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銀の働き部屋

管理人銀河の、日記兼テキストサイトです。取り扱うジャンルは主にヤングガンガン連載のWORKING!!になると思います。最近は東方の霖之助小説を書くのにも夢中。どうかよろしくお願いします。リンクはフリーです。感想は常に受付中です!もらえたら泣いて喜びます

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歌姫と踊り子と観客と  東方  アリ霖



 pixivまとめラスト。

 pixivに設置したアンケートで最も票の多かったアリ霖を書きました。

 人形遣いなので、少しは人形を生かした作品を。というイメージで書いてみました。
 上海ばかりで蓬莱を出すのを完全に忘れていた、というのは内緒で。


 それでは、「歌姫と踊り子と観客と」。続きからでどうぞ。










 薄暗い。
 かび臭い。
 ガラクタだらけ。
 華やかさ?そんなものは、欠片も無い。

 魔法の森の入り口にひっそりと存在する、古道具屋『香霖堂』を知る者は、皆、口を揃えてそのような印象を語る。

 香霖堂の店主は、このような言葉を聞けば、きっと「失敬だ」と、普段から決して良くは無い眼つきを更に鋭くさせて言うのであろうが……。残念なことに、これらの印象は、香霖堂の様相を実に的確に示しているのであった。

 まあ……薄暗くかび臭いのは、道具屋ならば香霖堂に限らずそうであるし、古道具屋に華やかさなどはいらないのであるが。

 それでも、長居をして決して楽しい場所では無いことに違いは無い。。

 だが。

 この日の香霖堂店内には……

「~♪ ~~♪」

 可憐な、少女の歌声が響いていた。

 その声は柔らかく透き通っていて、声量こそ小さなものであったが、聞く者の心を癒してくれるような……優しい、穏やかな歌声であった。
 香霖堂店内には、様々な道具で溢れかえっているため、人の声などは本来響きにくいはずなのだが……不思議とその歌声はよく通り、香霖堂の隅から隅まで、その歌を届けてくれる。

「……いい歌だ」

 しばらくその歌声に聞き入っていた香霖堂の店主・・・森近霖之助であったが、歌い手に尋ねたいことができてしまったので、賞賛の言葉を贈り、名残り惜しくはあったがその歌を一度中断させた。

 店内に置かれた衣服を選びながら、歌を口ずさんでいた可憐な歌い手……アリス・マーガトロイドは、その言葉を聞くと、はた、と歌うのを止めて、少し頬を紅潮させた顔で霖之助へと振り向いた。そして、何故か霖之助を睨みつけるのであった。

「……からかっているの?」

 アリスの顔の赤みはまたわずかに増し、その顔からははっきりとした、少女の「恥じらい」を読み取ることができる。
 きっと、アリスは、誰かに歌を聞いてもらうために歌っていたわけでは無く、気分が高揚した結果、あの歌を口ずさんでしまっていただけに過ぎないのだろう。それは、誰でも一度は経験があろうことだと思う。そして、そんな歌を聞かれてしまうと、とてもとても恥ずかしいことだというのも・・・誰しもが、理解してくれていることだろう。

 だから、霖之助を睨みつけるアリスは、その形相に(それもまた、随分と可愛らしいものなのだが)似合わず、顔を赤く染め上げているというわけだ。

「……下手な歌を聞かせて、悪かったわね」

 不貞腐れた声を出しながら、アリスはぷいっと霖之助から視線を逸らした。

「待て待て。何をひねくれているんだ。僕は、『いい歌だ』と言ったんだ。その言葉に他意は無いよ」

 霖之助が慌ててアリスに弁明をすると、彼女は黙りこんだまま、視線だけを、何回か霖之助の方向へと動かした。
 そして、

「……ありがと」

 改めて褒められたからだろう。頬の赤みを更に一段階増し、霖之助と視線を合わせようとはせず、アリスは素直に礼を述べた。

 その言葉を聞き、アリスが心の底から怒りを感じているのではない。ということを確認できた霖之助は、ほっと安堵の胸を撫で下ろす。

「いや。店内に彩りを与えてくれた君にこそ、感謝の言葉を贈りたいくらいだ。・・・さっきの歌は、なんという曲名なのかな?」

「……そんなことを聞いてどうするのよ」

 まだ恥ずかしさが抜けきっていないのか、落ち着かない挙動で衣服を取ったり戻したりを繰り返しているアリスは(恐らく、自分ではそんな行動に気づいてすらいないのだろう)、やはり不貞腐れたような声で尋ね返した。

「人の歌は、聞いていてとても興味深いものでね。歌は人類が生み出した芸術文化の極みだよ。歌は歌う人を選ばない。だからこそ、誰にだって歌を楽しむ権利が生まれる。喜怒哀楽……いや、もっと多くの感情を、通常の言葉だけでは言い表せない時……そして、言葉など存在しない太古の時代から、人々はその感情を『歌』で表した。歌は芸術であり、感情そのものでもある。……だからこそ、人が不意に口ずさむ歌からは、その人物の、本当の心を読み取ることができるんだ」

 殆ど一息に持論を捲くし立てると、ふうん、と、アリスはさして興味も無さそうに息を漏らす。普段から、霖之助の眉唾ものである持論を聞く時、彼女はいつもこのような反応で応えていた。
 しかし、ある程度の興味は持ったらしく、

「……質問を質問で返すことになって悪いのだけど、霊夢や魔理沙は、歌を歌うのかしら?」

 視線は目の前の布へと向けたまま、アリスはそう尋ねる。その布はとても上質な物であり、照れ隠しで撫でているだけで、彼女に十分な心地良さを提供してくれていた。

 自分の質問がアリスへ通らなかったことなどまるで気にせず、「ふむ」と、霖之助は顎に手を当てて、霊夢と魔理沙の日常を思い出し始めた。半妖であり、人間の何倍もの時を生きている霖之助の記憶はとても膨大な量ではあるのだが、彼女達に関する記憶を探し出すことには、不思議と苦労は無いのであった。……その理由は、霖之助自身もよく分かっていない。

「そうだね……。霊夢は、君にとっては少し意外な歌を、時折口ずさんでいるよ」

「へえ。良ければ教えてくれない?」

 霖之助の話により大きな興味が湧いたのか、アリスは手に持っていた布を棚へと戻し、カウンターの前まで歩み寄ると、彼と向かい合うように来客用の椅子へと腰掛けた。
 アリスが椅子に座ると、彼女が来店してからずっとカウンターの上で彼女の服選びが終わるのを座って待っていた上海が、とことこと彼女の傍へと近づき、彼女の胸元によりかかるようにちょこんと座り直す。いつ見ても、人間くさい動きをする人形だ。と、霖之助は上海を見る度にそう思わずにはいられなかった。

 そんな一人と一体の様子を確認してから、霖之助は話し始める。

「霊夢が歌う歌はね……。童謡さ」

 霖之助が答えると、アリスは彼の予想通りに目を丸く見開いて、二・三回瞬きをした。

「童謡?……確かに、意外ね。というより、似合わないというか……」

「まあ、僕も童謡に詳しくは無いのだがね……。歌詞から察するに、あれは間違いなく童謡だと思う。霊夢は、見た目以上に精神は達観しているし、実際、本人も子どもらしい振る舞いを嫌っているように見える。……だが、僕からしてみれば、霊夢は子どもなんだよ。見た目はもちろん、我儘ばかりな所とか、ね。無意識で口ずさむ童謡が、それを如実に表している」

 ……霊夢が我儘を言ってばかりの存在など、貴方くらいのものでしょうに。
 そんな言葉が、アリスの喉元まで出かかったが、あえてその発言をすることはしなかった。アリスにだって、これくらいの空気は読めるのだ。

「それ以外に歌を知らないだけじゃないの?」

「ああ。僕も最初はそう思った。だけど、彼女が歌う童謡は、定期的に別な物へと変わるんだ。童謡から、また別の童謡へと、ね。きっと、里へ降りた際に子ども達が歌っているのを聞いたのだろう。事実、霊夢が歌うのは童謡のごくごく短い節だけだ。それは、子どもたちの歌を最初から最後まで聞き入ったわけではなく、通り過ぎながら聞き耳を立てて覚えたからだ。それに、他の歌を聞きたいのならば、僕に頼めばいいんだしね。霊夢にとっての歌、とは、『霊夢の子どもとしての一面』を表している。……と言うと、少し大げさかな。言い換えようと思えば、『寂しさ』にも変換できるのかもしれないね」

 霖之助は、ラジカセ・カセットテープなる品物が置かれた棚へと視線を送りながら、饒舌に語った。電気を必要とする商品の殆どは、この幻想郷では使うことができない。が、電池を動力とするラジカセならば、カセットテープから多様の音楽を聞くことが可能となる。事実、霖之助は気が向いた時は店内に外の世界の曲を流すこともある。その際、霊夢が店を訪ねてくることもあるのだが、不思議と、霊夢は「じぇいぽっぷ」・「演歌」・「クラシック」などの音楽に興味を示すことは無いのであった。

「……推測に過ぎないのでしょうけど、説得力はあるわね」

 一つ一つ、思い出すように説明する霖之助の言葉を聞きながら、アリスは脳内で童謡を歌う霊夢の姿を思い浮かべていた。なるほど。一度思い浮かべてしまいさえすれば、博麗の巫女もただの少女だ。その姿は、なんとも微笑ましいものに映った。

「……この話は、一応霊夢には黙っていてもらえないかな。大丈夫とは思うのだが、もしかして、があるかもしれないし……」

 少し声のトーンを落としながら、霖之助は半分冗談を言うかのように、アリスへと頼みこんだ。

「どうして?面白いことになりそうじゃない」

 もともと、このことを誰かに話すつもりなど毛頭無かったアリスであったが、悪戯っぽく微笑みながらそう返すと、霖之助は苦笑いを浮かべた。
 小さな小さな冗談なのだが、自分が生み出す霖之助のこのような表情は、アリスにとって非常に愉快な物だった。それに、彼に「それ」はとてもよく似合っていた。

「これは失言だったかもしれないな……。さて、次は魔理沙かな」

「あの子も、霊夢と似たような物だと思うんだけど」

「ところが、また違うのさ。魔理沙が歌う歌はね…………実を言うと、分からない」

「はあ?」

 ずいぶんと自信に満ちた顔で答える霖之助に対し、アリスは怪訝そうな顔を浮かべる。

「ちょっと。結局は知らないってこと?」

「そうさ。旋律は分かっても、曲の種別が分からない。魔理沙が歌う歌は……自作の物だから」

「……は?」

 再び怪訝そうな顔で、アリスは間の抜けた声を漏らした。

「歌詞は……確か、『派手~!それこそがま・ほ・う~♪』とか、『弾幕はパワーだっぜー!マスター、スッパァーク!』とか……」

 全く抑揚の無い声で魔理沙の歌を再現する霖之助の姿がなかなかにシュールで、アリスは何も言えないまま、数秒の間硬直してしまった。
 が、それが解けると、霖之助の声。そして魔理沙の作る歌の歌詞がよほど面白かったのか。笑いを必死に耐えようとはしながらも、結局は耐え切れず、アリスは声に出して笑い始める。

「なに、その歌……! 魔理沙らしいっちゃあ、魔理沙らしいわね」

 笑ったことによって目に浮かんだ生理的な涙を軽く拭うと、アリスは話の続きを聞こう、と霖之助を見る。

「ああ。僕もそう思う。彼女は、何の恥ずかしげもなくその歌を歌いながら、その壺の上で足をばたばたと動かしているんだ」

 魔理沙が来店した際に、彼女の特等席となる壺を指差しながら、霖之助は説明を続けた。

「彼女の歌は、まあ、ざっくりと言えば、機嫌がいい時に聞けるね。魔法の研究が上手くいったのか、それとも珍しいキノコでも採れたのか、はたまた珍しい物でも拾ったのか。……だが、恐らくは、彼女が一つの目標まで到達できた証、なんだろうな」

「なんでそんなことが分かるの?」

「その数日後……早ければ翌日に、自分の研究の成果を自慢げに持ってくることが何回かあったのさ。顔を洗う暇すら惜しかったのか、インクに汚れた顔で……ずいぶんと嬉しそうに、ね。……彼女の歌は、きっと自分への賞賛なんだ。一つのことを成し遂げた自分の昂ぶりが抑えきれず、それが自分を称える歌として表れてしまう。歌詞も、自分に関することばかりだしね。彼女にとっての歌は、『自信』の表れ。そして、『耐え難い喜び』の表れであるわけだ。だから、僕は彼女の支離滅裂な歌も嫌いではない。魔理沙の成長を表しているのだからね」

「なるほどねえ……。魔理沙に指摘したら、顔を真っ赤にして否定しそうだけど」

「できればそれもやめてもらいたいな。ミニ八卦炉を片手にここへ突入されても、その、困る」

 再び苦笑いを浮かべ霖之助が答えたのを見て、アリスも小さく微笑んだ。

 ……なんというべきか。
 アリスが見る限り、普段は霊夢と魔理沙に翻弄されっぱなしの霖之助ではあるが。彼女達のことを話す霖之助の表情は、とても穏やかで、優しく……まるで保護者のそれのようであった。
 アリスは、そんな霖之助の顔も……やはり、嫌いではなかった。

「……霖之助さんは、どんな歌を歌うの?」

 霖之助の目を見つめながら、好奇心もあって、アリスは悪戯っぽくそう尋ねてみる。
 その問いに、霖之助はわずかに目を見開いたが、すぐに思考へと耽り始めた。目を閉じ、たまに首をすこし傾けては、どこかわざとらしい唸り声をあげる。
 そして、十数秒の時間が経ってから、

「分からない、な」

 とぼけたように、そう答えるのであった。

「分からない?」

「そう。音楽自体は、今でもよく聞いているが……無意識にふと口から出てくるような歌に心当たりが無い。……いや、覚えていない。と言うべきか」

「……無意識に歌を歌うような、子どもじみた時代は卒業した、ってこと?」

 たっぷりの皮肉を込めてアリスが問いかけると、冷や汗を額に一筋流しながら、霖之助は首を横に振る。

「僕はこれでも、人間よりはずっと長く生きているからね。ある程度精神が達観していても、おかしなことではないだろう」

「……私にそれを説明することが、どういうことを意味するか、分かっている?」

 にっこり。と、満面の笑みを浮かべながらアリスが尋ねると、霖之助の首筋に、また汗が一筋流れる。

 人形のような可憐な容姿を持つこの少女も、幻想郷に名を連ねさせる魔法使いであることを、霖之助はすっかりと失念してしまっていたのだ。

「……失敬。僕のことはどうでもいいじゃあないか。何にせよ、昔の話だよ」

 自嘲気味に答えた霖之助の表情が、どこか寂しげな物へと変わったのを見てしまって、アリスはそれ以上何も尋ねることはできなくなってしまった。
 その表情に、霖之助が隠したいと願う過去の記憶が、見え隠れしたような気がして。

 何回も言うことになるが。
 アリスは、霖之助が見せる様々な表情が好きだった。

 来客を迎える時の、商売人としての顔。
 商品の説明を誇らしげにする、子どものような顔。
 なにげない雑談をしている時に見せる、優しい笑顔。
 霊夢や魔理沙と話している時に時折見せる、困り果てたような顔。

 そのどれもが、アリスは好きだった。

 だけど。

 霖之助の、寂しい表情は・・・見たく無かった。

 少なくとも、

「……私が、いる時は……」

「ん? 何か言ったかい?」

「……なんでもないわよ」

 出来る限り平静を保ちながら、アリスは素っ気無く答える。
 この鈍感な男が、アリスの変化に気づくはずもなく、「そうか」と一度頷いただけで、その会話は終了した。その瞬間、アリスの心はますます刺々しくなるのであったのだが。

「……霊夢と魔理沙の話を終えたところで、君の話になるわけだが……」

「……あら。そもそも、どういう経緯で霊夢や魔理沙の話になったのだったかしら」

「……僕の問いに、君が更に問い返したからだろう」

「あ。そうでしたっけ?」

 白々しく答えるアリスを霖之助はねめつけたが、まあ、あえて何も言わないことにした。
 ……恐らく、これからアリスは、恥をかくことになるのであろうし。
 そう心の中で呟いてから、

「それで……?君が歌っていた歌は、なんという歌なのかな?」

 最初の問いを、霖之助は再びアリスへと投げかけた。

「さあ、ね。どこかで聞きかじった歌がたまたま出ていただけじゃない?そんなの、いちいち覚えていないわよ」

 先ほどまで、魔理沙の歌を聞いたりして笑顔を浮かべていたアリスであったが、自分の話になった途端、表情も言葉も素っ気ないものへと変わり、本心などまるで伝えるつもりが無いのか、ずいぶんと抑揚の無い声で霖之助の問いに答えた。

「……それじゃあ、仕方がないな……」

 このような態度をとられてしまっては、これ以上話の発展のさせようも無い。
 霖之助は、ふう。と溜息を吐いた。あれだけの美しい歌、是非とも曲名を聞きたかったのだが……。

 …………………………。

 なんて、な。

 霖之助は、不敵な笑みを浮かべながら、再び口を開いた。

「アリス。実はね。僕には、君が歌っていた歌……その曲名は分からないが、あの歌が君にとってどのような物なのかは、予想がついているんだよ」

「はあ?」

 自信満々、といった様子の霖之助に対し、アリスは殆ど苛立ちを隠すことも無く、目の前のドヤ顔店主を睨みつける。

「何?あなたにしては珍しい冗談ね。それとも、でたらめを言って、私の本心を探るつもり?残念ながら、私はそんな単純な手には……」

 余裕しゃくしゃくといった様子で、流れるように話していたアリスであったが、

「劇、だ」

 霖之助の発した単語を聞くと、ピタリ、と、その動きを止めてしまった。
 そして、何秒の時が流れたのだろう。ようやく、アリスの顔が、ゆっくりと霖之助を向き、彼の金色の瞳を見た。
 霖之助は、この時点で、相当に愉快であった。
 何故なら、彼を見るアリスの、まるで人形のような青く透き通った瞳は・・・面白いくらい、揺れに揺れまくっていた。

「……なんて?」

 彼女らしくない上ずった声で、アリスは霖之助に確認を求める。
 だが、霖之助は全く動揺することは無く、

「劇。……恐らくは、人形劇。君が歌っていた歌は、人形劇で使おうと思っていた歌だ。……違うかな?」

 迷いの無い、真っ直ぐな目でアリスを見つめ、そう言い放った。

 そして、霖之助が言葉を終えた瞬間、アリスの顔が、最初に歌を指摘した時とは比べ物にならないほどに真赤に紅潮していく様子が、はっきりと見てとれた。

「な、なな、何でよ!私、誰にもそんなことは話していないのに!」

「ん。やはり図星だったようだな。僕の観察眼もなかなかじゃないか」

「は、はぐらかさないで!ねえ何で!?どうしてよ!」

 言い当てられたのがよっぽど恥ずかしかったのだろう。アリスの顔の赤みはどんどんと増していき、今にも霖之助に掴みかからんとする勢いだ。彼女の胸元に寄りかかっていた上海も彼女から離れ、霖之助の側へと歩み寄り、普段と明らかに様子の異なる主を不思議そうに見上げていた。

「さあ。何でだろうね。……ヒントを与えるとすれば、君が全て僕に教えてくれていた。ということかな」

「はあ!?」

 もはや、普段の彼女の上品な姿などどこにも無く、霖之助の言葉に、アリスはそんな大声を出してしまう始末であった。

 とりあえず、アリスは、自分の行動を振り返ることにした。

 この店に、上海を連れて来店したのは、30分から1時間程前のことであろうか。
 店に入り、霖之助と軽い会話を交わした後、上海をカウンターの上へと置き、アリスは衣類や布類の品定めを始めた。そう。霖之助の言う通り、人形劇で使う人形用の服のアイディア、そして素材を探すために、今日は香霖堂へと訪ねてきたのだ。
 そして、品定めをしている内に、現在考えている人形劇の流れを思い浮かべ、劇で使う予定の曲をつい口ずさんでしまった……。

 ……。
 それ、だけだ。

 それ以外、アリスは何もしていない。

「……何で……!?」

 全く掴めない状況と、あまりの恥ずかしさに耐え切れなくなったのか、アリスの目には涙が溜まり始めていた。
 流石にそんなアリスの様子を見て、霖之助も、「意地悪が過ぎた」とでも思ったのであろう。

「……本当に分からないのか? なあ、上海」

 そう言いながら、上海の頭の上に、自らの手を乗せた。さも、意味ありげに。
 アリスの視線が、上海へと向く。
 上海は、普段と変わらぬ無邪気な表情で、ゆっくりと首を傾げ、己の主を見上げている。

「……上海?」

「……そうだ。上海だ」

「……どういうこと?」

 やはり状況が掴めていないらしく、アリスは、殆ど放心状態、といった様子でか細い声を出して尋ねる。

 霖之助はまた溜息を吐くと、ようやく説明を始めた。

「上海は、基本は、君が指示を与えることによって稼働を始める。それは間違い無いね?」

「……ええ」

「まあ、君がどのように上海へと指示を送っているのかは分からないが、恐らく、口頭でなく……思念のような物でも、指示を与えることはできるんじゃないか?」

「……ええ」

「君が、あの歌を歌い始めた時。それと同時に上海も……踊り始めたんだ」

「……え?」

 優しく上海の頭を撫でながら言う霖之助を、アリスは、ただ呆然とした目で見ることしかできなかった。

「君が頭の中で思い描いた人形劇の様子が、そのまま上海へと伝わったんじゃないのかな。君の歌声に合わせて、上海は君の歌声と同じく、可憐な踊りをずっと僕へと見せてくれていたんだ。……君が歌っている間中、ね」

 アリスは、再び上海へと視線を向けた。
 霖之助に撫でられている上海は、心地良さそうに目を閉じ、霖之助の手の動きに身を任せている。これは、アリスが出した「霖之助に懐いておけ」という命令を忠実に実行しているからであろう。

「それまでは、僕を見上げるばかりだった上海が、君の歌と共に踊り出す。……その様子を見れば、誰だって、君の歌の意味に気づくことができる。というわけさ。他に、質問は?」

 誇らしげな顔で、霖之助はアリスへと問いかける。

 しばらく、アリスは何も答えなかった。いや、答えられなかったのだ。
 ただ、あれだけ赤かった顔は、幾らか普段の顔色を取り戻し、今は頬をわずかに赤く染めている程度へと変わっている。
 ……何十秒が経った、という辺りで、アリスは深くため息を吐き、頭を抱え込んだ。

「……なんか、馬鹿みたい」

 そして、ぼそり、と、そう吐き捨てる。

「何がだい?」

 歌ったり、怒ったり、凹んだり。今日の表情豊かなアリスの様子に面白さを感じずにはいられない霖之助であったが、それを顔には出さず、意気消沈の彼女へと問いかけた。

「一人で、馬鹿みたいに大騒ぎしていた……自分自身が、よ」

「大分冷静になってくれたようで、僕も話しやすいよ。……で、曲名は?」

 霖之助はアリスに向い合って、再三、最初の問いを投げかけた。それに伴って、彼の手が頭から離れると、上海はまるで残念がるように小さく俯いてから、落ち着きを取り戻したアリスの胸元へと戻り、再び彼女へと寄りかかる。
 やはり、自分の下へいるよりも、アリスの下へいる方が自然だな。と、霖之助は上海を見ながら、一人で納得するように頷いた。

「……無い、わよ」

「ほう?」

 蚊の鳴くような声、とはこのような物を言うのだろう。
 しかし、何とか聞き取れた微かな声に対し、霖之助は興味深そうに声を漏らす。

「……私が、作ったのよ」

 折角顔色が戻ってきたかと思いきや、再び顔の赤みを強めて、アリスは消え入るような声で答えた。
 アリスの言葉を聞くと、霖之助は何も言わず、ただただ感心したように首を小さく上下させるのみであった。

「な、何よ。馬鹿にしているの?」

「とんでもない。……君にそのような才能があったとは、知らなかったのでね」

「べ、別に、そんな大したことじゃ……」

「いや。僕は素晴らしい歌だと思うよ。なあ、上海」

 霖之助が柔らかな表情で上海へと問いかけると、上海は、こくこくと何回も頷いた。それから、アリスを見上げて、また頷く。なんとも愛らしい動作に、霖之助にも思わず笑みが零れる。
 自分が出した命令による行動ではあるが、飼い犬に手を噛まれた気分で、アリスはますます調子を崩された。

「そうだ。どうせ一度歌ってくれたんだ。僕に、人形劇を見せてくれないか?」

「ええ!?」

 ぽん。と拳で手の平を叩きながら霖之助が提案すると、アリスの驚きの声が香霖堂店内へと響き渡る。
 そして彼女は、首をぶんぶんと激しく横に振り、

「だ、駄目よ!まだ全然構想段階だし、それに、人形も足りないし……」

 そう、必死に言葉を探しながらその提案を断ろうとする。

「構想段階ならば尚更だ。僕の感想で良ければ幾らでも言うし……確かにここには上海しかいないが、リハーサル感覚で、どうだい?」

 それでも折れず、霖之助はアリスを説得するが、それでも、彼女は首を横に振った。

「それでも、駄目。……未完成の物を見せるのは……私の信念に反するわ」

 そう答えるアリスの顔には、霖之助への怒りなどではなく、せっかくの提案を断ってしまい申し訳なく思っているような……そんな、寂しげな表情が浮かんでいた。
 そんな表情を浮かべられて、そんなことを言われてしまっては、それ以上霖之助が言えることは何も無い。

「……わかった。無理を言って悪かったね」

「ううん。いいの。……歌と上海を褒めてくれて、ありがとう」

 丁寧に謝罪をする霖之助に、アリスは、優しく微笑みながら礼を述べた。それを見て上海も、霖之助へ小さくお辞儀をしてみせた。主人想いの、優しい人形だ。と、霖之助の顔に再び笑みが浮かぶ。

「……ねえ。結局、私の歌は、何を表していたのかしら?」

 すっかり平静を取り戻せたらしく、アリスは、霖之助の目をしっかりと見据えながら問いかけた。
 そうだね。と口を開き、霖之助も穏やかな声で答える。

「君の歌は、里の人々を幸せな思いへと導く歌だ。……敢えて言うならば、君の『優しさ』。そして……『誇り』。と、言ったところか」

 霖之助の答えに、アリスはくすっ、と零すように笑った。

「何よ。随分買いかぶってくれるじゃない」

「君の人形劇の評判は、聞き及んでいるのでね。……さて、今度の里の祭は、一月程先のことだったかな?」

 壁に掛けた「カレンダー」という商品を見て、霖之助はアリスへと問いかける。このカレンダーの日付と、幻想郷で使われる日付の概念は多少異なったものであるが、単純に日数を数えるための物としての機能は十分であり、霖之助はこの商品を気に入り、普段から有効に活用していた。

「……さあ、どうだったかしら?」

 霖之助の言葉に、内心「ぎくり」と思いながら、視線をゆっくりと彼から逸らし、アリスはそっけなく答えた。

「とぼけなくてもいい。君が里で人形劇を開くとすれば、その時くらいしか、しばらくは機会が無いのだからね」

 全てお見通し。そう言いたげに笑みを浮かべて応えると、アリスは深く溜息を吐く。しかし、その顔に、この先のことを憂いているような感情は感じられない。
 ……むしろ、その顔が示す感情は……喜び。最後の抵抗を続けている、彼女の頬の赤みが、それを示していた。

「……さんざん期待して、がっかりしても知らないわよ?」

「知らないのか?僕は、君が思っている以上に人を信用する性質でね」

「……笑われないように、練習させてもらうわ。……じゃあ、私はこれで失礼するわね」

 余裕に満ちた笑みを浮かべると、アリスは椅子からゆっくりと立ち上がった。それを見て、上海もふわりと浮き上がり、彼女の肩へと座り込む。

「買い物は、いいのかい?」

「劇の構成を練り直したくなったのよ。……イメージがまとまったら、また来るわ」

 香霖堂の扉を開きながらアリスが答えると、霖之助は満足そうに頷いた。

「分かった。その時を楽しみに待つとしよう」

「ええ。……今日は楽しかった。さようなら」

 最後に霖之助へと手を振りながら別れの言葉を告げると、扉のカウベルの音と共に、アリスは香霖堂を後にした。



「……久々に、いい物を聞いたな」

 自らの椅子の背もたれへと体重をかけ、見慣れた天井を見上げながら、霖之助は呟いた。
 目を閉じて、少し時を遡ると、アリスの優しい歌声。そして、上海の可愛らしい踊りがありありと脳裏に蘇ってくる。
 そして、店を出る時のアリスの表情を思い出し、霖之助はまた小さく笑った。あの、自信に満ちた表情。祭で見ることになるであろう人形劇に、嫌でも期待せざるを得なくなってしまった。

 ……アリスの歌は……確か……

「……~♪~……」

 アリスには遠く及ばない、透明感の無いものではあるが。
 霖之助の歌声が、彼以外は誰もいない香霖堂へ……染み入るように響いた。


 ……このように歌を歌うのは、何年ぶりだろうか。


 もはや、呼び起こすことすら叶わない悠久の時に想いを馳せ、霖之助は、歌い続けた。





「上海。あなたのせいで、恥をかいちゃったじゃない」

 温かな日差しと陽気に包まれた幻想郷の空を飛びながら、アリスはすぐ横を飛ぶ上海を叱咤していた。
 太陽の光を浴びて、より一層輝きを増したその髪を風に揺らしながら、上海は主の言葉に対して何回も頷きを繰り返している。その姿はとても従順で、アリスの目にはなんとも愛らしい物に映った。
 もちろん、この叱咤には意味など無い。だが、アリスはこうでもしなければ、とても落ち着いてはいられなかったのだ。

 上海を叱るアリスの顔に、怒りの感情など欠片も見受けられない。そんな物よりも、香霖堂では必死に耐えていた、他にぶつけようの無い笑みが、とめどなく溢れ出してきて仕方がなかったからだ。

「……ねえ上海。こんな劇はどうかしら?」

 空を飛んでから大分時間が経ってしまったため、香霖堂を視認することはできないが、アリスは香霖堂の方向に一瞥をくれてから話し始める。

「ある日、森に住む少女の家に、一人の商人が訪ねてくるの。その商人はとっても変わり者で、色んな商品を売りつけようとしてくる。そんな商人を、最初は彼女も嫌がるんだけど……だんだん、その想いが、恋へと変わっていくの」

 傍らを飛ぶ上海を、空中で抱き寄せ、腕の中へと収めると、アリスは妖艶に微笑んだ。

「……こんな劇なら、気がつくと思わない?……あの、変わり者の商人も」

 彼女の腕に包まれた上海が、大きく一度、頷いた。








 あとがき

 いかがだったでしょうか。
 アリスはやはり、香霖堂の上客であってもいいのではないかな。と常々思っています。人形作りに必要な物も、香霖堂にはたくさん置いてあると思いますし。
 その上で、自然な交流ができて、少し雑談をする。といった程度の関係が一番想像しやすく、俺は一番癒されます。
 あと、アリスって歌うまそうですよね。そう思うのは俺だけ?

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コメント

前回の企画の時以来のコメになりますが、とりあえずはじめまして!
過去作品を一通り読み終わったので、コメしてみました。

まあ、霖之助さんは気付かないでしょうな。きっとアリスに目の前で熱っぽい視線とともにラブソングを熱唱されても全く微動だにしないでしょう。

踊る上海を想像したら顔面崩壊してしまった、ウフフ・・・。

2011-07-30 Sat 03:14 | URL | はらちの [ 編集 ]

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