銀の働き部屋

管理人銀河の、日記兼テキストサイトです。取り扱うジャンルは主にヤングガンガン連載のWORKING!!になると思います。最近は東方の霖之助小説を書くのにも夢中。どうかよろしくお願いします。リンクはフリーです。感想は常に受付中です!もらえたら泣いて喜びます

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花畑と門番と  東方  美霖



 pixiv東方作品連続掲載2つ目。

 書きたかったので書いた美霖。これを書き終わったあたりで、俺は美霖が実は一番好きなのではないか。と思ってきました。いや、だからといってネタは出てこないのですが。

 美鈴は紅魔館の花畑の管理をしている。とのことで、その設定を使った作品を書こう。ということでこれを。
 美鈴は陽気で、どこか無邪気な人物であるイメージが強いので、なるべく全体的にそういった雰囲気を出せるように書いてみました。

 それでは、「花畑と門番と」。続きからでどうぞ。











 幻想郷は、春真っ盛りであった。
 春妖精が春を告げたのもだいぶ前のことで、昼間に山道を歩けば小鳥はさえずり、茂みからは動物が歩き葉を擦り合わせる音が響いてくる。
 日差しは温かで、まるで幻想郷全体を優しく包み込んでいるようだ。

 しかし、そんな春の日差しから隔離されたかのように、真っ赤な外壁を持つその館は、年中変わらぬ様子で湖の傍に聳え建っている。

 吸血鬼の館、紅魔館。それは、館の主がそうであるからか、まるで日光を忌み嫌うようにその血のような赤色の濃さを変えることは無い。

 とはいえだ。

 紅魔館にも、春は訪れる。

 紅魔館の季節の変わり目を、最も分かりやすい形で表している物がある。
 それは、紅魔館の門を過ぎてすぐに広がる、花畑であった。
 紅魔館の広い庭の何分の1かを埋め尽くすこの花畑には、季節ごとに実に色とりどりの多様な種類の花が咲いている。
 不気味な程に赤い外壁を持つ紅魔館と比較すると、その色鮮やかさはむしろ浮いていると言えてしまうほどだ。

 だが。

「うーん……」

 そんな花畑の前に立ち尽くす「門番」が一人。

「……どうしようかなー……」

 「門番」は目の前に咲いている花を見つめながら、ため息と共にそんな言葉を一つ漏らした。
 そんな彼女が見つめる花は、まるで今現在の彼女の様子を表しているかのように、小さく……萎れていた。






 ―カランカラン―

「いらっしゃ……おや」

 来店を告げるカウベルの音が店内に響き、香霖堂店主・森近霖之助は読んでいた書物から視線を上げ、香霖堂の扉を見た。
 そして、そこに立っていた意外な人物の姿を視認すると、思わず慣れた挨拶を途中で止めてしまった。

「あ。こ、こんにちはー」

 扉を開け、少し恥ずかしそうに挨拶をする人物……それは、紅魔館の門番を務めている、紅美鈴であった。

「……君とこの場所で会うことになるとは、予想していなかったな」

「私もです」

 本に栞を挟んでから閉じると、霖之助はしっかりと美鈴に向きあって言った。
 美鈴も店の扉を閉めながら、やはりどこか気恥ずかしそうに返す。その手には、何故か小さな植木鉢が持たれていた。

 やはりというか、なんというか。
 霖之助の目に映る、美鈴と香霖堂の入り口、という光景は、それなりに違和感のある物であった。




 霖之助と美鈴は、顔見知りである。
 とはいえ、会う頻度は多くは無く、決して交流も深い物とは言えない。

 二人が会う場所は、もっぱら紅魔館の門の前である。そして、会いに行くのはいつも霖之助からであった。
 もちろん、霖之助は美鈴に会うために紅魔館へ赴いているわけではない。用があるのはあくまで紅魔館で、紅魔館へ入るためには門番である美鈴と必ず話を通さなくてはならないから、自然と美鈴と面識が生まれた程度の関係に過ぎない。

 その程度の関係ではあるが、それでも、会う際にちょっとした世間話を交わす程度の交流は生まれる。
 美鈴は、霖之助が知る中では比較的温厚な性格で話しやすい妖怪の一人であった。紅魔館の面々が……いや、霖之助と普段接する人物や妖怪がそれぞれ一癖二癖あるような連中であるだけに、美鈴との世間話は霖之助にとって・・・素朴な、気の休まる物だった。

 そう思うのは美鈴も同じで、普段は大した来客も無く退屈な門番の仕事であるが、ちょっとした愚痴なども気軽に話すことができる霖之助との会話は、美鈴にとっては安息の時間とも言えるものだ。

 しかし、そんな会話を交わす機会は、香霖堂に対して紅魔館からの大きな配達の依頼でも無い限り、なかなか訪れるものではない。
 そうなると当然交流が深まるわけもなく、会うのも常に霖之助からのみとなってしまう。

 だからこそ。今日、初めて霖之助の下へ自らが会いに行くこととなり、美鈴は少しばかり緊張しているのであった。

「門番の仕事はどうしたんだ?……もしかして、サボりかい?」

「し、失敬な!咲夜さんからしっかりと許可を貰って来ていますよー」

 「残念でした」とばかりに短く舌を出し、美鈴はカウンターへと歩み寄った。彼女は見た目は、霖之助の知る少女たちと比べても「大人」と呼ぶにふさわしいのであるが、どこかこのような子どもじみた行動をする傾向があった。
 そしてカウンターの上に、持っていた小さな植木鉢を静かに置いた。

「……これは?」

 突然目の前に置かれた植木鉢に、当然霖之助は視線を落とす。
 植木鉢の中には、白い花が一輪咲いている。だが、その花は少し萎れてしまっているように見えた。外の植物達がそれぞれ自らの存在を強調するかのように咲き誇っているのと比べると、この花にはその主張が明らかに足りない。だからといって、枯れているわけでも無いのだが。
 そんなことを霖之助が考えている間も、美鈴は周囲をキョロキョロと見回して、彼の問いには答えようとしない。

「あ、すいません。本題に入る前に、商品を見てもいいですかね?」

 周りに陳列された道具がよほど珍しいのか、目を輝かせながら美鈴は霖之助に尋ねる。
 当然それを断る道理は無く、霖之助が頷いて応えると、美鈴は嬉しそうに道具を物色し始めた。
 手当たりしだいに商品を手に取っては、まじまじと様々な角度から長め、十分に見終えると丁寧に棚に戻す。そんな行動を、美鈴はひたすら繰り返す。その目には・・・なんというか、子どものような輝きを感じることができる。

 ……香霖堂に「訪れる」者の行動としては、かなり奇特な行動に見えてしまう自分が悲しくて、霖之助は頭を抑えた。

「……そんなに、珍しいかな?」

 随分と商品を見るのに夢中になっているようなので、話しかけるべきかどうか悩んだ霖之助であったが、「客がいるにも関わらず店内に沈黙が流れる」という奇異な状況に我慢ができず、気づけば美鈴へと問いかけていた。

 白黒の模様がついた熊のような動物のぬいぐるみを眺めていた美鈴は、霖之助の問いかけに振り返る。

「はい!仕事柄、こういうお店に来る機会が無いので」

 熊……というか、パンダのぬいぐるみの手足を何故かわきわきと動かしながら、美鈴は嬉しそうに答えた。しかし、似合う。

「休みが無いわけではないのだろう?」

「もちろん、たまにお休みはもらいますけど、買い物はしませんね。森に昼寝をしにいったり、武術の練習をしたり」

 パンダのぬいぐるみを棚に戻しながら答える美鈴に対して、霖之助はまた口を開く。

「見習いたい程に健康的な休日の過ごし方だな。人里には降りないのか?」

「興味が無いわけではないですけど、紅魔館に必要な買い物はみんな咲夜さんがしてくれますから。私の仕事はもっぱら門番です」

「なるほど。そんな君が、今日は何をお求めで来店したのかな?」

「……もうちょっと見てからでいいじゃないですかー」

 ぬいぐるみの次は、肉まんの形を模したキーホルダーを手に取り、残念そうに美鈴は言葉を返した。うん。やっぱり似合う。

「いや、もちろん商品はいくらでも見ても構わないのだが。……目の前に置かれたこの花が気になって仕方が無いのでね」

 植木鉢の縁を指でなぞりながら言うと、「ああ」と、納得したように頷き、キーホルダーを棚に置いて、美鈴はカウンターの前の来客用の椅子に腰を下ろした。

「この店、面白いですねー!」

「……面と向かって店を褒められたのは初めての経験だよ」

 きらきらと輝いた瞳で言われ、霖之助は思わずたじろいだ。香霖堂を店とも思わず、商品を強奪したり、払うつもりも無いツケでしか買い物をしなかったりする連中には覚えがあるが、ここまで迷いの無い目で言われると、それはそれで対応に困る。

「まあ、光栄ではあるよ。……それで、今日お求めの品は、この花と何か関係が?」

 植木鉢の中に力無く咲く花を指さしながら尋ねると、美鈴は幾らか神妙な顔つきになって頷いた。

「私の仕事は門番だけじゃなくて、紅魔館の花畑の管理も、仕事の一つなんですよ」

「ああ。以前に話していたね」

 ここで言う「以前」とは、どれほど前のことだったかは定かではないのだが、紅魔館を訪ねた際にした世間話で美鈴から聞いた……ということは、霖之助も覚えていた。
 「門番の仕事も充分大変なものであろうに、花畑の世話もしているとは」と、その時は感心しきりであったが、その後訪ねるたびに昼寝をしている美鈴の姿を見て、感心したことを後悔したのも思い出す。・・・ああ。そう考えると、話を聞いたのは随分前のことだったのかもしれない。彼女の昼寝は、最近始まった物ではないのだから。

「覚えていていただいて光栄です」

 照れ笑いを浮かべ、ぺこり、と頭を下げると美鈴は続ける。

「それで、今年も花を育てていたわけなんですけど……花畑の端で育てているこの花達が、何故か萎れてしまいまして……」

「ほう。君に落ち度は無いんだな?」

「もちろんです!水はあげすぎず少なすぎず、土もしっかりと作り上げましたし、剪定もしています!……でも花畑の一部とはいえ、それなりの範囲の花が萎れてしまって……。剪定をしようにも範囲が広すぎますし、どうすればいいのか」

 最初は自信満々、しかし、後半は植木鉢の花と同じように力無く美鈴は答えた。

「……なるほどな」

 「ふむ」とあごに手を当て、花を見つめる霖之助。美鈴の話を聞く限り、この1輪の花は、萎れてしまった花を1輪だけ摘み取って持ってきたものらしい。
 とはいえ、霖之助は家庭菜園こそ持っているものの、花の栽培に関しては全くの素人である。花の種類程度は分かるが、専門的な知識は皆無と言ってもいいだろう。

 だが、ここは「香霖堂」だ。
 霖之助に知識が無くとも、この店に置かれた道具達が美鈴の要望に応えてくれる可能性は充分にあり得る。

 ……が、その前に。

「少し、意外だな」

「はい?」

「君が『花畑の管理』という仕事にそこまで熱心なことが、だよ」

「むっ。失礼な」

 霖之助の発言に頬を膨らませた美鈴だが、そんな彼女に霖之助は続けて言う。

「そうでもないだろう。僕が見る限りではあるが、君が本業である『門番』の仕事をしっかりと務めている所を見たことが無いからね」

 少し意地悪く言うと、美鈴はばつが悪そうに顔を背けた。反論をしないということは、少しは自覚があるようだ。

「ま、まあ確かに、門番の仕事はたまーに寝ちゃったりしますけど」

 たまに、という言葉に言いたいこともあったが、美鈴の表情が少し沈んだ物へと変わったため、霖之助は何も言わずに彼女の言葉に耳を傾けた。

「……そりゃあ、花畑の世話を幾らしたところで、誰かがそれを見ているわけではないですけど。なんというか、誰かが来ない限り退屈で仕方がない門番の仕事よりも、花畑の世話の方が楽しいというか。あ、もちろん門番の仕事にだって誇りはありますけど・・・」

 言い訳をするように手を振る美鈴に、霖之助は小さく頷いて応える。「わかってるよ」とでも言いたげに。

「……一から育てた花が咲いた時は本当に嬉しいですし、それも充分に誇らしいことで。花がまるで子どもみたい……ってのは言い過ぎかもしれないですけど、ちゃんと咲かせてあげたいっていうか」

 たどたどしく、言葉を一つ一つ見つけ出すように美鈴は言う。
 言いながら植木鉢の花を見つめる美鈴の目に、普段の彼女には無い「母性」が確かに感じられて、霖之助は彼女にも気づかれないほど、小さく微笑んだ。

「こんなことを言っていたら、咲夜さんに怒られちゃいますけどね」

 頬を赤らめ、照れたように笑いながら美鈴は答えた。

 美鈴としては、これは笑い話のつもりで、霖之助にも笑ってくれることを期待していた。
 だが、霖之助は笑みは笑みでも、微笑を浮かべ、首を小さく横に振った。

「門番の仕事をおろそかにしては、咲夜も怒るだろうが・・・。君が花畑の管理に力を注ぐことに関して、彼女は……いや、彼女『達』は怒らないよ」

「……どういうことです?」

 全て分かりきった、という様子で言う霖之助に、当然美鈴は尋ねる。

「……咲夜とレミリアは、この店の常連でね」

「はあ。そうですね」

「その際にね、二人とも、色々なことを話してくれるんだ。最近の怪事について。紅魔館について。君が門番の仕事をあまり真面目にやらないことについて」

「あ……やっぱりそんなことなんですね……」

 渇いた笑いを浮かべる美鈴をちらりと見てから、霖之助は続けて言い放った。


「……紅魔館の花畑が、綺麗に咲いた……とかね」


 その言葉を聞いた途端、美鈴は目を見開いた。
 そして、霖之助を見つめる。しかし、彼は美鈴の視線には応えず、話を続ける。

「『去年に比べて綺麗だ』、『花畑を少し拡張してもいいかもしれない』、『少しは春らしくなった』」

 淡々と、咲夜とレミリアの発した言葉を、霖之助は美鈴へ伝える。その表情はとても穏やかで、その会話を懐かしむようだ。
 美鈴はというと、目を見開いてからは表情の変化は分からない。が、霖之助の言葉を聞き逃さぬよう、彼を見つめるその目は「早く続きを」と霖之助に訴えかけるようであった。

「『門番の仕事はしないくせに』、『頭に花が咲いているんじゃないか』」

 少し意地の悪い内容を言ってみるが(もちろん、しっかりと咲夜・レミリアの口から聞いた言葉ではある)、美鈴の表情はやはり変わらない。
 小さく笑みを浮かべ、霖之助は最後の言葉を伝えた。

「……『最近、元気が無い。良ければ相談に乗ってちょうだい』……ってね」

 言葉を終えると、いつの間にか身を乗り出し霖之助の言葉に耳を傾けていた美鈴は、力無くカウンターの椅子に腰を下ろした。
 そして、しばらくは何も言えず、呆然と霖之助を見つめる。とはいっても、視線の焦点は彼に合っていないようだが。

「……君はさっき言ったね。『花畑の世話を幾らしたところで、誰かがそれを見ているわけではない』と。……今更言うまでも無いだろうが、それは間違いだ。君の仕事は、君の同僚が、君の上司が。しっかりと見てくれているよ」

 言いながら、霖之助はカウンターの下へと両手を伸ばし、ダンボールの箱を取り出す。
 その中には、外の世界の物らしき花の本や、何やら液体の入ったプラスチック容器など……美鈴が見ても、一目では何に使うのか分からない道具がいっぱいに詰め込まれている。

「レミリア達の話を聞いて、君が花畑関連で悩んでいることは推測できたからね。道具をこうやってまとめて、近々訪ねようと思っていたんだ。……君から訪ねてくるとは、少し予想外だったが」

「……全部、知っていたんですか?」

 やっと美鈴が口を開いたが、彼女らしくない、とても小さな声だった。
 霖之助は、小さく首を振って応える。

「いや。憶測だよ。君が僕に花畑の事を話した時に、それは間違いではなかった、と確信できたけどね」

 ダンボールの中から、液体の入ったプラスチック容器を一つ取り出し、霖之助は続ける。

「この花は間違いなく春に咲く花だし、こうして一応花を咲かせたことからも、君の栽培法が間違った物ではなかったことが分かる。となると、考えられるのは、土の栄養分が枯渇したか、栄養の分布が偏ってしまったか。ということが第一に考えられる」

 プラスチック容器の先端を回し、そのままねじり切ると、それを植木鉢の土に突き刺した。

「この液体は肥料でね。こうして土に刺すことによって土に栄養を補給する。……とはいえ、花畑に使うにはこれはあまりにも小規模だ。こちらの大きな容器には、濃縮された液体肥料が詰まっている。決められた分量を水で薄め、そのまま撒くことによって広範囲に栄養を行き渡らせることができる。今回の場合、こちらを僕は勧めたい。もちろん肥料のやりすぎは厳禁だが……それくらいは君も理解しているね」

 さらさらと慣れた口調で説明をし、カウンターの上に次々と商品を載せていく霖之助。
 しばらくの間、何も言えずその様子を眺めていた美鈴だが、はっとしたように頬を赤くすると、

「な、何で私に直接言ってくれないんですか!!」

 と、ようやくまともな声を出す。

 霖之助が散々商品の説明をした後の発言であったため、今更か、と霖之助はため息を吐いたが、必死な美鈴の様子がおかしくて、また微笑んだ。

「さあね。真意は図りかねるが……紅魔館の住民は、普段君に感謝することが少ないだろうからね。感謝したりねぎらったりするのが気恥ずかしかったのかもしれないな」

 事実、これらの話をレミリアと咲夜が話した後、彼女達に「間違っても美鈴に言わぬよう」と念押しをされていた。……客との会話という秘匿義務を破ったのは店主として失格とも言えることであるが、彼女らの尊厳を崩すようなことではないと思われるし、美鈴の心が幾分か救われるのであれば、話しても構わないと判断した。
 ……なんだかんだで、彼女達も許してくれるだろう。そう考えながら。

「わ、私が今、気恥ずかしいですよ!」

「それは大変だ。すまなかったね。教えなければよかった」

「い、いえいえ!!ありがとうございました!」

 カウンターに頭をぶつけるのではないかと思うほどに深くお辞儀をし、美鈴は再び顔を上げる。
 その顔には、もう驚きでは無く、どこまでも嬉しそうな笑顔が浮かんでいた。照れているのか、頬も赤い。

「みなさん素直じゃないんですねー!」

「……まあ、そうかもしれないな。感情のままに話すのは、紅魔館では君くらいなものだ」

「それじゃあ私が馬鹿みたいじゃないですかー」

 顔に浮かぶ笑顔も消さずにへらへらと答える美鈴を見ると、その言葉を否定できなくなってしまうな。と、霖之助は苦笑した。美鈴に気づかれないほど、小さくではあるが。

「素直ということさ。この幻想郷において、その性格は貴重だ。羨ましいとも言える」

「えへへー」

 当たり障りの無い言葉を選んだだけのつもりだったのだが、美鈴はまだ嬉しいのか、照れ笑いを浮かべるばかりだ。

「あの……霖之助さんも、ありがとうございます」

「ん?」

 満面の笑みをわずかに崩し(それでも顔には喜びが満ちていて、頬が赤いのも変わらずである)、美鈴は霖之助にお辞儀と共に礼を述べた。
 特に感謝されることをした覚えも無い霖之助は、思わず首を傾げて返す。

「この商品、私のために用意してくれていたんですよね?」

「ああ。……まあ、結局は商売のためだ。礼を言われるようなことではないよ」

 お金も取るしね。と付け足した霖之助に、美鈴は小さく首を振った。

「いえ。ご存知の通り、私が霖之助さんから物を買うのは初めてです。それが、霖之助さんが私のために選んでくれた物ってだけで、すごく嬉しいんです」

 だからもう一度。
 言うと、小さく息を吸い込んで、彼女はもう一度、

「ありがとうございました。霖之助さん」

 美鈴らしい……そう。太陽のような笑顔を浮かべ、感謝の言葉を霖之助へ送った。

 霖之助は目を見開き、その笑顔に半ば見惚れていたが、目を瞑り小さく笑い、

「どういたしまして。お客様」

 紳士のように手を胸の前で仰ぎ、丁寧にお辞儀をしながら霖之助は返した。

「あ。それ執事みたいでいいですね。紅魔館で働いたらいいじゃないですか!」

「丁重にお断りさせていただこう。僕に貴族の暮らしは似合わないよ」

「貴族とは違うんじゃないですか?たぶん、扱いは私と同じくらいですよー」

「……そうだとすると、余計に遠慮させていただこう」

「えー!いいじゃないですか!一緒にお話しましょうよー」

「執事の仕事は、門番の暇を潰すことではないよ」

 くだらない会話だが、二人には自然と笑みが生まれていた。
 このような会話が、この二人の普段の会話であった。

 そして、この会話から生まれる笑みこそが、二人が求めているものだった。

「そういえば、長い間、紅魔館を訪ねてなかったね」

「そうですね」

「……道具を勧めた僕の立場もある。しばらくしたら、君の花を見るために訪ねてみようか。・・・いいかな?」

「!……はい!もちろんです!」

 自分の仕事が認められていた時とはまた違う、喜びに満ちた笑みで美鈴は答える。
 この太陽の笑みがあれば、きっと、彼女の花は綺麗に咲くだろう。
 根拠は無いが、霖之助は確信していた。

 風も無いが、目の前の植木鉢の花は、喜びで揺れているように見えた。







 後日、紅魔館にて



「……咲夜?これは何?」

 紅魔館の主、レミリア・スカーレットは、自らが茶を嗜むテーブルの上に置かれた、一輪の花を手に取りながら、自らの僕へと尋ねた。

「それは、美鈴の作った押し花です」

 僕……十六夜咲夜は、淡々と答えた。その手に、レミリアの好きな銘柄の茶葉が入ったティーポットを携えながら。

「ふうん……それで、どうしてその押し花が私のテーブルの上に?」

「見せたかっただけではないでしょうか。ちなみにパチュリー様、妹様、小悪魔……そして私にも、同じ物が届いております」

「そうなの?」

 意外そうな顔を浮かべながら尋ねると、咲夜はこくりと一度頷いた。
 そして、慣れた手つきでティーカップへと紅茶を注ぐ。カップから香る紅茶の心地良い香りが、レミリアの鼻をくすぐった。

「ええ。特に妹様は、大変な喜びようです」

「……そう」

 この押し花を手に取り、様々な角度から眺め、嬉しそうに笑うフランの顔を思い浮かべ、レミリアは優しく微笑んだ。

「……これは、あの花かしら」

「『あの花』とは?」

 懐かしむように呟いたレミリアへ、咲夜は……微笑みながら尋ねる。まるで、その言葉の意図を全て理解しているかのように。
 レミリアは何も答えなかった。が、その白い頬に、ほんのわずかな赤みが差していることを咲夜は見逃さなかった。もちろん、だからといって愛すべき主にそれを伝えることはしないのだが。

「……そういえば、香霖堂の店主が最近来たようだけれど、顔を見ていないわね」

 話を変えるために、紅茶を一口啜ってから、レミリアは突然そのような話題を投げかけた。

「彼は美鈴と話しに来ただけのようで、館へは入っておりません」

「美鈴の様子は?」

「ご機嫌です。それもひどく。最近は門番というより、庭師と呼ぶべき程に花畑の手入れに夢中なようで」

 咲夜の言葉を聞くと、レミリアはわずかにその整った眉をひそめ、また紅茶を一口啜った。

「……まあ、その辺りの躾は任せるわ」

 うんざり。といった様子でレミリアは言うが、咲夜は微笑みを携え、

「おかげで、夏の花も綺麗に咲きそうですよ」

 と、喜ばしそうに報告する。
 その報告に、レミリアも小さな笑みを浮かべた。

「そうね。楽しみにしておくわ」

 穏やかな声で、レミリアはそう返した。そんなレミリアに、今度は咲夜が問いかけた。

「……また花が萎れないか、不安ではありませんか?」

 もはや、全てを理解している、ということを隠そうともしない咲夜に対し、レミリアはもはや恥じらいを浮かべることもなく、

「あの『庭師』は、また店主を頼るだけよ。馬鹿みたいに嬉しそうに、ね」

 こちらも、全てを理解しているように答えるのだった。

「私も同意見です。ところで、押し花はどう致しましょう」

「あなたはどうしたの?」

「棚に飾らせていただきました」

「……私の部屋のテーブルに、読みかけの本があるわ。ティータイムが終わったら、それに挟んでいる栞の代わりに、挟んでおいてちょうだい」

「かしこまりました」

 美鈴が聞けば、どれほど喜ぶだろうか。
 レミリアの浮かべる表情も、咲夜の浮かべる表情も。とても穏やかで、普段の彼女たちが放つ威圧感のような物は、今は感じることができない。
 彼女達の表情を変えたのは、間違いなく、レミリアの持つたった一輪の押し花であった。

「……それと、咲夜」

 紅茶ももう少しで飲み終わろうか。というところで、レミリアは咲夜を呼んだ。

「なんでしょうか」

 そして、咲夜の目を見据え、当然のように。

「……美鈴には、何も言わないように」

 そう命令する。
 咲夜は、また笑みを浮かべた。

「それは、どの話のことでしょうか」

 わかりきっている問い。

「あなたが予想している、その全てよ」

 わかりきっていた、その答え。

「承りました。お嬢様」

 瀟洒で忠実なメイドは、スカートの端をつまみ上げ、誰もが目を奪われる程美しい挙動で頭を下げた。

 紅茶の最後の一口を、静かに飲み干す。
 そしてレミリアは、彼女の色白な手の平にすら映える程の真っ白な押し花を見て、穏やかな顔で呟いた。

「……なかなか、綺麗な物ね」

「同感です。お嬢様」

 夏、紅魔館の庭に咲き誇る色鮮やかな花畑の情景を思い浮かべ、紅魔館の主とメイド長は、小さく微笑んだ。

 その胸に、紅魔館の「門番」への、確かな労いの心を持って。












 あとがき

 いかがだったでしょうか。レミリアは厳しい主であるけれど、部下への気遣いも忘れないカリスマ溢れる少女であってほしいと思う。
 結局、好きな霖カプというものは、「自分の好きなキャラと霖之助」の組み合わせであることが第一だと思うので、その理屈で行くと俺は美鈴が好きということになりますね。いや、好きですけど。普通に。
 これからもたくさん書いていきたいですけどネタが出ないですね・・・。

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