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銀の働き部屋

管理人銀河の、日記兼テキストサイトです。取り扱うジャンルは主にヤングガンガン連載のWORKING!!になると思います。最近は東方の霖之助小説を書くのにも夢中。どうかよろしくお願いします。リンクはフリーです。感想は常に受付中です!もらえたら泣いて喜びます

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ありのままの自分 佐藤×八千代 50000Hit企画



 皆様お久しぶりです。

 そして。

 リクエスト小説、更新致します!!


 いやあ。本当に長い時間を空けてしまいました。本当に申し訳ありませんでした。

 ブログを開けていた2ヶ月の間に、猫組WORKING!!が終わってしまったりもしました。本来であれば終了記念に小説の一つでも書ければな。とも思うのですが、文章が全然浮かばずに苦しい2ヶ月を過ごしました。
 ああ。いや。その、ゲームとかは、全然、やってたんですけどね(

 なんにせよ、今回のリクエスト小説を更新したとしてもまだ1本残っているリクエストがあるので、猫組WORKING!!についての言及はまた後々に。最後の方は本当にリア充しかいませんでしたねっ!!

 とりあえず、2ヶ月分の雑記を書くわけにもいかないのでぱっぱと小説の更新に行こうと思います。

 今回のリクエストは、クリスタルさんのリクエスト。
 内容は、
「佐藤さんをお嬢(八千代)と引き離すために、美月は金髪禁止を提案。
その意見が通ってしまい、髪を染め直す佐藤さん。
そんな彼のイメチェンにときめき、逆に八千代が惚れてしまう!
誤算があったため、美月は金髪禁止案を撤廃するように言って、佐藤さんの髪色も元通り」

 という内容。・・・なのですが。
 書いている内に、このリクエスト内容だと全然書き進めることができなかったので、リクエスト内容どおりには書けませんでした。
 どのように内容を変更してしまったかは本文とあとがきで説明させていただこうと思いますが、リクエストどおりに書くことができずに申し訳ありません。とクリスタルさんに謝罪しておこうと思います。申し訳ありませんでした。
 一応、リクエスト内容を踏襲こそしていますが、その変化が決して小さすぎる物では無いのでなおのこと申し訳ありません。こうしなければ俺が納得のできる物を書けなかった。と言うと言い訳がましいですが、理解してくださると幸いです。


 それでは。佐藤×八千代で、『ありのままの自分』。甘さは殆ど無し。

 続きからでどうぞ。










 髪を染め始めたのは、いつごろからだっただろうか。
 自分の過去を思い返すことなんて、殆ど真面目にしようと思ったことも無い俺だったが、ぼうっと思い返してみる。

 初めて髪に色を入れたのは……そう。中学の頃だ。もっとも、学校がうるさいからメッシュとして一部を染めただけだったが。もちろん、それでも教師はうるさかった。
 何故、教師に文句を言われてまで髪を染めようと思ったか。そんな理由は、とうに忘れた。染めたいと思ったから染めたんだとは思う。教師の言葉にどう思ったかどうかも忘れた。髪に中学からメッシュを入れようと思った奴なんて俺くらいなもんだったから、恐らくはひねくれた解答をその度にしていたのだろう。その解答はきっと愉快なものであったろうから、その点に関しては思い出したいものだ。

 完全に髪全体を金色に染めたのは高校入って間も無く、と言った頃だろう。中学と違って校則が緩い学校だったから、金髪にしても文句は言われないし、周りもそんな馬鹿な連中ばかりで居心地が良かったのは覚えている。

 ……俺は「髪を金色に染める」ということが馬鹿なこと、っては理解してるのか。と、思わず笑ってしまった。もちろん、愉快だからじゃない。自嘲する意味で、だ。愉快というよりは滑稽というべきか。

 そこからは殆ど髪型も変えずに、現在へ続く……と言ったところだろう。
 しかしまあ。冷静に思い返すと、金髪とはもう6年程の付き合いになるわけか。我ながらよくもまあそんなに整髪料を買う金があったものだ。整髪料の値段を全てカウントしたら、バイト何ヶ月分になるのやら。こういう計算はしだすとキリが無い。

 ……思考が、まとまらない。くだらないことばかりが思いつく。

 ……まあ。そりゃあ、そうか。

「……こんな感じか。黒髪の俺は」

 美容院から家へと帰って、鏡を覗きながら俺は呟いた。
 鏡の中に映る、俺であって、俺とは違うその存在を見て。

「……だっせえな」

 やはり自嘲気味に、俺は笑った。







 事の発端は、一昨日まで遡る。

「こら金髪!!お嬢に近づくなって言ってるだろ!!」

「……無理言うなよ」

 その日の俺は、真柴妹に絡まれて酷く不機嫌だった。
 まあ、不機嫌なのは別に珍しいことではないし、真柴妹に絡まれるのも珍しいことではない。わざわざ仕事中に休憩室まで呼び出されるのはどうなんだよ。と文句こそあるが、本当に珍しいことではない。非常に不愉快なことに。
 だから、その日も少し口喧嘩をすれば終わりだろう。と、俺は人生の波乱万丈さをみくびっていた。

「バイトをしてる中で近づくなってどういうことだ。だいたい、お前は部外者だろう。勝手に店の中に入ってきてゴチャゴチャ言うな。それでも一応社会人なのか。恥ずかしくないのか」

「せ、正論な上にまくし立てるな!!泣けてくるだろう!!」

「泣くなよ。だから」

 本当にこの女は面倒くさい。面倒くささ自体は店長の方が上だ……と最近までは思っていたのだが。直接俺に言葉をぶつけてくる上に、その内容がいちいち長く、正直俺の中での面倒くさい&不愉快No.1人物は店長じゃなくて目の前のこいつへと変化してきていた。

「それにあまり大声を出すな。や……轟に聞こえるだろ」

「おい。今また八千代、って呼ぼうとしなかったか?」

「してねえよ」

「しただろ」

「してねえよ」

「した」

「うるっせえなこいつ本当に」

「せめて心の中で言え!!」

 どうやら心で呟こうとしたことがそのまま口から出てきてしまう程度には俺の苛立ちもピークを迎えようとしているらしい。別にいいが。こんな奴に幾ら嫌われようと知ったものか。
 そろそろ話すのも鬱陶しくなってきたので、俺は仕事に戻ろうと、休憩室のドアへ向かって振り返る。

「おい!どこに行くんだ!!」

「仕事だよ。だいたいお前も仕事抜けてここにいるんだろ。文句言うな」

「くっ……何回話しても腹の立つヤンキーだ……!!」

「その言葉そっくりそのまま返すぜ元ヤンキーさん。……じゃあな」

「だいたいなあ……!!」

 休憩室のドアノブに手をかけようとした俺に向かって、この女は、全ての始まりであるあの言葉を言い放った。

「その金髪がダメなんだ!!!」

「……はあ?」

 こいつの言葉を無視して仕事へ戻ることもできたんだが、あまりにも無茶苦茶な物言いに、俺は思わず振り返り、心中の苛立ちを隠しもせずに声を漏らした。

「お嬢は、そもそもヤンキーが苦手なんだ!金髪で目付きが悪くて……そんなお前がお嬢の側にいることが許せねえ!!」

「……お前ら、たまには過去を振り返れよ。マジで」

 後々に過去を振り返ることを苦手だったと思い出す俺にとって、この台詞は中身の薄い物になってしまったが、その時ばかりは純粋にその言葉をぶつけた。
 しかし、頭が極めて悪いこの女にそんな言葉が通じるはずもなく。

「だから!今すぐその金髪をやめろ!!」

「お前何語喋ってるんだ」

「日本語だよ!!ジャパン!!お前のような金髪がいたんじゃあ、お嬢が安心して労働できないんだ!!」

「……英語で言いたいなら、ジャパニーズだぞ」

 ……頭に血が昇った人間と話をしていても徒労に終わる。という当たり前のことを、ここまで痛感することがあっただろうか。不機嫌な大阪のおばちゃんと話していた方がまだ精神的な苛立ちは少ないのではないか、とすら思えてくる。

「あのな。俺はバイト4年目なんだぞ。それだけ轟と一緒だったんだ。あいつだって慣れたに決まってるだろ」

「いーや!お嬢はとても繊細な人なんだ!表は隠していても内心怯えてるに違いない!!」

 てめえなんかが、八千代の思いを決めるな。と、一瞬本当に手が出そうになってしまった。
 が、堪える。こいつを感情に任せて殴ったところで、何も変わらない。八千代に心配をかけるだけだ。
 歯を食いしばり、落ち着いて呼吸を繰り返す。数回も呼吸をすると、大分平静さを取り戻すことができた。以外とカッとなりやすい性格なんだな。と自分自身の新たな一面に気づいてしまった。

「……つまり。轟のために、金髪をやめろ。と」

 一歩、真柴妹へと歩み寄りながら、俺は言った。

「そうだ」

「逆に言えば、金髪さえ止めれば、轟は大丈夫だと」

 また一歩。近づく。

「そ、そうだ」

「じゃあ」

 また一歩。
 俺と真柴妹の距離は、もう殆ど無くなっていた。少なくとも、俺がこいつを完全に見下ろすことができるくらいには。

「俺が金髪を止めりゃあ、てめえはもう文句を言わねえんだな?」

 今までの人生、苛立ちが募り、その結果相手へと威圧的な態度を取ってしまった。ということは何回もあった。
 学校の友達。教師。両親。更に言えば、八千代や種島などにも。

 だが。今の俺は。
 それらのどの時よりも、威圧的に、高圧的に。眼前の真柴妹へと問い詰めていた。

「……あ、ああ」

 眼の前のこの女が、昔はバリバリのヤンキーだったことも忘れていたのだが、俺の態度がよほどいつもと違っていたからなのか、真柴妹は冷や汗を流しながら、静かに頷いた。

「……分かった。その言葉忘れるなよ。絶対に。いいな」

「……あ、ああ」

 全く変わらぬ声を続けて漏らし、真柴妹は頷いた。
 それをしっかりと確認すると、俺は振り返り、今度は一切足を止めることなく休憩室の扉を開け、仕事へと戻った。
 休憩室に置いていかれた真柴妹の様子など、知るわけも無く。



 とまあ。それが事の終わり。

 そして、全ての始まりだった。





「……よお、種島」

「あ!さとーさん!おはよ……お?」

 バイトに入り、制服に着替え、キッチンへと入るとまず種島が目に入ったので、とりあえず声をかける。
 種島はすぐに俺へと振り向き、挨拶をしようとするのだが、すぐに俺の姿が普段と違うことに気づいたらしく、目を丸くして凍りついてしまった。

「……どうした種島。そんなに似合わんか」

「……い、いや!そうじゃないよ!全然そんなことないよ!ただ……びっくりしちゃった……」

 俺の言葉を聞いて、種島ははっと目を見開き、首が取れてしまうのではないかというほどに首を振りながら答えた。

「そうか。あんがとよ」

「ど、どういたしまして」

 そんな種島を尻目に、俺は普段通りにバイトの仕事を始める。
 種島はまだ状況が飲み込めていないようで、目をぱちくりぱちくりと開閉していたが、しばらくすると戸惑いながらも仕事へと戻っていった。

 ……正直、恥ずかしいな。
 ボウルの中に大量に転がっているジャガイモの皮むきをしながら、俺は漠然と思った。

 とりあえず普段となんら変わらないよう自分を装ってみたが、流石にこの髪で出勤するのにはかなりの勇気を必要とした。
 やはり、何年も金髪でいただけに、黒髪の自分を鏡で見る度に違和感しか覚えない。それは、きっとバイトの面々からしてみても同じことだろう。

 ……しんどい。

 ……だが。この心労も、せいぜい数日のことだ。周囲が慣れてしまいさえすれば、俺自身そこまで気を病むことは無くなる。
 まあ、大学での友人達にはしばらくの間からかわれるのだろうが、その辺りは個人的には大した心労でも無い。やはり、俺にとって面倒事が多いのは、大学なんかよりもこのワグナリアだ。

「佐藤君。本当に染め直したんだねー」

 突然に現れ、ジャガイモの皮を向いている俺の横から、ひどく機嫌良さそうに声をかけてくる男。当然、奴だ。

「……相馬。てめえやっぱり聞いていたのか」

「うん。俺、あんまり知らないことないからさー。あの時の佐藤君は怖かったねー」

「……本当にキレてたからな」

「だろうね。でもまあ、似合ってるよ」

「嘘つけ」

「本当だって!少なくとも、見た人が笑うような感じでは無いよ」

「……そうか」

 本心で話す。という言葉が世界で一番似合わないような男に言われても大して嬉しくはなかったが、とりあえず納得しておいた方が俺の心のダメージも増えないだろう。

「……問題は轟さんだねえ」

「……」

「まあ、別に轟さんは佐藤君の金髪に惚れてたりとか……そもそも佐藤君に惚れてるとかじゃないんだから大丈夫だとは思うけど、どうだろうねー」

「おい相馬」

「なに?」

「剥くぞ」

「こっわ!!いつにも増してこっわ!!やめて!スライサー片手にその言葉を発するのはやめて!!」

 いつものように、とりあえずは耳障りな声を黙らせる。毎度いつものことなのだが、こんな奴にいちいちそれを指摘されれば誰だって頭に来る。それは何度こいつと接しようと変わらない。

「……というか、こんなことになったのもあの馬鹿女のせいなんだが」

「ああ。美月さん?今日は来るかなー?」

「……まあ、いつでもいいけどな。今度来たら……」

「佐藤……君……?」

 背後から、声。
 ゆっくり……ゆっくりと、振り返る。

 そこにいたのは、間違いなく、彼女だった。

「……よぉ、八千代」

 我ながら、自信無さ気なか細い声が出て笑ってしまいそうだった。背後で噴き出すように笑っている相馬は後で数発殴っておく。

 八千代を直視することができない。
 そうだ。結局は、これだ。

 大学の奴らがどう反応するか、とか。
 種島や相馬がどう反応するか、とか。

 そんなのは、どうでもいい。

 八千代が、どう思うか。
 それが、一番大事なことだった。

 緊張のあまり、唾を飲み込んだ。

 そして、

「……その、髪の色……」

 八千代が口を開いた瞬間、心臓が高鳴った。……甘酸っぱい意味ではなく、ただ単純に。

「……ああ。まあ、なんとなく、な」

 普段から歯切れよく話をしているつもりは無いが、いつも以上に言葉の歯切れが悪いのがわかる。額に浮かんだ汗が八千代に見られていないかが不安でしょうがない。
 八千代は、俺の顔を見ていた。今までのどんな時よりも。
 ……落ち着いて考えると、見ているのは顔じゃなく髪か。いや、どうでもいい。そんなことはどうでもいいんだよ。

 緊張のあまり胃もキリキリと痛み出した時だった。


「とっても良く似合ってるわ!!」


 ぱあっ、と顔色を明るくした八千夜が、普段以上の眩しい笑顔でそう言ったのだった。

 ……お。おう。

「お、おう」

 ヤバい。予想外すぎて一瞬脳内がすっからかんになってしまった。俺は今どんな表情をしているのだろう。少なくとも、自分で見たくは無い。

「凄く新鮮……!佐藤君はバイト始めた頃から髪の毛が金色だったから、黒髪なんて見れなかったもの!」

「……変、じゃ……ないか?」

「全然!とっても爽やかに見えるわ!」

「……ありがとう」

 どこまでも嬉しそうに、八千代は俺の髪にぺたぺたと手を触れてきた。過激なものではないが、普段は経験すらできないそのスキンシップにやたらと鼓動が早くなる。

 ……ああ。どうしよう。

 俺、ものすごく安心している。

「……もう髪を触るのはやめろ」

「あ、ごめんなさい。でも、似合っているのは本当よ?」

「……わかったから。じゃ、俺は仕事戻る」

「うん。今日もがんばりましょう!」

 できる限り八千代から顔を背けながら、俺はじゃがいもの皮剥き作業へと戻った。八千代もすぐにフロアへと戻っていく。

 ……良かった。

「良かったねえ佐藤君!!」

「せぇーい」

「あっぶな!!!!皮むき器を顔面に振るのはどの国でもアウト!!!」

 ゆっくりと皮むき器を相馬の顔へ振ると、相馬は面白いくらいに仰け反りながらそう叫んだ。余裕じゃねえか。

「怒らないでよ。轟さんに引かれなくて何よりじゃない」

「……お前、引かれる可能性もある、と考えてたのか」

「まあね。俺も若干引いたし」

「せぇーい」

「遂に包丁で!!!」

 やはりゆっくりと近くにあった包丁を振ると相馬はまた仰け反り叫ぶ。流石に先ほどまでの余裕は無かったようだ。

「危ないよ佐藤君……。俺が避けなかったらどうするつもりだったのさ……」

「救急車を呼ぶ」

「冷静!!パトカーも呼ぶからね!?……あのさ」

「なんだよ。次から次へと」

「いや。今からは真面目な話なんだけど……。轟さんは、今までの佐藤君のことはどう思ってたんだろうね?」

 急に真面目な顔を浮かべて、相馬はそんなことを俺に言った。
 その言葉の意味をすぐに理解できず、俺は暫く沈黙を保っていたが、

「……どういう意味だ?」

 結局理解できず、尋ねてみた。

「……いや。単純に、轟さんにとって、やっぱり佐藤君は怖く映ってたのかな。って」

「……まあ、そうなんだろうな。会ったばかりの頃の俺は不良みたいで怖かった、って本人は言ってたし」

「……ってことは。最初から佐藤君が黒髪にしてれば、轟さんとの仲はもっと進んでたんじゃないかな?」

「……」

「あ。いや、怒らないでよ……?」

 俺が無言になったからか、相馬がやや後ずさりながら、青ざめた顔で俺に言う。随分と失礼な奴だ。まあ、実際失礼な奴なのだが。

「……別に怒らねえよ。そうかもしれねえな。今となってはどうでもいいことだ。いいから働け」

「いたっ。もう、蹴らないでよ佐藤君……」

 すぐ隣りに立つ相馬を引き離すように、ゆっくりと相馬の腰を蹴ると、相馬は大げさによろけて涙目でそのようなことを抜かしやがる。相変わらず演技派な男だ。と、呆れるというより感心してしまった。

 粗末な扱いをされて若干不満そうな顔を浮かべながらも、相馬は普段通りの業務へと戻っていった。
 俺は、黙々と眼の前のじゃがいもの皮を剥いていた。黙々と。黙々と。

 そして、黙々と考える。

『本当に、俺が黒髪だったら、もっと八千代と親しい仲になれていたのか?』と。

 自分の考えていることがくだらなすぎて腰が抜けそうだった。でも、考えることは止められなかった。このじゃがいもを剥く、という単純な作業すら、今までの経験が無ければできない程に、内心動揺していた。

 どうなんだ?

 マジでか?

 そんなことでか?

 俺の4年ってなんだったんだ?

 ……目眩がしてきた。

「……佐藤君?」

 横から聞こえてきた声に、心臓が跳ね上がる。
 しかし、それを悟られないようにゆっくりと横を向く。そこには、フロアから注文内容を届けに来たのであろう、八千代の姿があった。

「……何だ?」

「えっと。じゃがいも、まだそんなに使わないんじゃ……」

 八千代に言われて、剥いたじゃがいもを入れていたボウルに目を向ける。
 ボウルには、逆に何でここまで入ったのか。と自分自身に問いかけたくなるほどに、大量のじゃがいもが積み重ねられていた。

「……ああ。そのー。何だ。フライドポテトが、食べたかったんだ」

「そんなに!? 佐藤君は成長期なの……?」

「まあ、そうなのかもしれん。最近やたら腹が減るんだ」

「そうなの。もしたくさん料理作るなら、杏子さんの分も作ってあげてね!」

「……おう」

「ありがとう佐藤君! それと、ハンバーグランチセットお願いね」

「……おう」

 俺に伝票を渡すと、八千代はフロアへと戻っていった。店長に料理を作る、と約束したからか、その足取りは普段以上に軽やかだ。……俺の心情とは真逆に。

 ……とりあえず。ハンバーグランチセットを作りながら考えよう。と、俺は今まで何十、何百と作ってきたハンバーグランチセットを作り始めた。

 ……とりあえず。冷静に。クールになれ。

 まず今考えなければならないこと。それは、「俺がバイトを始めた当初から黒髪だったら、八千代との仲はもっと進展していたのだろうか」ということだ。
 この事に関しては、確信した何か、という結論を抱くことはできない。あくまで全ては推測なのだが……決して、あり得ない話では無い。と思う。
 事実、八千代は最初は俺の事を怖がっていた。そして、そのことを俺も感じながら八千代と接していた。もちろん、俺と八千代はかなり早い内に打ち解け、普通に話をできるようにはなった。だが、それでも更に親しい話をするようになったのはしばらく経ってのことだ。それまで、八千代は俺の事をどう思っていたのだろう。
 八千代が昔いじめられていた、という話は何回も本人から聞かされた。いわゆる「不良」に対して八千代が抱いていた恐怖も、それに起因する物なのだろう。よく聞く言葉に「いじめられた人間はそのことを忘れない」といったものがある。その理屈で行くと、八千代もいじめっ子に対して少なからず悪印象を持っているだろう。
 ……俺が黒髪であれば。つまり、不良やヤンキーと呼ばれる雰囲気を持っていなければ、八千代は恐怖を抱くことなく最初から俺と接することができたのではないだろうか。

「……八千代。できたぞ」

 そんなことを考えている間に、ハンバーグランチセットが完成する。フロアとキッチンとを繋ぐカウンターに料理を置くと、すぐさま八千代がそれを取りに来た。

「ありがとう佐藤君」

 そう俺に礼を言いながら料理をトレイに載せると、八千代はフロアへと向かった。
 ……俺はただ仕事をしているだけなのに、礼を言うなんて律儀な奴だ。と毎日のように思う。それも八千代らしいと言えば八千代らしい。

 ……さて。仕事もとりあえずは無くなったし、再び思案に暮れるとしよう。まさか俺が人生で「思案に暮れる」という言葉を使うことになろうとは思わなかった。

 ……色々考えはしたが、俺が黒髪じゃなかったから八千代と……その、そういう関係になれなかった。というのはあまりにも極端な考えだと思う。
 そもそも、俺と八千代が……そういう関係になるにあたっての一番の障害はそんな些細な事ではない。もっと大きくて質の悪い……壁だ。

「佐藤。何やってるんだ。サボるな」

「よう壁」

「壁?」

 俺の言葉の意味が当然わかるはずもなく、店長は首を一回傾げると店の奥へと引っ込んでいった。
……前々から思ってることなので今更店長には言わないし、本来であればここで思う必要すら無いのだが。あいつの中の「仕事」ってなんなんだ。

 ……そういえば、店長も黒髪だな。
……っていうか、こうなった原因である真柴妹、確か昔は金髪だったよな。本当に何なんだアイツ。馬鹿なのか。うん馬鹿だな。知ってた。


 ……意味も無く、自分の髪に触れてみる。染め直したばかりの髪の触り心地は決して良いとは言えず、まるでそれが自分の髪の毛では無いかのような錯覚すら覚える。……いや、もともと髪のケアを念入りにしていたわけでも無いのだが。

「……佐藤君?」

「……どうした。八千代」

 背後から突然聞こえる八千代の声。しかし、今朝程の心臓の高鳴りは無かった。
 その証拠に、俺は極めて自然に後ろを振り向き、八千代の名前を呼ぶことができた。

「どうしたの?なんだかぼうっとしてるように見えたんだけど……」

 ……八千代にまで見抜かれるとは、どれだけ俺は間抜け面を晒していたのだろうか。

「別に。なんでもねえよ。ただ少し慣れなくてな。この髪」

 髪を数本つまみ、くるくると指先でねじりながら言うと、八千代は首を傾げた。

「どうして?そんなに似合ってるのに」

「……嬉しいっちゃ嬉しいが、金髪の時期が長かったからな……」

「……そういえば、私も髪を結ぶのをやめてからしばらくは、なんとなく気恥ずかしかった」

「……ああ。2年くらい前……か?」

「そうそう。急に変えたから、驚かれたんじゃないかな。って……」

 照れるように話す八千代を見ながら、俺は2年前を思い出していた。
 当然、よく覚えている。

 いつものように出勤しキッチンに入った瞬間、備品を運ぶ、新しい髪型の八千代がいた。
 俺はその姿を視認した瞬間しばらく固まってしまったが、八千代が俺を見つけた後、今より幾らか幼い顔を赤く染めたことはハッキリと覚えている。

「……似合ってたがな」

「そう。あの時の佐藤君も、そう言ってくれた」

 懐かしむような温かい笑みを浮かべながら、八千代は俺を見上げてそう言った。
 もちろん、自分がその時どのような感想を言ったかは覚えているのだが、あらためて言われるとやはり気恥ずかしい。俺は思わず八千代から目を逸らした。

「……お前が」

「え?」

 俺が搾り出すように声を出すと、八千代は首を傾げて言葉の続きを待った。
 一度言葉を切ってしまったこともあり気まずかったが、今更「なんでもない」もかっこ悪いので、続ける。

「……お前が、今日、俺の髪を褒めたのは……その時のお返しか?」

 我ながら、くだらない事を言ったな。と思う。
 だが、今の俺は情緒不安定なんだ。自分に言い聞かせているわけではないが、情緒不安定だからこそこんな事を聞いてしまったのだろう。

 八千代の顔を、ちら、と覗いてみる。
 八千代は俺の言葉に少し意外そうな反応を見せていたが、すぐに表情を元の温和な物へと変える。

「2年前の佐藤君は、今日になって私から髪の色を褒めてもらうために、私の髪型を褒めてくれたの?」

 その言葉に、俺は僅かに目を見開いた。
 一つ、溜息。自分自身の、あまりのアホっぷりに対して、溜息。

「……悪い。くだらないこと聞いたな」

「いいのよ。その気持ちは、私も少しだけわかるから」

 声が沈んだ俺を励ますように、八千代は穏やかな顔でそう言ってくれる。
 思い返すだけで死にたくなるような失礼な質問だっただけに、八千代の言葉が胸に染みた。

 その時、ぴんぽーん、という、店員呼び出しボタンの音がキッチンへと響く。

「あら。じゃあね佐藤君」

 フロアへ向けて歩き出す八千代。

「待ってくれ。八千代」

 そんな八千代を、俺は呼び止めた。呼び止めて、しまった。

「? どうしたの?」

 振り向いた八千代の顔は、呆れる程にいつも通りで。泣けてくるくらいいつもの笑顔で。
 だからこそ、俺は聞きたくて聞きたくてしょうがなかった。

「……今の俺の髪と、前の髪。お前はどっちが好きだ?」

 そんな、ストレートすぎる質問を。
 心臓が、五月蝿い。まるで、こんな質問をしてしまった俺に訴えかけているようだ。五月蝿え。情緒不安定だったんだ。何回も言わせんな。
 やたらと喉が乾く。時間が、止まったのではないか。という程にゆっくり流れるような感覚に陥る。

 八千代はしばらくの間(その間も、俺にとってはとてつもなく長い物に感じられたのだが)何も言わなかったが、またいつもの笑顔を浮かべた。

「きっと、4年前なら、黒髪の佐藤君のほうが話しかけやすかったと思う」

 脳が、無理矢理ぐらぐらと揺れるような感覚。
 しかし、


「でも、私は……。今の私は、佐藤君がどんな髪の色だろうと優しい事を知っているから。それが変わらないことも、知っているから」

 歪んだ視界が、一瞬で澄み切った。

「……だから、どっちも好きよ」

 そう言うと、八千代は俺に背を向け、フロアへと小走りで向かっていった。

 俺は、何も言えず、その場に立ち尽くした。何も言えないし、体のどこもすぐには動かなかった。
 何十秒経ったのか。俺は、ようやく動いた手で、自分の頭をゆっくりと掻いた。
 髪の根本が、少し汗で湿っていた。俺はそんなに緊張していたのか、と少し笑えてきてしまって、小さく、声を出すことなく、笑った。

「どうかしたの?佐藤君」

「死ね」

「遂に『死ね』と言いながら手刀で攻撃するまでに!!!」

 今回ばかりは余裕も無く、かなりの高速で降った手を、相馬は器用に避けながらやはり器用に叫んだ。

「すまん。普通に、すまん」

「す、素直に謝るってことはあれだよね。殺意が確かにあったから謝ったってことだよね。……何?轟さんと何かあった?」

「……少しだけ、な」

 今更隠しても無駄だろうと判断し、俺は答えた。特別、聞かれて不味いやりとりをしたわけではない。ただ、気恥ずかしいだけで。

「ふーん……」

「……んだよ……」

「顔、赤いよ?」

 …………………………

「まあ、な……」

 否定するのも、馬鹿らしい。







「なっ……!!」

「どうだ。お前のお望みどおりだ」

 先程の八千代とのやり取りから数時間後。
 ワグナリアにたまたま真柴妹がやってきたので、俺は早速、休憩室に赴き黒髪姿の披露へと向かった。店に来たばかりの気恥ずかしさなどどこにもなく。どこまでも余裕。とにかく悠然。ひたすら堂々と。

「文句無いよな」

「お前……本当にやったのか……」

「文句無いよな」

 いくらか語気を強めて、詰め寄りながら言うと、真柴妹は数歩後ずさり、

「わ、わかったよ。認めるよ」

 そう、敗北宣言をするのだった。ざまあ。

「だ、だからといって、お嬢に手を出すのは……」

「ああ。わかってるって。どうせ明日には戻すし」

「……は?」

 俺の言葉に、真柴妹はぱちぱちと瞬きを数回繰り返す。まあ、当然のリアクションだ。

「どういうことだ?」

「元々好き好んで黒髪にしたわけじゃあねえしな」

「……お嬢に、何か言われたのか?」

「いや。似合うって褒めてくれたよ。あいつは優しいから」

「と、当然だ!!」

 真柴妹を褒めたつもりは一切無いんだが、真柴妹はやたらと誇らしげだ。まあ、いい。八千代は誇ってもいいくらい良い女だ。……何思ってるんだ俺。

「……単純に、ちゃんと向き合いたいんだよ」

「……何と」

 全く意味が分からない、といったアホ面で、真柴妹は俺へと問いかける。

「……轟と出会った時の俺で、ちゃんと、あいつと向き合いたいんだよ」

 真柴妹を見ることなくそう言うと、「うぐ」と真柴妹が声を漏らした。

「……諦める気はさらさら無いってか」

「当然」

「……だ、だが私との黒髪の約束が……」

「お前、今日俺の髪を見て『本当にやったのか』って言ったよな」

「え」

「つまり元々本気じゃなかったってわけだ」

「あ。いや、その」

「そうだよな」

「違……」

「だ よ な」

 念のため言うが、俺は不良じゃない。見た目がヤンキーっぽいとはよく言われるが、見た目の割には健全な学生生活を送ったし、当然喧嘩に明け暮れた過去なんかも存在しない。
 そんな俺の「ガン」なんて大したもんじゃない。と前までは思っていたんだが。どうやら、ある程度自信を持ってもいいようだ。

「……はい」

 元、とは言え、モノホンのヤンキーが青ざめた顔で俺を見て、静かに頷いた。
 別に、だからといって勝ち誇るつもりも無いが……少しは、良い気分だ。

「……お前さ……」

「んだよ。まだ何かあるのか馬鹿」

「お前最近私のこと見くびりすぎてないか!? ……お嬢のこと、どんだけ好きなんだよ」

「……」

 その言葉を聞いて、俺は少しの間思案に暮れる。まさか人生でこの言葉を2回も使うことになろうとは。
 考えて……考えて。でも、大した答えも出なかった。

「……お前の姐さんが八千代を想っている、それ以上に……だ」

 頭の悪い、更にこっ恥ずかしい内容。
 そのこっ恥ずかしさたるや、聞かされた真柴妹の顔が真っ赤に染め上がる程である。……というか、俺も多分顔が赤い。

「……お前……」

「……何だ」

「……恥ずかしい奴だな」

「るっせ」

 何を言っても、真柴妹はムカつく女だった。

 でも。

 俺の心は、どこまでもどこまでも、晴れやかであった。





 翌日。ワグナリアのキッチンにて。



「あら?佐藤君、髪……」

「……ああ。戻した。気分転換、だったし」
 
 元の色を取り戻した自分の髪を意味も無くつまみながら、俺はそんな言い訳を吐き出す。苦しい。あまりにも苦しい言い訳。そんなことで、長年続けていた髪の色を変えるわけが無い。と誰もが気づくであろう言い訳。
 しかし。

「あら。そうなの? せっかく似合ってたのに」

 八千代がそんな事に気づくはずもなく。もはや俺は安堵の息すら漏らすことはなかった。

「悪いな。せっかく褒めてもらったのに」

「そんな!気にしないで。……でも」

「……どうした」

「……やっぱり、『佐藤君』って感じがする。その髪」


 ……ああ。


「そうか。ありがとよ」

「そんな。お礼なんておかしいわ」


 俺は。佐藤。佐藤潤だ。


「別にいいだろ。礼なんて、いくら言った所でタダなんだし」

「……そうね。人に感謝するってのは、凄く大事なことよね」


 別に、俺の全てが金髪……だなんて思って無いけど。
 ……お前と俺との思い出の俺は、ずっと、金髪だったから。


「というわけで、ありがとう佐藤君!」

「……何の礼だよ」

「いつもの!いつも佐藤君には、お世話になってるから」

「……そうかい」


 俺は、新しいスタートなんか踏めない。臆病者だから。だから、4年間をずっと引きずってやる。
 お前との4年間を、絶対に忘れないで進む。ただの一つだって、忘れない。


「……八千代。……ありがとな」

「……何のお礼?」


 それに。なんていうかさ。卑怯だろ。
 お前は、いつだって「轟八千代」で俺に接してくれたのに。俺が変な小細工しちゃ、さ。
 ……別に卑怯でも、なんでもねえか。そもそも、関係ないかもしれない。
 いや。でも、こういうのは、心構えだろ?


「……いつもの、だよ」


 だから。

 俺は。

 佐藤潤として。

 轟八千代を。

 愛し続けたいんだ。









 あとがき

 えー。このような感じに仕上がった・・・というより、仕上がってしまいましたが。いかがでしたでしょうかクリスタルさん。
 とりえあえず最初にも言った変更点ですが。
 金髪禁止令はそのままに、八千代が黒髪の佐藤に「惚れる」という場面を変更。惚れるわけではなく、とても似合う!と褒める程度にさせていただきました。
 それと、金髪禁止令の撤廃も、美月が言い出すのではなく佐藤自らが言い出す形に。
 このように変えた理由を弁明させていただくと、まず、「八千代が黒髪の佐藤に惚れる」という内容。黒髪の佐藤に八千代が惚れてしまうと、本文中でも書いたように「4年間の佐藤さん」がとてもかわいそうになってしまう、というのが大きな理由です。それをフォローする能力が俺には無かったので、このように変更。
 そして、その変化に伴い最後の美月とのやり取りもリクエストとは違った物になりました。

 2ヶ月以上も時間をかけた上にリクエスト通り書けない、という自身の不甲斐なさを痛感します。
 もう一つ残っているリクエストも、なるべくリクエスト内容に添えるように書きたいですが、止む無くその内容の一部変更を勝手に俺が行う可能性があることを留意していただけると幸いです。


 それでは。リクエストはあとひとつ。yukinaさん、もうしばらくお待ちください。
 次回更新も時間がかかるかもしれませんが、何卒・・・何卒・・・。
















 
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佐藤×八千代 | コメント:1 | トラックバック:3 |
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コメント

読む前は少し落胆がありましたが、理由に納得できたので変更した事は責めません。
強いて言えば、もう少し甘くしてほしかったかなと思いましたが、恋人設定じゃないさとやちですから、こんなもんですよね(^_^;)

しっかり仕上げてくれた事、大筋を変えずに書いてくれたことなどをまとめて僕も。
ありがとうございました!
2012-07-30 Mon 08:56 | URL | クリスタル [ 編集 ]

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 皆様お久しぶりです。 そして。 リクエスト小説、更新致します!! いやあ。本当に長い時間を空けて
2012-10-26 Fri 23:48 まっとめBLOG速報
 皆様お久しぶりです。 そして。 リクエスト小説、更新致します!! いやあ。本当に長い時間を空けて
2012-10-26 Fri 23:48 まっとめBLOG速報
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