銀の働き部屋

管理人銀河の、日記兼テキストサイトです。取り扱うジャンルは主にヤングガンガン連載のWORKING!!になると思います。最近は東方の霖之助小説を書くのにも夢中。どうかよろしくお願いします。リンクはフリーです。感想は常に受付中です!もらえたら泣いて喜びます

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あなたと私の共同作業 東方小説 霖之助×幽香






 さて。小説更新といきましょうか。

 タイトルは、「あなたと私の共同作業」です。カップリングは霖之助×幽香です。
 話の内容が、以前書いた、「赤い果実と青い鳥」とリンクしている部分があります。もしよろしければそちらもどうぞ。
 幽香は乙女。それが書いていて一番楽しい。
 ・・・本当に、原作の流れとかをどれほど無視しているのか、というのが心配でしょうがない。こういうところで気が弱いです俺。

 まあ、東方は二次創作に寛容な作品であると聞きますので、色々と妄想を作品にできればいいなあ。と思っております!

 冒頭でも書いていますが、これを更新したらリクエスト小説を完成に向けて頑張ろうと思っています! ほなみんさん、もう少しお待ちを!!

 それでは、続きからでどうぞ。あ。甘さは・・・殆ど無いですね。少なくともいちゃいちゃ感は零。

 小説のあとがきの更に下にコメント返信があります!!!














 彼女が魔法の森の入り口にあるその店を訪れたのは、夏が始まる少し前、という頃だった。

 店の前に降り立ち、扉に歩み寄り、その年季の入った扉を開く。
 カランカラン、と来客を知らせるベルが鳴り響いた。

 すると、この店の主は読んでいた本から顔をこちらへと向けるのだった。
 店の中は、彼女が以前訪れた時と殆ど変わらず、乱雑としていて、正直あまり落ち着けるという場所では無い。
 店の主・・・森近霖之助は、彼女を視認すると、あまり表情豊かとはいえないその顔にうっすらと笑みを浮かべながら、こう言うのだった。

「いらっしゃい。今日はどのような御用件かな? ・・・幽香」

 そう挨拶をされると、彼女・・・風見幽香は、にこっ、と余裕のある笑みを浮かべた。




 幽香が香霖堂を訪れるのは、霖之助の対応からも分かる通り初めてでは無い。最初に訪れたのは・・・霖之助も幽香も、はっきりとは覚えていないほど昔のことだ。
 それでも、この香霖堂という店を構えてからの話だから・・・およそ、10数年前だろうか。

 10数年前、幽香は香霖堂に初めて訪れるなり、店の中を観察し始めた。すぐに来客に気づいた霖之助の挨拶も無視して、だ。
 そして、辺りの品物を手に持って観察したり、指でつついたり。一通り見終わってから、

「・・・あまり大した道具屋では無さそうだけど、大丈夫なのかしら?」

「人の挨拶も無視し、店をじろじろと観察し始め、やっと口を開いて出る言葉がそれとは。失礼な人だな、君は。・・・御用件をどうぞ。出来る限りの要望には、お答えできる、と断言させていただこう」


 もちろん、この時、霖之助と幽香は顔見知り等では無い。顔も知らないどころか、お互いの名前も知らないのだ。
 そんな初対面同士の会話にも関わらず、霖之助の口調は砕けたものだった。まあ、それは彼の性格上仕方が無いことだ。彼は、無礼な人間にへりくだって用件を尋ねられるほど、「できた」人間では無いのだから。
 挑発的に言われた彼の顔には笑顔が浮かんでいたが、内心かなり腹を立てているであろうことは幽香にはすぐ分かった。
 しかし、このような返事を返した段階で、幽香はこの店の主人に淡い期待を抱くようになっていた。

 霖之助が幽香から話を聞くと、彼女の用件は、日傘が欲しい、とのことだった。
 もともとは人里に下り、人里で最も大きな道具屋・・・つまりは、霧雨家の経営する道具屋で壊れてしまった日傘に代わる物を探した、とのことなのだが、お眼鏡に叶う品が見つからなかったとのことだ。
 そして店主に相談した所、この香霖堂に行くよう勧められたらしい。

「・・・ふむ。まあ、用件は理解できた。うちには、日傘は当然置いてある。しかし、霧雨道具店に置いてある傘で気に入らない、となると・・・今店に置いてある物に君の満足する品は無いかもしれないな」

「あら、大口を叩いておきながら、そんなことを言っていいのかしら? 香霖堂さん」

「僕の名前は、森近霖之助というんだ。もちろん、『うちには置いて無いから帰ってくれ』などと敗北宣言をするつもりはないさ。あなたの欲しい傘がどのようなものか、しっかりと聞かせてくれ」

 余裕があるようでありながらも、幽香の叩きつけた挑戦を受ける気が満々、と、誰もが理解できるであろう口調で彼は言った。
 そんな霖之助を見て、幽香は笑った。嘲笑ったわけではない。純粋に、楽しいと思ったから出た笑みだ。

「幽香」

「・・・ん?」

「私の名前は、風見幽香。・・・あなたが名乗ったのだから、私が名乗るのは当然でしょう?」

 微笑みながら幽香が言うと、霖之助は一瞬唖然とした表情を浮かべたが、すぐに彼も微笑みを浮かべ、

「・・・すまない。君に礼儀が無い、と言ったことは謝ろう」

 そう、返すのだった。



 結果から言うと、霖之助は幽香も認めずにはいられないほどの、見事な日傘を「作り上げた」。
 そう。彼はこの店に置いてあった傘を売ったのではなく、彼女が求める傘を一から作り上げたのだった。

 幽香の、傘に対する要望はかなり尊大な物だった。

 まず、頑丈であること。少々荒く利用しても壊れるようでは話にならないとのことだ。・・・日傘を荒く利用する方法が霖之助は思いつかなかったが、彼もすぐ壊れるような商品を彼女に渡すつもりは無い。

 そして、とにかく美しい物を。とのことだった。
 幽香曰く、彼女が持つ傘は、「幻想郷で唯一枯れない花」でなければいけないらしい・
 その意味は少々理解し兼ねたが、それほど、彼女にとってこの日傘が大切なものであるということだ。と、霖之助は単純に理解することにした。

 その要望を聞いた時に霖之助が出した結論は、あらかじめこの店に置いてある傘では彼女の要望には答えられない、ということだった。
 ・・・まあ、霧雨道具店に無かった品物がこの店にあるとは霖之助も正直思ってはいなかった。霧雨道具店には、彼の能力を生かすことができる道具こそ無いが、生かす必要の無い日常的な道具に関する仕入れはほぼ完璧である、と、弟子の彼は思っていた。

 だからこそ、霖之助は幽香にこう言い放ったのだった。

「この店に、君の願う日傘は置いていない。だから、僕が作りましょう。あなたの願う、『幻想郷で唯一枯れない花』を」

 その言葉を聞いた時の、幽香の呆気にとられた表情を、霖之助は今でもはっきりと覚えている。

 それから数日後。幽香が店を訪れると、店主は不遜に笑って、出来上がった傘を彼女に手渡したのだった。

 完成した傘を握った瞬間、その傘はまるで「幽香の手に収まるのが当然」であるかのように、彼女の手にしっくりと馴染んだ。
 開いた時の手ごたえは、しっかりとしつつも柔らかい。傘の骨を指で叩いてみれば、その心地よい堅さと感触は、以前使っていた傘と比べ物にならない程に丈夫な素材でできたものであるとすぐに理解できた。
 傘の模様は、殆ど真っ白な生地。しかし、淡く・・・本当に淡くピンク色に染まっていて、それはまるで百合のようであり、まるで桜のようでもあった。しかし、確実にそのどちらでも無いのだ。
 その色合いは幽香でも思わず溜息を漏らさずにはいられないほど、美しかった。

「いかがでしょうか」

 自信満々、といった顔で霖之助は尋ねた。
 そう。彼には自信があった。この傘を幽香は絶対に気に入る。そんな自信が。
 きっとそれは、この傘を作ることに彼自身が多大な労力を費やし、思考に次ぐ思考の果てに作り出したものであるからだろう。
 ・・・少し意地悪で、「駄目。気に入らない」と言うことは簡単だった。が、そんなくだらない嘘をつくほど、幽香はくだらない人物ではない。まあ、人では無いのだが。

「・・・見事よ。ありがとう、店主さん」

 彼の完璧な仕事に、とりあえずは笑顔で報酬を渡すと、彼は満足そうに頷いた。




 と、まあ。そんな二人の馴れ染めであった。
 それからも、幽香は傘の修繕を頼む時は必ず香霖堂を訪れ、それ以外の日用雑貨を求めるために来店することもあり、そこまで頻度が多いわけではないが、香霖堂の数少ないお得意様となっていた。

 そんなお得意様である幽香が来店して、霖之助も商売人の顔にならないわけにはいかない。

「大した依頼があるわけじゃないわ。適当に商品を見に来ただけよ」

「そうか。好きなだけ見ていくといい。お茶を淹れようか」

「紅茶がいいわ」

「わかった」

 とても手慣れた、親しみのある会話。
 それは、霖之助と幽香との間にある程度の信頼関係がある証拠であった。
 霖之助は商品を適当に見て回っている幽香を店に残し、お勝手に紅茶を淹れに向かった。



「おかえり」

「ただいま。・・・って、もう商品は見なくていいのかい?」

 数分後霖之助が帰ってくると、カウンターの手前の来客用の椅子に幽香は座り、彼を待っていた。
 霖之助が持つおぼんの上には、霖之助が淹れた紅茶が2杯置かれている。一つは当然幽香の分、もう一つは霖之助自身の分だ。それと、洋菓子。最近は紅茶に合う洋菓子もこの幻想郷で容易に手に入れることができるようになった。

「まあ、そこまで前に来た時と商品が替わっているわけではないもの。それでも、品定めはしたわ。はい、これ」

 そう言うと、幽香は色とりどりの花が入った籠をカウンターに置いた。
 その籠は小さく、幽香の手のひらに難なく置けるほどだ。それに合わせるかのように、籠の中の花も本来の姿よりずいぶんと小さい。
 それもそのはず。これは、本物の花では無いのだから。

「・・・それはきっと君が気に入るだろうと思って仕入れた物だからね。気にいっていただけたようで何よりだ」

 満足そうな表情で言うと、幽香はくすっと笑った。
 幻想郷有数の大妖怪。そんな彼女は、常に笑みを携えている。その笑みは、強者としての余裕であると多くの人や妖怪は語る。そしてその笑顔の裏には闇がある、と。
 しかし、だ。
 目の前の彼女の笑みに、そのような裏があるとは思えない。
 霖之助は、半ば確信しながらそう思うのであった。

「・・・何よ、にやにやして」

「なに。少し愉快な話を思い出していただけさ」

「ふうん。で、これは何なの? とても良い香りがするけれど・・・花ではもちろん無いし、鉱物を削ったようにも見えないわ」

 丸みを帯びた美しい色合いの花を指でなぞりながら、幽香が尋ねる。
 どこか誇らしげに、霖之助は説明を始めた。

「その商品の名は、『石鹸』だよ。幽香」

「石鹸?」

「そう。それは石鹸を花の形に加工したものなんだ。かなり精巧な作りで、僕も見つけた時は驚いたよ」

「見つけた、って・・・拾い物?」

「この店の商品は殆どそうさ。今更そこを気にしないでくれ」

 じとーっと霖之助を見る幽香に、霖之助はなだめるように返した。
 まあいいわ。と言ってから、彼女は財布を取り出した。

「これ、幾らかしら?」

 ああ。もう、ここに霊夢と魔理沙を連れてきて、正しい商品の売買の在り方という物を叩きこんでやりたい。
 幽香が買い物に来るのは珍しいことではないが、ここまで素直に代金を払ってくれる存在は貴重・・・いや、希少と呼ぶべきかもしれない。それほどにこの店において「商売」が成り立つことは少ないのだ。

「君は本当に良い客だよ」

「? なによ突然」

 首を傾げながら尋ねる彼女に、「なんでもないさ」と返すと、霖之助はカウンターに両肘を置き、顔の前で手を組んで話し始めた。

「今回は、お金はいらないよ」

 はっきりと言い放つと、幽香はまた首を傾げた。

「いらない? 何? これってそんな不良品?」

「とんでもない。立派な商品さ。ただ、お金以外で払ってもらおうと思ってね」

 霖之助が言った瞬間、幽香は顔を真っ赤に染め上げ、自らの胸元を隠すように腕を組み、その場から数歩後ずさった。

「いやいやいやいやいや!! 何を考えているかは何となく分かるけど、違う!」

 霖之助が冷や汗を垂らしながら否定すると、幽香はとりあえず腕を下ろした。顔はまだ赤い。勘違いしたことを恥じているのだろう。
 まったく、と、霖之助は頭を掻いた。だいたい、そんなことを強要しようものならば、一瞬で霖之助の体はこの幻想郷から消えて無くなってしまうだろう。

「ごほん。頼みたいことというのは・・・野菜についてのことなんだ」

「野菜?」

 まだ顔から完全に赤味は抜けきっていないが、幽香はどちらにせよ予想外だった答えにまたまた首を傾げた。
 そうだ。と答えてから、霖之助は立ち上がる。

「ちょっと来てくれないか。見てもらいたい物がある」

 霖之助が顎で奥へ来るよう指示するのを見て、幽香は少し疑心を抱きながらも彼についていった。
 当然、幽香は一度も入ったことはない霖之助の家の中を拝見することになった。
 もちろん、歩きながら辺りに視線を配ると部屋の中がちらっと見えるだけで、まじまじと観察しているわけではない。だが、視界に入る部屋全て綺麗に整頓されているように見えた。

「この先だ」

 しばらく歩くと、香霖堂の裏口へと二人は辿り着く。
 その扉を開くと、太陽の光が少し薄暗い家の中へと入りこみ、幽香は眩しさに目を細めた。とはいえ大した光でもなく、すぐに慣れた目を開くと、丁寧に耕された畑が目に映った。
 そこにあるのは盛り上がった畝だけで、その上に作物の姿は見て取れない。広さは香霖堂の店内と同じか、それより少し大きいか、といったところだろうか。農業で食べている人間から見ればとても小さく見えるだろう、と幽香は辺りを見回して思った。

「ここは、僕が趣味でやっている菜園でね。今は何もないが、春にはカブやキャベツを植えていたよ。君には、この菜園のアドバイスを貰おうと思ってね」

「それが代金、ってわけ? ・・・別に、素直に聞けば教えてあげたのに・・・」

 やや不満そうに幽香が言うと、霖之助は苦笑を浮かべた。

「出来る限り人に借りを作りたくはなくてね」

「ふうん」

 やはり少し不満そうに息を漏らしながら、香霖堂から菜園へと一歩踏み出した。
 そして、その手に持っていた日傘をゆっくりと咲き誇らせた。
 この日傘は、幽香が初めて霖之助に依頼した日傘とは違う物だ。しかし、やはりこの日傘は霖之助の作った物には間違いない。
 幽香が霖之助に日傘の修理を頼む度に、この傘は少しずつ生まれ変わっていった。
 夏の日差しが特別強かった年は紫外線を防ぐように改良され、弾幕ごっこで役立つようにと、弾幕すらある程度ならば防げるようにまた改良された。
 それらの機能は幽香もひどく気に入っており、今現在差しているこの日傘にもそれらの機能は引き継がれている。
 そんな傘を差しながら幽香は畝へと歩み寄り、その傍へしゃがみこんだ。
 そして畝の土を一つまみし、指の先で擦りながら観察を始める。

「・・・まあまあじゃない。自分でここまで?」

 一目見ただけで肥料の良し悪しも分かるものか。と霖之助は少し驚いた。

「ああ。それに辿り着くまで随分と時間がかかったがね。初めての菜園は、見るも無残な大失敗だったよ」

 そう苦笑しながら言うと、幽香は両手を合わせて菜園へ祈り始めた。・・・恐らくは、霖之助の至らなさによって枯れ果ててしまった野菜達の冥福を祈っているのだろう。
 自分のせいではあるが、そのような行動を見せつけられると、今までに自分が枯らせた野菜達がまるで恨めしく話しかけているような錯覚を覚えて、霖之助は痛む胸をおさえた。

「・・・肥料の調合は後にくわしく教えるが。どうだろう。花とは少し勝手が違うだろうが、何か助言はあるかい?」

 野菜達の恨めしい声を脳内で振り払いながら霖之助が尋ねると、幽香は嘲笑を浮かべた。

「あら。私が野菜の育て方が分からない、とでも思っているの? あなただって知らないわけではないでしょうけど、野菜だって花を咲かせるのよ? 私は、野菜の花も好きだわ。美しく咲いた後に、私達に恵みの実を授けてくれるのよ」

 柔和な表情を浮かべながら、幽香は畝を見つめていた。
 まるで、植物全ての母のようだ。そう霖之助が思う程、彼女のその目は優しく、暖かだった。

「・・・失礼なことを言ってしまったね」

「いえいえ。お気になさらず」

 くすくす、とからかうように幽香は笑った。
 それからすくっと立ち上がり、辺りをもう一度見回してから霖之助に向き直った。

「まあ、肥料に関しては特に助言することも無いわね。あとは作物の配置とか、水のやり方とか・・・。それと、種ね」

「種?」

「あなたがどんな野菜を植えるつもりで、どこからその種を買うのかは分からないけれど、種が良い物ならば当然出来上がる物も良い物になるわよ?」

 その言葉を聞くと、霖之助は顎に手を当て、ふむ、と頷いた。

「ごもっともな意見だが、その種をどこから仕入れればいいかな?」

「別に当てを探す必要は無いわ。私があげるわよ。そんじょそこらの店より良い種な自信はあるわよ?」

 幽香が少しむっとした表情を浮かべながら言うのを聞いて、霖之助は目を丸くした。

「本当かい? 助かるが・・・ただで貰うわけにはいかない。代金はしっかり・・・」

「あーもう。融通きかないわねあんた。代償なんかいらないわよ。いい? 私が好きで種をあげるの。あんたにね! ・・・分かった?」

 途中は少し声を大きくしたが、最後の言葉を言い終わると、彼女は余裕のある笑みを浮かべた。
 それにつられるかのように、霖之助も微笑んだ。

「・・・そうか。ありがとう、幽香」

「どういたしまして。でも、その種はあまり丈夫じゃないから、育てるのは少し大変になるわよ? それでもいいのなら・・・」

「何を言っているんだ。苦労して育てたその野菜達は、きっと最高の恵みを僕達に与えてくれるよ。・・・そうだろう?」

 霖之助の言葉に、幽香はただ笑みで応えた。




 それから、数か月が経った。

 あれから幽香は、今まで以上に香霖堂を頻繁に訪れるようになった。
 もちろん、霖之助の菜園を手伝うためである。まあ、その度にお茶を飲みあったり何か話をしたりはあったが、通う目的はあくまで菜園の手伝いである。誰がなんと言おうとも。
 頻繁に訪れることにより、霊夢や魔理沙と鉢合わせることも何回かあったが、裏の菜園に手を出さないように霖之助と幽香の二人で口裏を合わせるなど、気苦労も多かった。なかなか二人とも無駄に疑い深く、幽香が何もしないまま帰る日もあった。そして次に幽香が来店した時、彼女は酷く不機嫌で、霖之助はそんな彼女の機嫌を取るのにその日は全力を尽くすのだ。
 
しかし、霖之助と幽香が苦労した甲斐もあって、菜園には様々な野菜が実を付けた。
 トマト、キュウリ、トウモロコシ。おまけにスイカ。どの野菜も枯れたりすることは無く、もう少しで収穫、というところまで成長していた。
 私が手伝っているのだから当然、と幽香は胸を張って言った。その言葉に、霖之助が反論することなど一つも無かった。
 


 そして彼女は、今日も香霖堂を訪れる。

「こんにちは」

「いらっしゃい。いつもすまないな」

「別にいいわよ。好きで来ているんだもの」

 そのようないつもの会話を交わし、幽香はカウンターの前の客用の椅子へ腰を下ろした。
 霖之助はすぐに立ち上がり、お勝手へ紅茶を淹れに向かった。

 すぐに届く紅茶。それと・・・

「あら。もう収穫したの? ちょっとだけ早いんじゃない?」

 紅茶の横にはいつもの洋菓子では無く、トマトをスライスしたものが小皿に盛られて出てきた。

「そうかな。まあ、気になって気になって仕方が無かった、というのが正直なところさ。食べて見てくれよ」

 そんな霖之助の無邪気な表情が可愛く思えて、幽香は笑った。
 それから、小皿の横に置いてあるフォークでトマトを突き刺し、口へと運ぶ。

「・・・うん。美味しい。もう殆ど熟しているわね」

 口の中に広がる甘みと酸味に舌鼓を打つ。幽香が用意した種のため、このトマトを味わうのは初めてではない。しかし、1年越しに食べるこのトマトの味はやはり最高だった。

「そうだろう。僕も食べてみたがとても美味しい。全て君のおかげさ」

「当然よ」

 誇らしげに笑いながら、幽香はまた一切れトマトを口へと運ぶ。

「咲夜も美味しいと言っていたし。やっぱり、野菜を育てるのは楽しいね。良いことづくめだ」

 幽香の手が、止まった。トマトは口の中へは入らず、その直前で宙に浮かんでいる。

「・・・今、何て?」

 冷静に。そう、あくまで冷静に、幽香は尋ねた。

「ん? 野菜を育てるのは楽しいって」

 そんな幽香の様子の変化に気づくことなく、霖之助は答える。

「その前よ」

「その前? ・・・咲夜も美味しいと言っていたし、ってところのことかな?」

「へえ。そう」

 幽香は、トマトを食べた。
 よく、味わう。何回食べても、トマトは美味しかった。
 そして。

 フォークを、霖之助の目の前へと突きつけた。


 あまりにも一瞬の早業であったため、霖之助はしばらくの間は何が起こったか理解できなかった。
 しかし、落ち着いて目の前を注視すれば、先の鋭いフォークは霖之助の目を今にも突き刺しそう、というほどに肉薄していた。それこそ、眼鏡すら貫通して、だ。

「ゆ、幽香? どうかしたのかい?」

 体を後ろに逸らすことすらできず、霖之助は冷や汗が顔を伝うのを感じながら、震えた声で尋ねた。
 幽香は、何も言わない。少しうつむいていて、どんな表情を浮かべているかも分からない。

「・・・何で」

「え?」

「何で、私に一番に食べさせないのよ!!」

 彼女らしく無い大きな声。そして、彼女らしく無い表情で、幽香は叫んだ。
 彼女らしく無い表情というのは・・・。簡単に言うと、その・・・

 泣いている。いや、正しくは、泣きそうだ。
 顔は真っ赤で、目は涙で潤んでいる。
 霖之助どころか、この幻想郷にいる誰もが見たことが無いかもしれない、そんな表情。

「ゆ、幽香?」

「だって、だって! 二人で一生懸命育てたんじゃない! だったら、私に最初に食べさせるのは当然じゃない!!」

「え。い、いや。ただ僕は、咲夜が客として来たからもてなそうと。それに、そんなこと一度も言っていなかったじゃないか」

「言わなかったわよ! 言わなかったけど・・・!!」

 幽香は、言葉に詰まった。これ以上話したら、涙が零れてしまうと思ったからであった。
 そう。そんな約束、霖之助と幽香は全く交わしていない。霖之助からしてみれば、このような調子で怒鳴られる筋合いなど一切無いのだ。
 それでも。
 それでも、だ。

 幽香は、まるでそんな光景が当たり前であるかのように思っていた。
 初収穫した野菜を、霖之助と笑い合いながら食べる。そんな光景を。

「・・・!! もう、いいわよ!」

 フォークを霖之助から離し、乱暴に皿に置くと、幽香は立ち上がり店の扉へと向かった。
 そんな幽香に、霖之助は何も言えない。言うべき言葉が見つからない。それは当然のことで、誰も彼を責めることはできない。

 扉のドアノブに手をかけながら、彼女は振り返った。相変わらず、目に涙を溜めたまま。

「秋も・・・!!」

「は?」

「秋も、野菜作るわよ!! そして食べるの!! 私とあなたで最初に! 一緒に!」

 そう大声で言い放つと、扉を開き、乱暴に閉めて・・・幽香はこの店を去っていった。




(馬鹿馬鹿馬鹿!! 霖之助の、馬鹿!!)

 空を飛び、夏の風を浴びながら幽香は泣いていた。
 もう、なんというか、色々と幽香にとっては最悪の日だった。

 思い描いていた光景が打ち砕かれたということ。
 霖之助の前で醜態を晒してしまったということ。

 自分でやったことではあるが、数分前の出来事を思い出すと涙が止まらなかった。

 次にあの店に行く時、どんな顔をして会えばいいのだろうか。
 私の勝手な物言いを、彼は許してくれるだろうか。

 そんなことばかり、考える。

(ああ・・・!! もう!!)

 そして彼女は、夏の日差しの真下。大空のど真ん中で、こう叫ぶのであった。

「霖之助の、バカヤローーーー!!!!」




 まるで、嵐が過ぎ去ったかのようだ。
 幽香が去った香霖堂で、霖之助はそんなことを思いながら、ただ呆然と座り込んでいる。

「・・・咲夜が食べても無いトマトの味を言ったり、幽香が怒ったり。・・・変わった日だ。今日は」

 目の前のカウンターの上には、彼女が食べきらなかったトマトが数切れ、小皿に乗っている。
 彼は傍らに置かれているフォークを手に取り、トマトに刺す。
 そしてそれを口に運び、食べた。

 ・・・うむ。やはり美味い。

「・・・彼女に、どう詫びようか。彼女は、許してくれるのだろうか」

 幽香の顔を思い出しながら、霖之助は溜息をついた。
 ・・・それなりに、長い付き合いだ。少なくとも、人間で換算したら忘れることはできないほどの。
 そんな長い付き合いなのに、彼女のあんな顔を見たのは初めてのことだった。

 ・・・あんな顔に、自分がさせたのか。

「・・・しかし、知らなかった」

 霖之助は、賢い人間だ。
 賢く、洞察力に優れているからこそ、彼はこの幻想郷においても有数の力を持つ大妖怪である彼女の機嫌を決して損ねること無く、ここまで交流できたのだ。
 もちろん、幽香と親しくなることに何か目的があった・・・というわけでは無い。ただ、彼女もつまらない者と親しくなる人間では無い。
 霖之助が幽香と親しなり、幽香も霖之助と親しくなったのは、お互いがお互いの良い所を気に入っているからこそだ。

 そんな大妖怪も一目置く、賢く、洞察力に優れた男は、幽香が怒った理由を洞察する。
 そして、答えが出た。

「・・・幽香が、まさか・・・」

 目の前の、トマトの盛られた皿を見つめながら、彼はこう結論づけたのであった。

「そんなに、野菜が好きだったなんて」

 しかし。
 幾ら賢かろうが。
 幾ら洞察力に優れていようが。

 霖之助は、霖之助であった。
 











 あとがき

 いかがでしたでしょうか。少々幽香を少女にしすぎた感もありますが、さくさくと書けた小説です。
 幽香の傘が霖之助の手製である、というネタは他の方々が同じように小説に使っているのを見るのですが、まあ、そこは被っても仕方が無いな。と開き直って、自分なりに幽香が可愛くなるように書いてみました。
 霖之助と幽香は友人だったらいいなあと思う。なんつうか、大人の友情というか、一見冷めているんだけれどもそれが信頼の証、みたいな。言っててよう分からなくなってきた(ぇ

 それでは。






 ↓にコメント返信です!!
















 コメント返信です! 文字を反転させてお読みください!!


>千亜希さんへ

 いやいや、俺もなんか高圧的になってしまって申し訳ありません。でも、やっぱりそこの線引きはしときたいじゃない? みたいな感じで。すいませんでした。
 まあ、勘違いは誰でもすることなので。ただ、俺は本当に自分の絵が大嫌いですのでね。反吐が出るほど自分の絵が嫌いですのでね(ぇ
 小説楽しみに待っています。もし載せた時はご一報ください。拝見させていただきます。松本さんは本編に絡まないから、どう登場させるかってのはなかなか難しいですよね。俺も今書いてる小説でイマイチ扱いが分からず困っています。
 あー。アニメも始まって絶好調ですね。俺の妹。でもやっぱり今のところ見る気力が起きないなあ・・・。



 コメントいつも感謝です!! 元気が出ます! では!!
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2015-09-17 Thu 23:31 | | [ 編集 ]

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