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銀の働き部屋

管理人銀河の、日記兼テキストサイトです。取り扱うジャンルは主にヤングガンガン連載のWORKING!!になると思います。最近は東方の霖之助小説を書くのにも夢中。どうかよろしくお願いします。リンクはフリーです。感想は常に受付中です!もらえたら泣いて喜びます

繋がる想い



 バレンタインなんだからバレンタインネタのひとつやふたつ書きたいところだけど俺には無理

 というわけで、リクエスト小説更新しようと思います!!くれないさん、お待たせいたしました!

 くれないさんからのリクエスト内容は、

「佐藤×八千代で 冬のデート中に一本のマフラーを二人で巻くシチュ」

 とのことでしたので、その通りに書かせていただきました。

 とりあえず書き始めたものの、オチが見つからず。んで4日くらい前に別の展開を思いついたので書いていた4000字くらいを全消去して書きなおしたところ、想像以上に早く書き上げることができました。それでも、リクエスト貰ってから随分と時間が経ってしまっているのですが・・・。それでも、無事に書くことができて良かったです。

 というわけで。くれないさんからのリクエスト小説。佐藤×八千代で「繋がる想い」です。タイトルはいつも通り安直です。
 甘さはやや甘です。前回のリクエストがギャグ色が強かったので、比較的シリアスめです。いや。そんなにシリアスじゃなかったら、それは、ごめんなさいなんですけど(ぇ

 それでは。続きからでどうぞ。

 あとがきの後にコメント返信もあります!






 冬。

 そう。日本は今現在、冬真っ最中である。

 当然、北海道も冬である。そりゃあもう、冬である。恐らく、日本で一番冬である。

 雪はアホのように降り積もり、大気は嫌がらせのごとく凍てつき、どの家庭も二重扉で暖房をガンガンと焚き付けている現状である。

『北海道民なら、そんな寒さも慣れたでしょー?』

 とか言う馬鹿がたまにいるが。もう一度言おう。馬鹿。北海道民だろうがなんだろうが、寒いもんは寒いんだよ。言わせるな余計寒い。

 そう。北海道は、寒いのだ。

 この日も、同じように。






 寒い、冬の日のことであった。
 既に日は沈みかけ、それなりの人で賑わった街には街灯が灯りはじめている。
 とはいえ、時刻自体はまだ5時も届いていない、という時間で、夕食にもまだ早い。そんな時間帯の出来事。

 ・・・俺は、普通に街をぶらついていただけだ。特に目的もなく、ただただ、ぶらついていただけ。
 今日はバイトのシフトが一切入っていない休日だ。まあ、普段から大学の講義は穴も多く、遊ぶ時間が全く無いわけでは無いが、やはり完全な休日、というのはどこか精神的に余裕が多い。
 だから俺は、特に目的も無いのに、こうして街にやってきたわけだ。
 もし買いたい物があったら買って、時間になったら牛丼屋かどこかで夕飯を食べて。
 そんなくだらないことしか考えずに、街中を歩いていた。
 ・・・本当に、それだけだった。
 そうしたら・・・

「・・・佐藤君?」

 後ろから聞き覚えのある声が聞こえて、振り向いた。
 聞き慣れた。という俺の感覚は、決して間違いではなかった。
少し離れた所に、ファッション店から出てきたばかりの八千代がいた。私服で、少し厚めのコートを羽織った、八千代の姿が。

「・・・よお」

 街中の突然の出会いに多少驚きはしたが、普段見慣れない私服姿を見てときめくほどガキでも無く、俺は極めて普通に、そう言葉をかけた。

「佐藤君も、バイトのシフト入ってなかったのね」

「・・・まあな。珍しいな、お前の休みも。・・・そういや、少し前にも休み取ってたか?」

 店の前から、俺の傍へとことこと歩いて来る八千代へ、少し記憶を辿るように俺は問いかける。
 八千代は俺のすぐ傍で立ち止まると、こくん、と一度頷いた。

「ええ。今日も休みで。折角だから服でも買いに、って来たんだけど」

 少し恥ずかしそうに言う八千代を見て、「こいつもショッピングとかするんだな」とか思ってしまう俺は、無礼な奴だろうか。
 答えは、否だ。八千代の性格をある程度知る者であれば、このような思考に至るのは全く不自然なことではない。

「・・・お前も、ショッピングとかするんだな」

 そして、思ったことを隠すこともしない。
 こんなことで、こいつが機嫌を損ねたりするわけないと、信じているから。

「そうね。食材の買い物とかは普段からするけど、こういう風に、服の買い物はあんまりしないわね」

「・・・だろうな」

 以前、八千代と共に携帯ショップへ携帯電話を買いに行った時のことを思い出しながら、俺は少し含みのある言い方で答えた。

 八千代は、人見知りだ。それは、少なくとも、俺と八千代が16歳だった時から変わらない。
 俺と初めて会った時もそうだったし、携帯ショップではまともに店員と会話すらできていなかった。「こんな調子じゃあ、普段はどう買い物をしているんだか」と思わずにはいられない程に。
 さっき、八千代のショッピングに多少なりとも驚いたのもこういう理由があったからだ。店員と会話をしなければならないことも多い服の買い物など、最も意外なところだ。

「・・・その、店員さんと話すの、苦手で」

 別に尋ねても無いのに、指をもじもじと動かし、真っ赤な顔で八千代は呟くように言った・
 そんなことは、言われなくても分かってはいるのだが。というか、今正に考えていたことだし。

「・・・あ。でもね!この前買い物に来た時は、ぽぷらちゃんが色々助けてくれたの!」

「へえ。この前の休みもショッピングだったのか」

「ええ!おかげで、ずっと買いたかった服も買えて・・・。あ、この服がその時に買った服なのよ!」

 どこまでも幸せそうな顔で、八千代は俺に服を見せようと手を広げた。
 元気で、嬉しそうで、幸せそうな八千代が見られて、正直大満足だ。

「良かったな」

 何の裏も無い純粋な言葉を贈る。
 それだけで、八千代は本当に嬉しそうに頷いてくれた。

「・・・佐藤君も、買い物?」

「ん。まあ、な。特に目的も無くぶらついてた」

 隠していても仕方がないので、素直にそう伝える。
 すると、八千代は何かを言おうと口を開いたが、すぐにその口を閉じて、俯いてしまった。
 ・・・? 何だ? こころなしか、顔も赤い。

「・・・どうした?」

 八千代がこのような状態になるのは、特別珍しいことではない。ことではないが、放っておくわけにもいかず、俺は気遣う声をかける。

「・・・あ、あのね? もし、佐藤君が良かったら・・・」

「・・・良かったら?」

「・・・わ、私の買い物に、付き合ってほしいな、って」

「は?」

 赤い顔を上げて、酷く恥ずかしそうに八千代が搾り出した言葉に、俺はついそんな声が漏れてしまう。

「え、えっと。さっきも言ったけど、私、店員さんと話すの苦手で。もし佐藤君が一緒にいてくれたら、凄く助かるな、って」

 指先をもじもじと突き合わせながら、八千代は一つ一つ言葉を探すように言う。
 俺は、そんな八千代の言葉を、半ば放心しながら聞き入っていた。

 ・・・一緒に、買い物。

 いや。そりゃあ、俺だって暇だし。別に断る理由なんか、一つも無い。

 ・・・だけど、それは。つまり。

「・・・いいのか?」

「え?」

「・・・男の俺が一緒でも、いいのか?」

 俺がゆっくりと紡ぎ出した言葉を聞くと、八千代は顔をぱあっと明るくさせた。

「もちろん!」

 その言葉を聞くと、何故だか物凄く安心して、俺はゆっくりと息を吐いた。熱のこもった吐息は、普段よりもずっと白く、薄くなりながら空気に溶けていく。

「あ。でも、佐藤君の買い物は・・・」

「さっきも言ったろ。別に、用事なんか無かったんだよ。・・・ほら、行くぞ」

 いつまでも道の真ん中で話しているのは、なんとなく気恥ずかしい。
 この街へは車で来たが、この周辺は様々な店が密集しているため、わざわざ車に戻る必要も無いだろう。
 俺は、普段よりも幾分か早足で歩き始める。

「あ。佐藤君」

 すがるような八千代の声が聞こえて、俺は足を止めた。
 ・・・しまった。こんなに早く歩いちゃ、八千代が追いつけないか。
 慌てて振り返って、八千代を見る。
 すると、八千代は俺が元来た方向を、おそるおそる、といった様子で指さしていた。

「・・・あの。行きたい店は・・・あっちなの」

 ・・・・・・・・・。

 はい。

 まず、1個。へたこいた。




 八千代と最初に訪れた店は、出会った場所からさほど遠くも無い、ごく普通のレディースファッション店であった。
 服の値段が特別高いわけでも無い。店の見た目が特別に綺麗なわけでもない。よくも悪くも、普通の洋服店。八千代のイメージには合ってるな。と、勝手なことを俺は心の中で呟いていた。
 レディースしか取り揃えていない店に入るのは初めての経験だが、八千代の付き添い、という形であったので、入るのに特に抵抗は無かった。実際、周囲を見渡せば、俺達と同じように男女で服を選んでいる客の姿も視認できる。
 ・・・まあ、奴らと俺達には、決定的な違いがあるのだが。

「ごめんね佐藤君。女物の服しか無いから、退屈よね」

「別にいいよ。ゆっくり選べ」

 俺を気遣う八千代に対してそう言うと、八千代は少し申し訳なさそうにしながらも、服を選び始めた。

 ・・・しかし。男女二人でこうして服を買いに来ている。
 これは、いわゆるデート、というやつなのだと思うのだが。何故、俺はこんなにも落ち着いているのだろうか。
 突然自分が立たされている状況に対して防衛反応が働き、頭が麻痺しているのか。
 それとも、半分夢だとでも思っているのか。
 ・・・両方、かもしれない。

「・・・」

 適当に周囲を見回してから八千代に視線を移すと、八千代は一着の服を手に取り、真剣に見つめている最中だった。

「・・・それ、気に入ったのか?」

 俺が背後から声をかけると、八千代は肩を大きく震わせてから、赤い顔で俺へと振り返る。

「あ、いや。気に入ったというか・・・」

 ・・・なんでこいつはこんなにも動揺しているんだ。

「試着してみれば?」

「・・・う、うん」

 相も変わらず恥ずかしそうに、八千代は試着室へ足早に向かっていった。

 ・・・流石に試着室の前で待つわけにもいかない。だからといって、八千代の声が届かない場所にいるわけにもいかない。
 とりあえず試着室のある通路に行こう。と、歩き出す。

「お客様」

 歩き出そうとした瞬間に、店員に声をかけられ、俺は声の方向へ振り返った。
 そこには、女性店員がわかりやすい「営業スマイル」を浮かべて立っていた。
 ・・・正直、相馬の「それ」よりも胡散臭く見えるような。

「・・・なんすか」

 嫌な予感しかしなかったが、この空間で無視を貫き通すことができる気もしなかったので、俺は出来る限り無愛想な声で答えた。

「彼女さん、とてもお綺麗ですね」

 ・・・ある意味、予想通り。しかし、非常にむかっ腹の立つ台詞が耳に飛び込んできて、俺は眉間を手でおさえた。

「・・・彼女じゃ、ないです」

「またまた」

 何が「またまた」なのか。

「彼女さん、おとなしそうな方ですね。こちらの服など、とても色が落ち着いていて、彼女さんにお似合いだと思いますよー」

 ・・・佐藤潤、二十歳。今日、いいことを学んだ。
 こういう店の店員、腹立つ。

「・・・いや。ちょっとそういうの分からないんで」

「あと。小物になるんですが、こういったアクセサリーをつけてみるのも、彼女さんの魅力を引き出すと・・・」

 聞いちゃいねえよ。

「・・・もう服選んで、今試着室なんで」

「プレゼントしたら、きっと喜ぶと思いますよー」

 うるせえよ。どこまでもうるせえよ。
 例えこの店員にそんな気が無かったにせよ、「プレゼントでもしろよ甲斐性なし」に聞こえてしょうがねえんだよ。

 以前八千代と訪ねた携帯ショップ店員に勝るとも劣らないウザさの店員と話して、頭痛や胃痛の一つでも発症しそうだ。
 と思ったその時。

「佐藤くーん?」

 試着室から八千代の声が聞こえて、これ幸い、と店員に一瞥もくれることなく俺は試着室へ向かった。

「あ。お客様・・・」

 それでも俺に無理矢理話しかけようとする店員に振り返り、言い放つ。

「『彼女』が、呼んでいるので」

 言ってしまったらもう、店員の反応を確認することもなく、俺は試着室へとまっすぐ歩き出す。顔の熱が、試着室に辿りつくまでに引いてくれることだけ、ただただ願いながら。

 俺が試着室の前へと着いた瞬間、足音で判断したのか、八千代・・・さっきの俺の言葉通りなら、俺の『彼女』が、試着室のカーテンからひょこっと顔を出した。

「あ、あのね。服、似合うかどうか見てもらいたくて・・・」

 恥じらいながら言う八千代は、いつにも増して可愛くて。更に、こんなシチュエーションに巡り会えるとは、朝飯に梅茶漬けをすすっていた時は思ってもいなかったわけで。
 ・・・これじゃあ、本当にデートみたいじゃねえか。本当に、『彼女』みたいじゃねえか。

「・・・ああ。いいぞ」

 断る理由は無い。断れるわけが無い。

 八千代は顔を赤くしながらも嬉しそうに頷き、カーテンの内側に戻る。
 すると、すぐにカーテンが開かれ、選んだ服を身に纏っている八千代の姿が現れた。

 八千代の選んだ服は、冬という静かな雰囲気に合う、白のカーディガンだった。活発な性格ではなく、穏やかな八千代に。そして、今日八千代が来ている服にも非常によく似合っている。
 少なくとも俺はそう感じて、八千代の姿に見入ってしまっていた。

「ど、どうかしら?」

「・・・ああ。似合うと思う。凄く」

 俺は、気の利いた顔を作れているのか。
 そんなことだけが心配だったが、俺が言うと、八千代は嬉しそうに顔をほころばせた。

「そ、そう? ・・・じゃあ、これ、買うわ」

「ああ」

 元の服に着替えるため、八千代はすぐにカーテンを締める。
 ・・・本当に。普段、あいつの私服を見る機会が少ないのが残念だ。
 ていうか。今の場合「俺が買ってやるよ」とか言うべきだったのか?・・・いやあ、付き合ってるわけでもないのにそれはおかしいよな。
 だからといって、これじゃあ本当にただ「一緒にいるだけ」という気もする。だからといって、俺にできることが何かあるか?
「似合ってる」
 これを言うだけで、いいもんなのか? 八千代は、本当に「嬉しい」と思っているのか?

 ・・・分からない。

 分からないけど。

「お待たせ。佐藤君」

 ・・・。

「ああ。・・・もっと、ゆっくり選んでもいいんだぞ」

 幸せだからいいか。





 結局、俺と八千代はしばらくの間あの店で服を選び、八千代は他にも幾つかの服を見繕い購入したようだ。八千代が服を試着する度に、俺は思ったままの感想を述べた。それが、はたから見て的確な物だったのか、言ってはいけないことだったのかは判断できなかった。
でも、八千代が喜んでいたようだから、多分何も問題は無かったのだろう。
 それよりも、八千代が試着室に入る度に色々と話しかけてくる店員が一番の問題だった。ことあるごとに帽子だとかやけに長いマフラーだとかを俺に勧めてくる。別に買えないほど金が無いわけではないが、買ったところで渡す勇気が無い。凄い上手いことを言っている気がする。

 服を選んでいる間にだいぶ時間が経っていたらしく、店の外に出てみると、すでに外は真っ暗であった。街灯が俺達を照らし、歩道に濃い影を作る程に。
 店に入った時点で日は沈んでいたので、この暗さも当たり前か。
 寒さも、店に入る前よりは確実に増しており、何度感じても慣れない肌寒さに俺は身震いした。

「・・・暗くなったな。なんか飯でも食うか?」

 時刻はまだ6時にも届かない、といった頃合いだが、正直俺は既に腹がへっていた。たぶんあの店員に無駄なエネルギーを使わされたに違いない。あの店員◯ね。
 もし八千代が良ければ、どこかで飯を食ってもいいかな。と思い、大して考えもせずに声をかけた。
 すぐに、これじゃあますますデートだな。ということに気づいたが、まあ、言ってしまったものは仕方がない。むしろ俺グッジョブ。と、大して気になりもしなかった。

「少しだけお腹はすいたけど・・・。佐藤君は本当に買いたい物は無いの?」

「大丈夫だって。それに、お前の買い物を見るのも案外楽しいよ」

「そんな・・・恥ずかしいわ」

 軽く冗談を言うだけで、八千代は頬を赤く染め、俯いてしまう。
 そんな彼女の純真さが、どこまでも愛おしい。
 ・・・本当。彼氏と彼女の関係だったら、どれほどいいことか。

「・・・お前は、もう見たい場所は無いのか?」

「ええ。佐藤君に会う前に何件かお店は回ってたから。この店が、最後に来たかったお店なの」

 服もこうして買えたし。と、満足そうに八千代は服の入った袋を持ち上げた。

「そうか。・・・じゃ、どっか適当なファミレスにでも入るか。帰りは遅くなっちまうけど、俺、車で来たから。帰りは送るよ」

「え。そんな、悪いわ」

「いいんだって。・・・こんなことで遠慮し合う仲でも無いだろ。俺達は。・・・その、友達なんだから」

 こんなことでも、未だに言うのは恥ずかしく、俺は八千代から目を逸らしながら言った。
 横目で八千代を見ると、八千代は照れくさそうな笑みを浮かべて、こくんと一度頷いた。

「・・・んじゃ、行くぞ」

「うん」

 八千代から離れすぎないよう、普段よりずっと遅いゆっくりとした足取りで、俺は歩き始めた。

 わずかに後ろから聞こえてくる八千代の足音。その息遣い。

 背中で八千代を感じられるこの感覚が、異常なほどに心地良かった。




「ありがとうございましたー」

 ファミレス(もちろんワグナリアでは無い)の店員の声を背中で聞きながら、俺と八千代はファミレスの自動ドアをくぐった。

 軽く食事を済ませ、くだらない雑談をしていただけだが、さっきのファッション店を出てから2時間程が経過していた。
 自然の明かりは完全に消え失せ、仕事帰りの人間が増えたからか、街灯の下に照らし出される人の数は数時間前よりずっと多くなっている。

「・・・結構時間が経ったな。そろそろ帰るか?」

 携帯電話を開き、時間を確認しながら尋ねると、八千代は名残惜しそうに頷いた。

「そろそろ帰らないと、両親が心配しそうだから・・・」

「・・・そうだな」

 ごく当たり前の返答だが、正直、俺も名残惜しい。
 恋人同士のような時間・・・を過ごせたわけではないが、今日の出来事は、忘れることができないくらい充実したものだったから。
 それは、八千代も同じだったのだろうか。
 ・・・そうだと、信じたい。いや、信じることにしよう。

 それに、ますます増してきたこの寒さ。この寒さの中、八千代をどこかへ連れ回す気も起きなかった。

「じゃあ。さっきも言った通り、送るよ。車までしばらく歩くけど・・・寒くないか?」

「少し、だけ。・・・あ、そうだ」

 八千代は思い出したように言うと、買い物袋・・・先ほどのファッション店で買った服が入っているはずの紙袋。その中から何かを探し始めた。
 ? なんだ? 俺が知る限りは、八千代は服しか買っていなかったはずだが。まあ、八千代が会計を済ませる時だけは俺は店の入り口で待っていたから、俺が知らない物を買っていたとしても不自然ではないが。

「あった」

 八千代が袋から取り出したのは、マフラーだった。真赤な、毛糸のマフラー。
 なるほど。確かに思い返すと、あの店のカウンター付近には、帽子やマフラーなどの小物が置いてあった。なにせ、俺に話しかけてきた忌々しい店員は、いちいちその辺りから商品を持ってきて俺に勧めてきたのだから。

 なんにせよ、八千代が寒さを防ぐ物を買っていて安心した。

 八千代がそれを巻いたら、すぐに車へ向かおう。と、何も言わずに待つ。
 すると。

「あのね佐藤君。このマフラー、一つで二人が暖かくなれるんだって」

「は?」

 八千代が突然そんなことを言い出し、まっったく意味が分からなかった俺は、怪訝そうな表情を隠そうともせず八千代のマフラーを見た。
 ・・・どう見ても、普通のマフラー・・・

 ・・・ん?

「・・・なんか、長くないか。それ」

 そう。落ち着いて見ると・・・いや、落ち着いて見ずとも。そのマフラーは長く見える。
 八千代が何回も手を動かし、折り畳まれたそれを伸ばさないと、その端から端が確認出来ない程。
 俺の知るマフラーという防寒具は、こんなに無駄な長さを誇る物であっただろうか。

「あのね? こうして・・・」

 突然。そう、突然八千代が、ようやく見えたマフラーの端を、俺の方へと伸ばす。
 俺は、本能的に後ずさった。八千代の手が、先ほどまで俺の頭があった場所で空を切る。

「・・・佐藤君?」

「・・・八千代。そのマフラーの使い方を教えてくれないか」

 なんだが頭が痛くなってきたが、これを聞かないわけにはいかない。
 八千代は首を少し傾げると、マフラーを広げた。

「あのね。このマフラーを、二人で巻けばすっごく暖かくなるんだって」

 ・・・胃も痛い。

「それ。誰が言ってた?」

「店員さんだけど・・・」

 さも当たり前のように八千代は言ってのけるが、俺の頭の中にはあの店員の癪に障る営業スマイルがいっぱいに広がって、尋常じゃない怒りが込み上げてきている。
 あの店員、俺には話が通じないから、八千代を標的にしやがった。

「それにね? このマフラーを一緒に巻けば、その人と仲良くなれるんですって! だから、佐藤君ともっと仲良くなれればいいな。って思ったんだけど・・・」

 頭を抱える俺を見たからか、八千代の言葉の調子が落ちる。

「・・・嫌、だった?」

 そして、悲しそうな表情を浮かべながら、俺に尋ねる。
 ・・・本当に、めんどうくさい。

「・・・そんなことは無い。無いんだけど」

 何というべきなのか。俺は言葉を必死に探した。
 こうしている間にも、俺らの周囲を幾多の人が通りすぎていき、俺と八千代に一瞥をくれては微笑んだりしているのだ。
 戻りたい。今すぐあの平和なファミレスの中に。暖かいファミレスの中に。

「あのな。八千代。これは、こういう・・・人が多い場所で巻くものじゃないんだ」

 我ながら、へったくそな言い訳だが、八千代になら通用するかもしれない。そんな思いをこめて、必死に言葉を紡ぐ。
 すると八千代は、予想通りというかなんというか、キョトンとした表情を浮かべ、

「そうなの?」

 と、純真無垢な表情で返事をする。

「そう。そうなんだ。これはもっと、大事な記念日だとか。そういう時に、二人だけで巻く物なんだよ」

 俺は何を言っているのか。
 しかし、嘘でも何でも、この状況を切り抜けるにはこう言うしか無かった。

「そう・・・なの」

 流石に残念そうではあったが、理解してくれたのか、八千代はマフラーを持つ手を下げた。
 多少なりとも落ち込む八千代を見て、胸がキリキリと絞めつけられるように痛みはしたが、この場合は仕方がない。
 俺は八千代へ近づくと、マフラーを八千代から受け取り、静かに畳んだ。

「また今度、機会があったら、な」

 そんな機会が、近いうちに来るはずも無い。
 そんなことは、誰よりも俺が分かっていた。悲しいくらいに。

 でも、二人で一つのマフラーを巻くような仲では無い。
 俺と、八千代は。

「・・・うん」

 畳み終えたマフラーを渡すと、八千代はやはり沈んだ声で答えながら頷いた。
 胸の痛みが、より一層強まる。

 だが、俺には、想いも通じていない八千代とこのマフラーを巻く事は、出来なかった。
 このマフラーを巻くことの意味を知らない八千代とは。
 八千代の無知につけこんで、自分だけいい思いをするわけには、いかなかった。

 ・・・とか、それらしい理由をつけているが、ただ単に恥ずかしいってのが大きかった。この大衆の中、二人で一つのマフラーを巻くということが。
 そんな、度胸が無い。
 前に、進む気も無い。

 悔しいけど。

 呆れる程、いつも通りの俺だった。

「・・・行くぞ」

 今、この場所が寒いことには変わりないのだから、できれば八千代だけでもあのマフラーを巻いてほしいとは思う。
しかし、二人で巻くんですよ、と教えられた物を一人で巻くように強要するのは、流石に酷だろう。と、敢えて何も言うことはしなかった。

 俺は、早足で歩き出した。

 この時の俺は、後ろから慌ててついてきているであろう八千代のことを気遣うことすら一瞬忘れていて。慌てて立ち止まった。
 すぐに八千代が俺の背中のすぐ後ろまで追いつくのを音で感じて、今度はゆっくりと歩き出した。
 でも、八千代の表情を確認することは、できなかった。

 ただ、強く噛んだ唇だけが、異様に熱かった。




 車を止めた料金式駐車場にたどり着くまで、15分程かかった。
 駐車場の入口までたどり着き、俺はようやく後ろを振り返る勇気が湧いてきて、八千代へ振り返った。
 八千代は、寒さのせいで頬を林檎のように赤くしていた。その表情は・・・やはり、普段より少しだけ落ち込んで見えた。

 駐車場の入口のすぐ横に置かれた自動販売機まで歩くと、俺は小銭を自販機へと投入した。

「何がいい?」

 俺が尋ねると、八千代は一瞬何のことか分からないように固まってしまった。しかし、すぐに俺の言葉の意味を理解したらしく、

「・・・じゃあ、紅茶。お願いできる?」

 少しだけ躊躇いがちに、口を開いた。その口から漏れた吐息は、可哀想なくらい真っ白だった。

 紅茶のボタンを押し、続けて、自分用のコーンスープのボタンを押した。
 取り出し口から、連続で鈍い音が鳴り響く。
 すぐに、紅茶とコーンスープを取り出す。冬の気温のせいで冷え切った手に、痛いくらいに缶の温かさが滲んでくる。

「はい。奢り」

 八千代に、金属ボトルの紅茶を手渡す。八千代は何かを言いたそうに口を開いたが、すぐにその口を閉じ、紅茶を受け取った。俺と同じように、紅茶の温かさを感じているのだろう。俺よりずっと小さい両の手で、紅茶を包むように持った。

「あったかい」

「だな」

 温かい飲み物のおかげで、幾らか気が紛れたのか。穏やかな笑みを浮かべた八千代に対し、俺は心の底から安堵しながら、短く答えた。

「車止めたの、すぐそこだから。車の中に入ってから飲もう」

「うん」

 言いながら歩き始めると、すぐに八千代も俺の後についてくる。
 暗い駐車場の中に入ってすぐ、俺の車が見えてくる。赤外線式のキーのボタンを押すと、ガチャ、という無機質な音が駐車場内に響き、ライトが点った。

「荷物、後ろに乗せるぞ。先に助手席に乗ってろ」

「ありがとう」

 八千代に手を差し伸べながら言うと、八千代は笑顔で礼を言い、俺に紙袋を渡す。
 車に辿り着き、すぐにトランクを開け、その中に丁寧に紙袋を置いた。その間に、八千代は俺の言いつけ通り助手席のドアを開け、車の中に入っていた。

 トランクを・・・閉める。


 ・・・・・・・・・・・・・・・



 ・・・・・・バタン。と、トランクを閉める音が響いた。




 運転席に座り、俺はすぐにキーを差しエンジンをかけた。
 エンジン音が車内に響き、すぐにエアコンから風が吹き出してくる。今は冷たいが、すぐに温風へと変わるはずだ。

「ありがとう。佐藤君・・・って、あら?」

 八千代は俺を見ながら礼を言うが、すぐに首を傾げた。
 ・・・まあ、当然だろう。
 トランクの中に入れたはずの紙袋を、俺が持ったまま運転席へ乗り込んでいたのだから。

「・・・あー。あのさ」

「? ・・・うん」

 きっと、俺の声は笑えるくらいに震えているのだろう。
 でも、八千代は笑わず。何も言わず。俺の言葉を聞いてくれる。

「・・・今は、俺とお前の二人だけだよな」

「・・・うん」

「・・・そんでさ。ほら。今日は、俺とお前が、初めて一緒に買い物をした日じゃん」

「・・・携帯は?」

「!!・・・あ、あれは、仕事中だったから」

「・・・うん」

 胸が、さっきとは別の意味で苦しい。
 まだエアコンは効いていないはずなのに、顔が熱い。

 ・・・でも。

 ・・・少しだけ、前に進みたいから。

「だから、さ。まだ車も寒いし。・・・その、飲み物も飲まなきゃなんないし、さ」

「・・・うん」

「・・・その、折角お前が買ってくれたんだし」

「! ・・・うん!」

 八千代の声に、明らかに活気が満ちたのが分かった。
 その瞬間、一気に気恥ずかしさも増してきて、気絶してしまうんじゃないか、というほどの熱が俺の顔に集まった。

 俺は、黙って紙袋を八千代に差し出した。
 八千代はすぐに紙袋を受け取り、中から、「アレ」を取り出す。

 そして、「それ」を、八千代俺に差し出した。

 ・・・今の俺の顔と同じくらい赤い、その「マフラー」の端を。

 ちら、と八千代を見る。八千代は、嬉々とした様子でマフラーを巻いている途中だった。
 そして、巻き終わると俺を見る。嬉しそうに。
 本当に、嬉しそうに。

「・・・佐藤君」

 笑顔で、八千代が俺の名を呼ぶ。
 ・・・俺は、深呼吸を一つしてから、マフラーを半分ヤケになりながら自らの首に巻いた。
 そして、マフラーを巻き終わり、俺と八千代は「繋がった」。

 ・・・本当に、このマフラーは二人用らしい。お互い、しっかりとマフラーを巻いても、マフラーにはまだ余裕があった。

「佐藤君」

「・・・なんだ」

 もはや八千代の顔を見ることすらできない。

「・・・あったかいね」

「・・・ああ」

 短く応えて、俺はコーンスープのプルタブを開けた。
 続けて、八千代も、紅茶の蓋を外す。

 お互い、それぞれの飲み物を一口、口に含んだ。

 コーンスープは、温かかった。
 きっと、八千代の飲む紅茶も、同じくらい温かいだろう。

 ・・・でも。

 俺と八千代を結ぶこのマフラーが、一番暖かかった。

 車内が、暖かくなるまで。

 二人の飲み物が、無くなるまで。

 俺と八千代は、繋がっていた。

 赤い糸・・・によって作られた、このマフラーで。






 北海道は、冬真っ盛りである。

 ・・・でも。暖かい日もある。

 そう。

 今日のような、暖かい日も。


 ・・・本当に、たまに、だけどな。















 あとがき

 くれないさん。いかがだったでしょうか。
 やはり佐藤さんは八千代さんに対して押しきれないところがあると思うので、見ていてもどかしくなるような物を書こう。というイメージで書いてみました。
 WORKING!!の恋愛は、見ていて本当に応援したくなるような物が多いので、俺もそういう物が書ければいいなあ。と思っていつも書いてるんですが・・・どうですかね。
 あ。それと、俺は服を買ったりすることがまず無い人間なので、服屋の辺りは適当も甚だしいです。すいません。「レディース 冬物 カーディガン」でググったりしてました(ぇ
 時間はかかりましたが、それなりに納得のいく物が書けました。楽しんでいただければ幸いです。

 次のリクエストは、千亜希さんのさとやちです。これも時間はかかると思いますが、必ず書き上げますので、どうかお待ちを。

 それでは!



 ↓にコメント返信があります!!














 コメント返信です!文字を反転させてお読みください!



 >染井 早羅さん

 いや。そんなことで捕まってたらこの世から男は消え失せます(ぇ
 砂糖を吐けるような物が書けたかどうかは分かりませんが、楽しんでいただければ幸いです。
 

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佐藤×八千代 | コメント:2 | トラックバック:0 |
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コメント

リクエスト小説、ありがとうございました。

最近の本誌にもつながる物を感じる一歩前進ぶりとか、
でもやっぱりやちの表情を確認できない地のヘタレっぷりとか、
たぶんあのシーンでやちはあの表情になってたんだろうなー、
など色々と思い浮かべながら楽しく読ませていただきました。
あ、佐藤さん喘息にならなくて良かったですね。
  :
  :
  :
  :
シュガーの頭がお花畑っ!? ←前半のファーストインプレッション
2011-02-15 Tue 00:38 | URL | くれない [ 編集 ]
チョコは無理なんで気持ちだけでコメントしときます(笑)
銀河さん・・・あれですか、私を殺す気ですか。←萌え死に的な意味で
これ、次の日やちが店長に話してそれを立ち聞きした相馬さんがからかってフライパンアタック食らうみたいな感じですねわかります。
赤マフラーは恋人っぽくていいですよね。青マフラーだとKA○TOですけど(笑)
2011-02-15 Tue 15:50 | URL | 染井 早羅 [ 編集 ]

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