銀の働き部屋

管理人銀河の、日記兼テキストサイトです。取り扱うジャンルは主にヤングガンガン連載のWORKING!!になると思います。最近は東方の霖之助小説を書くのにも夢中。どうかよろしくお願いします。リンクはフリーです。感想は常に受付中です!もらえたら泣いて喜びます

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見えないけれど、ここにいる   佐藤×八千代

 ただいまー!!!

 えー。そんなこんなで。ここ一月ほど全くネットができない状況に置かれておりまして、リクエスト小説の更新が延びに延びまくってしまった次第なんですが、GWに実家に帰り、ようやくネットを自由に使える環境になりましたので、早速リクエスト小説の方を更新させていただこうと思います!!

 今回のリクエストは、千亜希さんのリクエストの佐藤×八千代。
 リクエスト内容は、
『佐藤×八千代で倉庫の中に閉じ込められてしまう設定でお願いします!暗くてよく見えないのも設定でお願いします!』

 というリクエストでしたので、その通りに書かせていただきました。
 タイトルは、『見えないけれど、ここにいる』です。はい。相変わらずの適当クオリティです。浮かばん。

 完成事態は2週間程前でしたが、更新の機会が無く更新が遅れてしまったことを申し訳なく思います。
 それでは、続きからでどうぞー。


 小説のあとがきの後にコメント返信があります!











 人間、さ。

 わけのわからない・・・。いや、というか、どうしたらいいかわからん状況に陥ってしまうことは、別に珍しいことでは無いと思うんだ。

 ・・・まあ、世間一般的な例を挙げてみようか。


 例・友達の家に遊びに行ったら、その友達とその彼女が何故か大喧嘩

 俺が「遊びに行く」って言っているのに彼女が来ている意味もわからんし、俺が来ても喧嘩を止めない意味が分からんし


 例・旅行先で両親が大喧嘩

 これも経験者は多いのではないだろうか。楽しい旅行だったじゃん。楽しい朗らかな旅行だったじゃん。子ども可哀想じゃん。具体的に言うと、俺、可哀想じゃん?


 例・大学の仲間でカラオケなり飲みになり行って、みんなが突然トイレとかで席を外してしまい、全く親しくない奴と二人きり

 どうしろと


 まあ、他にも挙げだしたらキリが無いのでこの辺りで止めておこうと思う。

 あるよな。こういうこと。誰だって、あるよな。
 もう、何をすればいいのか。黙っているのすら辛い。みたいな。そんな状況。



「ね、ねえ佐藤君」

 現実逃避に耽っていると、どこまでも不安気な八千代の声が耳に響いてきた。
 ・・・何も見えない。聞こえるだけだ。八千代の、か細く、消え入りそうな涙声だけが。
 ・・・当然、無視できるはずもなく。

「・・・なんだ」

 俺もまた、疲れきった沈んだ声でそう返すが、八千代の不安は消えなかったらしい。俺の左腕にしがみつき、その腕の力が緩むことは無い。

「いるわよね? ここにいるわよね?」

「いるよ。いるから、手掴むな。というか、腕掴むな。頼むから。いるから」



 佐藤潤。二十歳。

 今、そんな感じです。





 何故、俺と八千代が、こんなベタな状況に陥っているのか。
 その理由を説明するには、ほんの10分程時間を遡るだけで事足りる。



「佐藤君、今から休憩?」

「ああ。お前もか」

 休憩室へ向かうため、ワグナリアの廊下を歩いていた俺に、背後から八千代が声をかけてきた。
 その声に振り返りながらそう尋ねると、八千代は嬉しそうに頷く。
 俺と一緒に休憩することが、そんなに嬉しいのか? と、小躍りしたくなるような喜びが胸いっぱいに広がる。
 が、

「ええ。さっきも杏子さんにパフェを作ったの!その時のお話をするわね!」

 満面の笑みを浮かべながら発される八千代の言葉を聞き、胃がキリキリと痛んだ。
 ・・・ああ。そりゃあ、嬉しい顔もするわけだ。胸の中から喜びがきれいさっぱり消えていく感覚に思わずため息が漏れてしまいそうだったが、なんとか堪える。

「あ。それでね佐藤君。休憩する前に、倉庫の中から備品を運ぶのを手伝ってほしいの」

「・・・わかった。じゃ、とっとと済ませるか」

 なんら変わったことのない、普段どおりの会話だった。
 良く言っても悪く言っても、日常。そんな会話。

 だからこの時の俺は、俺達があんな面倒なことに巻き込まれるなんて予想もしていなかったんだ。



「あれ?」

 倉庫に着き、倉庫の引き戸を八千代が早速開けようとする。・・・が、何故か引き戸はすぐに開かなかった。

「鍵でも・・・かかっているのか?」

「そんなこと無いはずだけど・・・。あ、開いた」

 八千代が少しだけ力をこめて引き戸を引くと、扉は普段となんら変わらずに開いた。

「建付けが悪くなっているのかしら・・・」

「冷蔵庫といい倉庫といい。結構ボロいな。この店」

 まあ、後で店長に報告しておけばいいだろう。と、俺と八千代はさして考えることもなく、倉庫に入る。
 倉庫の中には食材や備品の詰まったダンボールが幾つも重なっていて、なかなかに壮観だ。だが、普段から何回も出入りしている場所なので今更何かを思うことも無く、俺は倉庫の奥へと歩み入る。
 倉庫には暖房がついていないので、雪の降り荒ぶこの季節、倉庫の中はかなり冷え込む。まあ、長居するわけでもないから気になることは無いが。
 八千代が倉庫の扉を閉め、倉庫の電灯のスイッチを押す。ほんの一瞬の間を置いて、倉庫の明かりが灯った。

「なんだ。電灯も切れかかってるじゃねえか」

 俺の発言そのままに、倉庫の中を照らす蛍光灯は、点滅しては灯り、点滅しては灯りを繰り返していた。

「最後に替えたの、結構前だものね」

 言われてみれば、そうだ。と、俺は無言で頷いた。
 2,3年前、八千代に頼まれて身長の高い俺がここで蛍光灯を取り替えた。それははっきりと憶えている。
 そうか。そんなに、時間が経ったか。と、俺は何故か懐かしい気分に浸ってしまった。
 だが、そんなことよりも今はやることがある。

「休憩が終わったら替えるか。何にせよ仕事だな。どれを運べばいいんだ?」

「えっとね・・・」

 八千代がダンボールに手を差し伸べる。

 その瞬間だった。

「きゃっ!」

「お」

 突然倉庫の明かりが全て消え、窓も無い倉庫は一瞬で真っ暗闇になってしまった。
 視界が消えたことに驚いた八千代が悲鳴をあげ、俺はどちらかというとその八千代の声に驚くように、短く声を出す。

「て、停電!?」

「・・・いや。たぶん、蛍光灯が切れたんだろ」

 言いながら、蛍光灯を見上げる。よく見れば、蛍光灯にはまだうっすらと、震えるように弱く光が灯っている。
だが、それは蛍光灯にとっての最後の抵抗だったらしく、すぐに蛍光灯は力尽き、再び倉庫内は完全な闇へと落ちる。

「きゃあ!!」

 再び驚いた八千代が、突然俺の腕を掴む。・・・掴んでいるのだと思う、たぶん。真っ暗で全く見えないが。
 左腕になにやら柔らかい感触を感じた俺は、蛍光灯が切れた瞬間の数倍は心臓が高鳴るのを感じた。

「離れろ!!」

 半分怒鳴りつけるように言い、八千代の腕を放そうと腕を引くが、八千代は俺の腕を掴んでかたくなに放そうとしない。

「だ、だって・・・怖くて・・・!」

 ああもう。と、俺は頭を乱暴に掻いた。
 八千代の声は既に涙混じりの物になっており、その声を聞いた瞬間、無理矢理腕を放すということはできなくなってしまった。

「・・・つうか、倉庫の扉を開ければ、外の光が入ってくるだろ」

 俺は倉庫の扉へ向かって歩き始めるが、八千代が俺の腕を放すことは無かった。・・・仕方なく、八千代を引き摺るようにして、無理矢理扉へと進む。
 とにかく俺は、八千代に腕を掴まれる状況から解放されたくて仕方なかった。さっきから、当たってる。なんというか、すごく柔らかい物が。ものすごく柔らかい『なにか』が。

 壁に手をつけながら扉を探し、ようやく扉の縁らしき部分を見つけた。
 手を下へと動かし、扉の取手を見つける。

 ようやく、この状況から解放される。
 安堵しながら、俺は取手を掴み、扉を引く。

 ガタッ!!

 ・・・・・・・・。

 ・・・・・・・・・・・ん?

「さささ、佐藤君!今の音何!?」

 俺の精神状況もなかなか極限なのだが、八千代はそれ以上に極限らしい。こんな些細なことで、俺の腕を掴む力が更に倍増する。というか、八千代。俺の腕とお前の腕の間に日本刀が挟まって地味に痛い。痛い。あ、地味じゃないこれ痛い。やっぱやわいのがいい

「・・・いや、扉が開かなくて」

 そう。俺はかなり強い力で扉を引いた・・・つもりなのだが、引き戸となっているこの扉は何故かびくともしなかった。俺のこめた力がそのまま壁にでもぶつかったかのように、激しい音が鳴るだけ。

「八千代。頼むから、腕を放してくれ。扉を開けられん」

 俺が殆ど哀願するように言うと、八千代はおそるおそる、といった様子で俺の腕を放してくれた。
 これで、肉体的にも精神的にも解放された。とっととこの状況から抜け出すべく、俺は両手で引き戸へ手をかける。
 そして、渾身の力を込めて扉を・・・引く。

 ガタンッ!!

「ささささささ、佐藤君!!?」

 さっきよりも更に大きい音を聞いた八千代は、殆ど錯乱しながら俺の腕を再び掴んだ。
 それにより俺の心臓が再び高鳴りを始めるが、俺はもはや腕に伝わる感触を無視して、扉を更に何回も・・・途中からは、かなり乱暴に引く。

 ガタン!ガタン!!

 と、扉が揺れる音ばかりが倉庫に響くが、倉庫の扉は開かない。
 俺は、そこまで非力な方ではないと思うのだが。何回試してみても、扉の向こうからこの倉庫へと光が差し込むことは無かった。

「さ・・・佐藤君・・・?」

 何回も大きな音を聞かせてしまったせいで、顔は伺うことができないが、八千代の声は涙声な上に震えきっていた。
 俺が、これから何を言おうとしているのか察しているのか。そうではないのか。
 なんにせよ、俺たちが今立たされている状況を報告しないわけにもいかなくて。でも、それを言ってしまったら、今の段階でこんなにも怯えている八千代がどうなってしまうのかさっぱり分からないわけで。

 だから俺は、躊躇いながら。
 八千代に不安を抱かせないような小さな、出来る限り冷静な声で。
 俺自身、心中は相当に動揺しながら、こう告げた。

「・・・閉じ込められた」

 あまりにも理不尽な、この現実を。





 とまあ、そんな過程なのであった。


「・・・八千代。泣かなくても大丈夫だから」

「で、でも・・・怖くて・・・!!」

 涙声で答えながら、八千代は俺の袖をぎゅっと抓んだ。
 あの後も、八千代は俺の腕を掴んできて仕方なかったので、妥協案として、袖を指先で掴んでくれ、と俺は八千代へ告げていた。行動は制限されてしまうが、これならば俺の心臓の動悸が跳ね上がることはない。

「今、シフトに入っているのは誰だ?」

とりあえず、情報を集めよう。問いかける、というよりはなだめるように、俺はゆっくりと八千代へ尋ねる。

「えっと。杏子さんと、相馬君と、小鳥遊君、ぽぷらちゃん・・・かしら」

「休憩しているのは・・・俺達だけ、だな。休憩前にここに来たんだから」

「お、大声で呼べば聞こえるかしら?」

「・・・難しいな。ここからキッチンまででも、かなり距離がある。前にここからキッチンの相馬を呼んだことがあるが、全然聞こえていなかったからな。今は扉も閉まっているし、まず無理だな。休憩室までだったらまだなんとかなったんだが・・・」

 当然、この発言をするとっくの昔に、大声で人を呼びはしてみたが、誰かが助けに来てくれることはなかった。
 相馬め。普段は知らなくていい情報ばかり集めてやがるくせに、こんな時はまるで役に立たねえ。

 そして休憩室は、今現在無人である。本来あそこには俺達がいるはずだったんだから。

「あ! 葵ちゃんは?」

「あいつなら、『私はシフトが入っていないので、コンビニに行って本をいっぱい立ち読みしてきます!』とかふざけたこと抜かして、さっき出かけた」

「そ、そうなの・・・」

 八千代の声が小さくなる。
 普段から、馬鹿でウザくて全く役にたたないことに定評のある山田のことなので、俺は大した落胆も無い。

「八千代。ここに取りに来た物って何だ?」

「え?えっと、紙ナプキンとおしぼりが切れそうだったから、補充しようと思って来たんだけど・・・」

「その二つは、どれくらい残っていた?」

「紙ナプキンはまだ余裕がありそうだったけど・・・おしぼりは一目で分かるくらい減っていたと思うわ」

 八千代の言葉を聞いた俺は、「そうか」と短く答えると、その場に座り込んだ。
 真っ暗な中で急に俺の腕が動いたため、八千代の体が大きく震えたのが伝わってきたが、すぐに声をかけて、八千代にも座るよう促す。すると八千代は、おそるおそるといった様子で俺の隣に座った。もちろん、袖は抓んだまま。

「じゃあ、ここにいるのもせいぜい15分・・・長くても、30分程度だろ」

「どうして?」

「今日は日曜日。そして、俺達の休憩が始まったのは午前11時少し前・・・だろ。ってことは、もう少ししたら店に客が入り始める。そうすれば、流石にフロアの誰かは備品が少なくなってきていることに気づく。その時に助けてもらえば全部解決だ。・・・逆にそれまではどうしようも無いが」

「・・・そ、そうね・・・」

 携帯も無いしな。と付け加え、俺はポケットから煙草とライターを取り出そうとする。
 ・・・が、無い。今日という日に限って、更衣室へ置いてきてしまったらしい。煙草はともかく、ライターの灯りを点けられれば、八千代も随分落ち着いただろうに。
 自分の不甲斐なさ・・・というか運の無さに、心の中で舌打ちを漏らしながら、俺は天井を見上げた。

 ・・・何も、見えない。そりゃあそうだ。光なんかどこにも無いのだから。
 扉の、ほんのわずかな隙間からは微かに光が覗いているが、その光は数十センチも届かぬ内に闇へと変わる。
 ・・・暗闇にしばらくいれば目が慣れる。とはよく聞くが、なかなか慣れるものではない。なまじ、先ほども言った微かな光をついつい見てしまうため、一向に目が闇へと馴染むことはない。
 備品の中から100円ライターでも見つけることができれば状況は変わるが・・・ダンボールの文字を読み取れるほど目が慣れることはないだろう。下手に動いてダンボールを崩してしまうと後々面倒だ。
 まあ、慣れたとして、八千代が俺の袖を強く掴んでいる今、ろくに動けるものではないのだが。

「くしゅんっ」

「!」

真っ暗な倉庫の中に、子犬のような小さなくしゃみが響いて、俺は思わず目を丸くした。

「ご、ごめんね佐藤君」

 謝る必要など一個も無いのに、ひどく恥ずかしそうに、八千代は俺へ謝罪した。
 ・・・仕方ない。と俺は思った。
 普段は長居することが無いので意識したことなど無かったが、暖房の通っていないこの部屋はかなり冷え込む。俺は特に身震いするほどではないが、女ってのはみんな冷え性なものだ、と、どこかで聞いたことがある。
 大して悩むこともなく、俺はキッチン用の制服の上着を脱ぎ、隣に座る八千代へと被せる。

「あ・・・」

「・・・無いよりマシだろ」

 上着を脱いだ瞬間、寒さが一気に増すのを感じはしたが、ここにいるのもせいぜい数十分のことだ。それくらいの時間も耐えられない程、寒さに弱い自覚は無かった。これでも一応北海道民である。

「あ、ありがとう、佐藤君。・・・寒くない?」

「全然」

 ほんの少しだけ、空元気。だが、八千代が気に病む必要など無いということは、事実だ。

 ただでさえ、暗闇で精神的に負担をかけてしまっている。俺にできることは、全部やってやりたかった。

 ・・・しばし流れる沈黙。
 別にそこまで気まずいものでも無い。お互い、どんなことを話すべきか決めかねているといったところだろう。・・・俺がそうなのだから、八千代もそうに違いない。

「ね、ねえ。佐藤君」

「・・・なんだ?」

 沈黙を破ったのは、八千代だった。


「・・・手、握ってもいい?」


 ・・・思っていた以上に、盛大に。


「は!?」

「きゃあ!!」

 突然の発言に驚き、大声が出てしまい、その声に驚いて八千代が俺の腕にしがみつく。ええい。なにこの状況。めんどい。

「は・な・れ・ろ!!!」

「だ、だって!! 暗いの・・・怖くて・・・!」

 八千代の声は、今にも泣き出しそうなくらい震えていた。
 ああ。もう。と、俺は頭を掻きむしる。八千代の精神もかなり限界に近いのであろうが、俺の精神は更に限界が近い。誰か今すぐ胃薬と頭痛薬を持てい。

「袖でも抓んでろよ!」

「で、でも・・・人の温もりが・・・」

「お前は寂しい中年か!」

「だ、だって・・・!」

 八千代の声が更に震える。このままでは、遠くない内に本格的に泣き始めるかもしれん。
 俺の脳内で激しい葛藤があったが、流石に八千代を泣かせるわけにもいかない。

 深く・・・とにかく深く深呼吸を繰り返し、俺は八千代へと手を差し伸べた。

 が、暗すぎて八千代から俺の手は見えず、八千代が俺の手を掴むことは無い。

 ・・・くっ。手を差し出すだけでも、相当な勇気だったというのに・・・!!

「・・・八千代。手」

「え?」

 俺が搾り出すように声を出し、しばらくすると、八千代の手が俺の手へ触れるのを感じた。
 八千代は俺の手を、何なのか確認するかのように触ってから、そっと握る。
 八千代の手は、少しだけ冷たくて。
 そして、柔らかかった。

「・・・佐藤君の手、大きいのね」

「・・・男、だからな」

「それと・・・あったかい」

「・・・男?だからな・・・」

 ダメだ。緊張のあまり思考がまとまらない。顔から汗が止まらない。
 手から、汗は出ていないだろうか。「握ってはみたものの、佐藤君の手、ベトベトする」とか思われてないだろうか。

「・・・ごめんね。佐藤君。私、どうしても暗いところが怖くて・・・」

「・・・別に、仕方ないだろ。暗い所が好きな奴なんか、滅多にいないし」

「でも、私みたいに取り乱したりしないで、佐藤君はやっぱり凄いわ」

 そうかなー。自分としてはかなり取り乱していると思うんだけどなー。顔から出る汗の量が真夏の屋外に匹敵するレベルなんだけどなー。

「・・・私がまだ小さい時、ずっと杏子さんと一緒にいた、ってことは、前に話したわよね?」

「ああ。・・・嫌という程、聞いたよ」

「あの時、私は本当に小さくて・・・。杏子さんについていこうと思っても、すぐ置いていかれちゃったの。そんな私の手を、杏子さんはよく握ってくれたわ。『こうすれば、遅れないだろ』って」

 ・・・普段と変わらない嬉しそうな声で、八千代は、店長の事を話し始めた。

 ・・・そうだよな。俺が勇気を搾り出してやったことも、結局は、店長の二番煎じでしか無いんだよな。

「でも、佐藤君の手は、杏子さんの手とは全然違う」

「・・・どういう風に?」

 八千代の言葉に対し、俺は半分不貞腐れながら尋ねる。

「杏子さんの手は、細くて、柔らかかった。でも、佐藤君の手は、大きくて、少しだけ、固い」

「・・・俺の手、最悪じゃねえか」

「そ、そういうつもりで言ったんじゃないのよ?・・・男の人の、手なんだな。と思って」

 八千代の言葉を聞いて、顔に熱が集まるのを感じる。普段であれば顔を逸しているところだが、この暗闇の中ではその必要も無いので、八千代の言葉にあらためて耳を傾ける。

「私、いじめられっ子だったから。男の子とは全然友達になれなくて。中学生になってもそれは同じで。高校に入ってからは殆どバイトしかしてこなかったし・・・。本当に、佐藤君に会うまでは、男の人のことは全然分からなかったわ」

 昔のことを話す八千代の声は、少しだけ沈んでいて、俺はその話を黙って聞くことしかできなかった。
 俺の手を握る八千代の手は、少しだけ、震えている。これは、きっと、暗闇の怖さからくる震えでは無いのだろう。

「・・・佐藤君とは友達になれたけど、やっぱり、男の人のことはよく分からなくて。今日、こんなことになっちゃったけど、佐藤君と手を繋げられたのは、少し嬉しいなって。男の人の手を知ることができて、良かったな、って・・・」

 ・・・。

「・・・俺も」

「え?」

 もっとはっきりと声を出したかったが、緊張のあまり、言葉がすぐに途切れてしまった。
 八千代に悟られない程度に、呼吸を整える。
 十分に心を落ち着かせ、俺はまた口を開いた。

「俺も、さ。女の友達が・・・いなかったわけじゃ、無いけど。・・・やっぱり、男のダチと比べるとどうしても一歩引いちゃって、お互いに踏み込んだ話をすることなんか、今まで一度も無かったよ」

 俺達二人がいる世界が暗闇の中であることが、今、一番悔しいと思った。
 八千代の表情を、伺えない。俺のこんな話を聞いて、八千代がどんな顔を浮かべているのかが、分からない。
呆然と話を聞いているのだろうか?目を、輝かせているのだろうか?
・・・ちょっとした嫉妬で、悲しい顔をしてくれては、いないのだろうか?

「・・・お前には、なんか、色々と話せる。自分の意見も。自分の、ちょっとした悩みも。・・・だから、さ」

 指先の神経が、異様に尖っていく錯覚に襲われた。
 それは、これから俺が言おうとしている言葉と直結するかのように、その精度を増していく。

 ・・・ほんの、少し。
 ほんの少しの力で、八千代の手を指先でなぞった。暗闇でなくとも、気づかれないかもしれないほど、微かな力で。

 ・・・そして、間違いない。そう確信してから、俺は言う。

「・・・お前を知れて、良かった。・・・女の手ってのが、思っていたよりもずっと、細くて・・・少しだけ冷たくて、すげえ頼りない、ってことを知れて・・・良かった」

 たった今、部屋の暗さを妬んだ俺だが、今は「暗闇で良かった」と思える。
 顔が、熱い。熱すぎるからだ。伊波の普段のそれに、匹敵するのではないか、というくらいに。

 と、俺がその言葉を発した数秒後、突然、八千代の手が俺の手から離れたのを感じた。

「・・・八千代?」

 内心、かなり傷つきながら、俺は八千代へ声をかける。

「あ・・・ご、ごめんね!少し、その、恥ずかしくって・・・」

 面白いくらいに動揺した声で、八千代は言い訳をした。
 ・・・やはり、明るくても良かったかもしれない。
 きっと、八千代の顔も、俺と同じくらい赤いのだろうから。

「・・・ああ。なんか、恥ずかしいこと言ったな」

「う、ううん。嬉しかった。ありがとう。佐藤君」

「・・・どう、いたしまして」

 手を繋ぎ直す勇気までは、流石に湧かなかったが・・・。なにはともあれ、八千代が少しは元気になってくれて、俺は満足気な表情を浮かべた。

 と、そんなことを考えていると。

 ガタンッ

「きゃ!!」

 突然扉が大きく音を鳴らし、驚いた八千代が俺の腕に再びしがみつき、俺の心臓が跳ね上がった。だめだ。学習しないこいつ。

『・・・あれ? なんで開かないんだ?』

 扉の音が鳴った直後に聞こえてきたのは、小鳥遊の声だった。

「小鳥遊か?」

『あれ、佐藤さん? 鍵でもかけてるんですか?』

 小鳥遊の声は少しくぐもって聞こえたが、俺の声はしっかりと届いているようだった。
 俺は立ち上が・・・ろうとしたが八千代がまだひっついていたので、八千代の腕を解いてから、立ち上がる。

「ああ。扉の建付けが悪くてな。閉じ込められた」

『ええ!? 大丈夫ですか!?』

 すぐに扉の前まで歩き、扉越しに小鳥遊に話しかけた。小鳥遊は俺のことを酷く心配するような声で答えた。良かった。最初に倉庫へ来たのが、相馬じゃなくて小鳥遊で良かった。あいつは開けない。たぶん、開けない。

「俺は平気だが、轟が精神的に限界だ」

『チーフもいるんですか!?どうすればいいですかね・・・』

「俺の合図で、そっちで扉を開けてみてくれ。俺も内側から開けてみる」

『わ、分かりました!』

「じゃあ行くぞ。・・・せーの」

 合図を入れてから、扉を全力で引く。
 その瞬間、ガタッ、という大きな音と共に、扉が勢いよく開け放たれた。

「うおっ」

「わ!!」

 あまりにも扉が勢いよく開いたため、俺と小鳥遊は体勢を崩し、その場で二人とも倒れこんでしまった。
 倉庫の床にたまった埃が巻き上がり、目や口に入り、俺は激しく咳き込んだ。

「さ、佐藤君!小鳥遊君!大丈夫!?」

 慌てて八千代が俺たちの傍へと駆け寄り、心底心配そうに声をかける。

「ちょっと体打ったけど、俺は平気だ。小鳥遊は?」

「あ、大丈夫です。体だけは丈夫なんで」

 俺と小鳥遊はすぐに起き上がり、無事を確認する。答える時の小鳥遊の目が少し悲しそうで、少し涙が出てきそうになったが。

「良かった・・・!私たち、死なずにすんだのね・・・!!」

「死ぬつもりだったのかよ。人の話聞けよ

 目に涙をいっぱいに溜め込みながら感動している八千代へ、冷静にツッコミを入れる。

「いや。それでも大変でしたね。・・・あれ、電気も点かなかったんですか?」

「丁度切れてな」

 体の埃を払いながら、俺と八千代は、とりあえず倉庫から外へと久しぶりに出た。暗闇から明るい場所へ突然出たため、光に目が慣れず、細かく瞬きを繰り返す。

「すみません。全然気づけなくて・・・」

「いや。誰も悪くねえよ。・・・な、轟」

「え、ええ・・・」

 八千代のことだから、自分が仕事を頼んだせいで・・・と少しは思っているのだろう。
 だが、俺としては、むしろ二人一緒に閉じ込められて良かった、と思っている。八千代一人では、恐らく、本当に精神がもたなかったろうし。

 ・・・まあ、少し踏み込んだ話もできたし。

「確か、二人共休憩時間でしたよね? もう少しで休憩終わっちゃうと思いますけど、休んでいていいですよ。相馬さんにも伝えます」

「いや、いいよ。すぐ働く。別に疲れてはいないし。轟は・・・」

「わ、私も働く!!」

 少し慌てるように答える八千代を、俺と小鳥遊で見る。

「いや。休めって。疲れただろ」

「佐藤君が働くのに、私だけ休めないわ。・・・それに」

 少しだけ間を置いて、八千代はとびっきりの笑顔を浮かべ、

「佐藤君のおかげで、あんまり怖くなかったもの!」

 ・・・と、そんなことを言ってのけるんだ。この馬鹿は。

「・・・そうか・・・」

 ほとんど立ち尽くしながら、俺は小さな声で答える。
 小鳥遊にちらと目をやると、俺にばれないように顔を背けて笑っていやがった。くそ。恩人だから何も言えない。

「・・・あー。轟。俺は煙草を1本だけ吸ってから行くから、先に行っててくれ」

「わかったわ。・・・あ、おしぼりと紙ナプキン・・・」

「大丈夫ですよチーフ。俺と佐藤さんで持って行きます」

「・・・そう?じゃあ、お願いね。あ、佐藤君。服、ありがとう」

 羽織っていた俺の制服を脱ぎ、俺に手渡す。

 最後にもう一つ笑顔を振りまいて、八千代はキッチンへと向かっていった。

 俺と小鳥遊だけが、倉庫の前に残る。

「・・・あー。えっと、本当にお疲れ様でした」

「・・・ああ」

「紙ナプキンもおしぼりも俺が持って行きますから。佐藤さんは休憩室で少し休んでください」

「・・・どこまでも、悪いな」

「いえ。・・・野暮なことを聞くことになるかもしれませんが、どうでした?倉庫の中は」

 別にからかうわけでなく、ただ興味本位、と言った様子で尋ねる小鳥遊に一瞥をくれると、俺は長考へと入った。
 そして、しばらく悩んでから、小鳥遊へこう告げた。

「・・・案外、悪いもんじゃなかった」

 俺の言葉を聞くと、小鳥遊は目を丸くして何回か瞬きをしたが、

「・・・そうですか」

 と、笑いながら答えると、倉庫の中へと入っていった。

 詮索をしない小鳥遊をありがたいと思いながら、俺は休憩室へと向かって歩き出した。

 今は、何よりも心を落ち着けたい。

「・・・こんな気分で吸う煙草は、きっと美味いんだろうな」

 そんな呑気な独り言を言える自分がおかしくて、小さく笑った。
 左手を、そっと、握った。
 八千代の温もりは消えてしまっていたが、俺の胸は馬鹿みたいな高揚感に溢れていて、足取りも自然と軽くなるのだった。

 本当・・・今日は、厄日だった。

 ・・・まあ。

 でも、たまには。

 こんな厄日も、いいもんだ。





「あ。佐藤君。大変だったねー。閉じ込められるなんて」

「なあ、相馬」

「なに・・・え、ちょっと。何で俺の胸ぐらを掴むの」

「お前じゃないだろうな。扉に細工したり、蛍光灯を古いのに取り替えたり、してねえだろうな」

「し、してないよ!!どこまでも濡れ衣だよ!何があったの佐藤君!やっぱり、密室での男と女の情j・・・」

 ゴンッ



 チャンチャン♪










 あとがき

 信頼と安心の相馬オチ(何
 という内容だったのですが、いかがでしたでしょうかー。
 ワグナリアの倉庫は、原作でもほんの少しだけ登場していて、少なくとも佐藤さんと相馬さんの二人が・・・ちょっと待て。このあとがき書いてる時に気づいたんだけど俺と佐藤さんと相馬さんって同い年なんだよな(知るか
 まあいいや。佐藤さんと相馬さんがゆうゆうと歩けるくらいのスペースはありそうなので、ありがちな男女の体がくんずほぐれつになって◯◯◯や◯◯◯に以降するパターンにはしませんでした。いやあ、よかったよかった。
 手を繋ぐだけでドギマギしたり、お互いに意識してその手を放してしまったり。この二人には、そんな微笑ましい関係であってほしいと思います。

 そういうわけで、千亜希さん。時間はかかりましたが、リクエスト小説を更新させていただきました。お許しのコメントなど、本当にありがたかったです。ありがとうございました。
 千亜希さんのために書いた物なので、ブログに飾るなりなんなりご自由にお使いください。

 理奈さんのリクエストは、現在の所完成の目処が立っていませんが・・・6月の半ば頃に更新できればいいなあと思っています。あくまで、理想がそれくらいなので、遅れても・・・その・・・許してください。ごめんなさい。生きててごめんなさい。 


 それでは!!














 コメント返信です!文字を反転させてお読みください!!



>ヴォルさんへ

 初めまして!小説の感想、ありがとうございます!
 東方に関する知識はまだまだ疎くて、見苦しい点などもあると思うのですが、出来る限りキャラの魅力を生かせるようにしているつもりではあります。好評だったようで本当に嬉しいです。
 咲夜さんオチは安定といえば安定ですが、少しあまずっぱめにしてみましたw




>尊さん

 初めまして!小説の感想ありがとうございます!
 理想とまで言ってもらえて、本当に嬉しさでいっぱいです。細々とではありますが、これからもWORKING!!への愛を忘れずに小説を書いていきたいと思います!



 コメントありがとうございました!元気が出ます!
 いろいろあってコメント返信が遅れてしまったことを申し訳なく思っています。
 これからも更新頻度は決して短くないでしょうが、銀の働き部屋をよろしくお願いします。

 では!!!
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コメント

地震がありましたが無事で何よりです
色々としんどいと思いますが頑張ってください(^ ^)
次は小鳥遊X伊波期待してます(笑)
2011-05-01 Sun 19:16 | URL | タカハシ [ 編集 ]
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2011-05-03 Tue 23:53 | | [ 編集 ]
地震でPCが使えなくなったのでしょうか?
でも復活してくれて嬉しいです!

今回、相馬はまさかの黒幕ですか?(笑)
2011-05-14 Sat 23:02 | URL | クリスタル [ 編集 ]

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