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銀の働き部屋

管理人銀河の、日記兼テキストサイトです。取り扱うジャンルは主にヤングガンガン連載のWORKING!!になると思います。最近は東方の霖之助小説を書くのにも夢中。どうかよろしくお願いします。リンクはフリーです。感想は常に受付中です!もらえたら泣いて喜びます

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28歳の人間関係


小説を更新しようと思います。




 タイトルは、『28歳の人間関係』です。まんまです。
 カップリングは、タイトル通り、白藤×榊小説です。いや、どっちかというと白藤→榊?
 この二人の組み合わせ、大好きなんですが今まで書いていなかったので、思い切って書いてみました。

 甘さは殆どありません。何故か白藤店長が凄い乙女です。

 それでは、続きからでどうぞ。



 



 







「・・・・・えーと。シロちゃん?」

 ファミリーレストラン、ワグナリアの店長を・・・一応、務めていることになっている、榊研一郎は、榊が全て金を出すことになっている焼き肉をもくもくと食べ続けている目の前の女性に向かって、ぼそっと呟いた。
 そんな榊の目の前にいる女性。彼女もまた、ファミリーレストラン、ワグナリアの店長を・・・やっぱり一応、務めていることになっている、白藤杏子だ。

 この二人は、高校時代に知り合ってから、今でもこのように一緒に食事を(とはいっても榊が奢るばかりだが。半ば強制的に)するほどの中だ。
 どちらも、地元では有名な大不良として名を馳せていたが、普段は幼き頃の八千代を二人で世話をするような穏やかな生活を送っていた。まあ、白藤はともかく、榊は元々温厚な性格であるため、そこまで違和感のある光景ではなかった。が、大不良二人に囲まれる八千代を見て何人が警察に通報するのを考えたことか。

 高校を卒業してからも、ファミリーレストラン・ワグナリアの店長同士になるなど、その奇妙な縁が絶たれることはなく、未だに当時と変わらずに二人は接している。

 二人とも既に本日のレストランでの勤務は終わっていて、普段のレストラン用の制服ではなく、私服で焼き肉を食べに来ている。
 とは言っても、榊はそこまでは食べない。いや、そこまではと言っても、一応お腹が膨れる程度には食べるのだが、彼女と比べたら食べていないも同然だ。

「何だ榊。私は今忙しい」

「それ以上忙しくならないように、話しかけてるんだよ? 俺は」

 肉を焼くための網の横には、そりゃあもう盛りだくさんの肉が盛られている。
 カルビ・ロース・タン・バラ肉・トントロ・焼き鳥などなどなど・・・
 更に言えば、サイドメニューの鶏から揚げ・たこ焼き・フライドポテト・お好み焼き・・・。
 皿の数も、それらのメニュー全てがテーブルの上に乗っているため、相当な枚数となっている。もう、見ているだけで胸やけを起こしてしまいそうだ。
 しかも、肉に関して言えば、この現在山盛りになっている肉は既におかわり何杯目かも分からない。

「いいだろ別に。どうせ食べ放題だし。大した値段じゃないだろう」

「食べ放題じゃないと流石にきついよ。だいたい、君の場合一回来たらそれ以降出入り禁止になっちゃうし」

 そう。この白藤杏子。ギャルの曽根と同等、もしくはそれ以上の食欲を持っているため、普通の焼き肉店などに行ったらどれほど金がかかるか分からない。榊は金は持っているほうだが、高級な肉が癖になってしまうのも、どちらかといえば彼女のためによくない。

 だから食べ放題の店に来る、しか選択肢がないわけだが・・・何せこの食欲だ。それはもう、まるでブラックホールの如く食すため、店の経営もそれなりに圧迫され、それ以降同じ店に訪れても、適当な理由をつけられて入店を断られてしまう。
 そのため、店をいちいち変えたり、ほとぼりが冷めた頃にまた行ったり、たまーに普通のシステムの焼き肉店を利用するなど。彼女に飯をおごるために、榊は様々な工夫を施す必要があるのだった。

「うるさい。飯くらい好きに食わせろ」

「俺の金で?」

 嫌味っぽく榊が言うが、白藤はまるで聞いてないかのように、もくもくと肉を焼き続け、食べ続ける。
 辺りを見回すと、あまりの皿の多さ、そしてその食べっぷりに、他の客の視線が浴びせられているのがよく分かる。
 ちらっ、と店員達を見ると、青ざめた顔で何か話しあっている。恐らく、どう追い出そうか考えているのだろう。

 最初はこのような視線を浴びるのも恥ずかしく思えたが、もう榊は慣れてしまった。

 この、白藤杏子という人物に。

 そんなことを考えながら白藤を見つめていると、彼女がちらっと視線を榊に向けた。
 何か用があるのかと、榊は小首を傾げて応えた。
 が、彼女は視線を落とし、すぐに食べる作業へと戻ってしまった。

 ・・・なんなんだ。

 榊は、この店に来るまでも、ずっとそんなことを考えていた。

 仕事もそろそろ終わる・・・といった辺り、突然白藤からの電話があり、榊は電話に出た。
 言われる言葉は、いつも変わらないこの一言。

『飯、おごって』

 その一言が電話から聞こえてきたかと思うと、何か文句を言う間もなく、電話は切れてしまうのだった。

 しかし、実は、それ自体がおかしなことなのだ。

 普段は、飯をおごって、という言葉の後にも、幾つかの会話が交わされる。
 まあ、榊が何を言ったところで、大抵は白藤に押し切られて飯を奢るはめになってしまうのだが。

 今日は、その幾つかの会話すら無く電話が切れてしまった。

 それがいつもと違う、という違和感になり、榊は首を傾げたのだった。

 まあ、違和感を覚えつつも、結局こうして飯を奢るはめになってしまったわけだが。



 もう何を言っても無駄だと、榊が窓の外を眺め始める。深夜にも関わらず、道行く人の往来は激しかった。
すると、すぐに白藤が箸を置く音が聞こえてきた。
 榊が彼女に目を向けると、白藤は力無く椅子にもたれかかり、やっぱり力無くテーブルの上に置いてあった水をゆっくりと飲み干した。

「・・・珍しいね。もう終わり?」

 嫌味も何も無い、純粋な気持ちで榊は声をかけた。
 いや、今の時点で白藤は何人前かも分からないほどの肉を食してはいる。しかし、榊の経験上、白藤杏子という食の化け物は、この倍は食せるほどの余裕を胃に持っているはずなのだ。

 榊の問いかけに、白藤は小さく首を横に振った。

「・・・休憩」

「休憩!?」

 予想だにしてなかった答えに、榊は店に響き渡るほどの大声で鸚鵡返しをした。

「・・・なんだ。何かおかしいのか」

 そんな榊を、白藤が睨みつける。その目は、小鳥遊に年増扱いされた時と同等かそれ以上に鋭いものだ。
 明らかに機嫌を害した様子の白藤を見ても、榊は動じることはなかった。それは、白藤との付き合いが長いからということもあるが、何より意外だったからだ。

「今まで休憩なんか挟んだことないよね!? どこか体調でも悪いの?」

 半ば本気で心配になってきて、後半は穏やかにそう声をかけるが、白藤は答えない。アイス用の小さなスプーンを口にくわえて、それをぷらんぷらんと上下させるばかりだ。

 今日のシロちゃんは、何かおかしい。
 いよいよ確信をもってそう思えてきた時。

「今日さ。バイトに大人の人間関係がどうこう・・・とか言われた」

 白藤が、ぽそっとそう呟いた。

「・・・は?」

 突然彼女の口から飛び出した、普段聞きなれない言葉に榊はそんな間抜けな声を出すことしかできなかった。
 白藤は榊を見る気配は無く、くわえていたスプーンをテーブルの上に置くと、すぐに窓の外を眺め始めてしまった。
 まるで、あまり話したくない、といった雰囲気であったが、榊も気になってしまって、改めて聞き直す。

「・・・大人の人間関係、って?」

「さあな。私も、よくは知らん」

 普段と変わらない、抑揚の無い声で白藤は返す。
 榊が、大人の人間関係という言葉の意味が本当に分からずに、考え込んでいると、一瞬白藤が榊を見た。しかし、榊と視線が合うとやっぱり窓の外へと視線を移してしまった。

「よくは知らんけど・・・。その、恋愛とかのこと・・・じゃねえの?」

 いまいち歯切れ悪く、彼女は言った。
 榊は、一瞬考えたが、すぐに「ああ」と手を叩いた。どうやら理解できたらしい。どれほどまで理解できたのかは分からんが。

「何でまたそんなことを聞かれたの? 珍しいね」

「何でかは知らん。まあ、そんなのねーよ、と返しておいた」

「そうだよねー。俺もシロちゃんも、高校時代から出会いもあまり無いしね」

 小さく笑いながら榊が言うと、白藤が正面を向き、榊と向かい合う形になった。
 向かい合ったかと思えば、先ほどまでとは逆に、じっと榊の目を見続ける。
 榊も、突然どうしたんだろう? という疑問と共に、負けじと白藤の目を見続けた。

「出会い、無いのか」

「・・・そりゃ、ね。仕事以外特に何もしてないし。そりゃあ、店の人達と話はするけどさ」

「いい女はいないのか。職場に」

「いい女・・・の基準がよく分からないけど。馬鹿にされたり、蹴られたり、たかられたり・・・。ロクでもないよ」

「・・・とにかく、浮いた話は無いわけか。お前も、私も」

「そういうことだね」

 ははは、と自嘲気味に榊は笑った。
 白藤の表情は、殆ど変わらない。普段通りの仏頂面。
 しかし、

「・・・出会いが無い、って言ってるのに、どうして笑うのさ?」

 そんな仏頂面の裏に隠れた笑顔に気づけないほど、榊は彼女と浅い付き合いではなかった。

「笑ってなんかない」

「そうかな?」

「そうだ」

 榊が納得できない、といった風に首を傾げると、白藤はまた窓の外を眺め始めてしまった。

「私って、そんなにいい女じゃないのか?」

 窓の外を見続けたまま、白藤は榊に問いかけた。
 言葉を聞いて、榊は呆然とした。

 やっぱり、今日のシロちゃんは何かおかしい。

「・・・どうしたの? 焦りでも感じ始めてきた?」

「・・・三十路、近いからな」

 本来、店のメンバーに歳のことでも触れられようものなら怒りを露わにする白藤だが、沈んだ声で言いながら、小さな溜息をついた。
 白藤杏子という人間は、まず間違いなく、人の前で自らの弱みを見せることのない人間だ。なのに、このように落ち込んだ姿を見せるということは、それだけ榊という人間を信用しているということだ。
 榊は、決して人の弱みに付け込んで人を陥れたりすることはない。そう確信しているからこそ、白藤は素の自分をさらけ出すことができるのだ。

 もちろん、榊自身は彼女のそんな想いに気づいているはずもないのだが。

「俺ももうそんな歳かあ。俺は少し老けたけど、シロちゃんはあの頃と変わらないね」

「・・・そうか?」

「うん。あの頃のまんま。綺麗で、いい女だと思うよ。俺は」

 笑顔でそう言うと、白藤は顔だけを動かして榊を見た。
 当然、榊と視線が合う。榊は、笑顔を浮かべたままだ。

「・・・出会い、無いんだよな。お前も、私も」

「うん。そうだね。この仕事をしている限りは・・・」

 やっぱり自重気味に、榊は笑う。
 そんな笑顔を浮かべている榊を、白藤はひたすら見続けた。焦点をずらすこともなく、ただひたすらに、その目を。
最初は榊も笑っていたが、流石に恥ずかしくなってきて、口を開く。

「えっと。どうしたの? 今日のシロちゃん、なんかおかしい・・・」

 手。榊の視界を覆い尽くした物、それは手だった。

 直後、榊の胸には強烈な圧迫感がのしかかり、気がつけば目の前には白藤の顔があった。


 何が起こったのかというと。

 榊が言い切る前に、白藤の手が榊の目の前に迫ってきた。
 榊が理解するよりも早く、その手は榊の胸ぐらを掴み、常人よりよほど強い腕力で杏子が引っ張ると、榊の上半身は簡単にテーブルの上に乗り上げられた。
 テーブルの上の皿がぶつかり合い、激しく音を鳴らす。
 周囲の客や店員も、その音に驚き一斉に視線を二人へ向けた。

 以上が、僅か1秒ほどの間に起こった出来事である。

「・・・し、シロちゃん? どうしたの?」

 動揺しきった表情を浮かべ、胸を圧迫されているため少し息苦しそうに、榊は問いかけた。
 引き寄せられたことにより、榊の視界は白藤の顔が覆い尽くしている。
 そして、榊から見た杏子の表情・・・それは、怒りだった。もちろんその表情も、一般人が見たところで認識できるほどのはっきりとした表情ではない。
 しかし、その顔は激怒といった様子にも見えないし、憎しみに溢れた怒りにも到底見えない。
 ただ、榊はこれだけは言うことができた。

 こんな表情のシロちゃんは、見たことがない。
 
「・・・杏子」

 何秒経ったのだろうか。白藤がボソッと小さく呟いた。

「へ?」

「杏子、って・・・呼んでみろ」

 ・・・・・・・・・・・・

「は?」

 唐突にそう言われ、榊はまったく訳が分からず、戸惑うように声を漏らした。
 白藤は眉を僅かに動かしてから、もう一度、

「杏子って一度、呼んでみろ」

 と、繰り返すのだった。

「・・・シロちゃん?」

 榊が問いただすように呼び掛けると、白藤は今度ははっきりと眉を顰め、彼を睨みつけた。

 何なんだ。と思わずにはいられなかったが・・・榊は白藤の目を見ながら、はっきりと、

「杏子。どうしたの?」

 そう、今までに呼んだことの無いその名で問いかけた。

「・・・・」

 すると白藤は、ぱっと手を開き、榊を解放した。
 胸ぐらを尋常じゃない握力で掴まれていた榊は、息苦しさから解放されて、数回苦しげに咳を漏らした。

「・・・そうか。こんな感じ、か」

「どんな感じ!? 何なの一体!!」

 流石にここまで好き勝手にされて怒りを感じないほど、榊もお人よしでは無い。苛立ちを隠そうともせずに白藤へ怒りをぶつける。
 しかし、彼女は謝罪することは無く、ただ呆然としたように天井を仰ぎ見ている。
 そんな彼女を見て、何を言っても意味が無いと思ったのか、榊はすっきりしない様子で頭を掻き毟り、テーブルに置いてあった水を一気に飲み干した。

「なあ、榊」

「今度は何!?」

 怒りを隠さずにそう声を荒げると、彼女は一言。

「ありがとうな」

 そう、微笑みながら言うのだった。

「・・・・」

 その笑顔は、高校時代から彼女を見ている榊すら一度も見たことの無い表情だった。
 もちろん、長年の付き合いで、彼女の感情を殆ど変化の無い表情から読みとれるようにはなった。
 しかし、このようなはっきりとした笑顔は初めて見た。

 そんな笑顔に思わず榊は見惚れてしまっていたが、はっと我に返り、見惚れていたことを誤魔化すように咳払いをした。

「シロちゃん? お店の中なんだから、いきなりあんなことしちゃ駄目だよ? だいたい・・・」

「榊」

「・・・何?」

「腹減ったから、後にしてくれないか」

 何の悪びれた様子も無い白藤を見て、榊は今日一番の大きな溜息をつく。
 そして、怒鳴ろうと一回は口を開くのだが、お腹を鳴らしながらよだれを垂らしている彼女を見ていると何も言えなくなり、結局は・・・

「・・・お好きなだけ、どうぞ」

 このように、甘やかしてしまうのだった。




「うむ。美味かった」

「そうですか・・・」

 半ば追い出されたかのように店を出て、満足そうに言った白藤に、榊は疲れ切った表情で返事をした。
 あの後、白藤はそりゃあもう食いまくり、結局彼女の胃袋が限界を迎える前に焼き肉店の店長が土下座で店を出るように頼み込んできてしまい、店を出ることになってしまった。
 満腹、ではなかったようだが、十分に食いたいだけは食えたらしく、白藤はそこまで不満を漏らすこともなく、あっさりと店を出てくれた。

「あんな騒ぎ起こしちゃって・・・。絶対もうこの店に来れないよ」

「そうか。まあ、頑張れ」

「君のせいなんだけどね!!」

 肩をおさえ首を鳴らしている呑気な白藤に、榊は涙目で訴える。まあ、こんなことを言ったところで彼女が反省する性格でないことは分かり切っているのだが。
 今度はどの店に行くべきか・・・と、駐車場に停めている車へ着くまでの道を歩きながら悩んでいると、

「榊」

「なーに?」


「私が処女だって言ったら、驚く?」


「うーん。どうかな・・・」






 え。

「はあ!!?」

 考え事をしながらでも強烈に耳に残る言葉を聞き、榊は驚愕の表情を浮かべながら、体ごと彼女に向き合った。
 爆弾発言をした直後にも関わらず、白藤本人は何事も無かったかのように、正面を見ながら足取りもしっかりと歩いている。

「な、何言ってるのシロちゃん!」

 榊が力強く声をかけると、彼女は彼より少し先で足を止めた。

「そんなおかしなこと言ったか?」

 顔だけをこちらに向けながら、彼女はとぼけたように言った。

「おかっ・・・! いや、何で急にそんな・・・!」

「別に。驚くかな、と思って」

 淡々とそう述べた後、白藤は立ち止り、体ごと榊の方を向く。
 そして、また一言。

「驚く?」

 少し首を傾げながら、そう尋ねた。

 そんな子どもじみた動作ではあったが、榊はすっかり頭に血が昇り始めていた。

 先ほどの質問をされてから、白藤の、「女性」らしさが急に気になり始めてきてしまったからだ。

 長くは無いが、手で梳けば何の抵抗も無く手の上を流れるであろう艶のある黒髪。

 顔は目に力は無いが、全体的に整っていて、唇には確かな厚みと潤みがある。

 女性の中ではかなり大きい部類に入るであろう、決して彼女の体のラインを醜く崩すことなく、豊かに整った形へ成長しているバスト。

 あれほど食べているのに、と誰もが思わずにはいられない引きしまったウェスト。

 榊は、顔を真っ赤にしながら、今更のように自分自身へ問い詰めていた。

 なんだよ。


 シロちゃんって、こんなに魅力的だったのか、と。

 
「・・・驚く?」

 何秒、黙ったままだったのだろう。と、三度そう口を開いた白藤の声を聞いて、榊は我に返った。
 彼女の表情は、先ほどから全く変わっていない。普段通りの・・・仏頂面。

 だが、

「シロちゃん!」

 榊は、両腕でしっかりと白藤の肩を掴んだ。
 白藤は肩を掴まれたからといって特に動じることは無く、ただ、変わらず榊の目を見つめ続けている。

 この時、彼女は何を考えていたのだろうか。
 ほんの少し、本当に僅かだが・・・彼女の指先が震えていたことは、榊にも気づくことはできなかった。

 更に、どれほどの時間が経ったのか。

 まだ顔の赤さも全く抜けきっていない榊が、重々しく口を開いた。


「・・・自分で顔を赤くするようなことを、聞かないの」


 諭すように、照れくさそうに、彼女の目をしっかりと見据えながら、榊ははっきりと言い切った。

 今回は、榊にしか分からない・・・という表情の変化ではない。
 白藤の顔は、赤かった。もちろん、彼女の店のバイトとして働いている伊波のように、湯気が出るほど真っ赤に・・・というわけではない。
 しかし、普段の彼女の生活をずっと監視していても、まずお目にかかれることは無いであろう、という程度に、彼女の頬には僅かな赤味が差しているのであった。

「・・・赤くない」

「赤い」

「赤くない」

「赤いって!」

 榊に顔の赤さを指摘されると、白藤は顔を逸らし、子どものようにそれを否定した。
 だが、榊は彼女の肩から手をどけることはなく、肩を揺さぶりながら何回も指摘した。もちろん、榊自身も顔を赤くしながら、だ。

「・・・何があったのか知らないけどさ。どうしたのさシロちゃん。何か、おかしいよ。今日会った時からずっと」

「・・・うるさい」

 顔はやっぱり横へ逸らし、顔から赤味は消えることなく・・・いや、むしろ増しているように見える。白藤は、不機嫌そうに呟くのだった。

「・・・とりあえず。今日は帰ろう。はい、これ」

 深く息を吐きながら、榊は自らの財布を取り出し、その中から二枚の万札を取り出し、杏子の手を取り、その細い手に握らせた。

「・・・どういうことだ」

 白藤が顔を上げ、やはり不機嫌そうに口を開く。

 榊はばつが悪そうに白藤から視線を逸らすと、

「悪いけど。今日は・・・タクシーで帰って。お釣りは、あげるから」

 そう、心から申し訳なさそうに声を絞り出した。

「・・・なんでだ。ここまでは、一緒に・・・」

 白藤が言い切る前に、榊は再び彼女の肩を掴んだ。
 榊の顔は下を向いていて、彼と殆ど彼と変わらない身長である白藤からは、その表情は窺うことができない。

 しかし、榊はゆっくりと顔を上げた。その顔は赤く、目も彼女を見ていない。
 そして、彼女をはっきりと見ることなく、途切れ途切れに、こう言った。

「今日、シロちゃんを車に乗せたら・・・。俺、なんかとんでもないことを・・・その、しちゃいそうだから」

 言い切ると、顔を更に真っ赤にして、榊は白藤の肩から手を放し、すぐさま自らの車へと歩き始めてしまった。

 白藤はというと、榊の声を聞いてから、普段は瞑りがちの目を見開いて、しばらくの間呆然と立ち尽くしていた。目だけで、彼を追うことすらできない。それほど、体から力は抜けきっていた。
 意識もはっきりとせず、彼女の頭の中には、榊の言葉が何度も何度も反響していた。

 突然夜空の下に響いた車のクラクション音で、彼女は我に返った。

 振り返り、音の元をたどると・・・榊の車があった。
 すると運転席の窓が開き、まだ顔の赤味も抜けきっていない榊がそこにはいた。

 駐車場に、しばらくの間沈黙が訪れる。
 耳を澄ます必要も無く聞こえてくるはずの、街の喧騒は・・・今の二人の耳に届くことはなかった。

「・・・じゃあね。シロちゃん」

 沈黙を破ったのは榊であった。彼がそう言うと、僅かだが・・・本当に僅かだが、白藤は肩を震わせた。
 やはり視線は白藤に合わせず、榊は彼女に聞こえるか聞こえないかという小さな声で呟くと、窓を閉じようとする。

「待て! 榊!」

 しかし、窓が閉じる前に、白藤は榊の車へと駆け寄った。
 そして、車体を挟みながらも、榊と数十㎝、という距離まで近づく。

 榊も、驚いたように彼女を見つめた。
 白藤は、しばらくの間は何も言えず、ただひたすら榊を見つめていた。

 しかし、覚悟したのか、ゆっくりと口を開き、


「もう一度だけ。・・・杏子、って呼んでみろ」


 本当は、頼むように言うはずだった。
 しかし、恥ずかしくて・・・普段と変わらぬ、命令口調が口からは飛び出していた。
 彼女は心の中でそれを後悔したが、時既に遅し。と榊の返答を待つのみだった。

 榊は、目を見開いた。
 そして、何秒も経たない内に・・・うっすらと、微笑んだ。


「じゃあね。杏子」


 小さくはあったが、確かにはっきりとそう言うと、榊は車の窓を閉じ、車を走らせた。
 白藤は彼の車を視線で追った。その行為は、彼の車が駐車場を出て、視界から消えるまで続いた。

 そのまま、どれほどの時が経ったのだろうか。

 気がつけば、あれほど静かだったはずなのに、彼女の耳には街の喧騒が飛び込んできていた。

 駐車場に残された白藤は、ゆっくりと自らの手に握られている金に目をやる。
 しばらくの間その金を見つめていたが、榊の言葉を思い出した。


『じゃあね。杏子』


「・・・!!」

 思い出すと顔に熱が集まってきて、思わず白藤は手に握っていた金を握りつぶしてしまった。
 ゆっくりと、呼吸をする。息を、整える。

 彼女自身が驚いてしまうほど珍しい、「羞恥」の表情を浮かべて。

 何回か深呼吸を繰り返し、意識もだいぶ冷静になったころ、彼女は明らかに苛立った声で小さく呟いた。

「・・・ヘタレ野郎」

 その一言を発すると、ふっきれたように、タクシーがすぐに通るであろう表通りまで、足取りも確かに歩き始めた。





 次の日。ワグナリア。・・・正式には、白藤杏子が店長を務めている、ワグナリア。
 その店内。白藤は、いつもと変わらぬ場所で、八千代が作ったパフェを黙々と食していた。
 彼女の表情、しぐさは普段と何も変わらない。ワグナリアの店長としての、白藤杏子がそこにはいた。
 いつも通り、仕事は全くしていない。しかしそれも、普段の白藤店長の姿そのものであり、今更誰かが文句を言うことも無い。

「なあ、種島」

「なーに? 杏子さん!」

 店長からの突然の指名に、特に仕事も無くテーブルの拭き掃除へでも行こうかと思っていた種島は、ご機嫌に返事をしてから店長の下へ駆け寄った。

「大人になると、できないことがより一層現実的になって・・・もどかしいな」

 店長は唐突にそんなことを、種島へ話し始める。
 普通ならば、この言葉はとても意味深で、聞いてしまえば誰もがその言葉に隠された意味を探してしまうものだが・・・。

「なーに杏子さん? また食べ物の話?」

 種島は、昨日聞いたばかりのその言葉の意味を深く捉えることはなく、明るく笑いながらそう返した。
 店長は、種島の顔をちらりと見ると、うっすらと微笑みながら、

「ああ。まあ、そんなもんだ」

 と、穏やかに答えるのだった。

「ずーっと前から、気づいたらそこにいるんだが・・・分かりあえないというか」

「もー杏子さんったら。今度はパセリ?」

「・・・ああ。そんな、もんだな」

 今度は、随分と手強そうだけどな。

 あーあ。と、ため息混じりに天井を仰ぎ見る。


 あいつは今、何をしているんだろう。

 私よりは、働いているのだろうか。

 私のように、周りの人間に頼りっきりなのだろうか。


 同じ天井を、同じ時に見ているのだろうか。


 きっと、見ている。

 そう信じながら。彼と同じ天井を眺めながら。

 種島にも聞こえないような声で・・・小さく、呟いた。


 好きだと、言えたらなぁ










 あとがき

 こんな感じになりましたが、どうでしょうか。
 この二人は、お互い好き合ってるけど、それに本人達ははっきりと気付いていない。みたいな関係が理想的だなあ。と思いながら書きました。
 杏子さんは、高校時代から榊さんのことが好きだったけど、言えるはずもなく、未だに想いをひきずっている。みたいだと俺が凄い興奮するのでそういう風に書いてみました。
 榊さんは、見たまんまというか。純粋で鈍感な感じを目指しました。はっきりと大好き、ではないけど、本当に心から杏子さんとの友人関係を大事にしている。みたいな?

 まあ、この二人とはいえ28歳だから、もう少し大人な関係な気もするんですけどね。でも、原作で杏子さんがアプローチしている姿も思い浮かばないし、榊さんが女性関係を豊富に持っているという感じもしなかったので、お前ら中学生か、みたいな感じに仕上がりました。
 ヘタしたら二人とも童貞&処女かもね(待て待て

 今回の小説は、白藤、と小説内で書くとなんだかぎこちない感じがして、書くのに困りました。だからといって、京子、と書き続けてしまったら榊さんの言葉の意味が薄くなるような感じもしたので、白藤と彼女、を使い分けると言う逃げ道に走りました。どうだったんだろうなあ。今思うと。

 個人的に、文章力はともかくとして、もどかしい感じで書けたかな? と思います。もっとこの二人の絡みを公式で見たいなあ。

 なんか。今回のあとがき、今までで一番あとがきっぽいこと言ってるね(ぇぇ


 アニメ化の影響か、最近このブログを見てくれる人も増えています。拍手とかも本当にありがとうございます。
 どんな小さな感想でもいただければ大きな力になりますので、よろしくお願いします。感想の返信とかは、コメント・拍手コメントにかかわらず、基本的には雑記の追記などで返信させていただきますので、ご注意ください。


 それでは、見てくださりありがとうございました!

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