銀の働き部屋

管理人銀河の、日記兼テキストサイトです。取り扱うジャンルは主にヤングガンガン連載のWORKING!!になると思います。最近は東方の霖之助小説を書くのにも夢中。どうかよろしくお願いします。リンクはフリーです。感想は常に受付中です!もらえたら泣いて喜びます

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扉越しの仲直り 【パチュ霖】




 東方小説です。パチュ霖です。

 パチュリーは物静かなイメージですが、そんな彼女が怒ったら、それはそれで可愛いと思うのです。

 では、パチュ霖で「扉越しの仲直り」です。甘さは殆どありません。

 続きからでどうぞ!
















「魔理沙を、なんとかしなさい」

「はあ?」

 この場所を訪れ、顔を見合わせて早々、無表情・・・いや。どちらかというと不機嫌そうに、そんな言葉を言い放った目の前の少女に対して、霖之助はそんな声を漏らすことしかできなかった。



 霖之助がいる場所は、普段座っている香霖堂の古ぼけた椅子の上ではない。
 彼が立っている場所。そこは、大図書館。そう。幻想郷にそびえる洋館、紅魔館に存在し、幻想郷でも有数の書庫量を誇るあの大図書館だ。
 司書を務めるは、霖之助と少し距離を置いて設置された椅子に座り、彼をねめつけている少女。パチュリー・ノーレッジ。言わずと知れた、七曜の属性を操る大魔法使いである。
 そんな大魔法使いを目の前にしながら、霖之助は呆れるように大きなため息をついた。

 僕は、こんなことにために呼ばれたのか。と心の中で愚痴りながら。





 咲夜が香霖堂を訪れてきたのは、今から1時間ほど前のことだろうか。
 霖之助は、彼女が来店した際非常に驚いた。何故なら、香霖堂を扉が開かれてすぐに、

『紅魔館に来ていただけないでしょうか』

 ・・・の一言だ。「いらっしゃい」を言う時間すら与えてはくれなかった。
 もちろん、そう言われて「よし!行こう!」と、重い腰を上げる霖之助ではない。当然、その真意を問いただした。
 そして咲夜の話を聞くと、なんと、大図書館を収める大魔女、パチュリーの誘いであるというではないか。
 普段から配達などで紅魔館を訪ねることはあっても、あくまで仕事であるため、余計なこと・・・つまりは、大図書館へ赴き、本を読み漁る。ということはしなかった。

 しかし、今回は大図書館を収めるパチュリー直々の・・・まあ、使いの者をよこしてはいるのだが。直々の誘いである。
 いつか大図書館へ行ってみたいとは考えていたが、元々霖之助は行動的な性格では無い上に、わざわざ訪ねる機会も無かったので行かずじまいであった。

 この絶好の機会を逃すわけにはいかない。霖之助は香霖堂をいったん店じまいにし、咲夜と共に紅魔館へ向け歩み始めた。
 歩き慣れてはいないが、知らないわけでもないその道をしばらく歩き続けると紅魔館へ到着した。
 そして咲夜に案内されると、霖之助は初めて、大図書館へと足を踏み入れたのだ。




 そして、そこで待ち受けていた魔法使いの第一声が、先ほどの言葉である。

「あなたも知っているかもしれないけれど、魔理沙がここの本を度々盗んでいるのよ。ああ。違うわね。『死ぬまで借りるぜ』と言っていたかしら」

「魔理沙らしいな」

 パチュリーの言葉に大きな嫌味が含まれていたことは重々承知であったが、さして気にすることもなく、霖之助は抑揚のない声で言った。

「・・・。私がいくら言っても聞かないのよあの子。だから、外堀から埋めようと思って」

「ほう。それで何故僕が呼ばれるのかな?」

「あなた、魔理沙の保護者でしょ?」

「違う」

 言葉に苛立ちを隠そうともせず、霖之助は即答した。そんな彼に対し、パチュリーも眉をひそめる。

「僕は魔理沙の保護者でも親でもなんでもない。そんな僕に何をしろと言うんだ」

「でも、魔理沙が小さいころからの知り合いなんでしょ?あの子の今の性格ができあがるまでに、あなたの影響が全く無いとは・・・」

「知ったことじゃないな。魔理沙は魔理沙さ。彼女は彼女らしく生きているだけだよ」

「・・・私の話を、まともに聞く気はあるのかしら?」

 パチュリーの目をまともに見もせず、どこか力の入っていない調子で言う霖之助に対し、パチュリーの苛立ちも募り始めてきたようだ。

「そうだな。僕としては、幻想郷でも指折りの魔法使いと話す機会に巡りあえて、さぞ高尚な話を聞くつもりだったのだが。それが、いざ実際に会ってみれば、君の口から出るのは愚痴と見当はずれのことばかりだったのでね。少々落ち込んでいるだけさ」

 ・・・もはや、はっきりと言葉に苛立ち・・・いや、敵意のようなものが含まれていた。
 霖之助のその言葉を聞いたパチュリーは、顔を真っ赤に染め上げ、椅子の肘掛けを拳で叩いた。

「・・・! 何よその言い方!」

 しかし、霖之助は全く表情を変えることはない。

「人を呼びつけておいてあんなことを言われれば、僕だって気分を害するさ。せめて自分から僕のところへ出向くべきなんじゃないか?」

「何で私が盗人の基地みたいなところに出向かなきゃならないのよ!」

「だから。その勘違いをやめてくれないか。だいたい、魔理沙の被害にあっているのは君だけじゃないんだ。情けない話だが、自分の店すら守れないのに、僕が君の図書館を守れるわけがないだろう」

「あなたの店のガラクタと、私の図書館の貴重な本を一緒にしないでもらえる?」

「・・・僕が扱っているのはガラクタじゃない。みんな、何かしらの目的を持って作られた大切な道具達だ」

「あら。それはすいませんでした。月に行きたい、と言っているのにスッポンの甲羅を売りつけるような道具屋だから、ガラクタしか無いんじゃないかと勘違いしてしまったわ」

「・・・!」

 ・・・売り言葉に、買い言葉。
 この二人の会話を言葉で表すのならば、その一言で済ませることができるだろう。

 霖之助が鋭い目付きで睨みながら黙るのを見て、パチュリーは嘲るような笑みを浮かべた。

「あら? なにか言いたいことは・・・うっ」

 勝ち誇ったように言おうとしたパチュリーだったが、突然口元を手で抑えると、激しく咳き込み始めた。
 口論となってはいたが、見ていて気の毒なほどに激しく咳をするパチュリーの様子を見ると、霖之助も彼女を気遣う素振りを見せる。

「大丈夫か?」

「・・・っ!平気よっ!」

 パチュリーの背中に置かれようとした霖之助の手を、彼女は払いのける。しかし、その手には殆ど力がこめられていなかった。
 大声を出したせいで、パチュリーの咳はますます激しくなる。

「パチュリー様。お部屋へ」

 霖之助の後方で控えていた咲夜が、パチュリーの背中をさすりながら肩を貸す。
 力なくパチュリーは立ち上がり、霖之助を睨みつけた。

「・・・店主。覚えてなさいよ・・・!」

 喘音混じりの声でそう言うと、すぐにまた咳き込み、咲夜に支えられながらパチュリーは図書館を後にした。

「・・・大丈夫だろうか」

 そう呟いた霖之助の声に、もうパチュリーに対する怒りは感じられない。
 まあ、もともと本気で怒っていたわけではない。一方的に物を言われるのが我慢ならない性質であっただけで、その実、霖之助は冷静であった。・・・パチュリーがどうだったかは分からないが。

 パチュリーが出て行った扉を見つめる霖之助に、やや遠巻きに二人の口喧嘩を観戦していた小悪魔が歩み寄った。

「大丈夫ですよ」

 そう声をかけられ、霖之助は初めて小悪魔の存在に気がついた。何も言わず、軽く会釈をする。

「君は・・・」

「私は小悪魔です。パチュリー様の使い魔で、この図書館の維持を手伝っています」

 丁寧にお辞儀をしてから、小悪魔を続けて話す。

「パチュリー様はお体が丈夫ではなく、普段からよく喘息の発作が起こるんです。少し休めば治ります」

 気遣う霖之助を安心させるように、穏やかな声で小悪魔は言う。

「それならばいいが・・・」

「・・・それから、申し訳ありません。パチュリー様を責めないでください」

「責める?」

 突然頭を下げ謝罪した小悪魔に、霖之助は鸚鵡返しで尋ねた。

「パチュリー様は、説明したようにお体が丈夫ではありません。本当でしたらパチュリー様が貴方の店を訪ねるべきなのですが・・・咲夜様が貴方を呼ぼうと提案してくださって。それであなたをここへ招いたのです」

 小悪魔の言葉を聞いて、霖之助は納得した。
 確かに、香霖堂は・・・少なくとも、清潔な場であるとは言い難い。健康な体に害をもたらすというほど汚くは無いが、埃っぽくはあるし、喘息持ちのパチュリーが発作を起こしてしまった場合対処が難しい。
 それに、霖之助は普段から咲夜に対し、「大図書館を一度訪ねてみたい」とこぼしていた。だから、大図書館へ招く良いきっかけにもなると咲夜は判断したのだろう。

「・・・いや、僕こそ申し訳なかった。大人気無かった・・・という言い方もおかしいが」

 霖之助が自分に呆れるようにため息をつくと、小悪魔は苦笑した。

「パチュリー様もですよ。この前白黒の魔女に盗まれた本がかなり貴重な物だったので、機嫌が悪かったんです。・・・それにしても」

 言葉を途切らせると、小悪魔はくすっと笑った。

「どうかしたのかい?」

「いえ。パチュリー様があんなに声を荒らげているところを初めて見たので・・・。なんかおかしくて」

 くすくすと笑いながら言われると、なんだか気恥ずかしくなってきて、霖之助はわずかに頬を染めた。

「・・・それに、パチュリー様は霖之助さんに会いたがっていたんですよ」

「む。そうなのかい?」

「ええ。咲夜様から話は聞いていましたし、外の世界の話を聞いてみたい、と。それと、喘息対策に何かいい道具は無いか聞きたいとも言っていました」

「・・・そうか」

「とにかく、折角足を運んでいただいたので、好きな本を読んでお待ちください。パチュリー様も、喘息が治まればもう少し落ち着いて話ができると思うので」

「あ、ああ」

 言われてから、霖之助は周囲を見渡した。

 視界に映るは、本、本、本。
 大図書館の名に恥じない凄まじい量の書物が、本棚の一つ一つにぎっしりと敷き詰められ、それがまるで無限であるかのように並んでいる。
 本の虫、と言われても仕方ないほど本好きである霖之助にとっては、この光景もまるで宝船のように見えているだろう。

 しかし・・・今の霖之助は、本を読む気分にはなれなかった。どうしても、胸のもやもやとしたものが消えなかった。
 少し考えこんでから、霖之助は小悪魔に向かい直った。

「小悪魔。頼みがあるんだが・・・」





「何よ!あの男は!」

「香霖堂の店主です。パチュリー様」

「そういう意味じゃ・・・ごほっ!ごほっ!」

「大声を出してはお体に障りますよ」

 パチュリーの自室。その部屋に置かれたベッドの上にパチュリーを座らせながら、咲夜は心からパチュリーを気遣うように言った。
 相変わらず喘息特有の渇いた咳をしながら、パチュリーは力無くベッドに腰を下ろす。

「お水といつものお薬です。ゆっくり、お飲みになってください」

 時を止めて持ってきたのだろう。咲夜の手には気づけば水の注がれたグラスと錠剤の薬が置かれていた。
 震えた手で錠剤とグラスを受け取ると、錠剤を口に含み、グラスの水をゆっくり、ゆっくりと流しこむ。
 数回に分けて水を飲むと、グラスはすっかり空となった。

「もっとお飲みになられますか?」

「・・・いや、いいわ。・・・ありがと」

 グラスをベッドのすぐ側に置かれた棚の上に置きながら、パチュリーは短く答えた。
 その声は先ほどよりもずっと落ち着いているが、呼吸をすれば喘音が響くことは変わっていない。

「・・・話を戻すけど、なんなのよあの男は。あんな無礼な奴、初めて見たわ」

 咲夜にたしなめられたからか、声の調子は抑えて・・・しかし、言葉に苛立ちを隠すことは無く、パチュリーは咲夜に毒づいた。
 咲夜はパチュリーの言葉を聞くと、深く頷いた。

「ええ。私も初めて見ました」

「そうでしょう?あんな男の店に、まともな物があるはずが・・・」

「あんなに人と不機嫌そうに話す店主さんを、初めて見ました」

 パチュリーが言葉を終える前に咲夜はしれっと言った。
 ゆっくりと首を咲夜の方へと向け、酷く不満そうな目で、パチュリーは咲夜を見上げた。

「・・・どういうことよ」

「そのままの意味です。パチュリー様」

「私が悪いって言うの?」

「別にそうとは。ですが、さっきも申しました通り、あんな態度の店主さんは初めて見ました。霊夢や魔理沙に対してでさえ、穏やかに接している印象しかないですし」

 魔理沙に対してでさえ、と言ったところで、「うっ」とパチュリーはうめいた。コソ泥以下と言われているようでショックだったのかもしれない。

「私が何をしたのよ」

「最初に、出向いたのではなく呼び寄せた理由を話すべきでしたね。気に病むことはありません。きっと小悪魔が説明してくれているでしょうし」

「別に気に病んでなんかないわよ。それにしたって、あの店主の言い方は腹がたったし。

 ふん。と不貞腐れたようにそっぽを向くパチュリーを見て、咲夜は思わず微笑んだ。
 しかし、また咳を数回漏らしたパチュリーを見て、慌ててその背中をさすった。

「ここでお休みになっていてください。店主さんには私からも話しておきます」

「・・・別にいいわよ」

「いえ。店主さんは、話していてとても楽しい方です。それを知らないまま仲違いは良くありません」

「楽しい、ねえ」

 信じられない。といった口調で、パチュリーは呟いた。

「あのような会話しかしていないのでは仕方ありません。あれは店主さんの普段の姿では無いのですから」

 まるで心を見透かしたように言う咲夜に対し、パチュリーはむっとした表情を浮かべた。

「よく知っているのね」

「知っていますとも。まあ、『普段の姿』を。ですが」

 パチュリーが水を飲んだコップを手に持ち、部屋の扉へ歩きながら咲夜は答えた。
 そして扉のドアノブへ手をかけ、

「それでは。お体を大事になさってください」

 扉を開きそう言い残すと、咲夜は部屋をあとにした。

「・・・ふん」

 残されたパチュリーはすねたように鼻を鳴らし、ベッドに横になろうとした瞬間だった。

「パチュリー様」

 扉が僅かに開かれ、咲夜の顔が半分ほど覗いていた。

「・・・何? 入りなさいよ」

「いえ。一言お伝えするだけなので。・・・お客様です」

「は?」

 咲夜の言葉の真意を問い正す時間も無く、扉はまた閉まってしまった。
 わけがわからず、パチュリーは首を傾げた。
 すると。

「・・・あー。パチュリー?」

 閉められた扉の向こうから突然聞こえてきた男の声を聞いて、パチュリーは目を見開いた。

「店主!? なん・・・ごほっ!」

 大声を出したのでまた喘息の発作がぶり返し、パチュリーは数秒間だが、激しく咳き込んだ。

「大丈夫か?」

 パチュリーを気遣うように霖之助が尋ねると、パチュリーは呼吸をゆっくりと整えた。喘音が響くたびに咳をしたくなる発作にかられるが、ゆっくりゆっくりとその症状を緩和させていく。

「あんたのせいでしょ・・・! 何の用よ。というか、何故ここが・・・」

 小さな・・・しかし、扉の向こうにいる霖之助に聞こえる程度の声は搾り出して、パチュリーは質問を次々に投げかけた。

「・・・その通りだな。すまない。ここへは小悪魔に案内してもらったんだ。用事は・・・謝りたかったから、だ」

「謝る?」

「そうだ。・・・また発作が出るといけない。不快だったら言ってくれ。すぐに帰るよ」

 図書館で話した時とは随分と印象が違う霖之助の話し方に多少の戸惑いも感じたが、わざわざ謝る、と行っているのに追い返す理由も無い。
 何気なく棚に目をやると、水が注がれたグラスが3つほど並んでいた。当然、咲夜がいつの間にか用意した物だろう。

「・・・いいだろうか?」

 何の返答も無いことを、怒りがおさまっていないと思ったのか。恐る恐る、といった様子で霖之助は尋ねた。

「・・・いいわよ。聞いてあげる」

 あくまで、私の方が立場は上。そんなニュアンスを込めて答える。

「ありがとう」

 しかし、一切気を損ねた様子の無い声が返ってきて、パチュリーはますます調子が出なかった。

「・・・まず、僕の店に来られなかった理由を小悪魔から聞いたよ。喘息のことは知らなかった。それなのにあの無礼な物言い。・・・許してもらいたい」

 心底申し訳なさそうな声でそう謝罪されてしまうと、パチュリーは悪態をつくこともできなかった。

「それと・・・。僕も、少し機嫌が悪かった。いや、図書館で言った通り、といえばそうなんだが。大図書館へはずっと来たかったし、君とも話をする機会があればいいと思っていた。それなのに、呼ばれた理由が、魔理沙のことを言うためだけだったのか。と考えると、がっかりしたというか・・・なんというか・・・」

 終わりは少しはっきりとしない口調で、霖之助は一度言葉を途切れさせる。
 パチュリーはただ黙って、その言語を聞くだけだ。・・・正直な話、この時点でパチュリーからも怒りという感情は消えていた。

「魔理沙には、僕からも言っておくよ。僕が注意した程度で聞いてくれるかどうかは分からないが・・・言わないよりは、マシなはずだ」

 苦笑混じりの声。その声で、霖之助も魔理沙に振り回されっぱなしであろうことが容易に想像できて、パチュリーは呆れるようなため息を吐いた。

「まあ、言いたいことはこれくらいだな」

 霖之助がやや満足そうに言うのを聞いて、パチュリーは笑みを浮かべる。しかし、その笑みは何の裏も無い純粋な笑みではなく、少し不敵なものであった。

「・・・あなたの言葉が、100%本心とは思えないのだけど?」

 喋りだそうとした際に咳が出てしまいそうだったが、なんとかこらえ、そう尋ねた。
 そう。パチュリーは、先ほどの謝罪が霖之助の本心だとは思っていなかった。さっき、あんなにもはっきりと機嫌を損ねていた人物が、ここまで下からの物言いで謝罪をすることができるわけがない。

 そして、心の底には不満の残っている者にこんな言葉をぶつければ、例えドア越しであっても、言葉に多少の迷いが生じるに違いない。
 その、たった一つのほころびさえ見つけることができれば、あとは本心を暴くことなど簡単だ。

『言葉で取り繕ったあなたの本心、見てやろうじゃない』

 先ほどよりも不敵な笑みを携えて、心の中でパチュリーは呟いた。

 が。聞こえてきた霖之助の言葉は。

「ああ。そのとおりだな。僕ははじめから、僕に全ての非があるとは思っていない」

 パチュリーの想像に全く当てはまらない答えであった。

「・・・は?」

 パチュリーがそんな間抜けな声を漏らすが、聞こえたのか聞こえなかったのか。霖之助は続けて発言した。

「まず、本来であれば君は、自分の体が弱いことをしっかりと僕に話し、図書館へ呼ぶことになってしまったことを一言でも詫びるべきだろう。それと、君は確かに優秀な魔法使いだ。しかし、物言いも上から上からで、あれでは僕が気分を損なうのも仕方がないだろう。ちゃんと手順を踏んで会話をしていれば、僕だってあのような物言いは・・・」

「ちょ、ちょっと待って」

 誰から見られているわけでもないのに、手をめいっぱい扉へと突き出しながら、パチュリーは霖之助の言葉を止めた。力んだ声を出したせいで、二、三度咳がこぼれる。

「・・・あなた、謝りに来たのよね?」

「ああ。その通りだ。さきほどの謝罪は全て、心からの言葉であり、嘘偽りは一切無い。・・・たった今の言葉も、ね」

 悪びれた様子もなく(そもそも悪いことは言っていないが)、当たり前のこと、とでも言いたげに霖之助は言ってのけた。
 しばらく、パチュリーは何も言えなくなった。なんというか・・・こう、この男に対する考えを改めよう。と考えていたさっきまでの自分が恥ずかしく思えてきて。
 額に青筋を浮かべながら、パチュリーは口を開いた。

「・・・なるほど。あなたは遠まわしに私を馬鹿にしに来たわけね?」

「とんでもない」

 ほとんど間を置くことなく、霖之助はきっぱりと言い放つ。

「僕はしがない道具屋だ。だから、誰かの上に立つことも、誰かの下に置かれることも望まない。そんな立場というものは道具屋には必要無いからだ。幸い道具の仕入れ先にも困ってないしね。つまり。できれば君とも対等な関係を築きたい。

「・・・あなたと、私が? 私のこと、知ってる?」

「もちろん。七曜を操る大魔法使い、パチュリー・ノーレッジ。・・・しかし、僕と君が何かを競うことは無いだろうし、争う理由も無いだろう。それどころか、僕は君と協力していきたいくらいさ。僕は大図書館に深い関心があるし、君はその大図書館に最も詳しい。更に、君の持つ知識は、僕の持つそれを遥かに凌駕しているだろう。そんな君と、様々な議論を交えてみたいとも思っている」

「・・・結局、何が言いたいのよ」

 殆ど一息で話した霖之助に、パチュリーはやや呆れ気味に尋ねた。

「すまない。少しだけ話が逸れた。・・・僕が言いたいのは、くだらない言い争いなんかで、僕と君との交流が絶たれるのは勿体無いということさ」

 一度咳払いをしてから霖之助は答えたが、その言語はやはりいまいち要領を得ないものだった。

「・・・つまり、『僕のことを許せ』ということ?」

「少し違う。いや、ある意味正解か。先ほどの僕の謝罪は君にしっかりと聞いてもらえたと思う。でも・・・『それ』だけじゃ、僕と君との関係は対等には成り得ない。『僕の謝罪』だけじゃ、まだ足りないんだ」

 その言葉を聞くと、パチュリーは思い当たることがあり、額に手を当てると、「やれやれ」とでも言いたげに軽く首を振った。

「・・・はあ。なんとなく。なんとなく・・・あなたの言いたいことが理解できたわ」

 深い溜息混じりにパチュリーは答えた。
 しばらく考え込んでいたが、突然、意地の悪い笑みを浮かべる。

「あなたと私が交流すれば、あなたが得る物は大きそうね。でも、私は何を得るの? 私のように魔法も使えず、私より知識も劣るあなたが、私に何を与えてくれるの?」

 余裕のある声で、パチュリーはそう尋ねた。
 パチュリーの中には、先ほどの突然の手のひら返しのような発言に対する怒りも無かった。
 今彼女がしているのは、見定め。
 森近霖之助という男がどこにでもいるような凡夫であるならば、今までのやり取りすら無駄な時間・・・いや、むしろ不愉快とすら言えるだろう。
 しかし、咲夜は言っていた。「店主さんは、話していてとても楽しい方です」と。
 霖之助の持っている知識は、動かない大図書館、という二つ名まで存在する彼女とは、比べるのも可哀想な程少ないだろう。魔法の知識に絞ったとしても、それは変わらない。
 それでも・・・。それを分かっていながらも、咲夜は霖之助という男を「面白い」と評価した。

 咲夜にそう言わせる霖之助がどんな人物であるか、興味が出てきたのだ。
 そう。霖之助の・・・普段の姿、に。

「・・・そうだね。僕の知識は君には遠く及ばない。強力な魔法も使えない。・・・でも、僕は君の知らない知識だって持っている。僕にしかできないことだって、存在する。例えば・・・喘息の対策になるような道具を作ったりとか、ね」

 霖之助の言葉を聞いて、パチュリーは頬をわずかに染めた。小悪魔が余計なことを言ったのだろうと、すぐに理解することができたからだ。

「・・・あと、失礼なことを言うかもしれないが・・・この館に、君の話についていけるほど教養がある人物はいないと思う。そんな時は、僕でよければ話し相手くらいにはなろう。君についていけるかどうか不安ではあるが、僕にとっても、君の話を聞くだけでとても有意義な時間を過ごせるだろうからね」

 苦笑混じりに霖之助が言うのを聞いて、パチュリーは微笑んだ。

「しがない道具屋が、ずいぶんと自信を持っているのね」

「なに。少しは強がらないとね。これでも僕は男だ。君とまともに談義をする前に、自分に見切りを付けるのはあまりにも情けないからな」

 ・・・なるほど。
 咲夜の、言う通りだ。

「・・・面白い人ね」

 その声は・・・とても穏やかで。霖之助も少し目を丸くするほどだった。もちろん、そんな霖之助の表情はパチュリーから確認することはできないのだが。

「・・・私も、悪かったわ。ごめんなさい」

 そして、謝罪。
 これが、霖之助が・・・いや。今は、二人が望んでいたこと。

「ああ。僕も、すまなかった」

 霖之助も、改めて謝罪する。

 これで、二人の間のわだかまりは完全に解けたのだ。

「・・・さて、今度、親交の証として何か道具を持ってこようと思うのだが・・・」

 多少はあった緊張の糸も切れたところで、扉に背中を預けようと霖之助はよりかかる。が、扉があるべきところに扉は無く、霖之助は危うく背中から転びそうになってしまった。
 それは・・・いつの間にか、パチュリーが扉を開いていたからであった。

「・・・もう、体は大丈夫かい?」

 慌ててパチュリーへ向き直ると、パチュリーはこくんと頷いた。

「少なくとも、話したり歩いたりするくらいなら、ね。薬も効いてきたし。・・・扉越しじゃ、話すのも楽じゃないでしょ?」

 穏やかな笑みを浮かべながらそう答えるパチュリーを見て、霖之助は改めて安心した。

「・・・それもそうだな。図書館へ戻ろう」

 パチュリーはまた頷くと、ゆっくりと図書館へ向けて歩き始めた。
 そんな彼女の歩幅に合わせ、霖之助もゆっくりと歩き出す。

「・・・その、小悪魔からは色々と話を聞いたのね?」

「まあ、ね。空気を清浄する道具ならば過去にも作ったことがある。それを改良して持ってこようと思うのだが」

「タダで貰うわけにはいかないわよ?」

「それはもちろんそうだ」

 先ほど、「親交の証」とかなんとか言っていたからパチュリーは念を押したのだが、霖之助の意外な返答に多少戸惑った。

 が、霖之助は微笑みを携えて、こう続けた。

「代金は、『この図書館を利用できる権利』・・・で、どうかな?」

 その言葉を聞いて、パチュリーは目を見開いた。
 しかし、すぐに彼女も笑みを浮かべた。

「少し高いんじゃない?」

「む。そうだろうか。なかなか手頃な値段だと思うのだが・・・」

 ふーむ。と、わざとらしく顎に手を当て考えこむ霖之助を見て、パチュリーは、小さくだが・・・声を出して笑った。

 この男にも、冗談が言えるのか。

 そんなことを考えながら、パチュリーは答えた。

「まあいいわ。それでお願い」

 その言葉を聞くと、霖之助は満足そうに頷き、

「まいどあり。・・・そして、これからよろしく。パチュリー」

 そう言うのであった。

 そして、そんな霖之助に。

「・・・ええ。よろしく。・・・森近」

 パチュリーも、応えた。
 初めて呼ぶ、彼の名と共に。








 後日談



「おかえり。咲夜」

「ただいま戻りました。パチュリー様。今日は、香霖堂の店主さんより伝言を預かってきました」

「・・・何?」

「以前から店主さんに頼んでいた、空気清浄アイテム。それが完成したので明日届けに行きたい。そして図書館も利用させてもらいたい。とのことです。パチュリー様が断る可能性は低いと思われたので、明日ここを訪ねることを了承しましたが・・・問題はありませんね?」

「ええ。大丈夫よ」

「それならば。私はこれで」

「あ。待って、咲夜」

「はい?」

「いつごろ、来るの?」

「午前は店を開くと申していましたので、午後からだと思われます」

「・・・そ。ありがとう」

「・・・嬉しそうですね」

「そうかしら」

「ええ」

「気のせいよ」

「そうですか」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・いかがですか。店主さんは」

「・・・面白い人だと思うわ。あなたの言うとおり、ね」

「それはそれは。良いことです。・・・ところでパチュリー様」

「何?」

「そんな本に頼らずとも・・・クッキーの作り方ならば、私が教えますよ?」

「・・・・・・・・・・・ありがと」














 あとがき

 いかがだったでしょうか。
 俺の書く霖之助はなんだか凄い穏やかな感じですが、香霖堂を読む限り普通に怒るしそれなりにものぐさだしで凄い人間らしいですね。今回は霖之助も少し怒らせてみました。多分本当の霖之助こんなにいい人じゃないですけど。
 図書館は地下にあるのかどうなのかよく分からなかったので、あまりその辺に触れずやんわりと書いています。これが、東方知識に疎く、だからといって議論をするほどもそういう設定に興味の無い俺の書く文章です。何を言っているんだろうね。

 では。


 


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