銀の働き部屋

管理人銀河の、日記兼テキストサイトです。取り扱うジャンルは主にヤングガンガン連載のWORKING!!になると思います。最近は東方の霖之助小説を書くのにも夢中。どうかよろしくお願いします。リンクはフリーです。感想は常に受付中です!もらえたら泣いて喜びます

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青くさくも愛おしい、『 』  霖之助×アリス








 そんでは。東方小説更新します。

 カップリングは、霖之助×アリス。タイトルは、「青くさくも愛おしい、『 』」です。
 アリスは魔法の森に住んでいるんだし、香霖堂にも何回か訪れてるんじゃないかな?とは思っているのですが。どうなんでしょうね。本編にはまるで登場しませんが。
 甘さは殆どありません。というか霖之助が出る小説で俺が書く物が甘くなることはあるのだろうか。

 それでは、続きからでどうぞ。





 
 

 


 私はいったい、何をやっているのだろう。

 魔法の森に住む人形使い、アリス・マーガトロイドは深くため息をつきながらそう考えていた。

 何故そんなことを思うのかというと、アリスがいる場所は、彼女の家ではないから。そして、アリスが座っている場所は、本来彼女がそこに座るであろうことは有り得ない場所だからだ。
 
「・・・それにしても、客がこんなに来なくてなんとかなるものかしら」

 忌々しげにアリスはつぶやく。周囲には誰もいないため独り言になってしまったが、独り言でも言わなければやってられないとも思っていた。
 客。そう。今のアリスは、客を迎える立場なのだ。
 アリスが今いる場所。そこは、魔法の森の入り口近くにひっそりと佇む古道具屋『香霖堂』。そして、彼女が座る場所は、本来この店の主が座ってなくてはならない・・・カウンターの裏に置かれた椅子の上。分かりやすく言えば、店主の椅子。
 つまり。
 今この時に限り、アリスこそがこの香霖堂の主なのだ。

「霖之助さんも暇なのね。毎日ここに座っているだけじゃ、体がどうにかなってしまいそうだものだけど・・・」

 かれこれ、この椅子に座り客を待ってから1時間ほどが経過している。店に来てすぐに布や服など、自分が見たい物は物色し終わり、すでに床にまとめている。他の商品も見ていたのだが、用途も使い方も分からないものが多く、特に目を引かれる物も見当たらなかったのですぐに飽きてしまった。
 やることもないのでこの椅子に座って来客を待っているわけだが・・・誰も来る様子が無い。まあ、まだ日は落ち始めたばかりだし、もともと繁盛している店ではないとは知っていたので仕方がないのだが。
 それにしたって、暇だ。なるほど。そこまで来店頻度が多く無い私ですら、霖之助さんが上客として扱う理由が分かった気がする。
 開くことのない店の扉を見つめながら思い、アリスはまたため息を一つ。

 ・・・私は、何をやっているのだろう。

 また心の中で呟いてから、このような状況に陥ってしまった経緯を思い出していた。




 それは、今から少し前・・・日が幻想郷の頂上へ登ったあたりのこと。


「こんにちは。霖之助さん、いるかしら?」

 香霖堂の扉を開きながらそう声をかけるアリスだったが、扉を開けてすぐに目に飛び込んできた光景に、多少の違和感を覚えた。
 普段、何もやることもなさげに無愛想な顔で読書をしているだけの店の主が、カウンターの上に置かれた古時計に向かって熱心に何か作業をしているからだ。

「やあ。アリス。いらっしゃい」

 しかし、アリスが来店したことにはしっかりと気づき、店の主・・・森近霖之助は、普段と同じように彼女に挨拶をした。

「・・・お取り込み中かしら?」

「いや。もう終わりさ。・・・よし、できた」

 古時計のガラスをはめこみ、満足そうに霖之助は頷いた。よほど長い間作業をしていたのか、その顔や手には古時計の汚れが付着している。

「あなたが仕事らしい仕事をしているところを初めて見た気がするわ」

「・・・少なくとも君には、商売をしている僕の姿を見せられていると思っていたのだがね」

 からかうように笑うアリスに、霖之助は自嘲気味に答える。
 横に置いていた古時計を立て直し、自らの横に置いた。

 アリスから見ても、立派な古時計だった。振り子式の柱時計で年季こそ感じるが、木目の形、色は味わい深く、時計部分の金属には美しい艶が感じられる。静かな香霖堂内に、一定のリズムで刻まれる秒針の音が響き、耳に心地良い。

「いい時計ね。いくら?」

「悪いが、この時計は売り物じゃないんだ。人里からの依頼で修理を頼まれたんだよ」

「人里?」

 古時計を撫でながら言う霖之助に対し、アリスは首を傾げて言葉を繰り返した。

「ああ。最初は、魔理沙の親父さんのところに依頼したらしいんだが、なにやら忙しいらしくて。それで、僕の店に修理の依頼が回ってきたんだ」

「へえ。意外と信頼されているのね」

「・・・まあ、よほど忙しかっただけだろうがね。しかし、造りが想像より遥かに繊細で、予定の日より遅れてしまったんだ。すぐにでも届けたいのだが、今日は咲夜が商品を取りに来る日でね。咲夜との約束を無視するわけにもいかないし、届けるのは明日になってしまいそうだ」

 古時計を見上げながら、申し訳なさそうに霖之助は言った。物には魂が宿り、出来事を記憶するという信念の下生きている彼にとっては、仕事が遅れてしまったことは古時計にとっても辛いことだと感じているのだろう。
 確かに、この古時計には相当な年季を感じる。修理の依頼主のことをアリスは全く知らないが、もっと小さくて簡単に整備できる時計も増えてきたこの幻想郷で、わざわざこの古時計を修理に出したということは、この古時計にある程度の思い入れがあるということでもある。
 いわば、この時計は持ち主と一時的にとはいえ離別させられている。ということになる。

「今日届けてくればいいじゃない」

 そんな霖之助の心情を察し、アリスはさらっと言ってのけた。

「いや、だから咲夜が・・・」

「私が店番してあげるわよ」

 アリスの言葉に、霖之助は目を丸くして固まった。

「・・・どういうことだい?」

「だって、商品は用意しているんでしょ? だったら、私が代わりに咲夜から代金を受け取ればいいだけの話じゃない。咲夜とは一応顔見知りだし」

「いや、まあ・・・確かにそうだが」

「なに? 私が代金をちょろまかすとでも思っているの? 残念ながら、私はあなたが思っているより、そして少なくともあなたよりはずっと裕福な暮らしをしているのよ?」

「別にそう疑っていたわけではないが・・・。本当にいいのかい?」

 おそるおそる、といった様子で、霖之助が確認する。

「別にいいわよ。特にやることも無かったし。どうせ数時間程度の配達でしょ? ・・・それとも魔理沙が来るのを待って、魔理沙に頼む?」

 意地悪く笑いながらアリスが言うと、霖之助は魔理沙に店番を頼んだ時のことを想像しているようだ。しばらく考えこむと、顔を青ざめさせ、首をゆっくりと横に振った。

「予想できるロクでもない事が多すぎて冷や汗が出てきたよ」

 霖之助の珍しい表情を見られたからか、アリスは彼を見てくすっと笑った。

「・・・じゃあ、頼むよ。礼は何がいいかな」

「別に礼なんか・・・」

「そうだ。君が今日買う商品を、全て半額で売る、というのはどうかな。悪くない労働条件だと思うが」

 アリスが答える前に、霖之助がそう提案する。
 その言葉に、少しむっとした表情を浮かべてから、

「・・・じゃあ、それでいいわよ」

 やはり少し機嫌を損ねた声で、アリスは答えた。

 しかし、霖之助はそんなアリスの心情の変化にはまるで気づいていないようで、慌てて古時計を運ぶ準備を始めた。

「大丈夫? 手伝いはいる?」

「いや。平気だよ。・・・あ。そうだ。これが咲夜の頼んだ商品だ」

 カウンターの下に置かれていた箱をカウンターの上に置くと、霖之助はさらさらと紙にその商品の代金を書き記し、箱の横に置いた。
 アリスがなんとなく小箱を見ると、その蓋の部分には「咲夜の懐中時計在住」と書き記されてある。

「もしかして、これも修理を頼まれたの?」

「ああ。弾幕ごっこの最中に破損してしまったらしくてね。それもなかなかの高級品だったから、修理には骨が折れたよ」

 おそらく、古時計と同時に修理を進行していたのだろう。いかにも疲れた、といった様子で肩をとんとんと叩きながら霖之助は答えた。
 一応人に渡す商品であるし、アリスは中身を確認することはしなかった。まあ、咲夜の懐中時計ならば何回か目にしている。たぶん、あの時と大差は無いだろう。

「布と服はいつものところに置いてある。好きに見繕ってくれ。あと、もし咲夜以外の客が来たら住所と欲しい商品を聞いておいてくれ。僕が後で届けよう」

 古時計を巨大な布で包みこみ、縄でまとめ、両手で担ぎ上げながら霖之助はそう指示をした。かなり大きな時計ではあるのだが、流石は半妖、といったところか。

「それじゃあ。日が落ちる前には戻るよ。本とかは好きに読んでくれて構わない」

「はいはい。色々と親切にありがとう。・・・いってらっしゃい」

「ああ。いってくる」

 微笑みながらそう返し、霖之助は大時計を慎重に香霖堂の入り口から運び出し、扉を閉め、行ってしまった。

「・・・いってらっしゃい、ね」

 霖之助が扉を開閉した際に鳴ったベルの音が鳴り止むと、一人香霖堂に残されたアリスはぼそっと呟いた。
 ・・・こんな言葉を使うのは、いつ以来のことだろう。

「・・・案外、悪くないわね」

 微笑を浮かべて言ってから、アリスは鼻歌まじりに布や衣装を見繕い始めた。




「・・・安請け合いするべきではなかったかしら」

 回想を終えると、またまたため息をつき、アリスはカウンターの上に項垂れた。

 人は、仕事を選ぶのならば楽な仕事を選びたいと思うものである。しかし、アリスにとってこの店の店番という仕事は、楽な仕事ではない。この仕事は、ただただ、「暇」なだけだった。
 楽と暇、というのは違うものだと思う。楽な仕事というのは、仕事の少なさもそうだが、同時に何かその仕事を楽しめる理由があって、文字通り気楽な気持ちで挑めるものが楽な仕事と呼べる。
 が、暇は違う。暇は、暇だ。何もやることがない。だからといって他にやることも無い。

 ・・・それでも、アリスは店番を引き受けたことを、心の底から後悔しているわけではなかった。
 何故なら。

 古時計を見上げ、持ち主の下に返せないことをアリスに教えた時の霖之助の顔は・・・本当に、本当に、悲しそうだったから。
 その顔を見た瞬間、アリスの頭に店番を引き受ける、という考えが浮かんだのだ。浮かんでしまった、と言うべきかもしれないが。

「・・・子どもみたい」

 カウンターに突っ伏したまま、ぽそりと呟く。
 そう。アリスから見たあの時の霖之助は、自分の思う通りにいかずにしょげる子どものようにも見えた。そんな彼の、普段はあまり見せない表情を見て、機嫌をよくしたせいというのもあるかもしれない。

「本でも、読もうかしら」

 暇過ぎて憂鬱だった気分が少しだけ晴れてきて、アリスは自分に合う本が無いかどうか探す為に立ち上がった。

 その時。

「店主さん。御機嫌よう。頼んでいた物を受け取りに・・・」

 来客を知らせるベルの音が鳴り響くと同時に香霖堂の扉が開かれると、手に小さな籠を持った十六夜咲夜の姿が見えた。
 霖之助がいないことを想定していない彼女は慣れたように挨拶をするが、立ち上がっているアリスと目が合った瞬間、はた、と言葉を途切らせた。

「・・・いらっしゃい」

 ようやく、店の主らしい言葉を言えたアリスは、来客に向かってとりあえず微笑んだ。
 一方、そう声をかけられた咲夜は呆然とした表情で立ち尽くしている。

「・・・えっと、店主さんは?」

 しばらく黙りこくっていたあと、咲夜はとりあえずの疑問を投げかける。

「人里に商品を届けに行ってるわ。私は店番」

「え・・・」

 さらりとアリスが答えると、予想していなかった答えだったのだろう。短く声を漏らして、また咲夜は硬直してしまった。

「・・・懐中時計を取りに来たんでしょ? 入りなさいよ」

 アリスが椅子を用意しながら促すと、小さなため息をついてから咲夜は入店し、椅子に座り込んだ。

「店主さん・・・私より、人里の依頼を優先しただなんて・・・」

 彼女にしては珍しい沈んだ声で、咲夜は呟いた。
 そんな咲夜を見て、アリスも呆れたようにため息を一つ。

「なんでも、予定より頼まれていた時計の修理が長引いてしまって、一刻も早く持って行きたかったんだって。仕方ないじゃない」

 少しだけ過程を略したが、間違ったことは言っていないはずだ。と、アリスは自らの言葉を思い返しながら頷いた。

「せっかく、クッキーを焼いてきたのに・・・」

「あら。いいわね。そろそろおやつ時だし、食べましょうよ」

「・・・」

 クッキーという単語を聞き、ぱあっと顔を明るくさせながら言うアリスを、咲夜はじとーっと見つめたが、ため息を吐いてから籠をカウンターの上へと乗せた。

「・・・そもそも、あなたはどうして店番なんかやってるのよ」

「たまたま居合わせただけよ」

「頼まれたの?」

「・・・まあ、ね」

 ・・・正確には、頼まれたのではなく自分から言い出したのだが。何となくそれを言うのが恥ずかしくて、アリスは小さな嘘をついた。

「・・・意外と、信頼されているのね」

 今日、どこかで聞いたことがあるようなことを言いながら、咲夜はクッキーの入った籠を開けた。籠を開けると、クッキーの香ばしく甘い香りが香霖堂に広がる。

「あら美味しそう。紅茶が欲しいわね」

「店主さんがいたら、出してもらうつもりだったのだけど・・・」

「紅茶代くらい私が出すし、勝手に入れちゃいましょうよ。えっと、紅茶は・・・これでいいか。台所は店の奥よね」

 椅子から立ち上がり、適当な紅茶缶を棚から物色すると、それを淹れるために台所へ向かおうとする。

「ちょっと。勝手すぎない?」

「別に大丈夫でしょ。店番を頼んだ時点で、これくらいの覚悟はしているわよ」

「・・・意外と、勝手な女なのね」

「意外と慎ましい女なのね。あなたも」

 軽々なやりとりを終えると、咲夜は立ち上がった・・・かと思えば、その手には紅茶缶が置いてあった。それを見たアリスが自らの手に視線を移すと、紅茶缶の姿はどこにも無い。

「私が淹れるわ。紅茶を淹れる技術は、私のほうが確実に上だもの」

 やれやれ。と、少し呆れたような表情を浮かべながら咲夜は言った。

「・・・それもそうね」

 紅茶缶を持っていた手を何回か動かすと、アリスは納得したようにうなずき、椅子にまた腰を下ろした。
 小さなため息をつくと、咲夜は紅茶を淹れるために、店の奥へと消えた。
 ・・・十分、あなたも勝手じゃない。
 そんな言葉を、アリスは飲み込んだ。



 アリスがしばらく待っていると、ティーポットとティーカップを乗せた盆を持ち、咲夜が戻ってきた。

「意外と時間がかかったのね」

「そりゃ、勝手が違うもの」

「お勝手だけに?」

「別に上手くないわよ」

 アリスの言葉ひとつひとつに律儀に返事をしながら、カウンターの上に盆を置き、慣れた手つきでティーカップに紅茶を注いだ。ほのかな紅茶の香りがふわっと広がる。アリスは、そこまで高級な茶葉を選んだわけでなかったのに、ここまで紅茶の香りを引き出すことのできる咲夜に素直に感心した。

「それじゃ。いただきます」

「あ。全部は食わないでよ。店主さんにも残すんだから」

 籠の中のクッキーを口へと運ぶアリスに咲夜は忠告したが、言い終わる頃にはクッキーはアリスの口の中へ収まっていた。

「うん。美味しい。・・・大丈夫よ。ずいぶん量があるみたいだし、私たち二人で食べても十分残るわよ」

 アリスの言うとおり、咲夜の持ってきたクッキーの量はかなりのものだった。小さめの籠とはいえ、その籠の半分ほどまでクッキーが詰まっているのだ。

「・・・少し、はりきりすぎたのよ」

 咲夜は小さな声で言いながら、クッキーを一つ口へ運んだ。そして、味を確かめると満足そうにうなずく。味の良さに納得できたようだ。

 殆ど同時に、二人は紅茶を口に含み、しっかりと味わって喉へ流し込んだ。こちらの味も、文句のつけようが無い程に美味だった。

「・・・忘れないうちに。はい。頼んでいた商品」

 一息つくと、カウンターの端に置かれていた小箱を滑らせるように目前へ運び、咲夜へ渡した。
 すぐに咲夜は箱を開き、その中から自らが修理に出していた懐中時計を取り出す。

 初めてみるわけではないはずなのに、そのあまりの美しさにアリスは息を飲んだ。

 鎖の一つ一つでさえ銀色の美しい輝きを放ち、時計本体は、咲夜やアリスの顔がそのままの姿で映るほど磨きこまれている。
 蓋を開くと、長針・短針・秒針。それら全てが寸分の狂いも無く時を刻み込んでいる。もちろん、それらの部品全ても、引き込まれてしまうような美しい輝きを放っていた。

「綺麗ね」

 微笑みを浮かべ、裏表の無い純粋な感想を、アリスは伝えた。それは、きっと誰が見てもそう思うのだろう。と、アリスは確信していた。
 以前見た時と変わらないだろう。と考えていた自分が恥ずかしい。と、アリスは顔をわずかに赤くした。

「・・・壊れる前より、遥かに美しいわ。物の修理を頼むのは初めてだったのだけれど、ここまでの腕とはね。大事な時計だったからちゃんと直るかどうか心配だったけど、杞憂だったわ」

 懐中時計の縁を指でなぞり、うっとりと見つめながら咲夜は答えた。修理の出来に、とりあえずは大満足のようだ。

「そこまで言われると、霖之助さんもきっと喜ぶわね」

「はあ。感謝の気持ちを直接伝えられないのが残念ね」

 懐中時計の蓋を慣れた手つきで閉じ、咲夜は嘆くように言った。

「私より、人里の依頼のほうが大事だったのよ・・・」

「もう。何回も何を言ってるのよ・・・。いい方へ考えれば、人里から頼まれた物より、あなたの懐中時計の修理を優先したってことじゃない」

「そうかしら・・・」

 まるで疑いを持っているかのようなことを言う咲夜だが、その声に明らかに活力が戻ってきているのがわかって、アリスは咲夜にばれないように笑った。

「何? もしかして、霖之助さんのこと、好きなの?」

「そうね。好きよ」

 からかうつもりで尋ねたアリスだったが、咲夜のあまりの即答に体が硬直してしまった。
 爆弾発言を投げつけた咲夜はというと、特に恥ずかしがったり照れたりする様子もなく、クッキーを口へ運び、それを飲み込むと紅茶を一口。

「・・・そうなの?」

「そうよ」

 念のため確認をとると、やはり咲夜は即答してみせた。

「そんなにおかしい?」

「い、いや。そういうわけでは」

 ないけど。と、言い終える前に、アリスは紅茶を一口飲んだ。いやに喉が渇く。

「でも、どういうところが? ってのは少し・・・」

「そんなに魅力の少ない人ではないと思うけど。容姿は整っているし、背も私よりずっと高い。話し方は賢いし・・・でも、商品を語る時のあの人はどこか子どもっぽくもある。見ていて、とても楽しい人だと思うわ」

 咲夜の言葉を聞きながら、アリスは脳内で普段の霖之助を思い浮かべる。
 ・・・まあ、確かに、咲夜の言うとおりかもしれない。と思った。容姿は普段からあまり気にしたことはないが、確かに背は高いし、商品を語る時の様子も咲夜の言う通りだ。実際、さっき古時計を見上げていた霖之助に対し、アリスも同じことも思っていたのだから。

「あの人と会いたい。あの人と話したい。と、いつも思うから、たぶん好きなのよ」

「へ。へえ」

「・・・そして。今日、また好きになった」

 柔らかな笑みを浮かべ、手元の時計を見つめながら咲夜は言い切った。
 そんな咲夜を見ていると、なんだか気恥ずかしくて、アリスは紅茶をまあ一口飲もうとする。が、飲むペースを上げたせいか、気づけばティーカップは空になっている。
 が、次の瞬間、ティーカップには新しい紅茶が注がれていた。

「・・・ありがとう」

「どういたしまして」

 言葉を交わしてから、紅茶を飲む。相変わらず咲夜の淹れた紅茶は美味であった。

「・・・アリスは?」

「へ?」

「アリスは店主さんのこと、好き?」

「は?」

 咲夜の突然の問いに、そんな間抜けな声が出てしまった。
 別にやましいことは何も考えていないはずなのに、何故か顔が熱い。異様に気恥ずかしい。

「べ、別に、好きとか考えたことはないけど・・・。まあ、悪い人ではないし、少なくとも、嫌いではないわ」

 あまり言い慣れた言葉ではないからか、はっきりと分かるほどに照れながら、アリスはそう伝えた。
 そんなアリスを咲夜はしばらくの間無表情で見つめていたが、突然、ふっと微笑んだ。

「そうよね。もし好きだとしたら・・・私たち、ライバルだもの」

「ライバル、ねえ。恋の争奪戦なんて、小説の中にしか無いと思っているんだけど?」

「そんなこと無いわ。少なくとも、霊夢と魔理沙は店主さんに対して、少なからず好意を持っているはずだし」

 咲夜の言葉を聞いて、今度は、「それはそうかもしれない」とすぐに納得できた。
 アリスが香霖堂を訪れる頻度はそんなに多く無いが、その際に、霊夢か魔理沙が香霖堂にいることは少なくない。
 大抵は・・・。霊夢の場合は勝手にお茶を飲んだり勝手にお茶菓子を食べたり。魔理沙の場合は行儀悪く本を読んでいたり霖之助に何かどうでもいいことを話しかけていたり。
 少なくとも、霊夢と魔理沙にとって、香霖堂は居心地のいい場所なのだろう。

「ね? わかるでしょ?」

「・・・青くさいわね」

「けっこう酷いこと言うわね」

 あの二人と霖之助の関係を思い返した結果、そのような結論に行き着いてしまったのだから仕方がない。アリスはクッキーを口に運び、味わった。相変わらず美味かったが、ただでさえ渇いていた喉が更に渇いてしまったような気がして少々辛い。

「青くさかろうがなんだろうが。恋は恋よ。あなただって全く経験が無いわけではないでしょう?」

「もう忘れちゃったわよ。まあ、邪魔はしないわ。応援もしないけど」

「ありがとう。助かるわ」

 ふっと微笑むと、手に持っていた紅茶を飲み干し、咲夜は立ち上がった。

「そろそろおいとまするわ。修理代は幾ら?」

「あ。そうだった。これに書いているのよ」

 すっかりと代金のことを忘れていたアリスは、箱の横に置かれていた紙を手に取った。
 書かれていた代金は、この懐中時計の修理に見合う金額だった。少なくとも、アリスはそう感じた。

 金額を告げ、アリスは咲夜から確かにその金額を受け取った。これで、店番を頼まれたアリスの仕事はとりあえず終わったと言っていいだろう。

「じゃあ私はこれで」

「ええ。えっと、これからもご贔屓に?」

「あら。もっと無愛想に言えば完璧よ」

 微笑みながら、咲夜は香霖堂の扉を開いた。

「それと。店主さんに伝えておいて。『後日、改めて礼に伺います』って」

 そう言い残すと、咲夜は店の扉を閉め行ってしまった。もちろん、クッキーの入った籠は置いていって。

 咲夜も帰った今、アリスに残された仕事は無い。もちろん、客が来たらその相手はしなければならないが、恐らくその可能性は低いだろう。

「本でも読んでようかしら」

 そう言うと、アリスは本棚へ歩み寄り、何か自分に合う本が無いか探し始めた。

 ・・・霖之助さん。早く帰ってこないかな。

 特に意味も無く、そんなことを考えながら。





「・・・遅くない?」

 外の世界のファッション誌もあらかた読み終わり、カウンターの上にそれらの本を山のように乗せながら、アリスは明らかに不機嫌そうに呟いた。
 窓から外を見れば、日はもうすっかりと傾き、夕焼けが空を染めている。

「・・・日が落ちた後に帰ってきたら、どうしようかしら」

 魔法使いらしい邪悪な笑みを浮かべながら、ずいぶんと物騒なセリフを呟く。
 霖之助は、『日が落ちる前には戻るよ』と言っていた。太陽は見えないが、この空の色から察するに、太陽は半ば山に沈んでいるといったところだろうか。
 別に家に帰ってやらなければならないことがある。・・・というわけではないが、それでも、あらかた本も読み終わってしまった今、アリスには暇を潰す手段が思い浮かばなかった。

「・・・もう帰ろうかしら」

 わざわざこんな辺鄙な道具屋に攻め寄せてくる泥棒・・・まあ、紅白と白黒のこそ泥はよく来るが・・・大泥棒はいないだろう。

 どうしようか。と、深くため息をつく。

 すると、香霖堂の扉のベルが高らかに鳴り響いた。
 
「ただいま」

 そう言いながら扉の前に立っていたのは、この店の本当の主の姿であった。人里へ行ったついでに買い物でもしてきたのか、手には籠を持っている。
 その表情に、特段いつもと違った様子は感じ取れない。

 はあ。と、連続でため息を吐き、アリスは口を開いた。

「おかえりなさい」

 言いたいことは色々あった気がするが、のんきに挨拶をする霖之助を見たら、そんな文句はどこかへ消えてしまった。

「すまない。少し遅れてしまった」

「少しじゃないわよ。だいぶ、よ」

「古時計の持ち主が、修理の出来を気に入ってくれてね。色々ともてなされてしまったんだ」

「へえ。人を店番させている間にいいご身分ですこと」

「・・・すまない。なにか嫌なことでもあったか?」

 嫌味を言うアリスに歩み寄りながら、気遣うように霖之助は尋ねた。
 が、アリスはすぐに首を横に振る。

「そんなんじゃないわよ。ただただ、暇だっただけ」

 カウンターの上に積まれた本の山をぽんぽんと叩きながら言うと、霖之助は苦笑を浮かべた。

「それはすまなかった。少しくらい面白い商品の紹介でもしておくべきだったな」

「面白い商品なんてあるの?」

「なかなか手厳しいな」

 苦笑混じりに言いながら、カウンターの前に置かれた椅子へ座る。
 それを見て、アリスが慌てて立ち上がった。

「いや。君はそこでいいよ」

「だって、あなたの店でしょ?」

「今日、僕は商売らしい商売をしていないからね。今日に限っては、君のほうがその席に相応しい」

 さも当たり前。と言いたげに霖之助は言ってのけた。
 今の今まで、人里へ決して小さくはない古時計を配達していたのは、どこの誰なんだか。
アリスは少し納得がいかない様子だったが、ここは厚意に甘えることにし、椅子へ腰を下ろした。

「咲夜は来たんだね?」

「ええ。言伝を頼まれたわ。『後日、改めて礼に伺います』だって」

「ん? 別に気にすることはないのに。ただ元の姿へ戻しただけだ」

 それがどれだけ大変なことなのだろうか。と、アリスは考えた。アリスも人形の創作や修繕は行うので、物を作ったり直したりすることの苦労は分かっているつもりだ。ましてや、懐中時計ともなるとあの内部には多くの細かな部品がぎっしりと詰まっているに違いない。
 しかも、霖之助は確か、「弾幕ごっこで破損した」と語っていた。ということは、下手をしたら原型を留めてすらいなかったのかもしれない。そんな物をあそこまで美しく忠実に修理することなど、どれだけの労力がいることか。

「・・・そ」

 しかし、それを口にはしなかった。
 きっと、目の前のこの男は、何を言ったところで自分を褒めようとすることはないのだろうから。

「あ。これは代金ね。しっかりと徴収したわ」

 咲夜から受け取った金は、カウンターの裏にかけてあった半透明の袋の中に入れていた。あまり見たことの無い見た目、質感であったが、以前買い物をした際にこの袋の説明をアリスは既に受けていた。確か、「ビニール袋」という名称のはずだ。
 入手する機会も量も多く、普段から霖之助はこのビニール袋に商品を入れて渡すので、アリスも大して躊躇うこともなく使わせてもらった。

「ああ。ありがとう」

 アリスの差し出したビニール袋を受け取り、霖之助は早速中身を改めた。人によっては失礼と感じる行為かもしれないが、商売人としては当然のことだ。だから、アリスも全く気にすることはなかった。

 ・・・しかし、中身を改めていた霖之助の表情が突然曇った。それから、視線を上げアリスの顔を見つめる。

「・・・と、盗ってなんか無いわよ!?」

 酷く慌てた様子で、アリスは何か言われる前にきっぱりと否定した。
 しかし、霖之助は小さく首を横に振った。

「な! わ、私はちゃんと・・・」

「いや。足りないんじゃない。・・・多いんだよ」

「は?」

 霖之助が、まるで意味が分からないといった静かな口調で伝えると、アリスは目を丸くした。

「僕は、この袋に入っている料金の半額しか請求していないはずだ。・・・アリス、何かあったのかい?」

「・・・私はこの紙に書かれている代金をもらっただけよ」

 半額、という言葉にアリスは眉をひそめたが、とりあえずはこの怪奇現象を解決する方が先だ。と、後回しにすることにした。

 アリスからメモを受け取りその内容を確認する。が、すぐに霖之助も眉をひそめた。

「・・・アリス。僕が出かけてから、このメモを確認したかい?」

「え? ・・・咲夜が来るまで、確認はしなかったけど」

「だろうね。・・・この字は、僕の字ではない」

「は?」

 アリスは慌ててメモを霖之助の手から奪い取ると、文字を確認する。
 ・・・が、落ち着いて考えれば霖之助の字の癖なんか知るはずもなく。

「・・・そうなの?」

 ただ首を傾げて尋ねることしかできなかった。

「ああ。誰かが書き換えたんだよ。しかし、いったい誰が・・・?」

 腕を組み目もとじて、霖之助は思考に耽り始めた。
 が、アリスにはすぐ分かった。書き換えたのは誰か。そして、その意図が。

「・・・咲夜よ」

「咲夜? ・・・まあ、確かに彼女の能力なら書き換えるのは簡単だろうが。何故わざわざ払う代金を多くするようなことを」

「はあ・・・」

 うんざり。といった大きなため息を隠そうともせず、アリスは頭を抱えた。

「安い」

「え?」

「安いのよ!」

 霖之助にビシッと指を突きつけ、アリスは大声で言い放つ。
 言われた霖之助はというと、大声に驚いたりこそしなかったが、「何を言っている?」とでも言いたげに目を丸くしていた。

「修理代安すぎ! あそこまで完璧に直してこれの半額!? あなた商売なめてんの!?」

「えっ。いや。僕は常に自分の労力に見合った・・・」

「大して繁盛もしていないくせにかっこつけて・・・! 私が咲夜の立場でも多く払うわよ」

 大して繁盛もしていないくせに、と言った瞬間、霖之助の表情が明らかに沈んだが、アリスは気にする様子すら無い。

「人間、いい仕事に対してはそれ相応の対価を払いたくなるもんなの。・・・素直に受け取りなさいよ」

 後半は物静かに。そして、諭すように言った。
 が、霖之助はゆっくりと首を横に振る。

「そういうわけにもいかない。店主と客で言葉のやり取りがあって、値切りなどの行為を経て商品の値段が変わることはあってもいい。しかし、客の独断のみで商品の価値が変わることはあってはならないんだ。それは、商売の崩壊を指す」

 真剣な眼差しで言われると、アリスはそれ以上、何も言えなかった。
 しかし、霖之助はすぐに真顔から穏やかなものへ表情を変化させ、微笑を浮かべた。

「・・・気持ちは、ありがたい。咲夜のも。そして、君の今の言葉も。余分の代金は、今度咲夜が来た時に返すとするよ」

 穏やかに言いながら、カウンターの上に代金の入った袋を置いた。

「・・・損な性格ね」

 今日何度目だろうか。少なくとも数え応えがありそうな程には吐いたような気がするため息をまた吐いて、アリスは言った。
 もっとも、笑み混じりの呆れたようなものだったが。

「僕はいつだって、自分に素直なだけさ」

「はいはい。・・・あ。それと、これは咲夜のお土産。これくらいは受け取るでしょ?」

「え。悪いな・・・。これは、商売に関係の無い彼女の厚意だ。ありがたく受け取ろう」

 厚意っていうか、好意だけどね。
 なんてことは、アリスは死んでも口にはしない。流石にそれくらいのデリカシーは持ち合わせている。

「君も食べるかい?」

 気づけば籠を開けていて、クッキーを1枚アリスへ差し出しながら霖之助は問いかけた。

「いいわ。私はもう幾つか食べたから」

「む。そうか」

 差し出していたクッキーをそのまま自分の口へと運び、霖之助はその味に何回も頷いた。やはり、誰が食べても、あのクッキーは美味いらしい。

「残りは、後で紅茶のお供にさせてもらおう」

 籠を閉じ、それをカウンターの横へと寄せながら霖之助は言った。
 わざわざ作ったクッキーの感想を想い人から直接聞けないのは、少し可哀想かもしれない。と、アリスは咲夜に少しだけ同情した。

「・・・じゃ。そろそろ私は帰るわ。お会計、お願い」

 椅子から立ち上がり、アリスは床にあらかじめまとめておいた自分の買い物・・・布、服。そして読んで気に入った何冊かのファッション誌へ目をやった。
 財布を出し、代金を払う準備をすると、

「待ってくれ」

 霖之助が呼び止めた。

「なに?」

「もう日も落ちた。せっかくだから、夕食でも食べていくといい」

「え」

「食材も人里で買ってきた。君は食事を食わなくてもいいということだが、別に食べられないわけではないのだろう? まあ僕もだが」

 アリスが何も言えないでいる間にも、自分の籠をカウンターの上に置き、肉や野菜など様々な食材をアリスへ見せつける。

「鍋でも作ろう。君は苦手な食材はあるか?」

「あ。いや、別に好き嫌いは無いけど・・・」

 普通に返答してしまった直後、アリスは我に返った。

「い、いいわよ夕食なんて!」

「む。もしかしてクッキーでお腹が膨れてしまったかな?」

「そんなに食ってないわよ! じゃなくて! 何でそうなるのよ!」

「何でって・・・礼だよ。君のおかげで時計を届けることができたんだから」

「・・・礼は、商品の半額でしょう?」

「いや。それだけでは足りなくなってしまったんだよ」

 首をゆっくりと横に振りながら、霖之助は思い出しながら話し始めた。

「人里の依頼主は、あの時計が届くのを楽しみに待っていたからね。君のおかげで、一日早く、あの時計と持ち主は再会できたんだよ」

「・・・たった、一日じゃない」

「人間の一日は貴重なんだ。・・・僕達より、ずっと、ね」

 そう語る霖之助の表情は、昼に古時計を見上げていた時よりも悲しく、寂しそうに見えた。
 アリスは、霖之助が昔人里で道具屋としての修行をしていたということを思い出した。
 そして今日、彼は人里へ行った。当時と全く変わらない姿で。そんな彼を見て、人里の人間たちは何を思ったのだろう。自分の知っている人間が全て変わってしまっている人里で、彼は何を思ったのだろう。

「・・・道具というのは、持ち主が年老いてしまっても、殆ど姿を変えることなく『そこ』にいる。だから人は、時に、自分を見守ってくれる存在として道具に対して愛情を持つ。その道具と共に生きることを望む。そして道具も、持ち主の側にいることを望む。あの時計は、間違いなく、持ち主に愛されていた時計だった。だから持ち主は僕があの時計を修理したことを喜び、僕を必要以上にもてなしたんだ」

 物は、名前を付けられたことを覚えている。だから僕は、道具の名前を視ることができるんだ。
 いつだったか、霖之助が誇らしげに話していたのをアリスは思い出した。適当に聞いていたので、思い出すのに相当の時間はかかってしまったが。
 彼には、視えたのだろうか。あの時計に触れた瞬間、時計の名前が。持ち主の、愛が。

 ・・・私の人形を彼が触ったら、彼には何が視えるのだろう。
 そんなことを考えた自分がなんだかおかしくて、アリスは心のなかで嘲笑を浮かべた。

「まあ、そういうわけだ。依頼主と古時計を、一日『も』早く再会させてくれた君に対する礼なんだ。あと、僕がそれによって歓迎をうけたことに対しても。大した物は出せないが、ご馳走させてくれないかな?」

 微笑を浮かべ、あらためてそう尋ねる。

 ・・・まったく。馬鹿みたいに正直で、馬鹿みたいに律儀な人だ。
 私なんか、何も関係無い。あなたが誠意を持って修理をして、その誠意に対して客が応えただけじゃない。
 咲夜も、あなたの誠意が逆に申し訳なくて、あんなことをしたんじゃない。
 ・・・本当に、馬鹿な人。

 そう考えた瞬間、自分の胸の中に温かいものが流れこんできたような気がして、アリスは思わず胸をおさえた。
 そして、すぐに気づいた。その現象の原因、正体に。

 笑みを浮かべる彼につられるように、アリスも微笑んだ。

 ああ。

 案外、私も単純だ。

「・・・わかったわよ。ありがたく、ご馳走になるわ」

 その言葉を待っていた。というように、霖之助は立ち上がった。




 咲夜、霊夢、魔理沙の気持ちが、少しわかった。

「私もなにか手伝うわ」

「む。そうだな。じゃあ、肉を切り分けてもらえるか?」

 懐かしい。この感情は、酷く懐かしい。

「ていうか、あなた料理作れるの?」

「人に食わせることもできない、というほど腕は悪くないと思っているんだが」

 本当に、自分がおかしくて笑ってしまいそうだ。
 こんなにも、こんなにも青くさい感情を抱くなんて。

「あ。そういえば今日、咲夜が紅茶を作りに台所に入ったけど・・・」

「ああ。少し片付いているような気がするね。そんなに見苦しいほど散らかっていたかな?」

 これではまるで・・・少女のよう。

 でも

「勝手に入ったことに対して怒りはしないのね?」

「物を盗んだり好き放題散らかしたりするような人間ではないからね。彼女は」

「あら。優しいこと」

「信頼しているのさ」

 こんな。こんな、青くさい感情が。
 とてつもなく、愛おしい。

「私はどう? 信頼、してる?」

「信頼もしていない者に店番は頼まないさ」

 ああ。こんな言葉一つで、こんなにも動悸が早くなる。


 どうして、忘れてしまっていたのだろう。

 どうして、思い出してしまったのだろう。

「ありがとう。嬉しいわ。・・・とても」

 『恋』を。

 愛おしくも切ない、この胸の高鳴りを。















 あとがき

 いかがだったでしょうかー。
 やはり霖之助小説は、少女たちの片思いが安定するよね。書いていてなんか安心だよね。
 間接的に咲霖だったような気もします。咲夜さん可愛いじゃない。
 本当は上海人形とかも登場させたかったのですが、上手く扱うことができなかったので存在抹消です。ごめんよ上海。
 
 俺にしてはなかなか安産で、楽しく書けました。次はたぶんさと霖。

 それでは!

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コメント

期末テストが終わったー!あー今回はしんどかったですね。学校から帰ってきてすぐ教科書開いていましたよ。あ、でもこの後地獄のテスト返却だ・・・。
しかもその後三者面談だ・・・。
ま、いっか!しばらく忘れようと思います(笑)
話しが変わりますがまずはパンストいいですよね!個人的にストッキングが好きです。
いか娘はなごやかに見てます。
そらおとはびっくりしたのはアニメworkingの作画の人がマスターのもっているえろ本の作画も一部担当していることですね。エンディング見てびっくりしました。
今回のヤンガン読みました。さ、佐藤さんが佐藤さんが八千代さんと飲みに行くことになっている!!あんまりにもびっくりしすぎてコンビニで発狂するところでした。
今回のヒロインはアリスかー女の子はかわいいなー特に恋する乙女がかわいいですね。最近はレミリアとかフランドールとか輝夜とか好きですね。あ、もちろん霊夢も好きですよ!
あ、あとブログの作り方教えて下さってありがとうございます。今度時間のあるとき作ってみたいと思います。
それではまたコメントします!!
2010-11-19 Fri 17:50 | URL | 千亜希 [ 編集 ]

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