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銀の働き部屋

管理人銀河の、日記兼テキストサイトです。取り扱うジャンルは主にヤングガンガン連載のWORKING!!になると思います。最近は東方の霖之助小説を書くのにも夢中。どうかよろしくお願いします。リンクはフリーです。感想は常に受付中です!もらえたら泣いて喜びます

鳥は飛ぶ 日は回る  小鳥遊×伊波


小鳥遊×伊波 両者視点切り替え式です。タイトルは『鳥は飛ぶ 日は回る』です。甘さ成分は比較的ほんの少し多めです。















 仕事をしている時は、色んなことを忘れられる。
 家での凶悪な姉達の事。家に帰ったらやらねばならない家事の事。
 そして、全てを忘れて夢中に仕事をしているとちゃんとお金が入る。最高だ。何で俺はバイトを始めなかったのだろう。あ、姉達に色々言われそうだからだな。姉共め。

 備品の補充を済ませ、次の仕事に移ろうとした瞬間、

「小鳥遊君! こんにちは!!」

 キッチンの陰からこちらを覗いて挨拶をした人がいる。

 第一印象は殴る年上。それは今でも変わらず、俺は家でもバイト先でも傷だらけで毎日を過ごすハメになってしまった。
 最近は殴られることも非常に少なくなり、彼女の男嫌いも大分直ってきたようだ。
 しかし、油断はならない。そう考えているのは彼女も同じなのだろう。だからこそキッチンの陰からの挨拶なのだ。

 昔だったら時計を気にしながら彼女のシフトが入るのをハラハラしながら待っていた。
 でも、今は違う。少なくとも以前よりは友好的な態度で接することができるようになった。

 だから、俺は笑顔で言う。

「伊波さん。こんにちは」

 そうすると彼女は、いつも頬を紅潮させながら更に深く隠れる。
 何故そうなるのかは俺には理解できない。ただ、何故か自然の笑みがこぼれてしまう。

 学校や家では絶対にしないような笑みだった。
 小さな子どもが元気に走りながらすれ違った時くらいしか、この笑みはしたことがなかった。

 そんな自分が不思議だった。
 俺は、ここに来てどう変わったのだろう。

「じゃあ伊波さん。今はお客様も少ないみたいですし、テーブルの整理と掃除をお願いできますか?」

「う、うん! 分かった!」

 彼女はどこか慌てているような様子でフロアへ向かった。
 ・・・年上だけど。俺よりもずっと小さな背中を見送る。
 もちろん、子どもの背中の方がもっと小さいが、こうはっきりと女性の背中に意識を持っていったことはなかった。
 ・・・やはり、俺は変わったのだろうか。

「ふーむ」

 気にはなったが、俺は俺の仕事を片付けよう。
 ゴミ袋を両手でしっかりと持ち、裏口へ向かう。

 彼女から見た俺の背中は、どう映っているのだろう。
 そんなどうでもいい事が頭に浮かんだ。




「うう・・・どうしてああぎこちなくなるのかなあ」

 小鳥遊君に言われた通りにテーブル拭きをしながら、私は呟いた。
 営業時間ではあるが、夕方である現在はお客様の入りは少なく、男嫌いの私にとっては非常に仕事がし易い時間だ。
 もっとも、警戒は怠るわけにはいかない。
 男は、お客様だけではないのだ。

「だから・・・慣れなさいよ私・・・」

 情けなくて涙が出そうになる。
 このバイトを始めて何年になるだろう。
 少なくとも、小鳥遊君よりはバイト暦も長いし、実際接客・・・女の人限定だけど、の技術だって上だとは思っている。
 でも、小鳥遊君と私は、仕事への向き不向きがとてもハッキリしているんだなあと・・・小鳥遊君のバイト暦が長くなるたびに思う。

 男の客が来たら何もできないし、仕事の切り替えだって小鳥遊君の方がよっぽど素早い。
 従業員だろうと誰であろうと見境なく殴る私と違って、ワグナリアにもしっかりと馴染んでいる。面倒見だっていいし・・・。

「・・・だからなのかな」

 あの日を思い出す。思い出す度に顔が真赤になってしまうけれど。

 父さんを、彼は本気で叱ってくれた。
 いつも私は殴ってばかりなのに。いい事なんて、してあげられたこと無いのに。
 私の男嫌いを、心の底から考えてくれていたんだ。顔を合わせるのも初めての大人に本気で怒ってくれた。

 だから、自分でも驚くほどに、好きになってしまったのだろうか。

「・・・!!」

 そう考えて、改めて恥ずかしい気持ちで頭がいっぱいになってきた。
 真赤な顔を両手で覆う。恥ずかしさで涙が滲んでくる。

 呼吸を整えてから、また考える。

 いくらなんでも、あれだけで好きになるわけがない。自分でも分かるほど、私は「男」が大嫌いだったのだから。
 男の人は、私と話した後は二度と話しかけてくれなかった。
 悲しいけれども、諦めていた。私はこう生きていくんだ、と。

 でも、彼が私を変えてくれた。

『あなたの男嫌いが治るまで、俺が付き合います!』

 聞いた時に思った。

 何で?

 小学校や中学校の時の男子みたいに、放っておいてもよかったはず。
 相馬さんみたいに、私から逃げ回ってもいいはず。

 でも彼は、私を見捨てなかった。

『目標は! 俺と手を繋いでどこかへ出かけること!!』

 顔が更に赤みを増す。
 店の気温を上げてしまっているかもしれないというほど、顔が熱い。

 私の性格を知っている人間が、どうしてそのようなことを言えるのか。
 彼が変わり者だろうか。その可能性は大きい。彼は、小さな物にしか興味が無いのだから。
 だから、私みたいな女のことは・・・

 そう考えると、今度は急激に切なさがこみ上げてくる。
 あの言葉が、そんなに悲しいものとは思いたくない。でも・・・。

「はあ・・・」

 深く溜息を尽く。

 すると、

「どうしました? 体調でも優れないんですか?」

 背後からの声に、体が跳び上がった。
 慌てて振り返ったその先には、彼がいた。
 私の、初恋の人が。




 テーブルの前でじっと固まっている伊波さんが気になって、俺はフロアへと出た。
 ゴミ運びも終了し、俺自身の仕事はすっかり終わってしまったから手伝いでもしようかと思ったからだ。
 そして、彼女の傍へ行くと、深い溜息が聞こえた。

 だから、話しかけた。

「あれ・・・本当に顔が赤いな。熱でもあるんじゃ・・・」

 1歩近づこうとしたが、踏み止まる。
 ・・・危ない。また傷を増やすところだった。
 以前よりもずっとマシになったとはいえ、彼女の傍は地雷地帯なのだ。踏み込めば、容赦なく炸裂する。
 実際、近づこうとしたその瞬間、彼女は体を震わせた。


 何故か、胸が少し痛んだ。


「だ、大丈夫! 本当に大丈夫だから!」

「無理はしないでくださいよ。今はお客様もいないから、休憩室で休んでても・・・」

「大丈夫だってば! 仕事の続きするね!」

 彼女はぎこちない動きでテーブルを拭き始める。
 手の動きもやたらめったら速くて、丁寧さが欠けているように見える。

 ・・・よく分からない。

 彼女に殴られる回数は格段に減少した。しかし、何故か彼女との距離は大きく開けてしまった気がする。
 話しかけようとするとそそくさとどこかへ行ってしまうことも多くなったし、以前は1mくらいの距離なら話せていたのが、先ほどのように物越しの会話になったり。

 ・・・やはり、女装が引かれたのだろうか。

 そう考えると、あり得ないほど気が落ちる。
 溜息が自然と漏れる。

 俺だってやりたくなかった。でも、あんな泣き顔を見てしまっては・・・!!

 ・・・やはり、変わったな。
 天井を見る。普段から清掃を心がけているだけあって真っ白で清潔そうに見える。

 昔の俺は、その程度の事で動じたりはしなかった。
 間違いなくほうっておいただろうし、できれば年上の女性とは関わりあいたくも無かった。

 昔の俺と今の俺、どっちが正しいんだろう。

「・・・伊波さん」

「な、何?」

 彼女がやはりぎこちなく返事をすると、頬を紅潮させたまま俺の方を向く。

 俺はゆっくり尋ねた。

「俺って、変わりました?」

 言ってから思った。
 馬鹿な質問だ、と。





 小鳥遊君が、変わった?

 ・・・
 分からない、というのが、正直な意見だと思った。
 確かに、彼は昔よりは小さな物以外への興味も出てきたと思う。
 でも、私の中の小鳥遊君は・・・

「ど、どうですかね?」

 彼が、少し緊張した様子で尋ねてくる。
 私は答えに少し困ってしまったが、正直に話し始める。

「えっと、私の中の小鳥遊君は・・・」

 だんだんと恥ずかしさがこみ上げてきたが、私は話し続けた。

「昔から、私に対しての接し方が今まで会った男の人とは違ってた。何回も殴ってるのに、私に話しかけてくれたし、助けてくれたし・・・」

 どんどん声が小さくなる。顔が熱くなるのを感じる。
 でも、途中で話を止めるのも嫌だった。

「だから、小鳥遊君は私の中では昔と同じ。本当に面倒見が良くて優しい。でも、小鳥遊君が自分で変わったと思うなら、きっとその考えは間違ってないと思う」

 そう言ってから、彼の反応をうかがう。
 彼は、口をぽかんと開いたまま動かない。
 ・・・わ、私何か変なこと言ったかな?
 とりあえず・・・彼の言葉を待った。




 や、優しい? 俺が?
 ・・・思い当たる節が全く見つからない。彼女にそんな言葉をかけた記憶は無い。
 むしろ、俺は少し嫌味な発言が多かったと思うし、彼女も俺のことは何とも思っていないと思っていた。

 それが、優しい? 信じられない。
 でも、俺がどこか変わったのは間違いなくて・・・ん? そもそも、何で俺は変わったんだ?
 誰のせいで、俺は変わったんだ?

 それは、少し考えればすぐに分かる答えで・・・俺の今日の思案は、全てその答えに繋がっていた。

 俺を変えたのは・・・・・




「た、小鳥遊君?」

 固まっていたかと思いきや、今度は何かを考え始めたのか、顎に手をあて黙り込んでしまった。
 ・・・こ、困る。この空気は。

「ね、ねえ。大丈夫?」

 そう顔を覗き込むと、彼の目と私の目がハッキリと合い、私は慌てて離れた。

「俺が変わったとしたなら・・・」

 彼は微笑みながら言った。

「伊波さんのおかげですよ」




 その笑顔は、今まで見たどんな顔よりも優しくて。
 男の人の顔を見て、こんなに温かい気持ちになったことは無かった。

 恥ずかしいと思う前に、嬉しさだけがどんどんこみ上げてきた。
 そして、それからやっぱり恥ずかしさが急激に頭の天辺まで押し寄せてくる。

「な、何言うのよ! わ、私他の仕事やるね!」

 もう顔を見ることなんかできなくて、私は逃げ出すかのようにキッチンへと向かった。


 でも、私も変わった。
 こんな気持ち、恋愛小説の中でしか味わえないと思っていた。自分の妄想の中でしか。
 そして、そんな私を変えたのはやっぱり・・・

 足を止める。
 キッチンに入る前に、小鳥遊君の方を向いて・・・恥ずかしさであまり出ない声を精一杯絞り出した。

「私も、小鳥遊君のおかげで変わったよ!」

 そう言って、すぐにキッチンどころか休憩室まで駆け込んだ。
 もう今日は小鳥遊君の顔をまともに見ることはできなそうだから。

 彼はどんな顔をしているのだろう。それだけが猛烈に気になった。




「・・・あー・・・」

 俺は頭をかいた。顔の熱がなかなかひきそうにも無い。
 なんて恥ずかしいことを。そして何て恥ずかしい言葉を聞いてしまったんだ。
 何だか、言わずにはいられなかった。普段から感謝しているんだ、ということを伝えたかっただけなのだが・・・自分でも思うが、想像以上に色んな意味合いがこもってしまった。

「馬鹿か俺。伊波さんもう今日は会ってくれないだろうな・・」

 深い溜息をつく。熱はなかなか逃げてくれない。

 心の中を恥ずかしさが覆いかぶさっていく。
 しかし、恥ずかしさが包み込んでいる感情。自分がどこかで認めることを否定している感情。



「・・・超嬉しいな」

 口に出したら、恥ずかしさは心から剥がれて行く。
 残ったのは理不尽すぎるほどの嬉しさ。喜び。

 自然と笑みが浮かんだ。元気が湧いてきた。

 自動ドアの開く音。
 振り返ると、男性客が入ってきていた。

 俺の出番だ。すぐに駆けつけて、既に何度言った事か分からない接待文句。

「いらっしゃいませ! ワグナリアへようこそ!」



 人は変わっていく。
 それは人が生きているから。誰かを想うから。
 何かを悟ったわけではない。感じたままの何となくな考え。あながち間違ってもいないのではないか。

 その力は想像以上にずっと大きい物で、今までの俺を根本から崩すことだってある。
 それを実感した。彼女をずっと近くに感じた。

 これからも変わっていきたい。そうすれば、彼女との距離がもっと縮まっていくのではないかと思うから。
 そう願いたい自分がいるから。

 ・・・彼女は何を願っているだろうか。
 ・・・いい方向へと考えよう。
 そうするだけで、俺はまた変われるかもしれない。






 あとがき

 伊波を一万年と二千年前から愛しています(ぇ
 というくらい伊波好きです。間違いなくWORKIG!!の中では一番好きなキャラだと思います。
 伊波には幸せになってほしいので、小鳥遊との組み合わせも好きです。小鳥遊は・・・普通です。
 3巻~4巻はカップリング要素がそこそこ強めで個人的には嬉しい限りです。しかし、何か発展がある度に「え、最終回近い?」とか思ってしまい不安です。
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