銀の働き部屋

管理人銀河の、日記兼テキストサイトです。取り扱うジャンルは主にヤングガンガン連載のWORKING!!になると思います。最近は東方の霖之助小説を書くのにも夢中。どうかよろしくお願いします。リンクはフリーです。感想は常に受付中です!もらえたら泣いて喜びます

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普通のしあわせ 佐藤×松本



 リクエスト小説更新しまっっっっす!!!

 さあ。なんとか2月中に完成できたぞ。おまたせしましたショコラさん。ようやく、書きあがりました。

 どんなのを書こうか。とはずっと考えていたんですが、なかなかはっきりとした見通しが立たず、結局、半ば無理やり3日間程書き続けた結果なんとか形になった感じです。

 内容は、甘さはほぼ皆無です。それと、最後が少しだけシリアスです。でも、そんな気構えずに見れると思います。たぶん。おそらく。


 それと、小説に行く前に少し告知のような物を。

 えー。リクエスト小説を完成させるのにもたもたしている間に、50000Hitが目前になってるんですよね。恐らく、アニメ化を途中に挟んだ事によるカウンターの回りが主な理由だと思うのですが、そういうわけなんです。
 というわけで、50000Hitを達成する近い内に、50000Hit企画の方をまた実施しようと思います。内容は今回と殆ど変わらない感じで。今回もWORKING!!オンリーでやろうと思います。
 応募内容・・・というか応募説明?も少し変えるつもりなので、応募する予定の方がいましたら、それらの説明に目を通してくださるようにお願いします。なんにせよ50000Hit達成してからの話しですが。
 応募資格などは全く無いので、企画が始まったらたくさんの応募お待ちしております。


 さあ。小説に行こう。

 今回のリクエストは、ショコラさんのリクエスト。リクエスト内容は、

「休日にばったり会った2人の話。
 恋してて幸せな松本さんと、気を使いながらも若干幸せな佐藤さん」

 という内容です。内容は守れた・・・と、思います。たぶん。おそらく。

 佐藤×松本・・・というか、松本→佐藤で。タイトルは「普通のしあわせ」です。
 今回の内容は、 普通に・・・ と 日常は普通に繰り返す の続きとなります。時間の流れは、普通に・・・→日常は普通に繰り返す→普通のしあわせ です。
 構造的に、順番に読まないと少し流れがわかりづらい形になっているので、特に問題が無ければ、順番に見ていただけると幸いです。

 それでは。続きから、でどうぞ。










 ・・・私は、普通だ。
 どこからどう見ても、ごくごく普通な女子高生。
 容姿、普通。
 家柄、普通。
 身体能力、普通。
 学力、普通。
 バイト先での地位、普通。
 その他、家のお小遣い額、部屋の装飾、流行に対する過敏度などなどなど・・・
 全てにおいて、普通。

 それが私、松本麻耶。

 ・・・そう。私は普通。普通なのよ。

 私は普通。趣味は、読書。普通。

 本を買うために、休日に本屋へ出かける。普通。

 少しだけ、アクセサリーショップを見て回ったりする。普通。

 そして。

「あ」

「お?」

 そんなことをしている内に、たまたまバイト先の同僚と出会う。普通。

 普通じゃないのは。

「・・・よお松本。買い物か?」

「・・・は、はい・・・」

 その出会った人が、私の片思い相手、ということ。




「ほら」

「あ。ありがとう、ございます」

 ベンチに座っていた私の目の前に、温かいコーンスープの缶が差し出される。それをおそるおそると受け取りながら、私は礼を述べた。
 ジュースを差し出してくれた男性・・・佐藤さんは、ほんの僅かに顔を頷かせると、私の隣へと腰を下ろした。気を遣ってくれているのか、すぐ隣、というわけではなく少しだけ距離を空けて。
 自身も購入していた缶コーヒーのタブを手馴れた手つきで開けると、静かに缶を傾かせて、一口コーヒーを啜る。

「・・・なんだ?コーヒーを飲む男が珍しいか?」

「あ! い、いや。そんなことは、無いですけど」

 私は、よっぽどの間、佐藤さんを見つめていたのだろう。怪訝そうな顔を浮かべながら尋ねてきた彼に上ずった声でそう返し、私は受け取った缶ジュースのタブを静かに開けた。

「・・・あ。お金、払います」

 その中身を飲む前にそう言うと、佐藤さんは普段通りの無表情で私を見る。

「いいよ。こんくらい奢るって」

「いや、でも・・・」

「いらん。普段、種島とかに奢ることはあるけど、お前に奢ったりすることは無いからな。気にするな」

「・・・ありがとうございます」

「どういたしまして」

 私の顔を殆ど見ることなく答えると、佐藤さんはまたコーヒーを一口啜った。その姿は、私と二つしか年齡が変わらないにも関わらず、驚くほど大人びたように見えた。

 ・・・って。また見とれている。
 私は顔を少し赤くしながら、首を何回か横に振った。冬の北海道の厳しい寒さの中にも関わらず、顔に熱が集まっているのが自分でも分かるほどだった。
 顔の熱よ早く冷めろ。という願いをこめながら、佐藤さんから受け取ったコーンスープを一口啜る。顔は熱いが、コーンスープは温かく、冷えた体に染み入るようで美味しかった。

 ・・・本当。どうしてこうなってしまったのだろう。

 昔みたいに、バイトだけで接する関係ならば、どれほど気が楽だっただろうか。
 何にも考えず、口論ができたあの頃が、どれほど楽だったろうか。

 眼鏡の位置を直そうと、私は目元へ手を運ぶ。しかし、本来そこにあるはずの眼鏡が見つからない。
 落ち着いて考えると、それは当然だった。私は今、眼鏡ではなくコンタクトレンズを使っているのだから。
 コンタクトを使い始めてだいぶ経つというのに、このようなミスをするなんて。それほど私は動揺しているのだろうか。
 コンタクトにするきっかけをくれたのも彼。今、そのコンタクトの存在を忘れてしまった原因も彼。なんとも皮肉な話だ。

「おい」

「は、はい!?」

「・・・口の横、コーンスープついてるぞ」

「え、あっ!す、すいません!」

「・・・いや。謝ることではねえけど」

 慌てて私が口元を拭うと、佐藤さんが少し笑った・・・ような、気がする。殆ど表情の変化が分からない彼だけど、極稀に、その表情が変化したように見える時がある。もっとも、その変化だって、本当に変化したのかどうかわからないくらい小さい物。
 でも、滅多に訪れる事の無い、彼の表情の変化を見つけることが、私はとても楽しくて、嬉しかった。

「・・・松本」

「はい!?」

「・・・なんかいちいち気合入ってないか?お前。まあいいや。この後暇か?」

「な、何でですか?」

「いや。・・・飯でも奢ろうかな、と」

「はあああ!?」

「・・・お前、疲れないか?」

 突然そう誘われた驚きのあまり、手にしていたコーンスープの缶を危うく握りつぶしそうになる。そんな私を見て、佐藤さんは哀れむような視線を私へと向け・・・たような気がした。

「い、いいですよ!もう、これ、奢ってもらいましたし!」

 コーンスープの缶を指さしながら、自分でもおかしく思えるほど必死に、佐藤さんの誘いを断る。
 しかし、必死な私とは対照的に、佐藤さんは落ち着き払って、タバコに火を付けて口へと咥えた。

「いや・・・。お前と職場以外で会う機会なんてあまり無いだろうし。せっかくだからというかなんというか。奢らせろよ」

「ほ、本当にいいですって!」

「奢る。決めた。拒否権無し」

「なんですかそれ!めちゃくちゃですよ!」

「・・・んだよ。そんなに嫌なのか?」

「嫌なわけないじゃないですか!!」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 佐藤さんが目を丸くしたのを見て、私も思わず首を傾げる。
 佐藤さんのその反応。そして、沈黙の原因が、自分の言葉であることに気づくのに、そう時間はかからなかった。

「あ!!!い、いや!そうじゃなくて!!」

「・・・とりあえず、今日のお前には全体的に『落ち着け』という言葉をプレゼントしたいな」

 顔を真っ赤っ赤に染め上げて否定をする私を一瞥すると、佐藤さんは吸い始めて間もないタバコの吸殻を携帯灰皿へと落とし、すっとベンチから立ち上がった。
 その様子を見て、胸がズキンと痛むのを感じる。

 ああ・・・怒らせてしまったのか。それとも、変な女とでも思われたのか。
 せっかく休日に会う事ができたのに、どうしてこうなってしまうのか。
 自身の情けなさに、涙が出てきそうだった。
 俯き、そんな事を考えていると。

「行くぞ」

 普段と何ら変わらない、佐藤さんの声が耳に届く。
 声の方向を見上げると、佐藤さんが私を見下ろしていた。その顔から、私を馬鹿にしたり、怒ったりする様子は見受けられない。・・・例えそんな感情を抱いていたとしても、気付けないのだろうけど。

「嫌じゃないんだろ?・・・店はお前が決めていいぞ」

「あ・・・あの」

「何だよ」

 ・・・ああ。もう。

「ありがとう、ございます・・・」

「・・・どういたしまして」

 この人と話す度に、思う。

 昔みたいに、バイトの仕事の中だけで接する関係ならば、どれほど気が楽だっただろうか。
 何にも考えず、口論ができたあの時が、どれほど楽だったろうか。

 だけど。

『好きになって、良かった』

 心から、そう思う。



 佐藤さんとの食事に選んだ場所は、近場のファミレス。もちろん、ワグナリアではなく、私達とは全く関係の無い有名チェーン店のファミレスだ。
 佐藤さんが奢る、という事を前提として承諾してしまったため、佐藤さんに負担をかけるような店を選ぶ事はできなかったし、選ぶ気も無かった。となると自然と選択肢は狭まり、このようなファミレス。もしくはファーストフード店。牛丼屋などといったチェーン店は・・・流石にムードが無い。あ、いや。ムードが欲しいわけではないけど。とにかく、そのような考えの末、ここに決めた。

「本当にどこでもいいんだぞ。・・・テレビで紹介されるようなフレンチとかは、無理だけど」

「奢ってもらう身でそんな事を言うほど、私は図々しい女に見えますか?」

 店に入る直前、佐藤さんが発した言葉に、少し怒りを含めた声で返すと、佐藤さんは小さく首を横に振った。

「いや。そんなことを欠片も思わないから言ってるんだよ。俺は。・・・まあいい。安く済んで悪いことなんて無いしな」

 小さくため息を吐きつつそう言うと、佐藤さんはファミレスへと足を踏み入れた。
 佐藤さんの言葉がほんの少しひっかかったが、図々しい自分を想像することはできなかったから、意識をはっきりさせるために首を軽く振ってから、私もその後に続いた。




「何でも好きなの頼めよ」

「あ、ありがとうございます。・・・えっと・・・」

「・・・ゆっくり選んでいいからな」

「は、はい」

 テーブルに座ってもまだ緊張が解けない私に、佐藤さんはそのような言葉をかけてくれた。彼は掴みどころが無くて、人付き合いが得意では無い印象を受けやすいが、案外気配りのできる優しい人であることを、私はつい最近知った。・・・ついでに、人を馬鹿にするのが意外と得意であることも。

「えっと・・・じゃあ。ミックスグリル・・・あ。洋セットで」

「サイドメニューは?」

「とりあえず・・・いらないです」

「りょーかい」

 抑揚の無い声で返事をすると、あらかじめ頼む内容を決めていたのだろう。すぐに佐藤さんは注文ボタンを押した。
 間も無くして、ウェイトレスが注文を取りに来る。佐藤さんがメニューを広げながらそれに対応した。

「えっと。ミックスグリル一つ。ダブルチーズバーグ一つ。どっちも洋セットで。あと、フライドポテトとブレンドコーヒーと・・・苺ミルク一つ。以上で」

「はい。ご注文を繰り返します。ミックスグリル、ダブルチーズバーグ、フライドポテト、ブレンドコーヒー、苺ミルクをそれぞれ一つずつですね?飲み物はいつお持ちしますか?」

「すぐで」

「かしこまりました」

 注文を受けたウェイトレスが帰ると、佐藤さんは持っていたメニューをメニュー置きへと戻す。
 そして、一息ついたように体を背もたれへと託し、首を何回か鳴らした。

「・・・苺ミルクが好きなんですか?」

 深い意味も無く尋ねると、佐藤さんは私を見据えて、

「・・・苺ミルクは嫌いか?」

 そう、淡々とした声で返した。

「・・・嫌いじゃ、ないですけど」

「じゃあ、お前が飲め。いらなかったら置いておけ。俺が飲む」

 ぶっきらぼうに言うと、佐藤さんはタバコの箱を取り出し「いいか?」と短く尋ね、私がそれに半ば呆然として頷くと、タバコに火を灯した。
 今回、私が指定したのは喫煙席だった。佐藤さんは「禁煙席でも構わない」と言ってくれたのだが、奢ってもらう身でタバコを我慢させるわけにもいかなかった。

「・・・あの」

「なんだ?」

「・・・佐藤さんって、自然と損するタイプでしょ」

「・・・・・・否定は、しない」

 怒るかもしれない、と思いつつ尋ねたのだが、拗ねたように答えた佐藤さんが面白くて、私は思わず笑ってしまった。
 と同時に、注文していたブレンドコーヒーと苺ミルクがテーブルへ届く。
おずおずと、苺ミルクを自分の元へと寄せてから、ちら、と佐藤さんに目を向けると、やはり手馴れた様子で砂糖とミルクをコーヒーへと注いでいるところであった。

「・・・遠慮するなよ。頼むから」

「は、はい」

 苺ミルクを目の前に固まっていた私に佐藤さんはそう声をかけると、コーヒーを一口啜った。
 私も、付属のストローを苺ミルクへと入れ、一口味わってみる。

「・・・あ。美味しい」

「そりゃ良かった」

 満足そうに言いながら、佐藤さんはまたコーヒーを一口。
 その様子を見ていると、思い出すことがある。
 私の中の、佐藤さんへの想いが変わった日の事を。

「・・・コーヒー二つの方が良かったか?」

「え?」

 そんな事を考えていると、突然佐藤さんがそんな事を尋ねてきて、私は声を漏らした。

「・・・コーヒーも好きだもんな。お前」

 わずかの口の端を浮かべながら言う佐藤さんを見て、熱が急激に顔に集まるのをはっきりと感じた。
 ・・・どうやら、佐藤さんも似たような事を考えていたらしい。私のような、気恥ずかしい内容では無いのだろうけれど。

 照れ隠しで、私は目の前の苺ミルクを少し勢い良く飲んだ。冷たさと甘さのバランスが丁度良くて、本当に美味しいと思える味だった。

「・・・なあ、松本」

「は、はい!」

 私の緊張は苺ミルクの冷たさだけで解けるほど簡単な物ではなかったらしく、佐藤さんに話しかけられるだけで、また大きな声が口から飛び出してしまった。
 それほど店が混雑しているわけではなかったので、誰かに聞かれた・・・という事は無さそうだ。目の前で、目を閉じてコーヒーを啜る佐藤さんを除いて。

「あ、えっと、その・・・」

「・・・なあ。松本。お前、やっぱ普通じゃないな」

「な!」

「何で同僚と飯食ってるだけで、そんなにオドオドしてるんだ?『普通』だったら、もっと落ち着いてるもんだと思うんだが・・・」

「わ、私は普通です!!」

 どこまでも馬鹿にするような佐藤さんの言葉を聞いて、結局、また大声を出してしまった事に気づく。
 恥ずかしくてもはや何も言う気も起きず、私は肩幅も狭く、また苺ミルクを一口飲んだ。

「・・・少しずつ調子が戻ってきたな」

 佐藤さんが小さく言ったのを聞いて、私は更に身を縮こまらせた。
 これも、佐藤さんなりの気遣いだ。とは分かっているけれど、それでも「普通」という言葉に反応せざるを得ない自分の本能が恨めしい。

 しかし、いつまで凹んでいても仕方ない。緊張自体はだいぶ解けてきたこともあるし、ここらへんで一つ、佐藤さんに話を振ってみよう。と、私は心の中で握り拳を作った。

「・・・佐藤さんは、いつも、種島さんとかにご馳走してあげるんでしたっけ?」

「いつも、って程多くは無いけどな。・・・お前も知ってる通り、俺は種島をいじりまくるわけだ」

「・・・まあ、知ってます」

「たまーに加減を間違ってな。種島を怒らせる事があるわけだ」

「・・・はい」

「そこで、飯を奢る」

「・・・はあ」

「一発だ」

「なんというか、種島さんは話を聞けば聞くほど、あんな所でバイトさせちゃいけない子な気がしてきます・・・」

「一つしか年齡違わないだろお前・・・」

 にこにこと天真爛漫な笑顔を浮かべながら、チョコレートパフェを頬張る種島さんがかなり鮮明にイメージできて、私は和むと同時に悲しさを覚えた。

「まあ、でも、種島はうちの店には欠かせない存在だからな」

「そうなんですか?」

「そうだ。貴重なフロアの男手である小鳥遊は、そもそも種島目当てでバイトを始めたし。うちのバイト共は全員種島に甘いから、何か問題が起きても種島が大体は穏やかな方向に解決してくれるし。俺のストレスを解消するためにも欠かせないし。種島は偉大だ」

「さらっと最低な事を言わないでください」

 じとーっと佐藤さんを見つめるが、佐藤さんは悪びれた様子も無く、タバコを吸って煙を吐く。一応私に気を遣ってはくれているらしく、臭いが気になることは無かった。
 ・・・それと。こんなこと、直接言えるはずは無いのだが。
 タバコを吸う佐藤さんは。少し、カッコ良い。

 ・・・何を言っているんだか。と、自分自身が馬鹿らしく思えて、私は頬をわずかに染めた。

「・・・そういや。お前って、種島とか伊波とかとは、普段どう接してるんだ?」

「普通ですよ。・・・あの、別に、仲が悪いとかは無いですから」

「いや、そんな事思って無かったけど。種島とか、お前のこと『いい人』って言ってたぞ」

「・・・そうですか」

「・・・嬉しそうだな」

「なっ」

 簡単に胸の内を見透かされて、また顔に熱が集まる。なんというか、佐藤さんに私がリードする未来が来るのであろうか。という不安さえ覚えてくる。あ。いや、リードってのはそういう意味では無く普通のリードであって決してそういういやらしい感じのリードでは無くて・・・

「あいつらは、好きか?」

「へ?」

 考えがあらぬ方向へ吹っ飛んでしまっていた私を、佐藤さんの問いが呼び覚ました。

「・・・好き、ってのは・・・」

「いや。お前、前に『あんたらなんかとは馴れ合わない』・・・とか言ってたじゃん。今はどうだ?」

「え・・・」

 佐藤さんの表情から、その感情を読み取ることはできなかった。表情の変化は少なくとも、声の微妙な抑揚の変化、その言葉の内容から、少しずつ彼の感情を読み取れるようにはなってきたつもりだった。
 しかし、所詮、ここ一月程で少し仲を深めた、という程度。そんな付き合いの浅さで、彼の感情全てを読み取ることなど出来るはずもない。

 どう答えるべきか、なんて分からない。

 だから、私は、自分に正直になって答えることにした。

「・・・好きか、と聞かれると、少し困ります。でも、少なくとも、嫌いじゃないです」

 少し、言葉に詰まってしまった。しかし、嘘を言ったわけではなかった。
 佐藤さんはやはり表情を変えることなく、また口を開く。

「・・・馴れ合いたくは、無いか?」

「そんなことも無いです。・・・なんというか。あの人達は、やっぱり、どう考えても普通じゃないです。でも、人間として嫌な人かと聞かれると、それには全力で『違う』と言えるんです。・・・少しずつ、分かってきたんです」

 自然と、みんなの顔が浮かんできて、私は思わず笑みを零した。

「変であることに変わりは無いですけど・・・みんな優しくて。色んな事に一生懸命で。それが空回りすることが多いだけで・・・それなら。私と大して変わらないと思うんです」

「自分も変だ、と?」

 そう言う佐藤さんの声はどこか楽しそうで、その声を聞いた瞬間、思わず安堵の息が私の口から漏れた。

「そうじゃないですけど。・・・まあ、たまには、私の行動もそういうふうに見えてしまうことがあるかもしれない、ってことです。だから、別に目くじら立てて何かを言う必要も無いかな、って・・・」

 佐藤さんの言葉に怒りを覚えたわけではないのだが、少し不満そうに言うと、佐藤さんが小さな笑みを浮かべた。

「・・・お前、いい奴だな」

「・・・佐藤さんほどじゃ、ないと思いますけど」

「・・・あんがとよ。・・・俺も、だいたい同じ考えだ。あいつらは、本当にいい奴らだ。・・・相馬を除いて」

「それは、なんとなく分かります」

 ボソッ、と付け足すように言った佐藤さんに、私もしかめっ面を浮かべて答えた。
 そして、佐藤さんと目が合う。なんとなくおかしくて私が笑うと、彼も笑みを浮かべた。

「・・・私も、もっとあの人達と打ち解けるべきなんですかね」

 種島さんの笑顔。伊波さんの、小鳥遊君を想っている時の表情。
 そんな「変な」同僚たちを思い浮かべながら、私は、深刻ぶって佐藤さんへと尋ねる。
 佐藤さんは、残り僅かなタバコを灰皿へと押し付け、灰皿へと捨てると、座っている椅子の背もたれに体重をかけながら、

「別に無理しなくていいんじゃねーの?」

 そう、ぶっきらぼうに言ってのけた。

「・・・まあ、俺は今のバイト面子とは、それなりに打ち解けているつもりだけどよ。別に『打ち解けよう』と思ったから打ち解けられたわけじゃねえよ。そういうのって、本人が拒絶さえしなきゃ、自然となるようになるもんじゃん?知らんけど」

「・・・適当ですね」

「深く考えりゃあなんとかなる、って問題でも無いから、別にいいじゃん。・・・少なくとも、お前は、もうあいつらを拒絶することはしない。・・・あとは、時間が何とかしてくれるんじゃね」

「・・・そう、ですね。・・・ありがとうございます」

「別に、なんか礼を言われるような事をした覚えはねえけど。お前が変わったのは、お前の努力だしな」

「そんなことないですよ。みんなのおかげです。・・・というより」

 私は、笑顔を浮かべた。なんの裏表も無い、純粋な笑顔を。


「佐藤さんのおかげです」


 少しだけ、みんなへの意識が変わった。
 少しだけ、自分の「変」に気づけた。
 少しだけ、不安になった。
 少しだけ、変われた。
 少しだけ、前へ進めた。

 少しだけ、ときめいた。

 恥ずかしさが全然無いわけではなかったけれど、それだけは伝えたかった。
 私の、大好きな人に。

「・・・飯を奢っただけで、ここまで感謝されるとは。先輩冥利につきるってもんだ」

「私も、奢ってもらえて、後輩冥利につきます」

「・・・そうか」

 佐藤さんが、微笑んだ。
 彼の表情は、全て好きだけれど。滅多に見せる事の無いこの微笑みを見られることが、私にとっては何より嬉しい。

 そんなことを考えている内に、注文からだいぶ時間が経っていたのだろう。注文していた料理が届き始めた。

「・・・じゃ、食うか」

「はい」

 緊張は、もう、すっかりと解けていた。

 大好きな人と初めて食べる食事は、幸せの味がした。







 楽しかった。
 そう思ってしまう自分の軽薄さに、心底うんざりする。

「送ってくれて、ありがとうございます」

「どういたしまして」

 運転席に座る俺を、外から覗き込みながら、松本は笑顔で礼を言う。
 その表情は明るい。今日、偶然出会ったばかりの表情と比べたら雲泥の差だ。

「・・・今日は、楽しかったです。・・・また明日」

「・・・俺も、楽しかった。また、明日」

 寒さからなのか。緊張からなのか。俺の言葉を聞くと、松本は赤く染まった頬に微笑みを浮かべた。
そんな彼女は、息を呑むくらいに可愛らしかった。

 自分の家へ向かって歩き出す彼女を、俺は黙って見つめていた。
 十メートルほど松本が歩いた所で、彼女は振り返り、俺へ軽く手を振った。俺もそれに、ゆっくりと手を振って応えた。

 松本が路地の角を曲がり、姿が見えなくなったのを確認すると、俺は背もたれに体重をかけ、深い深い溜息を吐いた。タバコの一つでも吸いたい所だったが、もはやタバコに火を点ける気力すら、今は湧かなかった。

 俺は、正当化していた。自分自身を。

『あいつの好意に気づいていなかったとしても、俺は、同じように接していた』

 そう、頭の中で繰り返す。何度も。何度も何度も何度も何度も。
 しかし、ふいに、浮かぶ。

 松本の笑顔。

 そして、八千代の笑顔。

「・・・糞っ」

 ハンドルを、右手で叩く。鈍い音が車内に響くが、それで俺の心が晴れることは無かった。


 自分自身に、問いかける。

『お前は、あの子に同情していたんじゃないのか?』

 それに、「違う」と言えない自分に反吐が出る。

 松本を街中で見かけた時、俺は、正直悩んだ。
 話しかけようか。話しかけたところでどうするか。

 しかし、俺は選んだ。

 ジュースを奢ってやろう。という選択を。
 そしてその直後、飯を奢ってやろう。といった選択を。

 「バイトの先輩」という立場を振りかざし。彼女が緊張していることも理解しながら。

 俺は、何をやっているんだ。

「変な期待を、持たせるな。・・・そんなの、自分が一番知ってるだろ」

 心の中で吐き捨てるだけでは足りなくて、俺は、それすらも腹ただしく思えてくるエアコンの利いた車内で呟いた。

 そうだ。俺が、一番知っている。
 想うことが、どんな些細なことでも報われた瞬間、どれほど嬉しいか。どれほど、未来へ希望を持ちたくなるか。

 それを知っていて、俺は、今日、ああすることを選んだんだ。

 俺は、何様だ。

「・・・でも」

 でも。

「嘘じゃない」

 嘘じゃない。

「嘘じゃ・・・ないんだ」

 今日、楽しかったということ。
 俺の言葉に動揺し。明るく笑う彼女を、可愛らしいと思ったことも。

 ・・・ああ。どうしよう。
 どうすれば、いいんだ。


 俺は、松本麻耶を。好きになりたいと願っている。


「・・・八千代」

 想い人の名前を、そっと呟く。
 直後、俺は再びハンドルに拳を叩きつけた。先程よりも、数段力強く。

 逃げるな。

「逃げるな!!!」

 念じ、叫ぶ。
 自身の迷いを、想い人の名を語ることで誤魔化そうとしている。
 俺は、そこまで弱い人間だったか。そこまで、最低な男だったか。

「・・・帰るか」

 荒く息を数回吐き、俺は、消え入りそうな声で呟く。

 結論は出ていない。松本に対する感情にも。自身の迷いについても。

 だから、今は帰ろう。

 ゆっくり考えて、精一杯悩もう。

 人生で本当に悩む時が何回あるかは知らないが、その内の一つは、間違いなく今だろうから。

 ああ。でも。でも。

 自身を正当化しようとするならば。

 俺を、責め立てる人間がいるのならば。

 彼らに、問いたい。

 轟八千代の笑顔。

 松本麻耶の笑顔。


 その二つを、ずっと見ていたい。


 そんな俺の願いは・・・罪なのか?


 その答えをくれる人は、世界中を探しても、ただ一人しかいない。

 そんなことは、誰よりも一番、俺が、知っていた。










 あとがき

 ショコラさん、いかがだったでしょうか。このようになりました。
 えー。最後の佐藤さんの独白シーンは入れようかどうか悩んだのですか。やはり、このようになった時、佐藤さんはある程度苦悩しないといけないと思う!!という考えが俺の中にあったので、入れてみました。でも、そこまで重苦しくならないようにはしたつもりです。あまりにもドロドロしすぎていると俺の心もしんどいんで・・・(

 個人的には、松本さんの「恋する乙女」ってオーラがあまり出せなかった気がします。小さな小さな幸せを何回も味わう、って感じにしました。
 松本さんは、初期こそバイトメンバーを疎ましく思っていたけれど、だんだんその性格の純粋さに毒されてきているといいなー。という妄想も書けたので、個人的には満足です。

 あんまりギャグっ気もなく、極めて普通な完成度に収まったと思います。松本だけにね!!!!(ドヤァ

 さて。あとがきも簡単にしてこの辺で。

 ようやくリクエスト小説を全て書き終えました。結果発表から結局4ヶ月以上・・・。本当に時間がかかってしまいました。申し訳ありませんでした。
 次のリクエスト企画も、皆様、「これくらいはかかるかもしれない」という覚悟の下、参加してくれるとありがたいです・・・

 それでは!


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コメント

お久しぶりです。待ってました!
いやあ、このサイトの『松本→佐藤』話を呼んで以来、特別タイプというわけでもないのに松本さんにはまってしまって、他のサイトにも何か松本話がないかと探してはみたもののあまり見つからず、そしたらこのサイトでリクエスト募集なんてしてるもんだから、同じくはまってた『白藤×榊』と一緒に出してみたら、普段籤運悪いのに予想外に当たったもんだから、今年受験だっていうのにちょくちょくこのサイト見に来てた甲斐が有りましたよー(長っ)
書いていただいて有難う御座います。相馬さんが陰でニヤリしてそうなお話ですね! 全く深く考えずにだしたお題でしたが、シリアスでかえってきましたか! 佐藤でさとうで砂糖なのに甘くないシリアスできましたか!(うぜえ) 甘くないのも大好きですよ!
佐藤さんはこの後足立さんにでも相談しそうだなーそんで二人して青い顔で悩みまくりそうだなー。
本編じゃあ、まずあり得なさそうな二人ですが堪能させて頂きました。満足しました。
有難う御座いました!
2012-02-29 Wed 20:38 | URL | ショコラ [ 編集 ]

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