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銀の働き部屋

管理人銀河の、日記兼テキストサイトです。取り扱うジャンルは主にヤングガンガン連載のWORKING!!になると思います。最近は東方の霖之助小説を書くのにも夢中。どうかよろしくお願いします。リンクはフリーです。感想は常に受付中です!もらえたら泣いて喜びます

馬鹿二人と、変わらない・・・   榊×杏子 澪さんリクエスト小説







 澪さんのリクエストである榊×杏子小説です!
 タイトルは、「馬鹿二人と、変わらない・・・」です。どんどん適当さが増している。なんか、タイトルの後半を、・・・にすると大抵なんとかなるよね!!(ぇ

 リクエスト内容を改めて言いますと、

「杏子に会いに、ワグナリア(犬組)に行く榊。
驚く杏子と八千代、杏子の知り合いに驚く犬組メンバー。
榊を知らない犬組メンバーが、榊がどんな人か?、杏子との関係は?等、色々考える。
榊、杏子と八千代は昔の思い出や近況を話す」

 といった内容です。
 殆どリクエスト内容は達成したつもりですが、若干榊さんと杏子さん以外のメンバー出番少なめ。八千代さんもあまり出せなかったです。申し訳ありません。
 
 あと、注意事項としては、俺の妄想全開です。この小説内に出てくる話の殆どは俺の脳内設定なので、誤解しないようにお願いします。

 甘さは殆ど無いと思います。けっこう長いです。

 もしかしたらお気に召さないかもしれませんが、愛はこめました。澪さん、どうかお許しください!

 それでは、続きからでどうぞ!!










 なんで、シロちゃんの店に行こうなんて思ったか。自分でも、よく分からない。

 今日は仕事が珍しく休みで、何をやろうか。とずっと考えていた。
 買い物に行こう。だとか、どこかへ遊びに行こう。だとか・・・高校生時代だったら思っていたのかもしれないけど、28歳にもなって、そんなに活動的に休日を過ごす気にもなれなかった。いや、高校時代ですら思ってなかったかもしれない。
 趣味も、特に無い。強いて言えば、猫と遊ぶのが一番楽しい、気がする。
 
「俺って、つまらない人間なんだなー」

 曜日は、日曜日。
 そんな週末の真っ昼間。俺は家のソファの上に力無く座り、天井を見上げながら呑気に口を開いた。
 もちろん、俺の言葉を聞く人はいない。一人暮らしだし、当然だ。

 しばらくそのままぼーっとしていると、飼っている猫のミヨちゃんが俺の膝の上に乗ってきた。
 もう、10歳以上になった。高校時代から飼っている、俺の大事な大事な、友達だ。

「どうしたのミヨちゃん。お腹空いた?」

 俺が声をかけると、ミヨちゃんは短く、「ニャー」と鳴いてから、俺の膝の上で寝始めた。
 どうやら、俺に甘えたいだけらしい。
 昔から、俺の頭に乗りっぱなしだったりして甘えんぼさんだったけど、今も変わらない。
 俺はそんなミヨちゃんの頭をゆっくりと撫でると、またぼーっと思考を巡らせた。

 そんな時。ふと・・・。本当に、なんのきっかけも無く、ふと思ったんだ。

 そういえば、最近・・・シロちゃんに会ってないな。って。

「・・・シロちゃん、今日、仕事かなあ」

 人間、一度思いついたことはとことん考えないと気が済まない生き物だ。懐かしい曲のメロディを聞くとその続きを考えて他の事が手につかなくなったり、偉人の名前が突然浮かんで、その人が何をやった人なのか分からなくなったり。まあ、後者は俺は無いけどね。偉人の名前なんて、聖徳太子くらいしか覚えてない。何をやった人かも、忘れた。

 だから、シロちゃんの顔が頭から離れないのも、きっとそういうことなんだ。と、思う。

「仕事だろうなあ。ご飯にでも、誘ってみようかな」

 携帯電話を探す。というか、探す間もなく、携帯電話は普段から目の前にテーブルの上に置かれているではないか、と気づく。
 そしてテーブルに目をやると、携帯電話は当然の如くそこにあった。

 手を伸ばす。
 が、届かない。
 いや、正確には届くんだけど、今は届かない。ミヨちゃんが膝の上で寝ているからだ。これ以上手を伸ばして体を動かしたら、ミヨちゃんが起きてしまう。

 うーん・・・

 ま。いっか。

「夜、ご飯食べに行こう。シロちゃんのお店に。電話もかけず。突然」

 何で、そう思ったんだろう。
 考えるが、答えは見つからない。
 最初に、そう言った。

 もし、シロちゃんがたまたま休みだったとしても、特に困ることもない。ただ、お腹を膨らませて帰るだけだ。・・・八千代ちゃんに挨拶くらいはできるかも。
 それに、今日会えないからといってずっと会えないというわけではない。もしかしたら、明日にでも・・・いや、もしかしたらもしかすると、今日にでも「飯奢って」と電話をかけてくるかもしれない。

 だから、今日行くのは、気まぐれ。あ、理由見つかった。気まぐれなんだ。俺の。
 そう。ただの気まぐれ。普段表情を顔に出すことの無いシロちゃんが、少しでも驚いたら、面白いかもしれない。という、気まぐれ。ん? それも理由になるのかな? まあいいや。どうでも。どうせ俺馬鹿だしなあ。考えても仕方ないや。

 ・・・まあ、とりあえずは。

「一緒に寝ようか。ミヨちゃん」

 俺が声をかけると、まだ眠り切ってなかったミヨちゃんは、唸るように返事をしてくれた。





「やっ。こんばんは。八千代ちゃん」

 俺が、ワグナリア・・・正確に言えば、「シロちゃんが店長を務めるワグナリア」に入店すると、昔からの顔なじみである八千代ちゃんが出迎えてくれたので、俺は笑顔でそう挨拶を交わした。

 俺がシロちゃんのお店を訪ねたのは、夕方の5時。
 北海道のファミレスは、本土のファミレスと違い、24時間営業でない店が非常に多い。とはいっても、深夜零時ほどまでは営業しているので、客足も少ないその時間に来るのが一番良かったのかもしれない。が、正直シロちゃんのお店で働いている若い子達に興味があったので、高校生もバイトできる時間帯であるこの時間に訪れた。

 そんなことを、無い頭を活動させた結果訪れた俺。
そんな、笑顔で挨拶をしている俺とは対照的に、八千代ちゃんは驚きの表情を浮かべていた。
 そして、何回か口をぱくぱくさせてから、ゆっくりと口を開いた。

「・・・榊、さん?」

「うん。久しぶりだね八千代ちゃん。大きくなったね」

「は、はい。ありがとうございます。えっと、何で・・・」

「ん? いや、理由らしい理由は無いんだけどさ。シロちゃんのお店って、どんな所なんだろうって思って。あ、迷惑だったかな? だったら帰るけど」

 俺が尋ねると、八千代さんは首を振って否定してくれた。

「い、いえ。今混んでないですし、ゆっくりしていってください。あ、喫煙席ですか?」

「いや、禁煙でお願い」

 答えると、八千代ちゃんは俺を席に案内してくれた。

 席に案内されてすぐ、ドリンクバーを注文した。
 店は違うといっても、取り扱っている料理は全部同じなんだし、すぐに料理を頼む必要もないと思ったからだ。
 コーヒーでも飲みながら、ゆっくりしようと思っていた。幸い、そんなに混んでないみたいだし。・・・俺の店と同じで。

「それにしても、本当にお久しぶりです。榊さん」

「そうだね。最後に会ったのは何年前かな。でも、俺はあまり変わってないでしょ?」

「えっと・・・。は、はい」

「そんなに気まずく思わなくていいよ。もうオッサンだしね」

 ははは。と、少し自重気味に笑うと、八千代ちゃんは少し困ったように微笑んだ。
 昔から、この子はこうだ。基本は人見知りで、最後まで、俺と話す時はいつでも顔が赤かったのをよく覚えている。

「あ、じゃあ戻りますね。・・・えっと、杏子さんには知らせた方が?」

「あー・・・。うん、お願い。今日はシロちゃんに会いに来たんだ」

 俺が苦笑いを浮かべながら答えると、八千代ちゃんの様子が一変したのが分かった。
 ああ。そういえば、そうだったな。と俺はのんびりと、しかし青ざめながら頭の中で考えていた。

「・・・杏子さんに、会いに?」

「う、うん。最近、会ってなかったからね。一度、働いている八千代ちゃんも見たかったし・・・」

「・・・・・・」

 八千代ちゃんが、刀に手をかけた。
 うん。昔から、こういうことを言うとこの子はこうなった。

「・・・あ。ご、ごめん。言い方が悪かったね。シロちゃんに、最近ご飯奢ってなかったから。お腹空いて死んじゃってるんじゃないかな、って思って」

 俺が苦笑しながら言うと、八千代ちゃんの緊張が一瞬で解けたのが分かった。
 刀から手を離すと、さっきまで浮かべていた笑顔で、

「あ、そういうことですか。杏子さんを、お腹いっぱいにしてくださいね!」

 そう、俺に頼むのであった。

「うん。少し不本意だけど、そうさせてもらうよ」

 苦笑いを浮かべながら答えると、八千代ちゃんはご機嫌な様子で店の裏へと向かって歩いて行った。

 八千代ちゃんの姿が見えなくなってから、俺は安堵の息を大きく吐いた。

「・・・あ、相変わらずシロちゃんが絡むと怖いなあ。八千代ちゃん」

 そう、俺から見ても分かるくらい・・・多分、八千代ちゃんはシロちゃんのことが大好きなんだと思う。
 そんで、さっきのは俺が嫌いなわけじゃなくて、八千代ちゃんは「シロちゃんのことが好きな人が嫌い」なんだってことも、知っている。というか、思いだした。

 そんで、八千代ちゃんがああなったら、ああすればいい。つまり、「俺はシロちゃんのことを好き」と思わせるのではなく、「俺はシロちゃんにたくさんのご飯を奢ってくれる人」と思わせればいい。そうすれば、最終的にシロちゃんが幸せになるから、八千代ちゃんは怒らない。
 ・・・懐かしいな。こんなことに気を遣うのも。

 そんなことを考えていると、

「榊」

「ん?」

 左手から聞こえてきた声に顔を向けると、そこには、少しだけ懐かしい人の姿があった。

「久しぶり、シロちゃん」

「・・・ああ。そうだったかな」

 ・・・まあ、今更紹介するまでも無いけど、この見事に俺と最後に会った日なんか忘れてしまっている女の人が、シロちゃん。まあ、白藤杏子って名前があるんだけど、俺はずっとシロちゃんって呼んでる。
 好きなように呼べ、って昔言われたから。最初はシロちゃんって呼べなかったけれど、ある日何となく急にその呼び方を閃いて、シロちゃんと呼ぶようになった。

 シロちゃんは俺と一言会話を交わすと、俺と向かい合う形でテーブルに着いた。
 
「まだ営業時間中でしょ? いいの?」

「ああ。構わん。どうせ暇だし。私はいつでも」

「・・・俺より働いて無さそうだね」

「それは、無い」

「何を根拠に!?」

 涙目でツッコむ俺など全く意にも介せず(まあ、正直働いている、と自信を持って言えないんだけどね)、シロちゃんはこの店のメニューを手に取った。
 そして、それをまじまじと眺め始める。・・・ああ。もう、よだれよだれ。よだれ出てる。
 10秒ほど見つめると、シロちゃんはよだれを垂らしながら俺をじーと見つめてきた。

「・・・好きなの頼みなよ。奢るから」

 俺が言い終わるかどうかというところで、シロちゃんは店のコールボタンを凄まじい速度で押した。早っ。エネルギーの使い方おかしくない?

「はい、ただいま・・・って、店長!? 何やってるんですか!」

 コールを聞いて僕らの席へと向かってきたのは、眼鏡をかけた少年だった。高校生くらいだろうか。
 シロちゃんが座っているのを見て、少年は怒りを隠そうともせず、シロちゃんを怒鳴った。こういうこと言うのもシロちゃんに失礼だけど、凄い度胸だな。この子。

「飯奢ってもらう」

「奢ってもらうって・・・。お客様、この人がどれほど食うか知ってますか!?」

「うん」

「・・・え」

「高校時代からの付き合いだからね」

 俺がそう言うと、少年はずいぶん驚いた様子だった。何か、おかしいことを言っただろうか?

「君は・・・あ、もしかして小鳥遊君かな? 眼鏡かけていて・・・あー・・・とにかく、シロちゃんから聞いたよ」

「ああ。話した。眼鏡かけてて生意気な奴が入った、って」

 ああもう。思いだしたけど失礼かと思って言わなかったのにこの人は・・・!!

「生意気ということをあなたに言われたくないですよ。・・・お客様、注文は」

「ん。チーズドリアとホワイトカレーとフライドポテト。あとラーメンに、ダブルハンバーグにチーズプラスで。それとオムライス」

「・・・俺はお客様、って言いましたよね。・・・もういいや。『お客様』は?」

 ああ。俺から見てもこの子が凄いイラついているってことが分かる。お客様、のアクセント・・・あれ。アクセントって言うんだっけ。こういうの。まあいいや。が、違うもの。

「えっと・・・ドリンクバーは頼んでるし・・・。ステーキ&ハンバーグお願い」

「はい、かしこまりました。少々お待ちください。ドリンクバーはすぐにお持ちします」

 少年は注文を受け付けると、シロちゃんを一度睨んでから裏方へと戻って行った。
 うーん。凄いな小鳥遊君。シロちゃんにあんなこと、俺でもなかなか言えない。

「・・・な。生意気だろ」

「ど、どうだろうね」

 シロちゃんが不満そうに俺に言うので、俺は苦笑して答えておいた。普段からそうだけど、俺苦笑しっぱなしだよなあ。
 料理を頼み終わると、やはりシロちゃんはご機嫌な様子だった。普段話している時は表情に変化なんて殆ど無いのに、こういう時だけ、顔がほんの少しだけ赤くなるのを俺は知っている。

 そんなシロちゃんは、俺から見ると・・・少し、可愛かった。

「・・・まだかな」

「まだ頼んで30秒も経ってないよ」

 子どものように料理を待ちわびるシロちゃんの後ろから、カップを持った八千代ちゃんが近づいてきているのが見えた。

「榊さん、ドリンクバーお待たせいたしました」

「うん。ありがとう。八千代ちゃん」

 八千代ちゃんが差し出してくれたグラスとコーヒーカップを受け取り、俺は礼の言葉を述べた。
 俺の笑顔に八千代ちゃんも笑顔で応えてくれる。この子の笑顔は、なんというか、昔から癒されたものだった。

「こうやって、3人揃うのは久しぶりですね」

「そうだね。俺とシロちゃんはたまに会ってるけど、八千代ちゃんはずいぶん久々。ねえ、シロちゃん」

「・・・そうだったか?」

 口からよだれを垂らしたままで、シロちゃんは首を傾げた。
 うーん。きっと、八千代ちゃんとは毎日、俺とはたまにとはいえ最低でも月に一度くらいは会っているから、よく覚えてないんだろうな。

 それより俺は、たまに会ってる、と言った時から八千代ちゃんが微妙な殺気を放っているような気がして仕方ないんですが、気のせい?

「・・・どうかしたか? 八千代?」

「い、いえ!! 何でもないです杏子さん!」

 シロちゃんが八千代ちゃんの様子がおかしいことに気づいて、八千代ちゃんを気遣うように言葉をかける。
 八千代ちゃんは少し顔を赤くしながら、それを否定した。そんなに照れなくてもいいのに。色々と昔から変わってないらしい。
 ・・・まあ、俺は助かったけど。
 流石に、日本刀の一撃は死んじゃうかもしれないし。

「俺達が高校生の時は殆ど毎日会ってたのにね。・・・それにしても、あの時は驚いたなあ」

『あの時?』

 シロちゃんと八千代ちゃんが息もぴったりに鸚鵡返しをした。
 俺はそんな二人が面白くて、今度は苦笑ではなく普通の笑みを浮かべた。

「俺がシロちゃんと・・・2度目、かな。2度目に会った時、シロちゃんと八千代ちゃんが一緒にいたじゃない? もちろん、その時に八千代ちゃんとは初めて会ったんだけど」

 俺が話すと、八千代ちゃんは両手を合わせて、納得したように頷いた。シロちゃんはまだ思い出せてないようだ。

「公園でたまたまシロちゃんを見つけて・・・まあ、その時はシロちゃんって呼んでなかったんだけどさ。八千代ちゃんが一緒にいたでしょ? 俺驚いてさあ、思わず・・・」


『こ、子持ちだったの!?』


「って・・・」

 俺が思い出して朗らかに笑うと、突然上半身を席から乗り出したシロちゃんに、胸ぐらを思い切り掴まれた。

「ああ。思い出したよ」

 鋭いシロちゃんの視線が、俺の目とぶつかり、俺は冷や汗が溢れ出てきた。

「い、いやシロちゃん? 昔の話昔の話。時効時効」

 俺が青ざめながら必死になだめると、シロちゃんは手を放し、鼻息も荒く再び座ってくれた。
 ・・・まるで、デジャヴのようだった。

「・・・そうそう。あの時も、こんな感じに怒られたよね」

「当然だ」

 とげとげしく、シロちゃんはそっぽを向きながら不機嫌そうに言った。

「いやあ。俺も当時はやんちゃだったけど、あんなに痛いパンチは初めて食らったかもしれないなあ」

 あっはっはー。と俺は笑う。
 昔の光景を思い出しているのか、八千代ちゃんもくすくすと笑ってくれた。

 でも、シロちゃんだけは笑っていなかった。
 まだ、機嫌を直してくれていないのかな?

「・・・あんな攻撃、受けやがって」

「ん? 何か言った?」

「いや。何も」

 シロちゃんがぼそっと何かを呟いたが、俺は聞きとることができなかった。
 しばらく外を眺めたまま無言だったシロちゃんだが、お腹を一回鳴らすと、再びよだれを垂らして八千代ちゃんを見た。

「八千代。パフェ食いたい」

「は~い! 杏子さん! 今すぐに!」

 シロちゃんが頼むと、八千代ちゃんは嬉しそうに裏へと向かっていった。

「・・・どうかした? シロちゃん」

「ん?」

 少し様子がおかしいかな? と思って、俺はシロちゃんに声をかける。
 シロちゃんは少しの間何かを考えていたようだが・・・

「腹へった」

 ・・・心配ご無用らしい。





「・・・杏子さんと一緒にいる人、誰?」

 裏から、榊と杏子の座っているテーブルを踏み台に乗って見つめていた種島が、小鳥遊へ問いかける。
 白藤店長が働かないのは、普段から当たり前のこととして、その店長と親しげに話し、ご飯を奢れるような存在に、種島に限らず、誰しも興味が湧かないはずがなかった。

「さあ・・・。高校時代からの知り合い、って言ってましたよ。友達なんじゃないですか?」

「山田も気になります!!」

「そうなのかな? 随分親しそうだけど・・・。もしかして、か、彼氏?」

 小鳥遊からは十分に距離を取り、種島と同じように二人を見ていた伊波が、少し照れくさそうに言う。山田も手をあげながらぴょんぴょん飛び跳ねる。落ち着きがないなあ、と小鳥遊は冷たい目で山田を見ていた。
 それを聞いて、小鳥遊は少し考えこむ。

「・・・確かに、シロちゃん、ってあだ名で呼んでたしなあ。でも、あり得ないよな・・・」

「? 何で? かたなし君」

「俺だったら、100万円払うから付き合ってくれと言われても、店長とは付き合いたくありません!!」

「うん。小鳥遊君の意見は聞いちゃだめよ。種島さん」

 やや冷たい目で小鳥遊を見ながら、伊波は種島の耳をそっと塞いであげた。

 すると、パフェを素早く作り上げ、これまた素早く店長に届けていた八千代が戻ってきた。

「あらあらみんな。どうしたの?」

「八千代さん。あの男の人、誰なんですか? 店長の知り合いとか・・・」

「ああ。あの人は、榊研一郎さん。杏子さんの高校時代からのお友達よ。私とも知り合いなの」

 八千代がそう説明すると、3人は同時に「へえ~」と息を漏らした。
 しかし、そこで小鳥遊が、皆同様に思っているであろう疑問を問いかける。

「・・・えっと、チーフ。あの人、店長にご飯を奢っていますよ?」

「? ええ。そうね。あの人、とってもお金持ちだから、いつも杏子さんをお腹いっぱいにさせてくれるのよ」

「・・・怒らないんですか?」

「? どうして?」

「だって・・・音尾さんには切りかかるのに・・・」

 小鳥遊が気まずそうに言うと、八千代は、「ああ」と納得したように声を出し、

「あの人は、そういうのじゃないって分かっているから。もちろん、たまに心配にはなるけれど。・・・それに、杏子さんの、一番のお友達だもの。流石に、あんなことはしないわ」

 笑顔で、八千代が話すのを聞いて、小鳥遊と伊波は思わず息を呑んだ。種島は、「仲良しさんなんだね!」と明るく答えただけだったが。

(・・・伊波さん、凄いですね、あの人)

(う、うん。八千代さんにも信頼されてる)

(凄い人です! よければ私の家族の一員に・・・)

(お前が行くとややこしいからダメだ)

 小鳥遊がふらふらと榊の下へ向かい始める山田を片手で引っ張り制止する。

 この店の人間ならば、誰もが知っているように、轟八千代は白藤杏子に必要以上に近づく人間は全て排除する、というルールの下に生きている。
 よって、たまに店に帰ってくる度に大量のお土産を買ってきて、それを店長に渡す音尾は毎回生命の危機に晒されている。
 にも関わらず、今店長と座っている榊という男は、八千代のルールの対象外なのだ。二人が驚くのも、無理は無かった。
 ・・・とはいえ、榊が来店した際に刀を抜きかけたことを、二人は知らないのだが。

「・・・しかし、高校時代からの付き合いって言ってましたけど。店長って、その頃は思いっきりヤンキーでしたよね。・・・あの人、大人しそうですけど、どんな接点が?」

「小鳥遊君。人は見た目じゃないんだよー?」

 小鳥遊が疑問を八千代に投げかけると、キッチンから相馬が顔を出した。
 突然の相馬の登場に、小鳥遊は驚き、思わず身を退いた。

「相馬さん・・・いきなり登場するのはやめてください。ていうか、料理は?」

「今は待つ段階だからさ。それより、あの榊って人、実は凄いんだよ?」

「凄いって・・・何が」

「高校時代は、地元じゃ無敵って呼ばれていたほど、喧嘩が強かったんだよ。何故か知らないけど、頭に猫を乗せていて・・・」

「猫!?」

「猫だけに反応しないで小鳥遊君。そんで、あの人に倒された不良は三日三晩猫の鳴き声にうなされるとか・・・。それでついたあだ名が、猫の榊。だよね、轟さん?」

 相馬がにっこりと笑顔を浮かべながら八千代に確認するが、八千代は首を傾げた。

「え? ・・・そうなの?」

「そうなの・・・って、知り合いなんじゃないですか?」

「そうだけど・・・。榊さん、とても穏やかな人で、喧嘩している姿なんて想像もつかないわ。・・・そういえば、たまに服に赤い染みが幾つも付いていたけど・・・」

「な、なんでそれで気づかないんですか!?」

「杏子さんも同じで、杏子さんに一度聞いたら・・・」


『八千代。これはな。ケチャップだ』


「って、教えてもらったから」

(どうでもいいところだけは気を遣うなー店長。本当、どうでもいいところだけ

 小鳥遊が呆れて溜息を吐いていると、種島が笑顔を浮かべながら八千代に話しかける。

「アメリカンドッグでも好きなのかな?」

「ふふふ。もしかしたら、ピザかもしれないわね。ぽぷらちゃん」

 種島と八千代が、完全に勘違いをしたまま話を膨らませ始めた。
 小鳥遊はそんな二人にも半ば呆れつつ、相馬へ疑問を投げかける。

「・・・そんなに強い人が、なんでまた店長と。普通、不良同士は仲悪いもんなんじゃ・・・」

「まあまあ小鳥遊君。あまり詮索はしない方がいいんじゃない?」

 はっはー。と相馬は朗らかに笑い飛ばす。
・・・知らない、と言っていないということは、もしかしたら知っているのだろうか。と小鳥遊は考えた。まあ、相馬ならば何を知っていても不思議ではない。

そんなことを話していると、

「おい相馬。働け馬鹿」

 佐藤が振りおろしたお玉が相馬の頭に直撃した。

「いったい佐藤君! やめてよねいきなり!」

「働かない方が数倍わりいだろ。まあ、この料理は店長に出す料理だから、正直俺も働きたくないがな」

 そう言いながらも、完成した料理を次々に並べていく佐藤。

「・・・ま。今回は、金がしっかりと払われるらしいからな。・・・人がいいおっさんだな。ずいぶんと。音尾のおっさん以上に」

「・・・それも、そうですね」

 トレーに並べられた料理を移しながら、小鳥遊は榊へ目をやった。
 声は聞こえないが、店長の言葉に、彼は苦笑いを浮かべながら答えている様子だった。

 ・・・苦笑いが似合う人だ。

「・・・八千代が知らないだけで、恋人なんじゃねえの? もしくは、よっぽどのマゾ体質か」

 佐藤も同じように二人を見ながら言う。その無表情の裏に、「それならば、俺は嬉しいけど」という真意があるかどうかは・・・本人にしか分からないだろう。

「・・・どうなんで、しょうね」

 さっきまで、その説を否定していた小鳥遊。
 だが、彼はだんだん興味が湧いてきた。榊研一郎という男に。

 どのようにして、彼は店長と出会ったのか。
 何故、店長の性格を知りながらも、彼は店長に好意的に接することができるのか。
 何故、チーフが怒らないのか。

 ・・・店長は、榊という男をどう思っているのか。

「・・・どした? 小鳥遊」

「! あ、すいません。じゃ、俺運んできますね」

 台車に店長が注文した大量の料理をセットし、小鳥遊は二人が座っている席へ向かった。
 その小鳥遊の姿を、佐藤はじーっと見つめていた。

「どうかした? 佐藤君」

「・・・いや。あいつも、なかなかに知りたがりだよな。って思ってさ」

「それも、そうだね」

 相馬とそう言葉を交わすと、佐藤はキッチンへと戻っていった。

「まだ注文来てないよ?」

「・・・どうせ来るだろ。飯炊かなきゃな」

 相馬は、「そうだね」と笑いながら、キッチンに戻り佐藤の手伝いを始めた。



「料理、お待たせいたしました」

「遅いぞ小鳥遊!! しっかり働け!」

「黙れ」

 店長に厳しい言葉をぶつけながらも、小鳥遊は料理を手際よく並べていく。
 並ばれるのと同時に、白藤店長はその料理を食し始めた。黙々と、しかし猛スピードで。この大量の料理も、あと何分もつことか。

 そんな二人の会話を聞いて、榊は笑っていた。その笑顔はとても素朴なもので、到底、かつては泣く子も黙る大不良だったとは思えなかった。

「・・・あの、榊・・・さんですよね?」

「ん? あれ、名前・・・。あ、八千代ちゃんから聞いたのか。何?」

「店長とは、どうして出会ったんですか? 正直、俺だったら逃げ出したくなるような姿だったと思うんですけど。当時は」

 小鳥遊の言葉は、一般人からしてみれば相当失礼なものだったが、榊は特に気にしなかった。
 言われてみれば・・・いや、言われなくても、そうだったからだ。当時の白藤杏子は。まあ、榊も見た目が変、という点では彼女に文句を言える立場では無いのだが。
 それに、文句を言うべきである白藤店長は、運ばれてきた料理を食べるのに必死だ。

「・・・そういえば、どうしてだったろうね。シロちゃん」

 うっすらと微笑を浮かべながら、榊は白藤店長へ問いかける。
 榊に声をかけられた彼女は、食すのを一旦やめ、当時を思い出し始めたようだ。
 が、

「・・・忘れた」

 そう呟くと、再び料理を食べる作業へと戻ってしまった。

「だ、そうだよ。小鳥遊君」

 変わらぬ微笑を浮かべながら、小鳥遊へそう告げた。
 小鳥遊は、白藤店長のあまりにも予想通りすぎる反応に顔をひきつらせることしかできなかった。

「・・・そう、ですよね。失礼しました」

 笑いながら、軽く頭を下げて、小鳥遊は台車を押して戻っていった。
 そんな小鳥遊を、榊は見つめた。二人が話をしても、聞こえないであろう場所まで離れるまで。
 ・・・別に、聞かれるとまずい話をするわけではない。
 ただ、少しだけ、恥ずかしい話をするかもしれない、と思ったからだ。



「・・・なんであいつはあんな質問をしたんだ?」

 俺がまだ小鳥遊君から目を離す前に、シロちゃんは首を傾げて俺に尋ねてきた。
 そんなシロちゃんを、俺はしばらく見つめた。しかし、彼女は照れたりなんか全くせずに、同じように俺の目を見つめ返すのであった。

「・・・俺は、覚えてるよ」

 そう俺が言うと、少しだけ、ほんの少しだけシロちゃんが目を見開いたのが分かった。

 そして俺は、ソファに身を委ねながら、懐かしむように話し始めた。


 俺と、シロちゃんの出会い。


 猫好きの馬鹿と、食べ物好きの馬鹿の。二人の出会いを。






「ミヨちゃん。今日もいっぱいご飯もらったね」

 俺が頭上に座っているミヨちゃんに声をかけると、ミヨちゃんは嬉しそうに返事を返してくれた。
 その声を聞いて、俺も思わず笑顔になった。本当に、ミヨちゃんは可愛い。


 俺は、友達の番長に喧嘩の助っ人を頼まれている。
 本当は、喧嘩なんかしたくない。でも、助っ人をすればミヨちゃんのご飯をくれる、って番長が言ってくれたから、俺は助っ人を引き受けたんだ。

 喧嘩は、案外楽だった。
 うちの番長が弱すぎるのか、相手が弱いのかは分からなかったけど、怪我を負うこともなく、俺は喧嘩に勝ち続けた。
 ミヨちゃんに危険が及ばないか。ただそれだけを考えながら、相手の攻撃を避け、その鳩尾と頬を軽く殴っていた。
 そうするだけで、喧嘩は終わっていて、俺は倒れている人をぼーっと見つめていた。ああ・・・血が出てるなあ、とか。痛くないのかなあ、とか思いながら。

 ・・・なんでこんなに弱いのに、この人達は喧嘩をしようとするのだろう。
 俺は、ただそれだけがいつも気になっていた。

 でも、喧嘩が終わった後、番長にミヨちゃんのご飯を買ってもらっている時、そんな疑問は嬉しさで吹き飛んでいた。
 今日も、喧嘩が終わってからホームセンターに番長と二人で行って、たくさんのご飯を買ってもらった。

「早くお家帰って、二人でご飯食べよう」

 スキップでもしたいような気分で歩いていると、突然男の怒号が耳に入ってきた。

 何だろう。と思って、辺りを見回す。
 声が公園から聞こえてきたんだ、ということに気づいて、俺は公園の入り口に行ってみた。

 そこには、見覚えのある光景が広がっていた。

 なんで、見覚えがあるんだろう。って俺は考えた。

 そして、すぐに思い出した。

 ああ。そうか。

 俺が、数十分前までやっていたことだからだ。




「おい。白藤って、お前だよな」

 公園のど真ん中。
 やたら丈の長い制服のスカートを履き、『暴飲暴食』の四字熟語が書かれたマスクを付けている女子高生・・・いわゆる、スケバンというやつだ。そんな彼女に、やたらガタイのいい男が威圧的に声をかけた。
 彼女は、完全に囲まれていた。恐らく、男の舎弟達なのだろう。それぞれが手に鉄パイプやバット、竹刀、木刀などの武器を持っていて、下卑た笑みを浮かべていた。

「・・・そうだが」

 彼女は答えた。その目に力は無く、声にも力はまるでこもっていなかった。

「俺らと同じ制服を着たやつで、橘って人間を知っているだろう? あいつは俺の可愛い舎弟でなあ。お前に殴られた所がいてえ、いてえって泣きついてくるんだよ」

 男・・・恐らく、制服の高校の番長かなにかなんだろう。は、大げさな動きで悲しみを表現するかのように、手で顔を覆った。それと同時に、周りの舎弟から下卑た笑い声が響いてくる。
 スケバンは、その声が酷く耳触りだ、と、ぼーっとしながら感じていた。

「舎弟思いの俺としては、放っておけなくてなあ。でも、お前はずいぶん強いらしいじゃねえか。勝負ってのは、正々堂々やらなきゃなあ。だから、お前と同じ強さになるために、これだけの数を用意させてもらった。俺も、お前に一人で勝つ自信は無いからなあ」

 自分が女よりも弱いということを、何の悪びれもなく宣言しながら番長は手を広げた。
 ・・・まあ、当然といえば当然なのかもしれない。
 この男にとって、「卑怯」が普通なのだ。「正々堂々」が普通じゃないのだ。結局、その程度の下衆な輩ということだ。

 彼女は、微動だにしなかった。震えてもいなかった。
 ただただ、侮蔑の目を男に向けるだけ。

「・・・橘ってやつは、よく覚えてる」

 彼女が口を開くと、男はその言葉に耳を傾けた。

「忘れようがないさ。なにせ、うちの女子生徒から金を巻き上げようとしたゴミ野郎だ。男からじゃなく、女から金を取ろうとしただけでゴミなのに、喧嘩まで女以下ときたもんだ。最後まで言い訳していて、醜くて・・・今思えば、ゴミ以下だな。うん」

 彼女の言葉を聞いて、舎弟達は震え上がった。
 自分達の慕っている番長の顔が、みるみる内に怒りで満ち溢れていくのを感じたからだ。

「きっと、あんなゴミ屑を舎弟にしている番長は、ゴミよりももっと汚くて、不細工で、間抜けで、弱っちい野郎なんだろうな。って思っていたところだ」

 彼女は、男を見上げた。
 そして、うん、と一回頷いた。

「流石私だ。これっぽっちも間違えてない。ずいぶんとでかい、○○○○野郎だ」

 女が言い切るか否か、という所に、番長の巨大な拳が彼女の前へと迫っていた。
 あんなでかくて、堅い拳が女性の顔にめり込んでしまったら、どうなってしまうのだろうか。

 その答えを求める必要は無い。

 女が一瞬で取り出した釘バットが、その拳を受け止めていたからだ。

「いっでえ!!」

 釘が拳に突き刺さり、そのあまりの激痛に番長は拳を戻した。

 次の瞬間、彼の意識は途絶えた。

 彼の鳩尾に、彼女の細い足が深々と突き刺さっていたからだ。

「・・・釘の一本も折れないパンチで、私が倒せるか」

 彼女が足を番長から放すと、そのでかい図体はゆっくりと舗装された地面に倒れ伏せた。

 静寂が、公園を包む。

 彼女から発せられる、極寒の冷気が、舎弟達を包み込んだ。

「・・・別にかかってきてもいいんだぞ」

 マスクに隠れていてその表情を読みとることはできない。
 だが、きっと彼女は、・・・笑っていた。

「う・・・うわああああああああああああああ!!!」

 よほどの、「勇気」を持っていたのだろう。
 一人の舎弟が、木刀を高く振りかざしながら彼女に襲いかかった。

 人の頭くらい簡単に砕けるであろうその木の塊は、彼女の頭に辿り着くまでも無く、空中で真っ二つに砕けちった。
 彼女の釘バットが、確実にその木刀のど真ん中、横っ腹を粉砕したからだ。
 木刀の破片が飛んで、彼女の頬に小さな傷を作った。

 半分に割れた木刀の先端部分が、他の舎弟の足元に勢いよく叩きつけられ、その小気味いい快音が公園中に響き渡る。

 そうして、この喧嘩は終了した。

「に・・・逃げろ!! 逃げろお!!」

 彼女の強さに気圧された舎弟達は、恥も外聞も無く逃げ出した。
 舎弟の何人かが番長をひきずり、公園から出ていく。

 そんな間抜けな軍団を見送りながら、彼女はマスクの中で息をゆっくりと吐いた。

「・・・で、お前は誰だ」

 そして、彼女の目の前で拳をかざしながら呆然と立ち尽くしている男に、彼女はそう問いかけたのであった。




 ・・・強い。

 喧嘩の一部始終を見ていた俺は、彼女の戦いぶりを見て、ただただ、そう感じていた。

 最初に倒した番長と話している時、俺には、彼女が負ける姿が一つも想像できなかった。
 だから、俺は何もしなかった。すると、彼女は予想通り、難なく男をねじ伏せた。

 しかし、直後、木刀を掲げて男が彼女に襲いかかった時、俺は本能で駆け出した。
 この拳にヒビが入ろうと、その木刀を打ち砕く気で、拳を掲げた。

 だが、俺が砕く前に、彼女は自らの力で木刀を砕いてしまった。

 だから、俺はこうして、拳を掲げたまま立ち尽くしている、というわけだ。

「・・・で、お前は誰だ」

 彼女の言葉が耳に届いて、俺は慌てて拳を下ろした。
 そして、何を言おうか考えた。
 友達の番長には、「人柄がばれるから喋るな」と言われている。

 でもそれは、あくまで喧嘩をする時に限る。

 俺と、この子が喧嘩することはあり得るだろうか。

 いや。

 たとえ、しなければならないとしても、『したくなかった』。

 言わせてもらうと、勝てない、と思ったからではない。女の子だから、やりたくない、と思ったわけでもない。

 ただ単純に、『したくなかった』んだ。

「・・・榊、研一郎」

 だから俺は、自分の名前を彼女に教えた。

 そうしたら、

「!!」

 彼女の拳が飛んできて、俺はそれを目の前で受け止めた。

 恐らく、10㎝も距離は無い。

 今まで、何十発と色々な人のパンチを見てきた。

 彼女の「それ」は、その誰よりも早く、重かった。

「・・・榊研一郎。通称『猫の榊』。この辺で、名前を知らない奴はまずいない。泣く子も黙る、大不良」

 彼女が、俺のことを話している。
 でも、どこか俺は上の空だった。

 俺の手に収まっている、彼女の手の柔らかさに驚いていたからだ。

「名前は知っていた。でも、見たことは無かった。・・・会いたいと思っていた。私より、強いのか、と」

 いやらしい意味じゃないけど、俺は彼女の手を握ってみた。
 指先で感じる、彼女の指は、俺よりもずっと細かった。

「そして、会ったらこうしてやろうと思っていた。誰にも避けられたことのない、受け止められたことのないこのパンチを、喰らわせてやろうと」

 柔らかく、細い。
 でも、彼女の手は、ひんやりと冷たかった。

「・・・お前は、受け止めた。逃げもせず、正面から」

 だから、俺は、当たり前のことをその時実感したんだ。

「・・・私は、お前には勝てないな」

 目の前にいるこの人は、『女の子』なんだって。


「・・・ど、どうも」

 彼女の手を、俺は慌てて離した。いや、それほど強く握りしめていたわけではないのだが、急に恥ずかしくなったからだ。
 ゆっくりと拳を下ろして、彼女は俺を見つめた。少し、首を上に傾けて。
 彼女は、女子高生としては背が大きかったけど、それでも俺の方が背は大きかった。

 そのまま、何十秒と見つめられて、俺は非常に困ってしまった。

(・・・な、なんなんだろう。怒ってるのかな。に、逃げた方がいいのかな)

 どうすればいいんだ、と泣きたくなった時、俺はあることに気がついた。

「・・・顔」

「あ?」

「血が出てる! あ、さっきの木刀か!!」

「・・・ああ。これか。大したことな」

「見せて!」

 俺は、彼女の顔に手を差し伸べて、マスクのすぐ上にできた傷口を診はじめた。
 この子は何か言いたそうに身をよじらせたけど、俺は木刀の欠片が残っていないかどうかを見るのに夢中だった。
 木刀の欠片を見つけて、俺は、指の爪を合わせてそれを慎重に取りだした。
 少しだけ痛いのか、彼女は目を強く閉じた。
 傷にめり込むように刺さっていたせいで、欠片を抜くと血が流れ出た。

「ああ! 大変だ!!」

「何がだ。いい加減離せ」

 彼女は俺を片手で勢いよく突き飛ばした。
 俺は危なく転びそうになったけど、なんとか耐えた。流石に、女の子の前で尻もちをつくのは恥ずかしい。
 俺がそうしている間にも、彼女の頬の傷には血が溢れている。

「でも・・・あ、そうだ! こ、これ!」

 俺はホームセンターで、猫缶と一緒に買った自分用の絆創膏を取り出し、彼女に差し出した。

「・・・いらん。こんなもん、自然に治る」

「でも、駄目だよ!!」

「何がだ」

「女の子なんだから!!」

 俺が思わず叫ぶと、彼女が僅かに目を見開いたのが分かった。
 すると彼女は黙ってしまって、しばらくしてから、俺の絆創膏を乱暴に奪った。

「・・・猫の榊。噂ってのは、当てにならないな」

「・・・そうかもね。そういえば、君は・・・」

 俺は、入り口で聞いていたこの子と男の会話を思い出した。

「・・・白藤? って、あいつ言ってたけど」

「ああ。白藤だ」

 彼女は、絆創膏を一枚取り出して頬に貼ろうとした。
 だが、付けているマスクが邪魔だということに気がついて、彼女はマスクを外した。

「白藤杏子。好きなように呼んでくれ。榊」

 マスクを外すと現れたその整った顔に、彼女はうっすらと笑みを浮かべて、そう言った。


 ああ。


 今思えば、あの時に・・・・・・・







「・・・そんなだったか」

「・・・そうだよ」

 時は現代。
 シロちゃんが店長を務めるお店の中で、俺は苦笑いを浮かべていた。

 シロちゃんの目の前にあれだけあった食事は、今はただの食器へと変貌してしまっている。少しだけ汚れた、ね。

「お前、少し美談にしているだろ」

「そんな器用な男じゃないよ。俺は。あの時のシロちゃんは強かったよね~」

 俺がにっこりと笑って言うと、けっ、とシロちゃんは悪態をついてみせた。酷く可愛らしい悪態だと思った。

「お前にだけは言われたくない。ま、私は今も強くて、お前は弱いけどな」

「・・・強くなくていいんだよ。俺は。今が、あの時よりずっと楽しいからね」

 俺は、自分の手のひらをじっと見つめた。
 この手を握りしめて、突き出して、俺は何人の人間を倒したんだろう。
 考えるのが面倒臭くなって、俺は軽く手を握った。

「殴るより、殴られたほうが『痛くない』んだ」

「・・・何がだ?」

「・・・色々」

 自分でもよく分かんないや。と笑いながら言うと、シロちゃんはうっすらと微笑んだ。

 ああ。

 シロちゃんは、変わらない。あの日、出会った時から。

 その笑みを見て、俺は改めてそう思った。

「あー。お前の話聞いてたら、腹へってきた。またなんか頼んでいい?」

 メニューを取り出して、シロちゃんは俺にねだってきた。
 シロちゃんの顔は、メニューに隠れてしまっていて見ることができない。
 いったい、どんな表情をしているのか。
 ・・・少なくとも、俺にはさっぱり分からない。

 感動的な二人の出会いを語った直後なのに、なんだかなあ。と俺は苦笑した。

「いいよ。好きなだけお食べ」

 わーい。と信じられないほどの棒読みで言うと、シロちゃんはメニューに没頭し始めた。



 ・・・きっと、シロちゃんは知らないんだろうな。

 俺が、あの日、君と別れてから・・・もう一度会いたくなって、毎日のようにあの公園に通っていたことを。

 喧嘩があると聞けば、君に会えるかもしれないってすぐに駆けつけていたことを。

 また会えた時、まだ小さかった八千代ちゃんと一緒にいるのを見て、子どもがいたんだとショックを受けたことを。

 誤解が解けた時、改めてまた会えてすっごく嬉しかったことを。

 八千代ちゃんに、君のことが好きなのか、と聞かれて、酷く動揺していたことを。

 きっと、君は知らないんだろうな。


「・・・なんだ。にやにやして気持ち悪い」

「おっさんだから、気持ち悪いのは仕方ないの」


 ああ。

 今思えば、あの時に・・・


 俺は・・・・・・・・・・・・






 気持ち悪い、と言われながらも・・・目の前の男、榊研一郎はへらへらと笑いつづけていた。
 そんな男を数秒間見つめてから、私はメニューへと視線を落とす。

 正直、メニューの内容が頭に入ってこない。

 榊と私の昔話を聞いて、恥ずかしさで胸がいっぱいだったからだ。
 今も、顔が赤くなってないかどうかを気にしている。
 メニューで顔を隠しているのを、不自然だと思われていないだろうか?

 ・・・もちろん、忘れてなどなかった。
 私と、榊の出会いを。
 ただ、自分から説明する勇気は無くて、榊が覚えてる、と言った時、私は顔から火が出そうな心境だった。



 榊。

 きっと、お前は知らないんだろうな。

 私があの時、お前に初めてパンチを受け止められて酷く落ち込んでいたことを。

 でも、そんなことはすぐにどうでもよくなってしまうほど、お前が怪我を心配してくれて嬉しく思っていたことを。

 お前に貰った絆創膏・・・少しだけ血が滲んだ絆創膏を、お前と別れてからしばらくの間、大事に持っていたことを。

 お前にまた会えて、八千代を子どもと勘違いされて、怒りながらも、パンチを受け止められた時以上に落ち込んでいたことを。

 それと同時に、また会えてものすごく嬉しかったことを。パンチを受け止めないくらい、私を信用していたとわかって嬉しかったことを。

 お前が初めてシロちゃんって呼んでくれて、マスクが無きゃすぐバレていたくらい顔を真っ赤にして喜んでいたことを。

 きっと、お前は知らないんだろうな。


「・・・お前がおっさんなら、私は何だ」

「・・・命が惜しいから、言わない」


  ああ。

 今思えば、あの時に・・・・


 私は・・・・・・・・・・・・







「佐藤さん。注文入ります。サーロインステーキ300、キングサーモンのボイル焼き、ピラフ全種、丼系全種、あとコーンポタージュ。以上です」

「おーう。あいつ一人なのに、混んでる時と変わらんってのはどういうこった」

「奢る人がいるって凄いね」

 佐藤と相馬はそう軽口を叩きながらも、調理をするためにキッチンへと引っこんでいった。
 小鳥遊も、さっき店長にもう一度怒りをぶつけてきたところなので、疲れから出る溜息を吐いた。

「あ、あまり怒らないで小鳥遊君。きっと、杏子さんも嬉しいんだよ」

「・・・まあ、分かっているつもりなんですけどね。奢らせるばかりですもんあの人・・・」

 なだめる伊波に、小鳥遊は疲れ切った声でそう愚痴をこぼした。
 小鳥遊の言葉を聞いて、伊波は苦笑を浮かべることしかできなかった。

「・・・本当に、恋人同士じゃないんだよね」

 八千代が近くにいないことを十分に確認しながら、伊波は小鳥遊に尋ねた。

 しばらく、小鳥遊は考えた。
 さっきまで、あの二人を見てきた。

 お互いを見合う二人を見てきた。

「・・・ええ。たぶん、『恋人じゃない』ですよ」

 少し言葉を強調しながら、小鳥遊は伊波へ告げた。
 伊波がその意図に気づくことはなかった。

「そ、そうだよね」

 伊波が苦笑を浮かべると、店長と榊の席のコールボタンが押された。

「追加かな? 私が行くね?」

「大丈夫ですか?」

「う、うん。少し離れて、杏子さんから聞けば・・・」

 そう言って、伊波は二人の席へ注文を取りに行った。

「・・・恋人、ではないだろうなあ」

 残った小鳥遊は、裏のカウンターに背中を預けながら、呟いた。
 そして、微笑みを浮かべて、もう一言。


「・・・『お互いが、そう思っている』のは、間違いなさそうかな」


 料理あがったぞー。という佐藤の声が聞こえて、小鳥遊は裏へと向かった。




 結局、この後白藤店長は自らの欲望のまま料理を食い続け。

 榊は、苦笑を浮かべっぱなしでその様子を見続けていた。

 猫好きの馬鹿と、食べ物好きの馬鹿。

 その二人の中には、

 馬鹿馬鹿しいほどの、『安心』が溢れていた。

 あの日と同じ、『安心』が。














 あとがき

 澪さん、いかがだったでしょうか!

 二人の過去に重点をおいて書いてみました。もちろん、過去の話は全て俺の妄想ですので、誤解なさらぬよう。その内本家で色んな設定が出てきても、俺に一切責任はありません!!!!(何

 以前にも似たようなことを書いた気がしますが、この二人は、昔からお互い大好きだけどどっちも踏み込む勇気がなくて今も仲良しのまま、というのが俺のジャスティス。
 あと、個人的には、榊は今はずいぶん大人しくなったけど当時は杏子さんよりも強いってのも俺のジャスティス。最強は伊達じゃないと思うんだ。
 更に更に言うならば、今は宮越にボコボコにされてるけど本気になったら一瞬で反撃できるくらい今も強いってのも俺のジャスティス(うるさいわ
 
 八千代が榊のことを現在どう思っているのか分からなかったので、基本は幼少時のまま、をイメージして書いてみました。少し無理がある気がしますね。あとあまり八千代を話に絡ませられなかった・・・。
 あとミヨちゃんって今も榊飼っているのだろうか。実家にいるという可能性もあるのか? そもそもどこに住んでいるんだ榊は。結構謎が多いぞ榊研一郎。
 なんか、小鳥遊がやたら人生悟りきっている感じで、少し気持ち悪いですね(待て待て

 というわけで、リクエスト小説消化です! 澪さん、少しでも楽しんでいただけたでしょうか?
 澪さんのために書いた小説なので、基本どのように扱ってもらってもかまいません。
 これからも、銀の働き部屋をよろしくお願いします!

 それでは!




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コメント

こんにちはー!
わああもう更新されている!早いですよ銀河さん!
ドキドキしながら読ませて頂きました^^


…ま さ に 理 想 の 2 人 で し た !!


お互い昔から好きだったけど踏み込めなくて…というのは私も理想です!
実は今も強い榊さんっていうのも理想です…!

過去話とっても良かったですvV
怪我を心配されて喜んでたり、出会った頃の話をされて照れてる杏子さん可愛い…!
榊さんは穏やかで喧嘩なんてしなさそうですよね、見た目は。
でも実は強いというのはかっこいいと思います^^
ミヨちゃん、まだ飼ってるんでしょうかねぇ…。
個人的にはまだ飼ってて欲しいです…ミヨちゃん可愛がってる榊さんって何か和むので。
まぁミヨちゃんに限らず、猫を可愛がってる榊さんが好きなんです…。
八千代さんは幼少時と変わらず、で良いと思いますvV
違和感なかったですよ…!

犬組メンバーが2人の関係を考える所もとても良かったです^^
猫に反応する小鳥遊(笑)
あんなに食べる杏子さんに奢る榊さんってすごい人ですよね。
小鳥遊が思ったように、私も榊さんは苦笑いが似合う人だと思います(笑)

“ケチャップ”に笑いました!
八千代さんとぽぷらちゃん、何で信じちゃうの…!
2人とも素直で可愛いvV
ほんと、どうでもいい所だけ気を遣うんですね杏子さん(笑)

この2人はお互い想い合ってるっていうのが良いですよねvV
これから先、本家様でこの2人のエピソードがもっと出ると良いなぁと思います^^

この小説を読んで、杏子さんが榊さんに会いに行く話を思いついたので…近々更新したいと思います^^
私も今後榊さんと杏子さんのお話をどんどん書いていきたいですvV
榊×杏子を好きな方が増えますように…!!

では、この小説はサイトにお持ち帰りして、大事に飾らせて頂きます^^
(頂いた小説を飾る際、短編用ページを使っているのですが…短編用1ページに収めると長くなってしまうので、分割して飾らせて頂きます)
本当にありがとうございました!
またコメントしに来ますね!^^
2010-07-17 Sat 14:20 | URL | 澪 [ 編集 ]
小説読ませて頂きました。

結果、 杏 子 さ ん 萌 え に 目 覚 め た ッ !
昔話の後の杏子さんの書かれ方が凄いイイ。
普段は無気力で、怒らせると怖い。でも実は純粋で一途に一人の男性を想う・・・
これがギャップ萌えってヤツですか!?

何だか読んでいて胸の辺りがキューってなりました。
次のリクエスト小説も執筆されているとか。
更新楽しみにしています。
これから夏本番、お体にご自愛くださいませ。
では。
2010-07-30 Fri 18:06 | URL | 黄とかげ [ 編集 ]

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