醒し始めている。
 しかし、現在の時刻は朝の5時半。たまには早起きもいいかな・・・と起きるにも少しあんまりだろうというような時間なのだ。
 休みの日は最低8時まで寝る。それが、伊波が仕事を始めてから自然とできあがったルールであった。仕事から帰ってきて、寝る時間がだいたい午前0時くらい。決して遅すぎる、と言われるような時間ではないが、朝起きるのが5時半だと、流石に日に日に疲労が溜まってくる。
 なので、日曜日の朝はとりあえず8時までぐっすり寝て、朝食を食べた後はやるべきことをやって、少し時間が余ったら読書をするなり少し昼寝をすりなり・・・というゆったりとした時間を過ごす。そうすると、疲れが殆どリセットされて、また次の週頑張れる。少なくとも、伊波はそのようにして今まで過ごしてきた。

「もう少し寝ようかなあ」

 そう決めて、ゆっくり瞼を閉じる。
 だが、その時、伊波は自分の体の異変に気付いた。
 なんだか、だるい。決して起きたばかりのだるさというか、体の無気力感とは違う・・・どこか体を動かすことを拒むかのような体の緊張を感じる。
 それだけならばゆっくりと深い意識の中に落ちることができたのだが、更にもう一つ。・・・なんだか、体がやたらと汗ばんでいる。なのに、普段以上に寒い。
 常識で考えても、汗は暑い時にかくものだ。寝る前に暖房を部屋にかけていたとはいえ、流石に汗をかくほど設定温度は高く設定していない。そもそも、寝ている間に暖房の効果なんてとっくに切れてしまっている。
 寒いのは汗が早朝の冷気で冷えたからなのかもしれないが、それにしたって寒すぎる気がする。
 そこで気付いた。

「・・・風邪?」

 北海道の、太陽も昇りきっていない薄暗いひんやりとした朝。
 伊波まひるは、見事に風邪をひいていた。




「ああ~! もう最悪・・・!」

 ベッドの上で体を起こし、伊波は悔しそうにそうぼやいていた。
 落ち着いて自分の体を確認してみると、いかにも、というほどに風邪の症状らしい症状が全て体に表れている。
 まず、喉が痛い。声を出せないほどではないが、さっきのぼやき声だけでもかなり喉が痛む。
 頭が熱っぽい。まだ体温計で測っていないが、予想としては38度台の体温があると思われる。
 休む暇が無いというほど頻繁に咳やくしゃみが出る。咳は空気の出入りが激しく、咳を一つするだけで喉が激しく痛んだ。
 極めつけは頭痛。定期的にまるで締め付けるかのように頭が激しく痛む。

 とまあこのように、伊波は折角の休日に見事に風邪をひいてしまった。

「折角の日曜日なのになあ・・・」

 そう。今日は週に一回しかない日曜日。別に毎日へとへとになるほどの激務をこなしているわけではないが、伊波にとって貴重な、完全に体を休めることのできる日。
 なのに、この体調不良である。この調子だと、とてもとても午前で症状が和らぐとは思えない。つまり、貴重な一日を、喉の痛み、熱っぽさ、だるさ、そして頭痛と共に布団の中でずっと過ごさなければならないのだ。

「疲れが溜まってたのかなあ・・・。何にせよ、体調管理しっかりしなきゃ」

 溜息をついてから、何かを食べようと起き上がる。
 冷蔵庫には何が入っていただろうか、と考え始めた時、テーブルの上に置いていた携帯電話が目に入った。
 そこで思い出した。

「あ・・・。宗太君に連絡しておかなきゃ・・・」

 そう。伊波は今日、宗太とどこかに出かけようと約束をしていたのだ。そんな楽しみにしていたことを、体のだるさや熱っぽさのせいで忘れてしまっていた。
 宗太は公務員として働いているため、日曜日は休みと決まっている。が、伊波は女性用ファッション店に勤めていて、最も客の多い日曜日が休みになることは滅多にない。なので、今日は二人で一緒に一日中を過ごせる久しぶりの日であった。
 どこへ行くかは会ってから二人で話して、買い物なりドライブなりと決めるつもりだった。また、その二人で決める時間も、伊波は大好きだった。

 そんな幸せな一日を台無しにした自分の風邪を、心の底から憎く思いながら、携帯を手に取る。

 流石に連絡をするには早すぎるかとも思ったが、早い時には7時くらいに宗太が来ることもあったため、早めに連絡しておくにこしたことはない。
 電話だと出ないだろうと思い、メールで連絡をすることに決めた。

「えっと、風邪をひいちゃったから、今日は一緒にでかけられません。ごめんね・・・っと」

 口に出しながら文章を打ち込む。それだけで喉は激しく痛んだ。
 あまり文章を長くしても未練がましく思われるかもしれない。そう思って、それだけの短い文章をメール送信した。

 溜息をついてから、携帯を閉じ、テーブルに置いた。

「・・・何か食べよう」

 今日過ごすはずだった、宗太との楽しい時間を想像すればするだけ涙が出そうになった。そんな切ない気持ちを押し殺すように、台所へと向かう。
 冷蔵庫の中には、パンに塗るためのジャム類やバター、タマネギやキャベツなどの野菜、卵などが置いてあった。
 家で過ごす時間が少なく、食材などは休みの日に一週間分だけ買うようにしているため、大した食材は無い。もっとも、肉類などを食べる気には全くなれないのでその辺りは大した問題ではない。
 野菜と卵があるし、コンソメスープでも作ろう。そう決めて、野菜と卵を取り出し、調味料箱へと向かう。

 その時、突然視界が真っ白になった。

「っ!?」

 足の力も抜け、フローリングの床に勢いよく膝をつく。
 膝が少しだけ痛んだが、そんなことよりも、頭を揺さ振るかのような激しい頭痛と、目の奥で眼球を無理矢理動かされているかのような視界の歪みに、伊波は激しい嘔吐感を抱いた。

「・・・まずいなあ」

 歪む視界の中、頭を手でおさえながら、搾り出すようにそう呟いた。
 どれほどの時間が経っただろうか。10秒ほどだったのか、10分ほどだったのか、目まぐるしく動く世界に翻弄されて時間の感覚もなくなってしまっていたが、視界が平常のものに戻り、頭痛も幾分か収まって来た。

「・・・ダメだ。寝よう」

 このままでは、調理中に気を失って部屋ごと焼け死ぬかもしれない、と物騒な考えが浮かんできて、野菜と卵をテーブルの上においてから、伊波はベッドへ力ない足取りで歩いていく。
 ベッドに入り、布団で寒気を感じる体を包み込み、瞼を閉じる。が、体の違和感や頭痛が睡眠へと向かう頭を刺激する。眠気が全くおきない。羊を数えようとしても、小屋から出てくる気配も無い。
 本当に・・・辛い。

「・・・独り暮らしの辛さって、こういう時に出るんだなあ」

 うっすらと目を明けて、白い天井を見つめながら呟く。
 独り暮らしには、かなり早く順応できたと思う。
 もともと家事は嫌いでなかったため、苦痛に感じたことは無い。だらしない性格でもないから、部屋が散らかり人に見せられないということもない。
 だが、この場所に自分一人だけという現実が、突然襲い掛かってくる時がある。
 そう思うと、寂しさが突然心を支配し、わけのわからない不安で頭がいっぱいになってくる。

 一番辛かったのは、夏の夜にテレビを見ていたら、偶然心霊番組を放送していた時だった。
 その時の伊波は、幽霊が苦手にも関わらず何故かその番組に見入ってしまい、結局、とてつもない恐怖感にその夜苦しめられることになったのだった。

「そうだ・・・。あの時は、宗太君を呼んだんだった」

 恐くて部屋の明かりすら消せず、布団で体を包み込み、涙を流しながら宗太に連絡をした。
 電話越しの宗太の顔を見ることはできなかった。だけど、きっと微笑んでいたと思う。
 電話をかけて30分も経たずに、宗太は伊波の家に来てくれた。
 泣きながら布団にくるまっている彼女に、宗太は優しく声をかけてあげた。その日、伊波が眠りにつくまでずっと手を握ってくれていた。

 突然、涙が出てきた。

「・・・やだ、どうしたんだろ」

 涙を手で拭いながらそう言ったが、原因は分かりきっていた。
 夏の夜、伊波は不安だった。どうしようもなく一人きりの空間が恐かった。だから、宗太の声が、手の温もりがありがたかった。心にへばりつく不安を、あっという間に溶かしてくれた。
 その宗太は、今・・・いない。

「ただの・・・ただの、風邪じゃない・・・!」

 涙は止まらなかった。
 ただ今は、この孤独感から抜け出したい気持ちでいっぱいだった。
 頭痛や眩暈で、あっという間に疲弊してきた体が伊波をゆっくりと壊していく。心を、支配していく。
 彼に、会いたかった。
 彼の笑顔が見たい。彼にまた手を握ってもらいたい。彼と話したい。
 彼の、傍にいたい。

「宗太君・・・!!」

「なんですか?」


 ほんの少しだけ、時間が止まった。


 ・・・そして時は動き出す。

 すぐ横から聞こえてきた声の主へ視線をゆっくりと動かす。
 そこには、彼がいた。
 今、会いたいという気持ちで胸がいっぱいだった彼。
 いつでも伊波を励まし、癒してくれる彼。
 小鳥遊宗太。伊波まひるの最愛の人が、息を切らしながらベッドの横に立っていた。

「そ・・・うた君?」

 これは夢なのではないだろうか。私の都合のいい妄想なのではないだろうか。
 そんな疑問を含んだ声で、彼を呼ぶ。

 呼んでも、彼は何も言わない。いや、言えないのだろうか。
 宗太は、かなり激しく呼吸を繰り返している。もしかしたら、マンションに着いてすぐに猛ダッシュでこの部屋まで来てくれたのかもしれない。来たばかりというのはコートを着ている様子からも明らかだった。
 ひとしきり呼吸をした後、彼は少しだけイライラした表情で口を開いた。

「何で」

「・・・へ?」

「何で呼ばないんですかっ!?」

 厳しい表情と声でそう言われ、伊波は思わず体を震わせた。
 何故、宗太がここまで怒っているのか分からない。伊波は、困惑の表情を浮かべながら宗太を見つめることしかできなかった。

「もし起き上がることもできなくなるほどの症状になったらどうするんですか? ただでさえ人は自分の風邪などの体調不良には適当になりがちなんですよ? だるいから寝る、食欲が無いから寝る! そのように過ごすことによって症状を悪化させたり長期化させたりすることになるんですよっ!?」

「は、はいっ! すいません!」

 捲し立てるように言葉を並べる宗太の迫力に、伊波は涙目でそう答えた。
 言葉を言い切った宗太は、まだここに来るまでの疲れが消えてないのかまた息を切らし、荒く呼吸を始めた。
 もう、わけが分からない。
 そもそも、何故宗太がここにいるのだろうか。
 伊波は、ゆっくりとベッドの上で上体を起こし、こう言った。

「あの・・・宗太君。何でここに?」

「心配だからに決まっているでしょう?」

 厳しい表情が少しだけ緩み、宗太は当たり前のように言い放った。
 その言葉が染み込み、伊波の目に涙が溜まり、ぽたぽたと零れ落ちた。

「・・・伊波さん?」

 心配そうな表情を浮かべながら、宗太が優しく声をかける。
 伊波は涙を拭いながら、小さく、力無く首を横に振った。

「ご、ごめんね? さ、さっきまで・・・凄い不安で、だから・・・!!」

 言葉に出そうとすればするほど、涙が関を切ったかのように溢れ出てくる。
 伊波はとにかく嬉しかった。宗太が来てくれたことが、宗太に会えたことが。彼の言葉を聞けることが。
 涙を拭い続けている伊波の頭に、宗太は手を軽く置き、ゆっくりとなでてあげた。

「泣くくらいなら、無理せず呼べばいいのに・・・」

 呆れは含まれていたものの、宗太の声に怒りはまるで感じられなかった。
 ただただ、ゆっくりと伊波の頭を優しくなでるだけだ。
 少し恥ずかしかったが、伊波は髪ごしでも伝わってくる宗太の温もりが心地よかった。

 しばらくの間そうしていると、涙も止まり、伊波は顔を上げて宗太の顔を見つめた。その目は少しだけ腫れぼったい。
 すると彼は、優しく微笑んだ。

「落ち着きましたか?」

「う、うん」

 笑顔に見惚れている間にそう言われ、少し視線を逸らしてそう答えた。
 宗太の手が、ゆっくりと伊波の頭から離れる。さっきまでの心地よい感触が失われたことを、少し残念に伊波は思った。

「症状は?」

「えっと、熱はまだ測ってないんだけど・・・。喉が痛いのと、頭が痛いのと・・・さっき少したちくらみをして・・・」

 思いつく限りの症状を伝えると、宗太は「ふーむ」と少しだけ考えてから、伊波の額に手の平を当てた。

「ひゃっ!?」

 突然の行動に、伊波は小さな悲鳴を上げた。宗太の手は温かいはずだが、額に手が触れた瞬間は一瞬冷たく感じられた。
 数秒間その状態が続き、風邪とは無関係な熱の高まりを伊波は感じていた。

「結構ありそうですね・・・。体温計は?」

 宗太の手が離れ、伊波はやはり少しだけ残念とも思いながら、とりあえずほっと息をついた。

「えっと、風邪の事とか考えてなかったから無いんだ・・・」

「それじゃどうしようも無いですね・・・。・・・額どうしくっつけて測ってみましょうか?」

 意地悪そうな笑みを浮かべながら宗太がそう言うと、伊波はよく意味が分からず首を傾げた。
 しかし、すぐにその言葉の意味に気付き、顔を真っ赤にして首を横に振った。

「な、何考えてるのよ!?」

「冗談ですよ。そんなに怒らなくていいじゃないですか」

 子どものように笑いながら宗太はいいが、伊波はいいようにからかわれて正直気持ちよくない。
 ・・・それに、少しだけ、ほんの少しだけ・・・残念だったし。

「まあ、体温計は買出しの際に買っておいた方がいいですよ? ・・・さて」

 キッチンの方をちらっと見てから、小鳥遊はやる気に満ちた表情でこう言った。

「何か作りますよ」

 そう言われて、伊波は料理を作るのを断念したことを思い出した。
 何かしら食べて栄養をつけなくては、治る風邪も治らない。幸い、食欲が全く無いわけではないので、宗太が調理を行ってくれることは非常にありがたかった。

「えっと・・・。風邪の時はやっぱりおかゆだよね?」

 今朝はコンソメスープを作ろうと考えていた伊波だが、風邪の体にその料理がいいのかどうかもわからなかったし、とりあえず無難なチョイスをしてみた。
 そうですねえ、と宗太は軽く頷いた。

「おかゆは消化がいいですからね・・・。そうだ、甘酒も作りましょうか。甘酒は点滴で打つブドウ糖と殆ど同じ成分なんですよ?」

「へえ、そうなんだ。さすが宗太君だね」

「ええ。この小説を書き始めた次の日に購読した天体戦士サンレッドで、ヴァンプ様が言っていました」

「何の話?」

「ですよねー」

 何だこの不毛な会話。

「あ、でも・・・甘酒の材料なんて無いよ?」

「途中で買ってきました」

 伊波が申し訳無さそうに言うと、宗太はずっと手に持っていたビニール袋を持ち上げてそう言った。
 メールをしてから、殆ど時間は経っていなかったのだが・・・流石の行動力というか、伊波は感心した。

「じゃあ、お願いできる?」

 伊波の顔は、熱のせいで少し赤く染まっていたが、それでも笑顔でそう言った。
 宗太は力強く頷いてから、キッチンへと向かった。

「あ、あの。冷蔵庫には殆ど材料入ってなくて・・・」

「・・・あ、でも卵があるから、卵がゆにしましょうか」

 そうだね、と伊波は頷いた。

「・・・っ!」

 だが、直後襲ってきた頭痛に伊波は声にならない悲鳴をあげた。
 しかし、宗太を心配させたくないので、料理ができるまでは大人しくベッドで横になることにした。
 眠るのが一番いいのだろうが、頭痛と喉の痛みが気になってやはり眠る気にはなれない。それでも、近くに宗太がいると思うだけで、それまで感じていた大きな不安は全て無くなっていた。

(宗太君がいないと・・・まるでだめだな。私)

 小さく溜息をつきながら、そんなことを考えた。
 今回のことに限らず、伊波は宗太に助けられてばかりだった。
 それは・・・ワグナリアでバイトをしていた頃からそうだった。


 小鳥遊宗太は、変わった男だった。そして、伊波まひるも相当に変わった女性であった。
 かたや病的なまでの小さい物好き。かたや病的までの男嫌い。
 どう考えても恋愛関係など生まれそうにも無いこの二人が、このような関係になったのは奇跡としか言いようが無い。もちろん、付き合い始めるまでにたくさんの人達に支えられ、応援されて辿り着いた道ではあった。
 伊波の男嫌いは付き合い始めてから見違えるほどの回復を見せた。もちろん、急に見知らぬ男に接近されたり、背後から声をかけられたりすれば多少の動揺を見せてしまう。が、宗太に関してはそのような反応は一切見せなくなった。
 それは、全てを受け止めることのできる宗太だったから。諦めずに、文句をしっかり言いながら接した宗太だったから、これほどまでになれたのだ。他の男であったら、何年かけても全くこの病気は治ることはなかったであろう。

 まひるは、キッチンで作業を続けている宗太を見て、幸せすぎて笑顔が浮かんだ。
 小さい物好きは今でも変わらないが、今の宗太は何よりも伊波を大事にしてくれるし、本当に、文句のほうが少ないというくらい理想的な彼氏だと、伊波は自分で毎日思っていた。
 デートの時はできる限り他の男性と接触しないように気をつけてくれるし。
褒め上手だし。
料理は凄く上手だし。
紳士的だし。
眼鏡が世界で一番似合ってるし。
笑顔がステキだし。
カッコイイし・・・あとは・・・

「伊波さん?」

「ひゃあっ!?」

 近くで聞こえた突然の声に、伊波は素っ頓狂な声を出してしまった。

「・・・大丈夫ですか? なんか、凄いニヤけてましたけど」

「だだだ、大丈夫だよっ!!」

「?」

 明らかに動揺している伊波に宗太は首を傾げたが、とりあえずその話は置いておくことにした。

「おかゆ、できましたよ」

「え? もう?」

「もうって・・・30分は経っていると思いますけど」

 そ、そう? と伊波は若干の動揺を見せながら言った。
 しょうもない考え事をしている間に結構時間が経ってしまっていたらしい。伊波は情けなくて、恥ずかしくて顔を赤くした。

「とにかく、作りましたよ。食べてみてください」

 そう言って宗太は、両手で持っていたおかゆの注がれたお椀をベッドすぐ横のテーブルに置いた。

「うん。ありがとう」

 伊波はそう言いながら上体を起こす。鋭い痛みが頭の中を壊すかのように走り回っていたが、心配をかけさせたくない一心で堪えた。

「辛いなら無理しないで」

 どうやら痛がっていたのが表情にでていたらしく、そう心配そうに声をかけられた。伊波は宗太の優しさに胸が詰まったが、微笑みながら小さく頷いた。

「熱いですから、気をつけて。俺が持ちましょうか?」

「大丈夫大丈夫」

 おかゆに息を吹きかけてもらっている場面が一瞬頭に浮かんだが、頭の中の羞恥心が一瞬でその妄想をかき消した。
 宗太はお椀をゆっくりと渡し、伊波はお椀の底を持つようにしながら受け取った。温度を調整してくれたのか、思っていたよりは熱くない。
 お椀には、この体調不良の状況でさえ唾液が出てくるような芳しい香りを発している卵がゆがあった。
 風邪をひいていても食欲が無いわけではない。宗太からスプーンを受け取ると卵がゆをすくいあげ、ゆっくりと口に運んだ。
 落ち着くような丁度いい温かさの卵がゆを口は何の問題もなく受け入れ、淡い出汁の味が口の中いっぱいに広がった。
 飲み込む時に喉が少しだけ痛んだが、気にするほどではない。それどころか、喉が潤って少し楽になったような気もする。

「おいしい・・・!」

「そうですか。よかった」

 優しく微笑む宗太を見て、改めてこの人を好きになった自分を褒めたくなった。
 幸せな気分に浸りながら、もう一度卵がゆを口へと運んだ。




「ごちそうさま」

 食い終わってから、律儀に両手を合わせて伊波は言った。
 すぐに宗太が食器を手に持ち、キッチンへと運んでいく。
 伊波の体はというと、頭痛などは収まらないが、食事をとったおかげでだんだん体が温まってきたのが分かる。甘酒は独特の味であったが意外と飲みやすく、喉への負担も少なかった。

「食欲があって良かったですね」

 キッチンから戻ってきた宗太が、ベッドの横に置いておいた椅子に腰をかけながら安心感に満ちた声で言った。
 伊波は頷くが、すぐに激しい頭痛が襲ってきて顔をしかめた。

「大丈夫ですか? 食事もとりましたし、あとは寝てれば大丈夫ですね」

「うん・・・。ごめんね、心配かけて」

「昔あれだけ迷惑かけておいて、今更気にしないでくださいよ」

 厳しい言葉だが、宗太の表情は笑顔であった。伊波も、昔の自分を思い出して恥ずかしく思いながらも笑顔を浮かべて頷いた。

ベッドの上で横になり、毛布と布団を首までしっかりとかける。朝気になっていた寒気は今は感じられない。食事をしている間に宗太が暖房をつけたし、加湿器も稼動している。この環境を維持すれば喉の調子もだんだんとよくなるはずだった。

「インフルエンザかどうかが恐いですね・・・。明日病院に行ってみましょう。仕事は休めますか?」

「大丈夫だと思うけど・・・。もしインフルエンザだったら宗太君にうつっちゃうんじゃ・・・」

「予防接種は受けたんで多分大丈夫だとは思いますけどね。うがいはしっかりしてますし、あまり気にしないでください。それに・・・」

 少しだけ間を空けてから、

「もしうつったら俺が伊波さんに看病してもらいますから」

 優しい笑顔でそう言った。
 伊波は少し唖然として宗太を見つめていたが、すぐに笑顔を浮かべ、ゆっくり頷いた。

「うん、任せて」

 宗太はその笑顔に応えるようにもう一度笑うと、椅子から立ち上がった。

「じゃ、伊波さんが寝ている間に必要な物を買出ししてきますね」

 壁にかけておいた自分のコートを外し、腕を通しながら宗太は言った。

「え?」

 突然そう言われ、巨大な不安が伊波を襲った。
 宗太が来るまでの不安を思い出した。心の中は、一人ぼっちで、真っ暗で、とても・・・とても、恐かった。
 また一人になってしまう。真っ暗な部屋に閉じ込められ、ただただ頭痛や喉の痛み、そして眩暈に耐え続ける。そして、誰かを待ち続ける。・・・そんな孤独の中に叩き落される気がした。
 嫌だ。
 離れたく、ない。

 気付けば、宗太のコートの端を掴んでいた。

「・・・伊波さん?」

 戸惑いと心配を含めた声で宗太が呟く。

「・・・ないで」

 伊波は、霞んだ、小さな声で何かを呟いた。
 
「え?」

 宗太が見た伊波の目には、涙がいっぱいに溜まっていて、今にも零れ落ちてしまいそうだった。

「行かないでぇ・・・!!」

 宗太の顔を見上げながら、今にも泣きだしそうな声を絞り出した。
 伊波の手の震えを、宗太はコート越しにでも感じることができた。

 頭を掻きながら、溜息を一つ。それから宗太はコートを着たまま椅子に座った。
 それと同時に伊波の手はゆっくりと離れていく。伊波の表情はというと、申し訳ないような、恥ずかしいような感情でいっぱいらしく、宗太から目を逸らした。

「分かりましたよ。そんな顔しないで」

 宗太は伊波の頭に自らの手を運び、少し乱暴にわしゃわしゃとなでてあげた。
 伊波の明るい茶色がかった髪が乱れるが、伊波は嫌がったりはせず、むしろ大きくて温かい宗太の手の平の感触を存分に感じ取っていた。

「・・・あー、その、前から言おうと思っていたことなんですけど」

「・・・何?」

 まだ涙の余韻が残っているのか、少し霞んだ、消えてしまいそうな声で伊波は聞いた。
 宗太は、少し顔を赤らめながら、何か言葉に詰まっているように見えた。しばらく経ってから、やっと口を開き、

「・・・一緒に、住みません?」

 恥ずかしそうに、そう話し始めた。

「あ、もちろんどこに住むとかは全部これから話し合って。その・・・こういう風に体調崩した時大変ですし、少しでも長い時間会いたいですし。その、俺も・・・」

 頬を人差し指で小さく掻きながら、伊波から視線を逸らしながら、そうはっきりとしない口調で言葉を終わらせた。
 どんな反応をしているのだろう、と一瞬だけ宗太が視線を伊波に向けた。

 伊波は目を大きく見開き、しばらく口を金魚のようにぱくぱくと開閉させていた。その顔は段々と赤さを増していき、本当に金魚のようであった。
 そしてやはり視線をはっきりと宗太と合わせずに、しばらく言葉に迷ってから・・・

「よ・・・よろしく、お願いします・・・」

 宗太と比較にならないくらい、恥ずかしそうにそう呟いた。
 その言葉を聞いて、宗太は大きく安堵の息を吐いた。

「良かった・・・。断られたらどうしようかと。・・・じゃ、また今度話し合いましょう」

 優しい声でそう言うと、伊波は首だけを上下にかくかくと動かした。
 その様子がおかしくて、宗太は小さく笑った。

 そして、眠りにつこうとする伊波をしばらく宗太が見守る。そんな時間が、何分か経った頃、

「・・・ん?」

 ベッドの中から、伊波が自らの手を差し伸べてきた。
 その行動の意図を図りきれずにしばらく考え込んでいると、

「・・・って」

 先ほどよりも更に消え入りそうな声で伊波が何かを呟いた。
 この人はこんな感じにしか喋れなくなるのか、風邪をひくと。
 宗太はそんな事を思い少し呆れたが、笑顔を浮かべながら、

「どうしました?」

 優しく声をかけた。
 何秒かの沈黙の後に伊波の口から発された言葉を、今度はしっかりと聞き取ることができた。

「・・・手・・・握って」

 布団と毛布で自分の顔・・・きっと金魚よりもずっと赤いに違いない、を隠しながら、そう小さく呟いていた。

 ほんの少しの呆れを含んだ溜息を小さくつくと、宗太は伊波の手を両手で優しく包み込んだ。
 風邪のため普段よりも少し熱いその手。でも、その指は細くて、小刻みに震えていた。

「・・・一緒に住めば、恐い番組だって見放題ですよ」

 宗太がそう言うと、布団の上からでも伊波が体を震わせたのが分かった。そう、宗太も覚えていた。伊波が心霊番組を見た日の夜のことを。
 あの日、涙声でよく聞き取れないような電話を夜中にかけられた時、何だか異様に伊波が可愛く感じられて、宗太は笑いながらその内容を聞いていた。
 部屋についた時の伊波は想像よりもずっと情けない様子だった。ベッドの上で布団にくるまり、宗太の姿を見るや目から大粒の涙を零し喜んだ。そして宗太は、その晩ずっと伊波の手を繋ぎ、彼女を見守り続けた。少し呆れながら、でも、伊波の手の温もりを感じながら。

 恥ずかしさと、嬉しさで伊波はもう何も考えられなくなっていた。ただただ、あの時のように、片手に宗太の手の平が温さだけを感じ取っていた。

「ね、ねえ。小鳥遊君」

「ん?」

 本日一番の勇気を出して。布団から赤い顔を出して。

「・・・そろそろ・・・『まひる』って呼んで?」

 その言葉を伝えた。

 宗太は少し戸惑ったが、すぐに笑みを浮かべるとゆっくり口を開いた。



 別に、名前で呼びたくなかったわけではないです。

 恥ずかしかったわけでもない。

 名前呼びは結婚してから、なんて一昔前の考えがあったわけでもない。

 じゃあ、何でかって?

 ・・・思い出、だから。

 『伊波さん』

 俺はあなたをこう呼び続けて、ここまでの仲になることができました。

 きっと、あなたが俺を『宗太君』と呼び始めた時も、そのようなことを考えていたのではないのですか?

 だからといって、あなたが思い出を壊したなんて思わない。

 思い出は大事な物です。かけがえのない物です。

 でも、思い出は過去だけの物では無い。

 思い出は振り返る物でもあり、そして・・・創る物でもあります。

 俺がワグナリアでバイトを始めたのも。

 あなたに出会ったことも。

 あなたに初めて名前を呼んでもらったことも。
 
 全てが世界にたった一つの大切な思い出。だから俺は、その思い出を惜しく感じて、あなたを名前で呼ばなかった。その瞬間、あなたがどこかに行ってしまうような気がして。

 でも、そんな考え・・・馬鹿らしいことでしたね。

 あなたはどこにも行かないし、俺もあなたの傍を離れない。

 『伊波さん』との思い出は忘れない。でも、これから創る思い出は『伊波さん』との物ではない。


「分かりました。・・・まひる」

 ほんの少し恥ずかしそうにそう言うと、『まひる』は今日一番の笑顔を浮かべた。


 これから、二人で歩み続けよう。

 そして、『伊波さん』に負けないくらいの思い出を作り続けよう。

 俺と『まひる』となら、できるから。



「宗太君?」

「何ですか?」

 笑顔を浮かべたまま、まひるは宗太の名前を呼んだ。宗太も、その呼びかけに優しく応える。
 まひるは少し間を置いてから、眩しいほどの笑顔で、

「大好き」

 何回言っても飽きることのないその言葉を、宗太に伝えた。
 恥ずかしさからか、宗太は頭を一回ぽりぽりと掻いてから、

「俺もだよ。まひる」

 これだけは自信を持てるその言葉を、まひるに捧げた。

 当然だ。

 世界で、一番・・・誰よりも

 あなたのことを、愛してる

 






 あとがき

 ・・・あーあ。マジで結婚すりゃあいいのにあの二人(ぇ
 このような感じになりました。個人的な願望としてはですね? 小鳥遊は常に伊波をリードして、伊波は小鳥遊をできる限り頼るという構図がもう一番萌えるんですよねえ(何
 この二人は佐藤さんと八千代以上にラヴラヴでいてもらいたいなあ。
 終わり方・・・もう少しなんとかしたかったなあ。いいのが浮かんだらすぐにでも直したいと思います。
 前述しておりますが、火の車さんの意見を色々と取り入れながら書いた作品なので、本当に感謝しています。相違など多いと思われますが、あくまで個人的な願望ですので・・・お許しください。本当にありがとうございました。

 携帯配信漫画を購入して見てるわけですが、伊波の胸はあんまりに可哀想に思えてきた・・・。個人的には、この小説くらいの年月が経ったらBくらいになってもらえると凄いいい。凄くいい(黙れ
 この小説内の小鳥遊と伊波もかなり生々しい関係ですよー(待て

 いてて・・・すいません。なんかもう腹が痛いのでここまでで。
 次回の作品の更新は多分小説ですら無いと思われますが、どうか見守っていてください。雑記がしばらく続いてしまうとは思われますが・・・。

 では~。


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